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第40話

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「やめだやめ!無事に戻れてから悩もう!!今は、これからどうするかを考えないと」

グレイはしばらくしてから、今考えても仕方が無いと頭を振りながら今何をするかを考えることに集中する。

「・・・この棺桶も一応持っておくか」

グレイは再度棺桶に触れ、【格納】する。

続いて、転送の魔法陣も【格納】しておいた。

「俺に使えなくてもいつか役立つ時が来るはずだ」

考えたくは無かったが、もし腕輪を狙われ逃げ続けることがあった場合にはこの魔法陣を使えるとかなり状況が変わるだろう。

「・・・そんな未来は来ないに越したことはないがな」

グレイはそう呟きながら、部屋を出た。

ズズズズズ

もうこの部屋には何もないため、鉄扉を閉める。

「・・・さて、このセーフティエリアでやることは全部無くなったな」

このまま余生を過ごすか。

100階分を遡るか。

101階に向かいこの迷宮をクリアするか。

グレイはため息をつく。

「・・・普通だったら、ここで来るかもしれない助けを待つ・・・が正解だよな」

グレイは主観的にも客観的にも自分の能力を考えたら十人中十人が至るであろう選択肢を呟く。

「だが、俺はアリシアさんの『付き人』だ。まだ日は浅いが傍に居なければならない。・・・既に給金も貰っているしな」

グレイは少し笑う。

「・・・それに、アリシアさんが俺が居なくなったことで自分を責めているかもしれない」

グレイは自分を拉致した連中を指示した誰かが、アリシアと出会った件に関係していると確信していた。

グレイがそう思うくらいだ。

アリシアもそう思っているだろう。

あれだけ誇りを持った女性だ。

グレイがこのまま帰ってこないとなれば自分を責めるに違いない。

「・・・待てよ。俺の拉致した奴に対して罪を償わせたら、自分の命を絶ったりしないだろうな」

グレイは、アリシアの行動をイメージして最悪の事態を考える。

「ありうる。ありうるぞ・・・責任を取って自ら命を絶ってもおかしくない。『私《わたくし》の命の恩人を自分の所為で死なせてしまったのですから責任を取って命を絶つのは当然ですわ』・・・って言いそうだ」

グレイはまだ少ししかアリシアと接点が無かったがそのような発想になることが容易にイメージできた。

「・・・行くか」

今ここで唸っていても仕方がない。

グレイは、転送された部屋を出る時には既にどの選択肢を選ぶか決めていたのだ。

もう余計なことは考えず、目の前のことに集中するだけだ。

グレイは転送の部屋から出てに歩き出す。

「どっちを選んだった無謀なんだ。なら、俺は101階に行く」

死ぬリスクはどちらも絶望的だ。

なら、グレイは進むことを選ぶ。

もちろん他にも色々な考えはあった。

100階分戻ることに比べて、

時間的に早く戻れる点、

来れなければならない壁が一つで済む点、

そして、どうせなら日記を書いた冒険者が成せなかったことにチャレンジして見たいという気持ちもあった。

だが、何よりも、

「最期の最期まで前のめりで生き抜いてやる」

グレイなりの生き様を通したかった。





カツ

カツ

カツ

グレイが階段を降りる度に、足音が反響する。

「長いな、1階毎にこんなに階段があるのか?」

グレイはしばらく進んでいるはずなのに中々101階に辿り着かないことにうんざりしていた。

「もし、100階から101階の階段数が特別長いってことじゃなかったら、地上から100階までにかかる期間は気の遠くなるものになっていただろうな」

途中まで階段の数を数えていたグレイだったが、500を超えた後から数えるのをやめた。

それから、同じくらいの体感時間だったので1000を超えているだろう。

さらにしばらく進むと、ようやく出口が見えて来た。

「ようやくか。セーフティエリアに比べてかなり明るいな」

グレイは今まで通った中で一際明るいエリアに向かう。

「あと、5段・・・4段・・・3段・・・2段・・・1段・・・ラスト」

グレイは、自分が階段を降りるのはこれが最後かもしれないと思いながらカウントダウンしていく。

「さあ、『とこしえの迷宮』の最下層はどうなっているんだろうな」

グレイは、腹を括りとうとう101階に足を踏み入れた。




「私《わたくし》の所為でグレイさんが・・・」

ゾルムに抱きついて泣いてしまった後、アリシアは『すみません。しばらく一人にさせてください』と食堂を出て行った後に、以前グレイとも来た中庭のベンチに座り悲しみと後悔に苛まれていた。

