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第47話
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コンコンコン
上品なノック音が執務室に響く。
「入りなさい」
部屋の主であるゾルムは来訪者を中に促す。
「失礼致しますわ」
扉を開けて入ってきたのは愛娘のアリシアであった。
「おお。来てくれたか」
ゾルムは嬉しそうにアリシアに声を掛ける。
「お父様、どうなされたのですか?私《わたくし》をお呼びになるなんて」
アリシアがゾルムに呼ばれて戻って来たのは週末にはまだまだかかる平日の中盤であった。
週末には家に戻ることが寮生活の条件であったこともあり、つい先日も家に帰っていた。さらに言えばあと数日すればまた家に戻るつもりだったのだ。
「悪いね。まずはそこに掛けなさい」
「畏まりましたわ」
アリシアはひとまず、ソファに座る。
そして、ゾルムも執務机から移動しアリシアの前に座った。
「・・・あんまり眠れていないみたいだね」
ゾルムがアリシアの顔を見て心配そうに言う。
「・・・そんなことありませんわ」
アリシアがゾルムに心配を掛けないように否定する。
「・・・」
ゾルムはじっとアリシアを見つめる。
「・・・少しは眠れてますわ」
やがてゾルムの視線に耐えられなくなったアリシアが苦し紛れにそう言う。
「・・・グレイ君のことを思ってそうなってしまうのは分かっているつもりだけどアリシアが日に日にやつれていくのは正直見ていて辛い。目を瞑るだけでもいいから横になっておくれよ」
ゾルムが心配そうにアリシアに言う。
「善処しますわ」
アリシアはそう言うのが精いっぱいだった。
アリシアのグレイが居なくなってからの落ち込み方は尋常ではなかった。
執事のムスターのお陰で前向きになったはなったのだが、アリシアの意識は過剰な方向に向かってしまったのだ。
すなわち、不甲斐ない自分を叩き直すという方向に。
あの日を境にアリシアは寝る間を惜しんで自分を追い込むようにして自己研鑽に励みだしたのだ。
グレイが戻ってくることは信じてはいる。
だが、無事に戻った後同じことが起きないとも限らない。
寧ろ高い確率で同じことが起きるだろう。
ならば、二度と同じことを起こさないようにはどうすればいい?
簡単だ。自分がグレイを守れるくらい強くなれば良いのだ。
そういった考えに至ったアリシアがとった行動が自分を鍛え直すとうものであった。
平日はもとより、家に帰ったときでも食事などの最低限の行動以外は全て自己研鑽の時間に当てていたのだ。
睡眠時間など真っ先に削る対象になっていた。
「ふぅ・・・これ以上は言わない。今日呼んだ理由はアリシアに伝えておくことがあるからだ」
ゾルムがこれは駄目だと諦めながら、本題に入る。
「もしかして、ナガリア家がグレイさんを殺害しようとした証拠が出たのですか!?」
本当は、アリシアは自己研鑽なんかよりもグレイを殺害しようとした相手であると確信しているナガリアの捜査をしたかった。
だが、学生である自分では何の役にも立たないとナガリアに対する対応は騎士隊長のマリーやゾルムに任せるしかなかったのだ。
「いや。それはまだだ」
ゾルムはアリシアの希望に反して否定する。
「・・・そうですか」
アリシアはとても残念そうに浮かしかけていた腰をソファに戻す。
「ああ。だから問答無用でナガリアを潰すことにした」
「えっ?それってどういうことですか?」
アリシアはゾルムの言っていることがよく分からず質問する。
ナガリアを潰すために証拠集めをしていたはずなのに、潰すとはどういうことだろうか。
「・・・実は、先日アリシアがムスターに励まされた後、私は国王様のところに直談判にいったんだ」
ゾルムが事情を話そうと口を開く。
「!?初耳ですわ」
アリシアが驚いたように呟く。
「そこで、こう言ったんだ『バルム家はナガリア家と全面対決を行う』と」
「!?・・・そこまでのことをしてくださるとは思っても見ませんでしたわ。お父様、ありがとうございます」
