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第67話

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『・・・ふぅ。分かった。話そう』

イズが観念したように呟く。

「ありがとうございます!」

アリシアがイズに礼を言う。

『・・・グレイが話さない限りアリシアからグレイには言わないでくれよ。まだ、グレイとは少ししか一緒にいないが自分の苦労を話したがらないだろうからな』

「もちろんですわ」

イズと同意見のアリシアはイズの提案に対して快諾する。

『・・・まず何から話すべきか・・・そうだな』

イズがとつとつと話し始める。

『最初に迷宮について話しておこう。アリシアは迷宮が何のためにできたか知っているか?』

イズがただ話すだけだとつまらないだろうと思い、アリシアに質問をする。

アリシアはイズの問いかけに考える素振りをしつつ、

「迷宮が何のためにですか・・・考えたこともありませんでしたわ。過去の方が蓄えた財宝を他の者に渡さないために作ったものでしょうか?」

自分の考えをイズに答える。

『ほぅ。確かにそういった迷宮もあったな。知らなかったとは言え、なかなかの答えだな』

イズがアリシアの答えに満足そうにした後、

『そもそもの迷宮とは遥か高みを目指す者のために作られた育成場所なのだ』

「えっ・・・迷宮が育成場所なのですか?」

アリシアはイズの言葉に驚く。

『ああ。グレイの反応やアリシアの反応からするとやはり現代まではその情報は残っていないようだな』

「・・・そうですわね。私《わたくし》はこの国でも有数の貴族の一人ですが、そのような話は聞いたことがありませんでしたわ」

アリシアが思い出しながら答える。

『・・・なるほどな。であれば、そうなのだろう。繰り返しになるが、迷宮は今より遥か昔の者たちの育成場所だ。そのため、何を高めるための迷宮かどうかの情報は迷宮の外にも開示されていたのだ』

「そうだったのですか・・・初耳ですわ」

アリシアが驚きながら相槌を打つ。

(遥か昔の方の文明は物凄かったのですわね。迷宮を作ったこともそうですし、それが現存しているということも驚嘆に値しますわ)

『ああ。我がいた迷宮の名は【看破の迷宮】、地下1階から地下101階までで構成され、地下101階まで辿り着いた者に対して【看破の試練】を課すものであった』

「【看破の迷宮】・・・【看破の試練】ですか・・・」

アリシアが聞きなれない言葉を繰り返す。

『そうだ。【看破の試練】という極限状態に晒されながらクリアすることで、全ての物事の本質を見破る力を得られる』

イズが最後の言葉を自信なさげに呟く。

「極限状態・・・ですか。試練の内容についてお教えいただけますか?」

アリシアはやはりグレイが通った道は険しいものだったのだと改めて理解し、覚悟をもってイズに尋ねた。




『【看破の試練】の内容は極めて単純だ』

イズが試練の内容に関して話し始める。

『当時の人間でも勝てないような設定の魔人形が二体、三体、四体と一体ずつ増えていき最終的に十体を相手にしながら、端から端まで走りきれば終了だ』

「なっ!?魔人形ですか・・・あの伝説の戦闘兵器・・・」

アリシアがイズの言葉から試練の難しさを理解する。

「そんな命がいくつあっても足りないような試練を潜り抜けてまで私《わたくし》のところまで戻ってきてくださったのですわね・・・」

アリシアはグレイの行動に胸を打たれていた。

思わず、グレイの寝ているベッドを見る。

「【看破の試練】の突破。そして、迷宮からここまでの道のり。イズさんがグレイさんをこのまま寝かせて欲しいといった意味が良く分かりましたわ」

『ん?それもあるが、それだけで先ほどのセリフを言った訳ではないぞ』

イズがアリシアの言葉が全てが正しいわけではないため一部否定する。

「?・・・一体それはどういう意味なのですか?」

イズの言葉が気になり、アリシアが詳しく聞こうとするが、

『すまんが、時間切れだ。また機会があればその時に話そう』

そう言うとイズがグレイの所に向かって飛んでいく。

「えっ?」

アリシアは突然のイズの行動に驚くが直ぐに理由について理解した。

「うーん」

グレイが目覚めるのだ。

(看破の試練をグレイさんがどのように突破されたのか。そして、迷宮からここまでの間に何があったのかもお聞きしたかったですがそれよりもグレイさんが起きてくださる方が何倍も重要ですわ)

アリシアは少しだけ話の続きが聞けずに残念がったが、グレイが起きてくれる方が嬉しいため直ぐに切り替えて目覚めようとしているグレイのもとに向かって歩いていく。

『グレイ。起きたか?』

イズが優しくグレイに話しかける。

「ん?ああ、イズか。ありがとな傍に居てくれて」

グレイが寝ぼけながらイズに気が付くとまず礼を言う。

「グレイさん、お目覚めですか?」

アリシアもグレイに声を掛ける。

「え?あ、アリシアさん!!どうしてここに!?」

グレイは聞こえるはずのないアリシアに驚き、一気に覚醒する。

アリシアは申し訳なさそうにしながら、

「勝手に入ってしまって申し訳ございません。イズさんにお話し相手をしていただいておりました」

いくら自分の家だからと言って客室に入っている状況は良いこととは言えないためアリシアは申し訳なさそうに謝る。

『グレイ。アリシアを責めないでくれ。昼食時に呼びに来てくれてな。グレイがまだ目覚めなさそうだったから少し話していたんだ』

イズがアリシアをフォローする。

グレイは笑みを浮かべると、

「責めるだなんてとんでもない。少し驚いただけだよ。アリシアさん、昼食時に起きられなくてすみません」

責めるようなことは全くしないばかりかグレイはアリシアに向かって謝る。

窓の外を見るともう夕暮れが見えている。

大分時間が経ってしまったようだ。

「ありがとうございます。それだけお疲れだったのですからグレイさんも謝らなくて大丈夫ですよ。そろそろ夕食の支度も終えているころと思いますのでグレイさんの支度が終わりましたら食堂にいらしてください」

「わかった。ありがとう。すぐ行くよ」

アリシアはグレイの返事を聞いた後、イズと食べていた昼食時の皿をまとめ一足先に食堂に向かって行った。
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