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第63話
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『ふっ。グレイよ。お主の言っていたようにこの娘はかなりの切れ者よな』
アリシアの反応を見たイズが、グレイに楽しそうに話しかける。
「だろ?アリシアさんは凄いんだよ。でも、ここまで理解が早いとは思ってもみなかった」
グレイはイズに対して胸を張った後、正直にアリシアの反応に驚いたことを伝える。
グレイがアリシアの立場だったらもっと動揺していたに違いない。
「イズ様、グレイさん、お褒め頂きありがとうございますわ」
アリシアは二人の言葉を聞いてお礼を言い、
「続きのお話はお食事をしながらにしましょう。折角用意してもらったものが冷めてしまいます」
とグレイとイズに食事を勧めた。
『お~、美味いぞ!!これもいける!あれも食べてみたい、とってくれ!!』
「・・・」
余程お腹が空いていたのだろう、グレイもイズも用意してもらった食事をガツガツと食べる。
イズは少し食べては感動の声を上げ、グレイはイズの要望に従いながら皿をイズの目の前に持ってきてやる。
が、グレイ自身もしゃべることもせずひたすらに食事に全身全霊を掛けている。
アリシアは二人の食べっぷりにイズが迷宮の主と聞いた時以上に驚きを隠せなかった。
(・・・これは、お話は食事の後の方が良さそうですわね)
口が開く隙があるとも思えず、そう結論付ける。
同時に、アリシアは感動する。
(つまり、グレイさんは食事を満足に摂る時間さえ惜しんで私《わたくし》のところまで駆けつけてくださったということですわ。・・・本当に何という方なのかしら)
恐らくグレイは自分からその事を話すことはないだろう。
(グレイさんはそういう方ですわ)
まだ出会ってから2か月も経っていないがアリシアはグレイの性格を把握しつつあった。
グレイは、変に着飾ったりしない。
他人がどう思おうが例え孤立しようが自分が正しいと思ったことをする。
これは簡単なことに思えるが中々難しい。
しかもグレイは平民だ。
尚更、難しいだろう。
(きっと、グレイさんは食事をせずに駆けつけたことを知った私《わたくし》が変に気に病まないようにしてくださっているのですわ)
アリシアは、こう言う気遣いのされ方をしてもらった経験が無かった。
(ふふふ、少しくらいアピールしてくださっても良いですのに。本当に心地の良い方ですわね)
グレイの食べっぷりをみながらアリシアは自然と微笑み、ようやく自分も食事を始めたのだった。
しばらくした後、グレイ、アリシア、イズの3人は食事の後のお茶を飲んで一息ついていた。
「ごめん。アリシアさん、話す余裕もなく食べちゃって・・・」
我に返ったグレイが口を開く。
(・・・やってしまった。ずっと迷宮の泉の水で騙し騙しここまで移動して来たから食事をし始めたら止められなかった。親しくなって来たとは言え、礼儀に欠いてたよな・・・)
内心では自己嫌悪していた。
しかし、アリシアは笑みを浮かべて、
「良いのですよ、グレイさん。それよりもお食事は美味しかったですか?」
そう尋ねてくる。
その言葉にグレイはすぐさま、
「とっても美味しかったです!」
とはっきりと感想を述べた。
「ふふふ、それは何よりですわ」
アリシアがグレイの言葉に嬉しそうに答える。
『初めて食事というものをしたが最高だな。我もとても満足した』
イズも感想を述べる。
「それは、何よりですわ」
アリシアがイズの言葉に少し引っ掛かりを覚えながら答える。
(はて、食事が初めてというのはどういうことなのでしょうか?)