アリシアは想像以上のゾルムの言葉に驚いた後、感謝を伝えた。
正直、そこまでグレイのことを考えてくれているとは思っても見なかったからだ。
「いいんだ。アリシアのことだけだったら、グレイ君のお陰で無事に戻ってきてくれたこともありまだ耐えられた。証拠を見つけて糾弾するという手段をとると考えていたさ。だが、今度はグレイ君の命を狙ったんだ。私も流石に堪忍袋の緒が切れた」
もしアリシアが無事に戻ってなかったらゾルムは証拠など関係なくすぐさまナガリアと全面対決を挑んでいただろう。
だが、グレイのお陰でアリシアが無事に戻ってきたため、それは何とか耐えてやったに過ぎなかった。
「国王様に直談判したところ、私が本気だということが伝わったみたいでね。『ゾルム、お前の意思が固いことはよく分かった。だが、1~2週間だけ待ってくれ。余がナガリアを裁く』と言ってくださったんだ。国王様もバルム家とナガリア家の全面対決によって起こる被害を憂慮してくださったのだろう」
「そういうことでしたか・・・では」
アリシアが事情を理解する。
「ああ。昨夜この手紙が国王様から届いた」
ゾルムが懐から手紙を出し、アリシアに渡す。
アリシアは手紙を受け取り中を読む。
「・・・少々甘い気はしますが、ナガリアにとっては厳罰ですわね」
そこにはナガリアが激怒した内容と同じことが書かれていた。
「ああ。こんなに早い期間でその命令を出すとは余程無理をしてくださったのだろう。今度お礼に行かねばな」
「その時は是非私もお供させてください」
ここ最近ずっと強張っていたアリシアの表情が柔らかくなる。
「ああ。もちろんだよ」
ゾルムも柔らかい笑顔で了承した。
コンコンコン
「失礼致します。お茶をお持ちしました。」
話しが一区切りした丁度良いタイミングで執事のムスターがティーポットをお盆にのせて入室してくる。
「ああ。ありごとう」
「ありがとうございます。ムスターさん」
「とんでもないことでございます」
ムスターはゾルムとアリシアの言葉に返事をしながら執事然とした滑らかな仕草でゾルム、アリシアの順にお茶を置いていく。
ゾルムもアリシアも早速、お茶を一口飲む。
「美味しいですわね。ほっと致しますわ」
アリシアが深い息を吐く。
思えばあの日から今日という日までがむしゃらに過ごして来たため、こんなにもゆったりとお茶を飲んだは久しぶりだ。
実際には十数日しか経ってないのだが、アリシアにはもう数年分に感じられた。
(たった少ししかお会いして無いというのに、グレイさんはこれほどまで私《わたくし》に影響をお与えになっていたのですわね)
アリシアは自分のこのような心境に正直驚いていた。
今まで十数年生きてきて初めてだった。
(・・・いけない。これだと、もう会えなくなった人を思う見たいですわ。私《わたくし》はグレイさんが帰ってきてくださると信じているのですから、戻られるまで今を精一杯生きないと)
アリシアは少し弱気になった自分に叱咤する。
そして、今後のことをゾルムに話しかける。
「・・・お父様、ナガリアがこのまま黙って国王様のご提案をお受けになると思いますか?」
「・・・アリシア。良くぞそこまで成長したね」
アリシアの言葉にゾルムは正直誇らしい気分で一杯であった。
今の精神状態でその発想に至れるのは余程自分を自制していないと無理だということがよく分かっていたからだ。
「ありがとうございます」
アリシアは軽く頭を下げる。そしてゾルムの目をじっと見つめる。
「ふぅ・・・良い目をするね」
ゾルムは本当はその話題まではしないようにしようと考えていたが、娘にそんな真剣な目で見られては誤魔化せる気がしなかった。
「奴の事だ。このまま終わるとは思えない。逆恨みの上、バルム家に復讐をしてくるに違いない」
「やはり、そうですわよね。本当は先手を取りたいところですが、愚策ですし・・・」
アリシアは腕を顎に手を触れさせながら考え始める。
「そうだね。被害者である我々にとっては温い罰とは言え、貴族にとっては厳しい罰だ。そんな状況のナガリア家に対してバルム家が先制攻撃をするわけには行かない。そうすれば、完全に我々が悪者になる上、早急に動いてくださった国王様に対しても不敬になるだろう」
