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第44話

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『ふむ・・・本題とな?』

イズが小首を傾げながら尋ねる。

「ああ。色々と教えてくれ」

グレイはイズの言葉に返事をしながら、その場であぐらをかいて座る。

(イズは気にしないかもしれないが、立ったままだと見下しているみたいで居心地が悪いからな)

『もちろん。良いぞ』

イズはグレイの行動の意味が分かったのか、グレイの膝の上に飛び乗りながら答える。

「ここから部屋からこの迷宮の外に出られるんだよな?」

グレイは一番気になっていたことを尋ねる。

『そうだ。中央にあるオーブに触れて【転移】と念じれば一瞬でこの迷宮の外に出られると聞いている』

イズが答えるがグレイは続けて、

「・・・『聞いている』とは?」

『ああ。我はこの迷宮を踏破する者が現れない限り出られないようになっていたからな。実際にそのオーブを使うところは見たことはないのだ』

イズが器用に肩をすくめながら答える。

「なるほど。それもそうか・・・」

(ここから出られるアイテムの近くにいて使えないなんて生殺しもいいところじゃないか)

グレイはイズの立場を考え、その心中を慮る。

自分だったら発狂してしまうに違いない。

「続いてだが、このオーブとやらを使って移動するときは俺の魔力を結構使うのか?」

グレイは自分の魔力の乏しさをよく理解しているため、今身に着けている腕輪のようにほとんど魔力を使わずに使えるような物でないとこの迷宮から出られないのではという不安があった。

『ん?ああ、そうか。グレイは余り魔力がないようだな』

イズは相手の魔力が分かるのかグレイを見てそう言い、

『このオーブの力は移動距離と魔力が比例関係にある』

「・・・つまり、移動距離が長いほど使う魔力が必要ということか?」

グレイはイズの言いたいことを理解する。

『その通りだ。グレイの魔力量だと・・・この迷宮から地上に出るくらいしか出来ないだろうな』

「・・・そうか」

(この部屋は地上から地下101階に位置するから相当な距離があるに違いない。地上まで出られるだけで良しとしないとな)

グレイは世の中そんなに甘くないと思いながらも納得する。

「ちなみにこのオーブは持ち運び可能か?」

グレイは駄目元でイズに尋ねる。

(もし持ち運びが可能なら地上に上がった後も少しずつ【転移】していけば魔法学園までの移動日数がかなり稼げるはずだ)

『持ち運びは可能だがここから動かすと【転移】の力は使えないと聞いている』

イズが申し訳無さそうに答える。

「そうか・・・なら、地上に出た後地道に魔法学園に向かうしかないな」

『む?魔法学園とな?』

「ああ。俺はそこの学生なんだ」

グレイがイズに答えるとイズは驚いた顔をし、

『なんとっ!学生とは大人になる前の者ということだろう?』

「まぁ、大体がそうだな」

『そんな若い人間がこの迷宮を踏破するなんてグレイの将来が楽しみだな!』

イズが羽を上下させながら興奮する。

「・・・そんなことは無いとは思うが、まあ、ありがとう」

『ははは!謙遜するでない!我にはわかるぞグレイの光り輝く未来が!!』

イズがとても嬉しそうに太鼓判をおす。

「はは、ありがとう」

(そういえば、今までの人生でこんなにも期待されたことは無かった気がするな)

グレイはどこかこそばゆい気持ちになりながらも嬉しく思う。

(本当、アリシアさんと出会ってからは人生が彩ったな)

グレイはアリシアの顔を思い浮かべ、早く会いたいと強く思った。

「ところで、イズは魔法陣にも精通しているのか?」

グレイは博識そうなイズに尋ねる。

『精通しているかは分からぬが見れば大体の効果は分かると思うぞ』

「おお!流石だな。ならこれを見てくれ!【展開】」

グレイは腕輪の力を使って部屋の地面に魔法陣を出現させる。

そう。それはグレイがこの迷宮に転送させられた魔法陣であった。



『ふむ・・・これは【転送】の効果がある魔法陣だな』

イズはグレイが出現させた魔法陣を観察し、すぐに効果を当ててみせた。

さらに細かく確認していくイズの様子をグレイがじっと見守る。

『どうやらこれは、2つ以上書くことで効力を発揮するようだな』

イズが呟く。

「2つ以上?」

『ああ。それも魔法陣を描く人間が同一人物である必要がある』

「とすると例えば俺がこの魔法陣を2つ書けばその2つの魔法陣の間を行き来出来るということか?」

グレイがイズに確認すると、イズは頷き、

『そうだ。その代わり通常の1つの魔法陣でいける範囲よりも長距離でも移動可能となる代物だ』

「なるほど、便利そうだな。それで、発動する方法は分かるか?」

『すまぬがそこまでは分からぬ。魔力にものを言わせて無理やり発動することは出来るがな』

「そうか。ありがとう」

(無事にアリシアさんに会えたら相談してみよう)

