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第66話

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コンコンコン

グレイのいる客室がノックされる。

既にグレイが眠り始めてから数時間が経過していた。

「グレイさん?入りますよ」

そう言いながら中に入ってきたのは先程客室に行くときに分かれたアリシアであった。

「グレイさん、昼食の用意ができましたわ」

アリシアは中に入ると昼食の準備が出来たことを告げる。

「・・・寝ていらしたのですね」

アリシアはベッドで休んでいるグレイの様子を見て、返事がない理由を悟る。

どうしたものかとグレイのいるベッドの方を見ていると、

『・・・すまないがこのまま寝かせてやってくれないか』

イズが姿を見せながら静かに声を掛ける。

すぐに声を掛けなかったのは客室に入ってきたのがアリシア一人だけということを確認していたためである。

「っ!?・・・イズさんですか、びっくりしましたわ」

アリシアは姿が見えない内に突如聞こえた声に驚くがイズが姿を見せたことで落ち着きを取り戻した。

『・・・すまん』

イズは小声で素直に謝る。

「いえいえ、お気になさらなくて大丈夫ですわ」

アリシアはイズにあわせて小声で返す。

そして、ベッドに眠るグレイのところへ静かに向かう。

イズはその様子を静かに見守る。

「熟睡されていますわね。・・・可愛い寝顔ですわ」

アリシアがグレイの様子を確認した後、つい呟いた。

『・・・アリシア?』

イズが、ん?と言った感じを込めて名前を呼ぶとアリシアは慌てて、

「い、いえ、今のは何でもありませんわ!」

と小声で騒ぐという器用なことをする。

『??まあいいが。・・・繰り返しになるが、グレイをこのまま寝かせてやって欲しい』

イズが再度アリシアにお願いする。

アリシアはふっと笑い、

「もちろんですわ」

と快諾する。

そして、アリシアは何かに気がつき、

「そうですわ。イズさんがよろしければ折角ですしお話しませんか?」

とイズに尋ねた。

『・・・それは構わないが、この部屋を出るのは勘弁して欲しい。グレイが寝ている間見張っていると約束したからな』

イズは、グレイが眠る前にした約束を守るつもりのようだ。

条件付きでアリシアのお願いに対して了承することを告げる。

「お優しいのですね。では、昼食を持ってくるのでこちらで頂きましょう。では、行って参りますわね」

『あ、ああ』

アリシアはイズの返事を聞くやいなや客室を出て行った。

その動きは素早かったがドアを閉める時は静かに閉めるなどグレイへの配慮はしっかりとされていた。

『・・・中々の行動力だな』

イズはしばらくの間、呆然とドアを眺めていた。



「さぁ、お召し上がりください。あ、ここではお話しても大丈夫ですわよ。この部屋は大切なお客様をお通しする場所でして、快適にお過ごしいただくために部屋自体に防音の魔法陣が組み込まれておりますから」

アリシアが客室を出て行ってから十数分後、イズの前には昼食が並んでいた。

ちなみにアリシアの他にメイドやコックの姿はない。

イズが話せるようにアリシアが上手く手配したのだろう。

それと、グレイがこの客室に入ったときに感じた結構良い部屋を用意してくれたのかと思ったのは正解だったようだ。

『ああ。・・・でもいいのか?グレイよりも先に食べてしまって・・・』

イズは食事の興味はあれどもグレイを気にして躊躇する。

イズの様子を見たアリシアは、

「イズさんはやはりお優しいのですね」

と微笑む。

『優しい?そうか??』

イズは自覚が無いのか首を傾げる。

「はい。それはもう」

アリシアはイズの質問に全肯定した後、

「イズさんは、先に食べて怒るようなグレイさんと思われますか?」

と尋ねる。

イズは少し考える素振りをしてから、

『ふっ・・・怒る姿が想像できんな』

と上機嫌に答える。

「では、頂きましょう」

『ああ。馳走になる』

こうして一人と一匹の昼食が始まった。




「そうだったのですわね、イズさんの名前はグレイさんから貰ったのですね!」

『ああ。グレイの名前がグレイ・ズーだから、そこからイズという名前を貰った』

食事が始まったときはイズは初めて食べるものに夢中で会話どころではなかったが、今は大分食事も進み会話する余裕が出来ていた。

今はイズの名前の由来について話しあっていた。

「イズさん、良かったですわね」

アリシアがイズが嬉しそうに話す姿を見てそう言う。

『ああ。迷宮の呪縛から解放して貰うだけでなく居場所と名前まで貰ったんだ。グレイには感謝しかない。・・・一緒にいて楽しいしな』

イズは嬉しそうに語る。

最後の言葉は照れ隠しのためにそっぽを向いてだったが。

アリシアはイズの様子をしばらく微笑ましく見た後、真剣な表情で、

「・・・ところで、迷宮の試練というものはどういうものだったのですか?」

イズに尋ねた。

早朝の会話ではグレイもアリシアも疲れがピークに差し掛かっていて余り時間が無かったということもあり、試練の詳細については聞けていなかった。

そして、グレイに聞いたとしてもアリシアの所為でグレイが迷宮に飛ばされたと考えているであろうと理解しているため命の危険があったことに関する詳細をグレイが語ることはないと考え、イズから聞いておこうとアリシアは考えていた。

『・・・それを聞いてどうする?』

イズが鋭い目でアリシアを見ながら問う。

(・・・流石は元迷宮の主ですわね。軽く見ただけでこのプレッシャーですか・・・)

アリシアはイズのプレッシャーに耐えながら、自分の正直な気持ちを話す。

「どうも致しません。知っておきたいのです」

『・・・』

イズは無言で続きを話してみよとアリシアを促す。

「グレイさんが迷宮に飛ばされたのは元を辿れば私《わたくし》の所為。グレイさんがどのような思いをして私《わたくし》の元まで戻ってきてくださったかを知っておく義務がありますわ・・・」

と、イズの目をじっと見ながらアリシアが答えた。
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