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第39話

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「これは・・・もしかして日記にあった激レアアイテムか」

グレイは、何の装飾も無い銀色の腕輪を日記帳からゆっくりと取り出す。

「誰かがここにやって来てもこれだけは取られまいと苦心したんだろうな」

グレイは今一度骸骨となった冒険者を見る。

最初は気が付かなかったが所々で何かを盗ったような形跡が見られた。

「きっと俺を拉致した連中が持って行ったんだろうな。日記帳には気が付いたかも知れないが最初の方を見て金目の物じゃないと持っていかなかったんだろう」

グレイはそのように推測した。

「あなたの心意気に敬意を表します」

冒険者魂とでもいうのだろうか最も守りたかった財産は今の今まで守り通したのだ。

グレイはそんな冒険者の心意気が感じられ、生き様に感動した。

「あなたは俺がこれを持っていくことにご不満かも知れませんが、使わせて頂きます」

グレイは冒険者の亡骸に頭を下げた。

「今はここを出るために使える物は何でも使わないといけませんので」

グレイはそう断りを入れると、右手に持っていた腕輪を左手首に装着した。

「・・・なんだこれ、勝手に使い方が頭に流れ込んでくる。しかも俺の腕のサイズに合わせて変形までするなんて」

グレイは頭の中に流れ込む腕輪の使い方を直ぐに理解した。

言葉として伝わるという訳では無く、自然と使い方を理解したと言った何とも不思議な感じであった。

「私がここから出られるという保証はありませんが、無事に出られたならあなたを弔わせて頂きますね」

グレイはそう断った後、冒険者の亡骸に左手で触れる。

「【格納】」

グレイが呟くと冒険者の亡骸は消えるようにいなくなった。

腕輪の力で亡骸を亜空間に格納したのである。

「これは・・・凄すぎるな」

グレイは使い方を理解してはいたものの、実際に体験してみるとでは大違いであった。

とんでもない能力のアイテムである。

「・・・このことは俺の能力と同じくなるべく内緒にしよう。そうしないととんでもないことになりそうだ」

グレイが考えつくだけでもこの腕輪の能力が規格外過ぎることがよく分かった。

高位の魔法使いであれば魔法を使って同じようなことはできるらしいが、魔力を使うのとその容量も魔法使いによってさまざまであるため、尚更だ。

「なんせ魔力量の少ない俺でも使えるんだもんな。恐ろしいアイテムだ」

今、亡骸を【格納】したときに感じたイメージではほとんど魔力を消費していなかった。

「・・・まぁ、こんなすごいアイテムを入手してもここから出られなかったら意味ないんだけどな」

グレイはそう呟くと、日記も【格納】し、この部屋を出た。

「これからどう動くかを考えないといけないが、まずは空腹を満たそう」

グレイがそう呟くと、中央の泉に向かって歩いて行く。

泉の前に四つん這いになり、覗き込む。

「この泉を飲めば空腹と喉の渇きも潤い、さらには回復までできるみたいだからな」

グレイは日記の内容を思い出しながら呟く。

少しだけ躊躇いながら、泉に顔を近づけていく。

(あの日記の内容が嘘だったら、終わるな)

ふとそんなことを考える。

(・・・大丈夫か。あの冒険者の言葉を信じよう)

グレイは意を決すると顔を泉に入れ、飲み始めた。

(!?・・・なんだこれ、美味すぎるぞ)

最初はおっかなびっくりであったが、一口飲むやそんな気持ちは綺麗に吹き飛びがぶがぶと泉の水を飲んでいく。

「ぷはぁ!最高だ」

グレイは満足しながら口を袖で拭った。

「・・・確かに空腹も喉の渇きも満たされているな。しかも、先ほどまでの疲労感もすっかり取れている。この腕輪と言い、この泉といい、とんでもない物ばかりだな」

グレイが唖然とした後、あることに気が付く。

「あの冒険者はこの泉の水を飲めば少なくとも寿命が来るまでは生きながらえることができたのに餓死することを選んだんだな・・・」

日記を読んだ感じからその事に思い至る。

「誇り高い生き様だ。誰にでも真似できることじゃない」

グレイは、再び冒険者に敬意を示した。

「・・・さて、これからどう動くかな」

空腹も喉の渇きも満たされたグレイはこれからのことを考え始める。

「日記の内容からすると、ここは地下100階で上に行くか下に行くか、それとも俺の寿命が終えるまでここで過ごすかの3つの選択肢から選ぶしかない」

グレイは現状を再確認するために、事実を呟いていく。

「最も無難なのはここで余生を送ることだよな。生き詰りそうではあるが少なくとも死ぬことはない。もしかしたら、この迷宮を攻略しにきた誰かに助けて貰えるかもしれない」

「そして、最も厳しい選択はここから100階分昇っていくことだ。いくつもの迷宮を制覇した5人組のベテラン冒険者でさえようやくここまで来れたくらいだ。俺なんかが1人で無事出られる訳がない」