「ところで、この迷宮はこの後どうなるんだ?やはり崩れたりするのか?」

グレイは気になっていたことを確認する。

『それは踏破者であるグレイ次第だな』

イズがグレイに淡々と告げる。

「・・・それは俺が選べると言う意味か?」

『その通りだ』

「ふむ。ちなみに踏破されたことは外に伝わったりするのかな?」

『遥か昔ならいざ知らず。今は伝わらないと思うぞ』

イズの言葉にグレイは、考える。

(この迷宮を壊したりすれば、クリアしたんだと知らしめているようなものだよな・・・なら)

「分かった。それならこのままにしておく」

『了解した』

長年ここにいたから愛着があるのだろう。

イズが嬉しそうに頷く。

(嫌ならそう言えばいいのに・・・不器用な奴)

グレイはイズに対してそのように思うが、そういう不器用さは嫌いじゃないので自然と笑顔になる。

「そうだ。この階と上の階、つまり地下101階と100階だけこの迷宮の中で入れないようにすることは可能かな?」

グレイは思いつきイズに尋ねる。

『可能だぞ。すぐやるか?』

「ああ。頼んだ」

グレイはイズに頼むと、先程書いた魔法陣を見様見真似で地面に書いていく。

『終わったぞ。これでこの迷宮は地下99階までしか入れなくなった。ん・・・なるほどそういうことか』

早速イズがグレイの頼みを聞いて地下99階で閉鎖し、グレイに声を掛ける。

そして、イズはグレイの行動を見て納得した。

この部屋に転送の魔法陣を書いて置けば後で来ることが可能になるからだ。

「ありがとう。ああ。この部屋を残したままだと誰かが来た時に悪用されかねないからな」

少し歩けば54体の魔人形が転がっているし、このオーブもある。

踏破者が今までいなかったとは言え最終階到達者は何人も居たのだ。

用心しておくに越したことは無いだろう。

『ふむ。道理だな。それでグレイはここを使うことがあるかもと思っているわけだな』

「ああ。無いとは思うが保険みたいなもんだな。嫌か?」

グレイはイズが嫌なら書いている魔法陣を消そうと思いながら確認する。

『嫌なものか。この迷宮の支配者は既にグレイだ。好きにするが良いさ』

イズはグレイの支配者に見合わぬ心遣いに悪い気はしなかった。

『ところで、グレイは魔力が少ない割には中々魔法陣を書くのが上手いじゃないか。今の時代の人間が使う言葉かは知らぬが【魔力指】の扱いが絶妙だな』

イズはグレイの魔法陣を書くのを眺めながら感心する。

「ありがとう。発動できる魔法陣は殆ど無いが書くのは好きでな。熱中している間になり上達したんだ。ちなみに現代でも【魔力指】と言うぞ」

【魔力指】・・・魔法陣を書くときの高等スキルである。指先に魔法を込め魔力によって魔法陣を書く事ができる。ただ魔法を込めるだけでは上手く行かず、一定量を維持できないと魔法陣として機能しないため普通は直接地面や紙面に魔力指を使わずに魔法陣を描くのが一般的だ。魔力指を使った魔法陣のメリットとしては描いた本人がキャンセルするか死なない限り消えることは無いといった点が大きい。あとは、まずやらないがやろうと思えば空中にも書くことができる点である。

『ほう。同じ言い方が伝わっているのもあるのだな。面白い』

イズが感心する。

「よし。できた。どうかな?上手くかけてるか確認してくれないか?」

魔法陣を書き終えたグレイがイズに確認する。

『ん、おお。お安い御用だ。・・・うむ。上手くかけているぞ』

イズは少し空を飛び、グレイの魔法陣に不備がないことを確認する。

「ありがとう。・・・では、次は最後の質問だ。イズはこれからどうするんだ?」

グレイはイズに礼を言った後、聞くのがためらわれ後回しにしていた質問をイズにしたのであった。
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