66 / 369
第65話
しおりを挟む
「では、一旦ここまでにしましょうか。私《わたくし》もグレイさんも少し休んだ方がいいでしょうから」
アリシアがグレイの事を気遣って言う。
「ありがとう。助かる」
正直、グレイも限界に近かったのでアリシアのこの言葉はとても有り難かった。
(話しておかないといけないことはまだあった気がするけど、一番大切な事は話したし、ひとまず大丈夫なはず)
グレイが疲れて回りにくくなった頭を使ってその結論に至る。
『・・・魔法は解いたぞ』
グレイとアリシアの話の流れを読んだイズが防音の魔法を解く。
「イズ様、ありがとう」
アリシアが礼を言うと、
「礼には及ばん・・・それと、我のことは様付けしなくていい」
イズが照れてそっぽを向きながら言う。
アリシアはその様子に微笑んだ後、
「畏まりました。では、イズさんと呼ばせて頂きますわね」
と言った。
『ああ』
アリシアはイズの返事を聞いた後、テーブルに置いてあった呼び鈴を持ち上げる。
「あ、イズさんの姿は消さなくて大丈夫ですか?」
呼び鈴を鳴らす前にアリシアが気づき、グレイに尋ねる。
「うん。大丈夫。喋ることや魔法を使うことは避けたほうがいいけどせめて姿くらいはね」
と、グレイが答える。
「畏まりました。では」
今度こそアリシアは呼び鈴を静かに振る。
チリンチリン
すると広い食堂を綺麗な音が響き渡る。
時間にして数秒だろうか、
「失礼いたします」
メイドのサリアがそう言って入ってきた。
サリアは流れるような動作でアリシアの傍まで来ると、
「アリシアお嬢様、どうされましたか?」
呼ばれた理由を尋ねた。
(・・・メイドってこんなに素早いのが普通なのか?)
サリアの余りの身のこなしに驚くグレイ。
そんなことを思っているとはつゆ知らず、アリシアとサリアの会話は続いていく。
「サリアさん、申し訳ありませんがグレイさんを客室にご案内頂けませんか?」
「畏まりました。ズー様、どうぞこちらへ」
サリアはアリシアの言葉に従い、グレイを案内しようと声を掛ける。
グレイは立ち上がってから、すぐには移動せずアリシアを見つめる。
「?どうされましたか?」
アリシアはグレイの行動の意味が分からず尋ねる。
(やっぱり、今言っておかないとね)
すると、グレイはにこやかに笑みを浮かべ、
「・・・アリシア様、先程の御言葉、本当に嬉しかったです。私も同じ気持ちです。では、失礼致します」
と頭を下げてからサリアについて食堂を出ていった。
「・・・」
食堂に一人残ったアリシアは思い返す。
『たとえ全世界を敵に回すことになろうと私《わたくし》はグレイさんの味方でいます』
グレイの言った先程の言葉とはこのことだろう。
「・・・ああああ!あれではまるで求愛しているみたいではないですか!!」
と赤面し、暫くの間悶えたのであった。
冷静に考えればグレイも同じ言葉を返したことになるのだが、動揺しているアリシアはそのことには気づかなかった。
「ズー様、どうぞこちらでお休みください」
グレイがサリアに連れて来てもらったのは自分の寮の部屋の3倍程の広さの客室であった。
「ありがとうございます」
グレイが礼を言うとサリアはお辞儀をした後、
「では、失礼致します」
と客室から遠ざかって行った。
「綺麗な部屋だな」
グレイはもしかしたら結構良い部屋を用意してくれたのかと思いながら大きめのベッドに向かう。
ぽす
腰掛けてみるとフカフカでかなり沈み込む。
「ふぅ・・・疲れたな」
グレイは思わず深い息を吐く。
『グレイよ、お主は迷宮を出てからの間かなり頑張ったと思うぞ。今日こそ、ゆっくりと休むと良い』
