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第64話

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一旦落ち着くためにアリシアは一口お茶を飲みある程度落ち着いた後、

「グレイさん」

グレイの名前を呼ぶ。

「うん。何でも聞いて」

グレイはアリシアの頭の中が整理するのを待っていたのかそう返事をする。

「ありがとうございます。私《わたくし》もですが、グレイさんもお疲れのはずですから今は真っ先に確認しておきたいことを3つだけ優先してお聞きしますね」

アリシアは礼を言ってから確認しておかねばならぬことを聞き始める。

(まずは比較的大事で無いことから聞きましょう)

「まずは、気の遠くなる程長い間踏破することが出来なかった【とこしえの迷宮】の踏破に関してですがグレイさんはどうなされますか?そのことを宣言すれば一躍名が上がり、あらゆる待遇を受けられると思われますが」

「もちろん宣言はしないよ。あの迷宮を踏破したことは分からないようにしておいたし、バレることは無いだろうね。幸い俺はただの魔法学園の平民に過ぎないから宣言しても信じる人はあんまりいないだろうし」

グレイはアリシアの言葉をあっさりと否定する。

(本当にこの方は欲がありませんね)

アリシアはグレイの予想通りの答えに微笑む。

「畏まりました。では、表向きの説明としては迷宮からは何とか逃げ出したということでよろしいでしょうか?」

「うん。そうしよう」

グレイが肯定する。

「では、私《わたくし》も誰かに聞かれたらそのつもりで答えますね」

(まず1つ目はすんなり終わりましたわね。と言っても他の2つに比べたら大事では無いとはいってもこちらもかなり大事なのですが・・・)

アリシアは2番目の大事について確認し始める。

「次はその激レアアイテムですね。それはかなり不味いと思います。使い方によってはこの国だけでなくこの世界にかなりの影響を与えるに違いありませんわ・・・」

アリシアはうっすらと汗をかく。

(何ですか、無尽蔵の格納とある程度の範囲への展開って・・・)

一番に不味いのはこの腕輪を軍事利用される場合だ。

物資の運搬の制約が無くなるだけでかなり有利に事を進めることが出来るだろう。

(このことが発覚しただけで、取り合いによりとんでもない騒動になるに違いありませんわ)

「・・・やっぱりアリシアさんもそう思うよね。他の人にバレないように気をつけるね・・・」

グレイが改めてアリシアに言われることで再認識したのか冷や汗を流す。

「・・・よろしくお願い致しますわ」

アリシアは発覚しないことを心の底から願った。

「うん・・・でも、いいの?」

グレイはアリシアの言葉に頷きながらもきょとんとし尋ねる。

「?何がですか?」

アリシアはグレイの意図がわからず尋ねる。

「俺が持ってていいの?アリシアさんが望むなら渡すつもりだったけど」

とそんな事を言ってくる。

「もちろん構いませんわ。グレイさんが命がけで入手したものですもの。そのようなことを言うはずありませんわ」

(・・・グレイさんの私《わたくし》への全面的な信頼が心地良いですわね)

グレイはアリシアに腕輪を渡してもアリシアなら悪いようにはしないだろうと考えたに違いない。

アリシアはグレイの自分に対する全面的な信頼が心地良く、温かい気持ちになった。





「ありがとう。それで最後の1つは?」

グレイがアリシアに礼を言い、先を促す。

「はい。最後は、イズ様のことですわ」

アリシアがそう言うとイズの方に目線を向けた。

イズは黙ってお茶を飲みながらグレイとアリシアの会話に耳を傾けていたが、自分の方に話が来たことで言葉を発する。

『はて?我が何かあるのか?』

イズ自体はピンと来てないようだ。

「はい。先程お話した激レアアイテムなどより、イズ様の方が重要です」

アリシアがはっきりと断言し、

「グレイさん、念の為の確認ですがナガリアの天幕の周りと私《わたくし》達がこちらに戻るまでの間のバリアはイズ様の魔法で間違いありませんか?」

グレイに確認を取る。

「うん。そうだよ」

グレイもアリシアが何故そんな事を聞くのか何となく分かっていたためあっさりと肯定する。

『・・・ふむ。もしや、我の存在自体が争いの種になるということか?』

イズはアリシアの雰囲気から察し、そう呟く。

アリシアはイズを真っ直ぐ見てから頷き、

「はい。イズ様の魔法は現代では異質です。魔法陣もなくあれだけ広範囲のバリアを張り、更に移動することが出来るというのは驚愕に値します。さらに今張ってくださっているこの防音の魔法はそれ自体が高等魔法なだけでなく魔法陣なしで発動するのは不可能とされているものです」

そして、アリシアは言いにくそうに、

「イズ様の事が知られれば、その力を利用とする者たちのせいで間違いなく争奪戦になるでしょう」

『・・・』

アリシアの言葉にイズは沈黙する。

「・・・」

アリシアもまた、イズの心境を慮り言葉を発せなかった。

するとグレイが、イズの頭を撫で、

「大丈夫だよ。イズは俺達の仲間だ。もし発覚したら全力で協力するよ。とはいってもアリシアさんはともかく俺はあんまり役に立たないだろうけど・・・」

と良い意味で沈黙を破る。

『グレイ・・・ありがとう』

イズが恥ずかしそうに礼を言う。

アリシアはグレイがさり気なく『俺達』と言い、自分も含めてくれていることを嬉しく思いながら、

「そうですわね。イズ様も私《わたくし》の命の恩人です。何かあった場合は私《わたくし》も全力で協力しますわ」

と答えた。

『アリシアもありがとう』

イズは感動しながらアリシアにも礼を言った。

「まあ、一番良いのはアリシアさんが話してくれたこと全てが発覚しないことだから気をつけるよ。・・・バレても怒らないでね」

と、グレイが少し戯けながら言う。

アリシアは笑いながら、

「ふふふ、さてその時はどうしましょうかねイズ様?」

『フッ・・・どうしてくれようかな』

と言うとグレイは、

「えー・・・お手柔らかに頼みます」

としょんぼりしながら言う。

「ふふふ」

『はっはっはっ』

すると、アリシアもイズももう我慢出来ないとばかりに笑い始める。

2人を見たグレイもここまで気を張っていたのが嘘のように取れ、

「ははは」

久しぶりに落ち着いた気持ちになった。
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