ここで、グレイがアリシアを見ながら話し始めたのでイズの言葉を深く考えることはせずグレイの言葉に集中する。
「アリシアさん、これから今まであったことを話すね。全てを話すのはアリシアさんにだけと考えている。少なくとも今のところは。だけど、もし重荷になるのが嫌なら話せる範囲で話すだけにするけどどうする?」
アリシアは間髪入れずに、
「全てお話ください。たとえ全世界を敵に回すことになろうと私《わたくし》はグレイさんの味方でいます」
グレイの目をまっすぐ見ながら答える。
グレイは想像以上のアリシアの返答に顔を赤くしながら、
「ありがとう」
と礼を言った後、
「なら、全部話すね」
と答えた。
「・・・想像以上のことがあったのですね」
グレイから全てを聞き終えた後、アリシアはまずそう呟いた。
グレイが拉致された日は、やはりアリシアを貴族女子寮に送った後で間違い無かったこと。
目を覚ました時は、どこかに閉じ込められた上で尚且つ魔法も封じられていたこと。
どこかの場所に着くと、転送されたこと。
意を決して出てみると、閉じ込められたのは棺桶であったこと。そして迷宮の中であったこと。
更に探索することで、そこが迷宮の地下100階であったこと。そこで三つの選択肢から迷宮を踏破することを選んだということ。
更に激レアアイテムを手に入れたこと。それは、魔力をほとんど使わず、無尽蔵に物を格納でき、さらにはある程度の範囲でなら展開できるとんでもない物であったということ。
誰も踏破することができなかった最終試練をあらゆる幸運が重なり何とか踏破できたということ。
迷宮の最深部でイズに出会い、行動を共にすることになったこと。
迷宮を出てから、心配してくれているであろうアリシアの所に向かったこと。
そこで、あの危機的なことに遭遇したこと。
詳細を話していると時間がかかって仕方がないため、グレイは要点だけを語った。
(アリシアさんも疲れているはずだからね)
今は気を張っているから何とかなっているだろうが、アリシアの疲れが限界に近いとグレイは考えていた。
「色々なことがあり過ぎて何からコメントをすべきか迷うところですが、やはり何よりもよくぞ御無事で戻ってきてくださいました。私《わたくし》は心の底から嬉しいです。そして、再び命をお救い下さり本当にありがとうございました」
アリシアはグレイに対して深々と頭を下げた。
「アリシアさんこそ、駆けつけるまで耐えてくれてありがとう。アリシアさんが生き延びてくれて本当に嬉しいよ」
グレイもアリシアに向かって深々と頭を下げた。
アリシアの反応を見たイズが、グレイに楽しそうに話しかける。
「だろ?アリシアさんは凄いんだよ。でも、ここまで理解が早いとは思ってもみなかった」
グレイはイズに対して胸を張った後、正直にアリシアの反応に驚いたことを伝える。
グレイがアリシアの立場だったらもっと動揺していたに違いない。
「イズ様、グレイさん、お褒め頂きありがとうございますわ」
アリシアは二人の言葉を聞いてお礼を言い、
「続きのお話はお食事をしながらにしましょう。折角用意してもらったものが冷めてしまいます」
とグレイとイズに食事を勧めた。
『お~、美味いぞ!!これもいける!あれも食べてみたい、とってくれ!!』
「・・・」
余程お腹が空いていたのだろう、グレイもイズも用意してもらった食事をガツガツと食べる。
イズは少し食べては感動の声を上げ、グレイはイズの要望に従いながら皿をイズの目の前に持ってきてやる。
が、グレイ自身もしゃべることもせずひたすらに食事に全身全霊を掛けている。
アリシアは二人の食べっぷりにイズが迷宮の主と聞いた時以上に驚きを隠せなかった。
(・・・これは、お話は食事の後の方が良さそうですわね)
口が開く隙があるとも思えず、そう結論付ける。
同時に、アリシアは感動する。
(つまり、グレイさんは食事を満足に摂る時間さえ惜しんで私《わたくし》のところまで駆けつけてくださったということですわ。・・・本当に何という方なのかしら)
恐らくグレイは自分からその事を話すことはないだろう。
(グレイさんはそういう方ですわ)
まだ出会ってから2か月も経っていないがアリシアはグレイの性格を把握しつつあった。
グレイは、変に着飾ったりしない。
他人がどう思おうが例え孤立しようが自分が正しいと思ったことをする。
