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第62話

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アリシアの呼びかけて直ぐにグレイの前のテーブルに料理が並ぶ。

グレイは直ぐにがっつくような事はせず、何かを待つ。

アリシアはグレイの様子を不思議に思い尋ねる。

「グレイさんどうされましたか?」

「・・・アリシア様、申し訳ございませんが人払いをお願いできませんか?」

グレイは、食堂に待機してくれているコックやメイドを見た後、小声でアリシアにお願いをする。

アリシアはグレイが何故このようなことを言うのかについての心当たりがあったため、一つ頷くと、

「皆さん、しばらくグレイさんと二人にしてください」

とコックとメイドを下がらせる。

「アリシアさん、ありがとう」

気配が遠ざかったのを確認したグレイがアリシアに礼を言う。

「とんでもないですわ。これくらい、お安いごようです」

アリシアはそう言った後、グレイが話始めるまで黙る。

(・・・恐らくグレイさんが後で話してくださるとおっしゃってくださったことに関わることを今からお話くださるはずですわ。ここは急かしたりせず、待ちましょう)

グレイは、一度深呼吸をすると、

「実は、もう一人食事をさせたい者がいるんだけど、いいかな?」

アリシアにとって予想外なことを聞いてきた。

「え、ええ。それは構いませんが・・・それでしたらもう一人分を用意させましょうか?」

アリシアは不思議に思いながら、至極当たり前の返しをする。

グレイは、首を振った後、

「それには及ばないよ。アリシアさん驚かないでね。・・・イズ。姿を見せていいよ」

左肩に向かって話しかける。

すると、先ほどまで全く見えなかったグレイの肩に何かいることが分かった。

「・・・小鳥さんですか?」

そこには、ふさふさの羽毛に包まれた小鳥がいた。

「うん。『イズ』って言うんだ」

グレイが小鳥のことを紹介する。

「・・・」

小鳥は自分が紹介されたことを理解したのか可愛らしくお辞儀をする。

アリシアはその姿を見て、微笑みを浮かべる。

「まぁ、可愛らしいですわね。ふふふ、私《わたくし》の名前はアリシア。アリシア・エト・バルムと申しますわ」

アリシアはわざわざ席を立って優雅にお辞儀をする。

「アリシアさん、少し魔法を使って貰ってもいいかな?」

グレイはアリシアの優雅さに少し見惚れてしまった後、小鳥がグレイの頬をつつくことで我に返り、一度小鳥を見たグレイが頷いた後、アリシアに向かって問いかける。

それはまるで、小鳥に意思があり、グレイと意思疎通をしたかのようであった。

「構いませんが、どのような魔法を使われるおつもりですか?」

(はて、グレイさんはそこまで魔法に秀でている訳ではないはずですが・・・)

アリシアは状況が掴めないもののグレイの申し出を断る理由もなく、形式的に内容を確認する。

だが、次の瞬間グレイの言葉に目を丸くする。

「うん。防音の魔法を」

「え?」

アリシアは驚きのあまり思わず聞き返す。

(今、グレイさんは何とおっしゃったのでしょうか。私《わたくし》の聞き間違えでなければ【防音の魔法】とおっしゃったはずですが・・・)

防音の魔法・・・それ自体が高等の魔法であり、更にその魔法は部屋に対して行うものである。具体的には部屋に対し、防音の魔法陣を描いた上で魔法を発動させるのだ。



「・・・グレイさん、もしかして【防音の魔法】とおっしゃいましたか?」

アリシアが念のため確認する。

聞き間違いでかつ許容できない魔法の場合は注意が必要なためだからだ。

(正直、グレイさんがさらっと使えるような魔法ではありません・・・聞き間違いかも知れませんわ)

だが、グレイはアリシアの予想に反してアリシアの言葉を肯定する。

「うん。そうだよ。構わないよね?」

「・・・はい。もちろんですわ」

(・・・聞き間違えじゃありませんでしたわ。いずれにせよ、使ってまずい魔法ではありません。ここは一旦様子を見ましょう)

アリシアは肯定した後、ひとまず様子を見ることにした。

すると、グレイは特に何もする素振りがないが、アリシアの目は驚愕に目を見開く。

(小鳥さんが魔法を発動しようとしていますわ・・・まさか)

アリシアはグレイの左肩の小鳥から魔法を発動としているのを見て驚く。

そして、先ほどのグレイの言葉を思い出す。

(先ほどグレイさんは、『アリシアさん、少し魔法を使って貰ってもいいかな?』っておっしゃってましたわね。元から小鳥さんが魔法を使うということを前提に話していらしたのですわ)

普通は小鳥が魔法を使うとは思わないため、聞き逃していた。

(・・・とすると、この小鳥さんは只者ではないに違いありませんわ)

アリシアはそう確信する。

ちょうど、【防音の魔法】が展開されたようだ。

(まさか、こんなにも簡単に発動するなんて・・・しかも、魔法陣を使わず、更に部屋全体ではなく部分的に展開しているようですわ)

今、小鳥が行ったことの凄さは魔法に精通するアリシアだからこそ理解できる。

逆に言うと、グレイはそこまで理解していないだろう。

(・・・これは予想以上にグレイさんの話がとんでもないことを示しておりますわ。気を引き締めてお聞かせいただかないとなりませんわね)

アリシアはそう覚悟する。

最初からではあるが、グレイの話を聞かないという選択肢は考えてもいなかった。

「さあ、お聞かせください。グレイさんのお話を」

アリシアがグレイが話しやすいように促した。

グレイは一つ頷くと、

「まずは、イズのことを話さないといけない。イズ」

そう言うと小鳥に向かって話しかける。

小鳥はグレイの左肩から飛び降り、テーブルの上にふわりと着地すると、

『改めて挨拶をしよう。我の名はイズ。君らが【とこしえの迷宮】と呼ぶ【迷宮の主】をやっていた者だ。これからもよろしく頼むぞ、アリシア・エト・バルムよ』

と優雅にお辞儀をした。

「・・・」

余りのことにアリシアは言葉を失った。

だが、頭の中はフル稼働していた。

(え?今何て?【とこしえの迷宮の主】だった?この小鳥が?信じられませんわ・・・ですが、先ほどの魔法は本物ですし只者ではないとは思いますわ・・・それにグレイさんが嘘をつかせるとも思いませんし・・・)

「・・・よろしくお願いいたしますわ。イズ様」

目の前の小鳥の発言は本当のことを言っているのだとアリシアはそう結論付けた。
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