「更に、下に行くのも悪手だ。次の階で終わりのようだがあの冒険者が今まで以上に難関といっている上にクリアできる者はいるはずが無いと言っているくらいだものな」

3つの選択肢のどれを選ぶべきなのか。

グレイは大いに悩み、結論が出ないままひとまず今日・・・といっても日付が分からないが・・・のところは寝ることにした。



「・・・やっぱり、夢なわけないよな」

グレイが相変わらず薄暗い迷宮のセーフティエリアで目を覚ますと仰向けに横になったまま呟いた。

もしかしたら拉致されたことも含めて全部悪い夢だったらと思ったのだが・・・世の中そんなに甘く無いようだ。

「よっと」

グレイはゆっくりと体を起こす。

「固い地面で寝るもんじゃないな」

すっかり固まった体を柔軟体操してほぐしながら呟く。

「時間は分からないが眠気がすっかり取れたってことは丸一日くらい寝ていたかもしれないな」

グレイは拉致されるために気絶させられた後、棺桶内で目を覚ましてから迷宮に転送されるまでの間ずっと眠らない様にし気を張り続けていた。

そのため、ようやく一息付けたため、その分も込みで爆睡していたのだ。

「・・・頭がすっきりしたな」

グレイはそう呟くと、まずは泉の水を飲む。

「ぷはぁ。相変わらず美味い。この水を料理に使ったらさぞや絶品になるだろうな」

グレイはもはや趣味の領域にある料理に転用できないかと真っ先に考えた。

「無事に戻れたら試してみよう・・・いずれにせよこれから魔法学園に戻るまでに何日かかるか分からないし、この泉の水を確保しておこう」

グレイは左手を泉の中に入れ、

「【格納】」

腕輪の力で泉の水をどんどん亜空間に格納していく。

泉がどこまでずっと湧き出るかは分からないが今のところ減る気配がない。

腕輪を行使しているグレイには既に大量の水が格納されていることを理解してた。

「腕輪もそうだが落ち着いてみるとこの泉も凄いな。病気や怪我にどれほど効果があるかは不明だが空腹が満たされるというだけでもとんでもない代物だな・・・ってまだ格納できるのか」

グレイは泉の特性に改めて驚く。

ちなみに腕輪の中の亜空間はそれぞれで別空間となっているようで格納したもの同士が触れ合うことは無いため先に入れた亡骸や日記が濡れるようなことはない。

その辺りのことも腕輪を装着した瞬間に理解していた。





「流石にもう良いか」

しばらく格納し続けていたグレイであったが、腕輪にも限界がこなそうなのと泉の水も枯渇しそうにないので、グレイは格納をやめ、泉から手を抜く。

「・・・そういえば、今更気づいたが【展開】するときに一気に出てきたりしないよな」

腕輪が教えてくれる能力では小出しに【展開】することも可能であったが実際にやってみることにする。

グレイは両手の平で水を受けられる形にし、必要な量をイメージした後に発動となる言葉を唱える。

「【展開】」

すると、グレイの想像通りの量が手の平に出現する。

グレイは素早く水を飲み干し、

「良かった。これで格納した大量の泉の水を無駄にすることが無くなった」

そして、泉から少し離れるグレイ。

「【格納】」

泉に手を向け遠くから水を格納しようとする。

「・・・やっぱり、触れてないと【格納】できないようだな」

グレイはこの後の選択をどれにしたとしても生き残る可能性を高めるために今何ができるかを一つずつ把握していく。

「後は・・・【展開】」

自分よりも1mほど離れた場所に水を出す。

(【展開】)

今度は心の中で呟きながらさらに2mほど離れたところに水を出す。

そして、3m、4m、5mとどんどん距離を伸ばしていく。

「声に出さなくても腕輪の能力は問題なく使えるな。ただ、口に出した方が使いやすい。あとは、【展開】は体に触れてなくてもできるみたいだ。現状では距離は目視できる範囲といったところかな」

グレイは検証の結果を意識しながら、泉に近づき、多少減った泉の水を格納する。

距離に関しての理解は腕輪が教えてくれた内容としては使用者が把握できる距離ということだったため厳密には目視の範囲では無いのだろうが今のグレイでは目視の範囲なためそう認識をしておく。

「・・・さて、後やることは・・・」

あらかた腕輪の検証が済んだのでグレイは、自分が転送された部屋に向かって歩いて行く。

少し開いたままの鉄扉をくぐり中に入ると棺桶とその下に魔法陣がある。

グレイは棺桶に近づくと、周りを調べる。

ここから出た時は分からなかったが、棺桶には魔法封じを意味すると思われる魔法陣が書かれていた。

グレイは棺桶に手をふれ、

「『明かりよ』」

魔法を唱えるが何も起こらない。

続いて棺桶から手を離し、

「『明かりよ』」

と呟くと辺りを白い光が照らし出す。

「・・・予想通り、この棺桶に触れている者の魔法を封じるみたいだな」

グレイは魔法陣の効果を確認すると再度棺桶に手をふれ、

「【展開】」

見える範囲の一番遠いところをイメージして腕輪の力を使う。

「これは凄いな。魔法封じを施されていても腕輪の力は使えるのか・・・ますます俺が持っていることを知られてはいけないアイテムだな」

流石に魔法封じが施されても使えるということは腕輪を装着した時にも教えられなかったからやっておいて正解であった。

グレイはふと思いつき、さらに試す。

魔法封じの魔法陣に手をふれ、

「【格納】・・・・・・嘘だろ。できるのかよ」

完全にダメ元であったが、なんと魔法陣だけを【格納】出来てしまった。

「・・・参ったな。この腕輪があれば魔法陣を書くための時間的ロスが解消されるじゃないか。下手をすると戦争が起こるぞ」

何でも試してみるものでは無いとグレイは少し後悔した。

魔法陣が格納できるとなるとなると利用価値が何段も跳ね上がる。

紙に魔法陣を書いてその部分を持ち運んで使うことはできるが、大きいサイズの魔法陣でないと行使できない効果もある。

それをこの腕輪は難なくクリアしてしまったのだ。

「・・・もし仮に無事に生還しても気の休まる日は来なくなるかもな」

グレイは戻った後のことを想像し、途方に暮れた。
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