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第34話

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「魔法学園なんて言っても所詮こんなものか・・・」

「ガキ1人連れて来るなんて楽勝でしたねアニキ」

「そうだな・・・」

グレイはそんな声を聞きながら目を覚ました。

(ここは・・・俺は一体・・・)

状況が分からないため薄目で周りを確認するグレイ。

だが、視界に映るのは闇ばかりで何も見えない。

驚きながらも薄目ではなくはっきりと目をあけるが視界全部が暗闇に支配されていた。

(・・・どういうことだ?ん??)

グレイはこの時になって地面が揺れていることに気が付いた。

(どうやら、どこかに運ばれているようだな)

状況を理解したグレイは手を伸ばしてみると何かにぶつかる感触が分かった。

(箱の中に入れられているみたいだ)

段々と頭が冴えてくるとようやく自分に起こったことが理解できてきた。

(・・・そうだ。俺はアリシアさんと別れて寮に向かっている途中で頭を殴られたんだった。それで拉致されているということか・・・怪我は・・・大したこと無さそうだな)

グレイは殴られた部位を触り、怪我の状況を確認する。

(先週はアリシアさんが拉致されて今週は俺か・・・)

グレイはふとそんなことを考えて苦笑する。

(こんなことでは嫌だが、似た者同士という訳か)

暗闇によって不安にのまれないようにグレイは思考を続ける。

(気が付くときに聞こえた声からすると俺を拉致した人間は少なくとも二人。そして内容からすると今は魔法学園の外に連れ出されているようだ。後は、人違いでは無く俺を狙ったのは間違いないみたいだ)

グレイはもう一度手を伸ばし、触れる何かを少しずつ力を入れて押してみる。

(駄目だ。鍵が掛かっている・・・ということは俺が途中で気づくことも考えた上での行動だな・・・。となると、不味いかも知れないな・・・)

グレイは最悪の未来を予想する。

(・・・拉致してきた連中は俺をここから出さないで目的を達成できるということだ。となれば・・・殺す気なんだろうな)

グレイはそう結論づけると、小さく魔法を唱える。

「『明かりよ』」

だが、何も起こらない・・・。

(・・・確定だな。魔法封じの結界までしていやがる)

もはや状況が動くまで何もしようがない。

(参ったな・・・せっかく人生が彩ったというのにすぐに転落か・・・)

人が忌避するような能力を持つ自分なんかが良い人生になるのはやはり許されないのだろう。

(それならそれでいい。だが、簡単には終わらない。最期まで足掻いてやるからな)

グレイはそう決意をし、チャンスを待つのであった。



しばらくしてどなたかとお話を終えた学園長先生が私《わたくし》の方を見ていらっしゃいました。

「バルム様」

「はい」

「ひとまず、授業をしていない先生たち総勢でズー君の捜索を支持致しました。しばらくすれば情報が集まるかと存じます」

さすがはこの魔法学園を一代でお築きになられた学園長先生ですわ。

素晴らしい対応力です。

「ありがとうございます。ところで学園長先生、先ほどの魔法は遠く離れた他の人物と『念話』をされる魔法でしたわよね」

私《わたくし》は使えませんが、伝え聞いた『遠話』の魔法について確認致します。

この魔法は、高レベルな魔法使いの方しか使えないというもので、一流と認められるに足る魔法の中の一つですわ。

ある期待をもって話しましたが、そちらを直ぐに理解された学園長先生は申し訳なさそうに首を振り、

「申し訳ございません。バルム様。この魔法は使う前にあらかじめ話相手との儀式のようなものが必要なのです。そのため、ズー君に向かって使用することはできません。このような事態になるのであれば、彼と『遠話』が出来るようにしておけば良かったと反省するばかりです」