アリシアの言葉をゾルムが肯定する。
「ということは、迎え撃つということですわね」
「ああ。そういうことだ。ナガリアの方から攻めてくれば迎え撃つのに何も弊害はない。まぁ、ナガリアが少しでも理性が残っていれば国王様のご命令通りに従うという選択肢もあるけどね」
「・・・ありえませんわね」
アリシアはナガリアに会ったことは数度、話したことは無く、軽く挨拶をした程度だがゾルムの傍でナガリアとゾルムの会話を聞いていた様子から判断しているに過ぎない。
だが、あの自己中心的で自尊心の塊のような男が逆恨みをしないという選択肢は考えつかなかった。
「・・・まぁ、いずれにせよ対策をしておくに越したことはない。ナガリアの猶予が1週間。移動をゆっくりするという想定で国王様が指示した余生を送る場所に到着するまでにさらに2週間。私に復讐をしてから追いつくことを考えると今から2週間半・・・正確には18日以内に何事も無ければ一安心だろう」
ゾルムが計算をしながらアリシアに話す。
ナガリアが1週間以内に移動を開始すると見せかけ、ゆっくりと移動させている間に別動隊がゾルム家を強襲。
ゾルム家から急いで移動している集団に合流しつつ国王の指定場所に到着するのは急いで3日なため、今から18日がナガリアに残された時間的猶予である。
「隠居生活を送りながらバルム家にネチネチと仕返しに来る可能性はありませんか?グレイさんに対して姑息な手を使ったみたいに」
アリシアが別の可能性を示唆する。
「・・・いや、その可能性はほとんどないだろう。あの男はここぞという時には必ず自分の手で決着をつけにくる」
ゾルムが確信を込めてそう言う。
「お父様がそう言われるのでしたらそうなのでしょうね。では、ナガリアはお父様を狙うと思いますか?それとも私《わたくし》を狙うのでしょうか?」
アリシアが真剣な表情でそうゾルムに尋ねた。
上品なノック音が執務室に響く。
「入りなさい」
部屋の主であるゾルムは来訪者を中に促す。
「失礼致しますわ」
扉を開けて入ってきたのは愛娘のアリシアであった。
「おお。来てくれたか」
ゾルムは嬉しそうにアリシアに声を掛ける。
「お父様、どうなされたのですか?私《わたくし》をお呼びになるなんて」
アリシアがゾルムに呼ばれて戻って来たのは週末にはまだまだかかる平日の中盤であった。
週末には家に戻ることが寮生活の条件であったこともあり、つい先日も家に帰っていた。さらに言えばあと数日すればまた家に戻るつもりだったのだ。
「悪いね。まずはそこに掛けなさい」
「畏まりましたわ」
アリシアはひとまず、ソファに座る。
そして、ゾルムも執務机から移動しアリシアの前に座った。
「・・・あんまり眠れていないみたいだね」
ゾルムがアリシアの顔を見て心配そうに言う。
「・・・そんなことありませんわ」
アリシアがゾルムに心配を掛けないように否定する。
「・・・」
ゾルムはじっとアリシアを見つめる。
「・・・少しは眠れてますわ」
やがてゾルムの視線に耐えられなくなったアリシアが苦し紛れにそう言う。
「・・・グレイ君のことを思ってそうなってしまうのは分かっているつもりだけどアリシアが日に日にやつれていくのは正直見ていて辛い。目を瞑るだけでもいいから横になっておくれよ」
ゾルムが心配そうにアリシアに言う。
「善処しますわ」
アリシアはそう言うのが精いっぱいだった。
アリシアのグレイが居なくなってからの落ち込み方は尋常ではなかった。
執事のムスターのお陰で前向きになったはなったのだが、アリシアの意識は過剰な方向に向かってしまったのだ。
すなわち、不甲斐ない自分を叩き直すという方向に。
あの日を境にアリシアは寝る間を惜しんで自分を追い込むようにして自己研鑽に励みだしたのだ。
グレイが戻ってくることは信じてはいる。
だが、無事に戻った後同じことが起きないとも限らない。
寧ろ高い確率で同じことが起きるだろう。
ならば、二度と同じことを起こさないようにはどうすればいい?