しばらく途方に暮れていると、

「アリシアお嬢様・・・落ち着かれましたか?」

「・・・ムスターさん」

老執事のムスターが心配そうな顔をしてアリシアに声を掛ける。

「アリシアお嬢様が御自身を責める必要はございませんよ」

ムスターがはっきりと言葉にする。

「っ!?・・・ですが、私《わたくし》と関わったからグレイさんが・・・。それに拉致だって、報復に備えていれば未然に防げていたはずですわっ!!」

アリシアがムスターの言葉に立ち上がりながら反論する。

「いいですかアリシアお嬢様」

ムスターは感情的になっているアリシアの目を冷静に見る。

「確かに報復に備えていれば今回の件は未然に防げていたかもしれません。ですが、一度失敗すればそれで終わりというわけでは無いでしょう。必ず二度目、三度目があったはずです。本当にその全てを未然に防げたとお思いですか?」

「うっ・・・ですが・・・」

アリシアはムスターの正論に何も言えない。

(アリシアお嬢様も分かってはいらしたはずだ。結局のところ元凶を何とかするしかないということを・・・)

ムスターは、今アリシアに必要な言葉は何かを考え、口にする。

「たらればの話をしてもどうしようもありませんのでこれだけは言わせていただきます。ズー様の身に何が起こったとしても、アリシア様は『私《わたくし》と関わったから』などとは言ってはいけませんし思ってもいけませんよ。それは、アリシアお嬢様を我が身を顧みず命を懸けてお救いになられたズー様に対しての冒涜に他なりません」

「!?・・・ムスターさんの仰る通りですわね。私《わたくし》の命はグレイさんに救われました。精一杯生きなければグレイさんに申し訳ございませんわ」

アリシアはムスターの言葉で先ほどまでの後ろ向きな態度を改めるかのように目に強い光を灯す。

「・・・執事の分際で出過ぎた真似を致しました」

アリシアはもう大丈夫だと理解したムスターが頭を下げ謝罪する。

「・・・いいえ。私《わたくし》が不甲斐なかっただけですわ。こちらこそすみませんでした」

(起こってしまったことは仕方がありません。場所が場所だけにグレイさんをお助けに行くことは叶いませんので悔しくて仕方がありませんがわざわざ『転送』させたということは殺したという痕跡を残さないために違いありません。ということはグレイさんを生きた状態で『転送』させた可能性が高いはずですわ。何故かは分かりませんがグレイさんならどんな苦境でも何とかして魔法学園に・・・いえ
私《わたくし》の所に戻ってきてくださると期待しても良い気がします。私《わたくし》はグレイさんが戻られたときのために出来ることを致しましょう)

アリシアはぼろぼろになってまで自分を助けてくれた英雄のようなグレイを思い出す。

そして、颯爽と歩き出した。

その様子をムスターは安心したようにただただ見守っていた。





「ムスター。すまなかったな」

アリシアがムスターの視界から消えてからしばらくした後、声が掛けられる。

ムスターは振り返ると、

「とんでもないことでございます。旦那様」

声の主・・・バルム家当主ゾルムに向かって頭を下げる。

「親の私が言うのもなんだがあの娘は本当にまっすぐに育ってくれた。だが、責任感が強すぎるきらいがあるから、こういう時は少々不安になる。一体誰に似たのだか・・・」

ゾルムがため息をつきながら呟く。

「ふふふふ、若い頃の旦那様にそっくりでは無いですか」

ムスターが笑いながらゾルムの呟きに答える。

「・・・そうだったか?」

ゾルムが聞き返す。

「ええ、それはもう。奥様を巡っての時なんて・・・」

「分かった分かった。もうその話はやめてくれ。全く・・・ムスターにはかなわんな」

ゾルムが慌ててムスターの言葉を止める。

「ふぅ。何にせよ、これでアリシアの事はひとまず大丈夫だろう。・・・あとはナガリアと決着をつけるだけだな。ムスター」

「はい」

「国王様に会いに行く。準備をしてくれ」

「畏まりました」

ムスターはゾルムの命令を快諾すると、一度頭を下げた後にすぐ準備に向かう。

「調子に乗ったナガリアの奴に三大貴族に喧嘩を売ったらどうなるか。思い知らせてやるぞ」

ゾルムは踵を返し、ナガリアとの戦いのために歩き出した。
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