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第71話

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「・・・アリシアさん、どうしてここに?」

呼吸が落ち着いたグレイがアリシアに尋ねる。

「ここから通っていた時の癖で早くに目が覚めてしまいましたの。それで窓の外の景色をふと見たところグレイさんが走られているのが目に入りましたのでつい」

アリシアが照れたように笑う。

(朝からアリシアさんと話せるなんて良い日だな)

グレイも照れながら、

「ありがとう。アリシアさん」

と再度礼を言う。

「とんでもないですわ」

アリシアは笑みを浮かべながら言うと、

「グレイさん、良い機会ですから是非ともお教えしたい魔法があるのですがいかがでしょうか?」

グレイはアリシアの言葉に疑問符を浮かべながら、

「?魔法??」

「はい。グレイさんも気づかれていたと思いますが、私《わたくし》が魔法封じの縄を切ることが出来たのはこの魔法のお陰なのです」

「ああ。この短期間で魔法封じに対抗するなんて凄いなとは思っていたけど、アリシアさんも知っているように俺は魔力が少ないから無理なんじゃないかな?」

グレイは昨日ナガリアの天幕で見た魔法封じの縄を見たときのことを思い出しながら答える。

すると、アリシアはにっこりと笑みを浮かべ、

「御心配には及びませんわ。この魔法はそこまでの魔力は必要としませんわ」

その言葉にグレイは興味を持つ。

「へぇ、それは興味深いね。一体、どういう魔法なの?」

「自身への魔力強化です。このひと月で無我夢中で編み出したのですが、闇朧《やみおぼろ》が言うには遥か東方では一般的みたいです」

とさらりととんでもないことをアリシアが言う。

「え・・・編み出したって。凄いなアリシアさんは・・・。しかも自身を強化だなんて聞いたことも無いよ」

グレイはあまりのことに驚く。

「・・・そんな、大したことありませんわ」

アリシアはグレイに褒められ素直に照れながら言う。

「いやいや凄すぎるよ」

(・・・例え、この国以外では使われているとしても、この国では知られていない魔法を独力で開発するなんて著名な魔法学者レベルじゃないか・・・凄すぎる)

グレイは自分と同学年の目の前のアリシアに素直に尊敬の念を覚えた。

「ふふふ。そのように褒められても困ってしまいますわ。どうですか?やってみませんか?」

「・・・」

グレイはアリシアの言葉に考える。

(正直なところこのままじゃだめだと思っていたところだ。こんな危機が何度も重なるはずは普通に考えてないんだが、ここ数か月で起こったことを振り返るとあながち否定しきれない。・・・アリシアさんのこの提案はもしかしたら今の俺にとって一番必要なものかもしれない)

初めて会った時の男子学生との闘い。

S組になった途端に挑まれた決闘。

迷宮での試練。

そして昨日の死闘。

たった数か月でよくもまあこんなにも色々なことがあったものだ。

「よろしくお願いいたします」

考えのまとまったグレイがアリシアに頭を下げながら教えを乞うことにした。



「へぇ。離れたところにこんな建物があるなんて思いもよらなかったよ」

グレイとアリシアはあの後、アリシアの案内で屋敷から離れた・・・されども敷地内にはある建物を目指していた。

道中、他愛のない話をしながら歩いていたのだが、

(・・・俺にもっと気の利いたことが言えればもっと会話が弾んだんだがなぁ)

とはグレイの感想である。

(唯一の救いはアリシアさんが楽しそうにしていてくれたことか)

一方、アリシアの方はと言えば、

(・・・勢いとは言え、グレイさんを誘って二人っきりになれる場所までお連れしてしまいましたわ)

実は動揺していた。

(グレイさんといるとほんの些細なお話だけでもとても楽しいですわね。本当に生きていてくださって良かった。昨日のことが夢じゃなくて良かったですわ・・・)

更に言うとこのように考えていた。

実際、アリシアがグレイを見つけたのは、アリシアが朝起きた時に『グレイさん!!』と叫びながら起き、『昨日の事は夢じゃありませんわよね・・・』とグレイの姿を求めて窓の外を見た時に偶然走っている姿を見つけたからだった。

急いで支度して、グレイと話すためにタオルを持って来たのだが、少しでももっと話したいと思って先の話題を振ったのだ。

実際、自分が見つけた魔法を教えようと思っていたのでちょうど良いと言えばちょうど良かった。

「はい。訓練用の建物でして、バルム家付きの護衛や執事、メイドが訓練をするために使ってます」

アリシアが動揺を表に出さないようにしながらグレイに答える。

「え、護衛なんていたんだ。それに執事さんやメイドさんも使うなんて普通なの??」

グレイは建物の前に辿り着き遠くから見えてきた時とは違い、その大きさに驚きながらアリシアの言葉に疑問を返す。

「はい。護衛はナガリアとの戦いのために集まってくださった皆様のために報酬の手配や撤収作業をしてくださっております。当家では執事やメイドも向上心があるものの訓練を拒まないのが方針でして強制はしておりませんのですが、皆さん時間を見つけて訓練をしてらっしゃいますわ。確かに普通で考えると特殊でしょうね」

アリシアが一つずつグレイの疑問に答えていく。

「あ、走っているときにかなりのテントがある場所があったな。それに強制しないのに皆さん凄いね」

グレイは思ったことを素直に表現する。

アリシアは笑みを浮かべ、

「はい。皆さんは当家にとってかけがえのない方たちですわ。ちなみに執事のムスターさんやメイドのサリアさんがトップ2なのですよ」

「え、ムスターさんは分かるけどサリアさんも凄いんだ・・・全然気づかなかった」

グレイはアリシアの言葉に驚く。

ムスターはハーフエルフであるし、人生経験も豊富だ。だが、サリアはグレイから見てもそう年が離れているわけではない。正直意外だった。

「ふふふ、本当に皆さん頼れる方々ですわ。では、中に入りましょうか」

アリシアは嬉しそうに答えながら建物の扉を開けたのであった。
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