これは簡単なことに思えるが中々難しい。
しかもグレイは平民だ。
尚更、難しいだろう。
(きっと、グレイさんは食事をせずに駆けつけたことを知った私《わたくし》が変に気に病まないようにしてくださっているのですわ)
アリシアは、こう言う気遣いのされ方をしてもらった経験が無かった。
(ふふふ、少しくらいアピールしてくださっても良いですのに。本当に心地の良い方ですわね)
グレイの食べっぷりをみながらアリシアは自然と微笑み、ようやく自分も食事を始めたのだった。
しばらくした後、グレイ、アリシア、イズの3人は食事の後のお茶を飲んで一息ついていた。
「ごめん。アリシアさん、話す余裕もなく食べちゃって・・・」
我に返ったグレイが口を開く。
(・・・やってしまった。ずっと迷宮の泉の水で騙し騙しここまで移動して来たから食事をし始めたら止められなかった。親しくなって来たとは言え、礼儀に欠いてたよな・・・)
内心では自己嫌悪していた。
しかし、アリシアは笑みを浮かべて、
「良いのですよ、グレイさん。それよりもお食事は美味しかったですか?」
そう尋ねてくる。
その言葉にグレイはすぐさま、
「とっても美味しかったです!」
とはっきりと感想を述べた。
「ふふふ、それは何よりですわ」
アリシアがグレイの言葉に嬉しそうに答える。
『初めて食事というものをしたが最高だな。我もとても満足した』
イズも感想を述べる。
「それは、何よりですわ」
アリシアがイズの言葉に少し引っ掛かりを覚えながら答える。
(はて、食事が初めてというのはどういうことなのでしょうか?)
ここで、グレイがアリシアを見ながら話し始めたのでイズの言葉を深く考えることはせずグレイの言葉に集中する。
「アリシアさん、これから今まであったことを話すね。全てを話すのはアリシアさんにだけと考えている。少なくとも今のところは。だけど、もし重荷になるのが嫌なら話せる範囲で話すだけにするけどどうする?」
アリシアは間髪入れずに、
「全てお話ください。たとえ全世界を敵に回すことになろうと私《わたくし》はグレイさんの味方でいます」
グレイの目をまっすぐ見ながら答える。
グレイは想像以上のアリシアの返答に顔を赤くしながら、
「ありがとう」
と礼を言った後、
「なら、全部話すね」
と答えた。
「・・・想像以上のことがあったのですね」
グレイから全てを聞き終えた後、アリシアはまずそう呟いた。
グレイが拉致された日は、やはりアリシアを貴族女子寮に送った後で間違い無かったこと。
目を覚ました時は、どこかに閉じ込められた上で尚且つ魔法も封じられていたこと。
どこかの場所に着くと、転送されたこと。
意を決して出てみると、閉じ込められたのは棺桶であったこと。そして迷宮の中であったこと。
更に探索することで、そこが迷宮の地下100階であったこと。そこで三つの選択肢から迷宮を踏破することを選んだということ。
更に激レアアイテムを手に入れたこと。それは、魔力をほとんど使わず、無尽蔵に物を格納でき、さらにはある程度の範囲でなら展開できるとんでもない物であったということ。
誰も踏破することができなかった最終試練をあらゆる幸運が重なり何とか踏破できたということ。
迷宮の最深部でイズに出会い、行動を共にすることになったこと。
迷宮を出てから、心配してくれているであろうアリシアの所に向かったこと。
そこで、あの危機的なことに遭遇したこと。
詳細を話していると時間がかかって仕方がないため、グレイは要点だけを語った。
(アリシアさんも疲れているはずだからね)
今は気を張っているから何とかなっているだろうが、アリシアの疲れが限界に近いとグレイは考えていた。
「色々なことがあり過ぎて何からコメントをすべきか迷うところですが、やはり何よりもよくぞ御無事で戻ってきてくださいました。私《わたくし》は心の底から嬉しいです。そして、再び命をお救い下さり本当にありがとうございました」
アリシアはグレイに対して深々と頭を下げた。
「アリシアさんこそ、駆けつけるまで耐えてくれてありがとう。アリシアさんが生き延びてくれて本当に嬉しいよ」
グレイもアリシアに向かって深々と頭を下げた。
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