簡単だ。自分がグレイを守れるくらい強くなれば良いのだ。
そういった考えに至ったアリシアがとった行動が自分を鍛え直すとうものであった。
平日はもとより、家に帰ったときでも食事などの最低限の行動以外は全て自己研鑽の時間に当てていたのだ。
睡眠時間など真っ先に削る対象になっていた。
「ふぅ・・・これ以上は言わない。今日呼んだ理由はアリシアに伝えておくことがあるからだ」
ゾルムがこれは駄目だと諦めながら、本題に入る。
「もしかして、ナガリア家がグレイさんを殺害しようとした証拠が出たのですか!?」
本当は、アリシアは自己研鑽なんかよりもグレイを殺害しようとした相手であると確信しているナガリアの捜査をしたかった。
だが、学生である自分では何の役にも立たないとナガリアに対する対応は騎士隊長のマリーやゾルムに任せるしかなかったのだ。
「いや。それはまだだ」
ゾルムはアリシアの希望に反して否定する。
「・・・そうですか」
アリシアはとても残念そうに浮かしかけていた腰をソファに戻す。
「ああ。だから問答無用でナガリアを潰すことにした」
「えっ?それってどういうことですか?」
アリシアはゾルムの言っていることがよく分からず質問する。
ナガリアを潰すために証拠集めをしていたはずなのに、潰すとはどういうことだろうか。
「・・・実は、先日アリシアがムスターに励まされた後、私は国王様のところに直談判にいったんだ」
ゾルムが事情を話そうと口を開く。
「!?初耳ですわ」
アリシアが驚いたように呟く。
「そこで、こう言ったんだ『バルム家はナガリア家と全面対決を行う』と」
「!?・・・そこまでのことをしてくださるとは思っても見ませんでしたわ。お父様、ありがとうございます」
アリシアは想像以上のゾルムの言葉に驚いた後、感謝を伝えた。
正直、そこまでグレイのことを考えてくれているとは思っても見なかったからだ。
「いいんだ。アリシアのことだけだったら、グレイ君のお陰で無事に戻ってきてくれたこともありまだ耐えられた。証拠を見つけて糾弾するという手段をとると考えていたさ。だが、今度はグレイ君の命を狙ったんだ。私も流石に堪忍袋の緒が切れた」
もしアリシアが無事に戻ってなかったらゾルムは証拠など関係なくすぐさまナガリアと全面対決を挑んでいただろう。
だが、グレイのお陰でアリシアが無事に戻ってきたため、それは何とか耐えてやったに過ぎなかった。
「国王様に直談判したところ、私が本気だということが伝わったみたいでね。『ゾルム、お前の意思が固いことはよく分かった。だが、1~2週間だけ待ってくれ。余がナガリアを裁く』と言ってくださったんだ。国王様もバルム家とナガリア家の全面対決によって起こる被害を憂慮してくださったのだろう」
「そういうことでしたか・・・では」
アリシアが事情を理解する。
「ああ。昨夜この手紙が国王様から届いた」
ゾルムが懐から手紙を出し、アリシアに渡す。
アリシアは手紙を受け取り中を読む。
「・・・少々甘い気はしますが、ナガリアにとっては厳罰ですわね」
そこにはナガリアが激怒した内容と同じことが書かれていた。
「ああ。こんなに早い期間でその命令を出すとは余程無理をしてくださったのだろう。今度お礼に行かねばな」
「その時は是非私もお供させてください」
ここ最近ずっと強張っていたアリシアの表情が柔らかくなる。
「ああ。もちろんだよ」
ゾルムも柔らかい笑顔で了承した。
コンコンコン
「失礼致します。お茶をお持ちしました。」
話しが一区切りした丁度良いタイミングで執事のムスターがティーポットをお盆にのせて入室してくる。
「ああ。ありごとう」
「ありがとうございます。ムスターさん」
「とんでもないことでございます」
ムスターはゾルムとアリシアの言葉に返事をしながら執事然とした滑らかな仕草でゾルム、アリシアの順にお茶を置いていく。
ゾルムもアリシアも早速、お茶を一口飲む。
「美味しいですわね。ほっと致しますわ」
アリシアが深い息を吐く。