イズがグレイを労う。
イズの目から見てもグレイの行動は滅茶苦茶だった。
泉の水の力だよりで必要最小限の睡眠だけ摂るだけでほぼ、強行軍であった。
迷宮以外を知らないイズからしても驚いたものだった。
(まあ、それも全部アリシアという娘を救うためだったという訳だから先程ようやくグレイの行動の意味を納得したが)
「そうだな。ありがとうイズ。休ませて貰うよ。・・・イズは寝ないのか?」
グレイは靴を脱ぎベッドに入り込みながらイズに尋ねる。
イズはグレイの枕元に飛んでくると、
『ああ。我に睡眠は必要ないからな。さあ、安心して眠ると良い。我が見張っていよう』
「そうか・・・それは安心・・・だな・・・」
グレイはそう言うとすぐに眠りに落ちた。
イズはグレイの寝顔を見て、
『おやすみ』
と声を掛けた。
イズはすぐに規則正しい寝息をし始めたグレイの寝顔を見ながら思う。
(まさか気の遠くなる程の年月を生きたこの我がたかだか十数年生きているだけの、しかも人間を気に入るとはな)
迷宮での看破の試練、ここに来るまでの行動、そしてあの黒ずくめの男との死闘。
グレイの行動はイズから見てもどれも目を見張るものがあった。
まだ、たかだか数十日、イズにとっては人間でいうところの一呼吸をする位の時間でここまで気に入るとは思っても見なかった。
(・・・だが、あの戦い方は危うい。今までは運が良かっただけで命がいくつあっても足りない・・・)
実はイズは天幕の中でグレイと黒ずくめの戦闘を見守っていたのだ。
正直言ってグレイの戦闘は心臓に悪かった。
迷宮の時は手を出してはならない制約があったため除外するが黒ずくめとの戦闘の時は手助けしようと思えば出来る状況だった。
天幕外に特大のバリアを張っていたため加勢できなかったが、それでもバリアを解いてグレイを助けようと考えたのも一度や二度では無い。
(これからもきっとこの男は身の丈以上の相手と戦うことになるのだろう。そんな気がする。その時のためにも何か考えておかないとな・・・)
すると、イズはグレイのためになにか出来ることを模索し始めた。
アリシアがグレイの事を気遣って言う。
「ありがとう。助かる」
正直、グレイも限界に近かったのでアリシアのこの言葉はとても有り難かった。
(話しておかないといけないことはまだあった気がするけど、一番大切な事は話したし、ひとまず大丈夫なはず)
グレイが疲れて回りにくくなった頭を使ってその結論に至る。
『・・・魔法は解いたぞ』
グレイとアリシアの話の流れを読んだイズが防音の魔法を解く。
「イズ様、ありがとう」
アリシアが礼を言うと、
「礼には及ばん・・・それと、我のことは様付けしなくていい」
イズが照れてそっぽを向きながら言う。
アリシアはその様子に微笑んだ後、
「畏まりました。では、イズさんと呼ばせて頂きますわね」
と言った。
『ああ』
アリシアはイズの返事を聞いた後、テーブルに置いてあった呼び鈴を持ち上げる。
「あ、イズさんの姿は消さなくて大丈夫ですか?」
呼び鈴を鳴らす前にアリシアが気づき、グレイに尋ねる。
「うん。大丈夫。喋ることや魔法を使うことは避けたほうがいいけどせめて姿くらいはね」
と、グレイが答える。
「畏まりました。では」
今度こそアリシアは呼び鈴を静かに振る。
チリンチリン
すると広い食堂を綺麗な音が響き渡る。
時間にして数秒だろうか、
「失礼いたします」
メイドのサリアがそう言って入ってきた。
サリアは流れるような動作でアリシアの傍まで来ると、
「アリシアお嬢様、どうされましたか?」
呼ばれた理由を尋ねた。
(・・・メイドってこんなに素早いのが普通なのか?)