「そうでしたか。私《わたくし》こそ、中途半端な知識のままお聞きして申し訳ございませんでした」

私《わたくし》は、別の内容について確認を取る。

「学園長先生、魔法学園の外に連れ出されていた場合、即座にキリッジ様にご連絡頂けませんか?」

「!?・・・もちろんです」

学園長先生が少し躊躇った後に了承されました。

無理もありませんわ。魔法学園内に入ってそこの生徒を拉致したということが外に漏れたら魔法学園の名に傷がついてしまいますもの。

本当は今すぐにでも学園長先生からキリッジ騎士隊長に連絡して頂いてグレイさんの捜索にあたって欲しいのですが・・・流石に難しいでしょうから仕方ありませんわ。

学園長先生は一度ソファに深くお座りになりました。

そういえば、私《わたくし》達今までずっと立ったまま話しておりましたわね。

今頃そのようなことに気付くなんて余程動揺してましたわ・・・

「今は先生達からの報告を待つしかありません。非常事態ですので授業のことはお気になさらずバルム様もお座りください」

学園長先生がそのように仰り、私《わたくし》にもソファに座ることをすすめてくださいました。

良く考えて見ましたら、今朝はずっと走ってましたわ。

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますわ」

私《わたくし》は体力回復のためにも学園長先生のお言葉に従い、ソファに座らせて頂きました。




「旦那様」

「何だ?」

執事の声掛けに反応するナガリア。

「先ほど無事例の者を連れ出したという報告がありました」

執事が恭しく報告する。

「順調ということか」

「はい」

「そうか。後は仕上げだな」

ナガリアが久しぶりに機嫌よく呟く。

「はい。仰る通りです。本当にどのようにするかは聞かれなくても大丈夫ですか?」

執事が最終確認とばかりに再度尋ねる。

「ああ。問題ない。儂はその者がどのように死ぬかを知る必要は無い」

ナガリアが執事にそう言う。

「畏まりました」

執事が返事をする。

(・・・恐ろしい方だ。たかが平民を殺すためだけにここまで万全を期すとは)

今、ナガリア達がいるのは、普段自分が住んでいる屋敷では無かった。

グレイ・ズーという平民を殺せと命じた翌日には休暇という名目で自分の別荘にやってきていた。

これは、万が一自分に疑いがかかることを考え、完璧なアリバイを作るためだ。

指示自体もナガリアからのものであることを分からないように手を尽くしていた上、更にどのように殺す計画かすら把握しないようにしているという徹底ぶりである。

(・・・三流の人間であれば殺す相手を一目見るなりなんなりするが、この方は全く関与せず目的のみを達成しようとする)

執事はナガリアという人物に仕えてから大分経つがこういった側面を見る度に肝が冷えた。

「念のため、あと数日はここに残り、来週にはここから出る。そのつもりで準備を進めるように」

「畏まりました」

執事はそう返事をするとナガリアのいる部屋を後にした。



執事が廊下を歩いていると声を掛けられた。

「なぁ」

執事は直ぐに声の主に向き、

「これは、ラング様。どうされましたか?」

そこには、ナガリアの息子であるラングが居た。

(いつ見ても旦那様に似ず、美しい方だ)

執事は内心で感心しながら返事をする。

ラングはナガリア家の中でも少ないまともな人間であった。

その容姿は男女の垣根を超え、美しいと言わせるほど整った顔立ちをしていた。

数年前に魔法学園を卒業し、今ではいつかナガリア家の跡取りになるために勉強をしている。

表向き休暇で来ているので、魔法学園に通う次男以外の家族全員でこの別荘に来ていた。

「父上は今度は何を企んでいるんだい?」

「企むだなんてとんでもない。兼ねてより休暇を取りたかったものの中々取れず、ようやく取れたというだけにございます。皆様と来られて旦那様も大変喜んでいらっしゃいましたでしょう?」

執事が一切の動揺を見せずに答える。

ラングは執事の目をじっと見てから、

「ふーん。まぁ、そう言うことにしておくよ。仕事中に呼び止めて悪かったね。行って良いよ」

「とんでもないことでございます。では、失礼致します」

執事は一度頭をさげるとその場を去っていく。

(・・・あの方に見られると何もかも見透かされている気になる。旦那様とは別の意味で恐ろしい方だ)

執事はいつの間にかかいていた汗をハンカチで拭ったのだった。

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