思えばあの日から今日という日までがむしゃらに過ごして来たため、こんなにもゆったりとお茶を飲んだは久しぶりだ。
実際には十数日しか経ってないのだが、アリシアにはもう数年分に感じられた。
(たった少ししかお会いして無いというのに、グレイさんはこれほどまで私《わたくし》に影響をお与えになっていたのですわね)
アリシアは自分のこのような心境に正直驚いていた。
今まで十数年生きてきて初めてだった。
(・・・いけない。これだと、もう会えなくなった人を思う見たいですわ。私《わたくし》はグレイさんが帰ってきてくださると信じているのですから、戻られるまで今を精一杯生きないと)
アリシアは少し弱気になった自分に叱咤する。
そして、今後のことをゾルムに話しかける。
「・・・お父様、ナガリアがこのまま黙って国王様のご提案をお受けになると思いますか?」
「・・・アリシア。良くぞそこまで成長したね」
アリシアの言葉にゾルムは正直誇らしい気分で一杯であった。
今の精神状態でその発想に至れるのは余程自分を自制していないと無理だということがよく分かっていたからだ。
「ありがとうございます」
アリシアは軽く頭を下げる。そしてゾルムの目をじっと見つめる。
「ふぅ・・・良い目をするね」
ゾルムは本当はその話題まではしないようにしようと考えていたが、娘にそんな真剣な目で見られては誤魔化せる気がしなかった。
「奴の事だ。このまま終わるとは思えない。逆恨みの上、バルム家に復讐をしてくるに違いない」
「やはり、そうですわよね。本当は先手を取りたいところですが、愚策ですし・・・」
アリシアは腕を顎に手を触れさせながら考え始める。
「そうだね。被害者である我々にとっては温い罰とは言え、貴族にとっては厳しい罰だ。そんな状況のナガリア家に対してバルム家が先制攻撃をするわけには行かない。そうすれば、完全に我々が悪者になる上、早急に動いてくださった国王様に対しても不敬になるだろう」
アリシアの言葉をゾルムが肯定する。
「ということは、迎え撃つということですわね」
「ああ。そういうことだ。ナガリアの方から攻めてくれば迎え撃つのに何も弊害はない。まぁ、ナガリアが少しでも理性が残っていれば国王様のご命令通りに従うという選択肢もあるけどね」
「・・・ありえませんわね」
アリシアはナガリアに会ったことは数度、話したことは無く、軽く挨拶をした程度だがゾルムの傍でナガリアとゾルムの会話を聞いていた様子から判断しているに過ぎない。
だが、あの自己中心的で自尊心の塊のような男が逆恨みをしないという選択肢は考えつかなかった。
「・・・まぁ、いずれにせよ対策をしておくに越したことはない。ナガリアの猶予が1週間。移動をゆっくりするという想定で国王様が指示した余生を送る場所に到着するまでにさらに2週間。私に復讐をしてから追いつくことを考えると今から2週間半・・・正確には18日以内に何事も無ければ一安心だろう」
ゾルムが計算をしながらアリシアに話す。
ナガリアが1週間以内に移動を開始すると見せかけ、ゆっくりと移動させている間に別動隊がゾルム家を強襲。
ゾルム家から急いで移動している集団に合流しつつ国王の指定場所に到着するのは急いで3日なため、今から18日がナガリアに残された時間的猶予である。
「隠居生活を送りながらバルム家にネチネチと仕返しに来る可能性はありませんか?グレイさんに対して姑息な手を使ったみたいに」
アリシアが別の可能性を示唆する。
「・・・いや、その可能性はほとんどないだろう。あの男はここぞという時には必ず自分の手で決着をつけにくる」
ゾルムが確信を込めてそう言う。
「お父様がそう言われるのでしたらそうなのでしょうね。では、ナガリアはお父様を狙うと思いますか?それとも私《わたくし》を狙うのでしょうか?」
アリシアが真剣な表情でそうゾルムに尋ねた。
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