サリアの余りの身のこなしに驚くグレイ。
そんなことを思っているとはつゆ知らず、アリシアとサリアの会話は続いていく。
「サリアさん、申し訳ありませんがグレイさんを客室にご案内頂けませんか?」
「畏まりました。ズー様、どうぞこちらへ」
サリアはアリシアの言葉に従い、グレイを案内しようと声を掛ける。
グレイは立ち上がってから、すぐには移動せずアリシアを見つめる。
「?どうされましたか?」
アリシアはグレイの行動の意味が分からず尋ねる。
(やっぱり、今言っておかないとね)
すると、グレイはにこやかに笑みを浮かべ、
「・・・アリシア様、先程の御言葉、本当に嬉しかったです。私も同じ気持ちです。では、失礼致します」
と頭を下げてからサリアについて食堂を出ていった。
「・・・」
食堂に一人残ったアリシアは思い返す。
『たとえ全世界を敵に回すことになろうと私《わたくし》はグレイさんの味方でいます』
グレイの言った先程の言葉とはこのことだろう。
「・・・ああああ!あれではまるで求愛しているみたいではないですか!!」
と赤面し、暫くの間悶えたのであった。
冷静に考えればグレイも同じ言葉を返したことになるのだが、動揺しているアリシアはそのことには気づかなかった。
「ズー様、どうぞこちらでお休みください」
グレイがサリアに連れて来てもらったのは自分の寮の部屋の3倍程の広さの客室であった。
「ありがとうございます」
グレイが礼を言うとサリアはお辞儀をした後、
「では、失礼致します」
と客室から遠ざかって行った。
「綺麗な部屋だな」
グレイはもしかしたら結構良い部屋を用意してくれたのかと思いながら大きめのベッドに向かう。
ぽす
腰掛けてみるとフカフカでかなり沈み込む。
「ふぅ・・・疲れたな」
グレイは思わず深い息を吐く。
『グレイよ、お主は迷宮を出てからの間かなり頑張ったと思うぞ。今日こそ、ゆっくりと休むと良い』
イズがグレイを労う。
イズの目から見てもグレイの行動は滅茶苦茶だった。
泉の水の力だよりで必要最小限の睡眠だけ摂るだけでほぼ、強行軍であった。
迷宮以外を知らないイズからしても驚いたものだった。
(まあ、それも全部アリシアという娘を救うためだったという訳だから先程ようやくグレイの行動の意味を納得したが)
「そうだな。ありがとうイズ。休ませて貰うよ。・・・イズは寝ないのか?」
グレイは靴を脱ぎベッドに入り込みながらイズに尋ねる。
イズはグレイの枕元に飛んでくると、
『ああ。我に睡眠は必要ないからな。さあ、安心して眠ると良い。我が見張っていよう』
「そうか・・・それは安心・・・だな・・・」
グレイはそう言うとすぐに眠りに落ちた。
イズはグレイの寝顔を見て、
『おやすみ』
と声を掛けた。
イズはすぐに規則正しい寝息をし始めたグレイの寝顔を見ながら思う。
(まさか気の遠くなる程の年月を生きたこの我がたかだか十数年生きているだけの、しかも人間を気に入るとはな)
迷宮での看破の試練、ここに来るまでの行動、そしてあの黒ずくめの男との死闘。
グレイの行動はイズから見てもどれも目を見張るものがあった。
まだ、たかだか数十日、イズにとっては人間でいうところの一呼吸をする位の時間でここまで気に入るとは思っても見なかった。
(・・・だが、あの戦い方は危うい。今までは運が良かっただけで命がいくつあっても足りない・・・)
実はイズは天幕の中でグレイと黒ずくめの戦闘を見守っていたのだ。
正直言ってグレイの戦闘は心臓に悪かった。
迷宮の時は手を出してはならない制約があったため除外するが黒ずくめとの戦闘の時は手助けしようと思えば出来る状況だった。
天幕外に特大のバリアを張っていたため加勢できなかったが、それでもバリアを解いてグレイを助けようと考えたのも一度や二度では無い。
(これからもきっとこの男は身の丈以上の相手と戦うことになるのだろう。そんな気がする。その時のためにも何か考えておかないとな・・・)
すると、イズはグレイのためになにか出来ることを模索し始めた。
419
お気に入りに追加
1,441
あなたにおすすめの小説
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる