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第32話
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「それでは、グレイさん。また明日」
「うん。また明日」
あの後、他愛のない話を少しした後、グレイが貴族女子寮までアリシアを送り、挨拶を交わす。
アリシアは貴族女子寮に向かう途中で振り返る。
「?」
アリシアが見えなくなるまで見送ろうとしていたグレイはアリシアの行動に疑問符を浮かべる。
何か言い忘れたことでもあるのだろうか?
「グレイさん。先ほどお伝えし忘れていたのですが、『決闘』に勝ったご褒美は何が良いですか?」
嬉しそうにアリシアがグレイに尋ねる。
「え?いや、別にいいよ。アリシアさんの為というよりは自分のためにやったんだから」
「ふふふ。そうおっしゃると思いましたわ。ですが、結局は私《わたくし》のためですから断るのは無しです!」
アリシアが両手の人差し指でバッテンを作りながら答える。
(・・・これは断れないやつだな)
グレイはアリシアの様子からそう判断し、
「ふぅ・・・分かったよ。考えておくね」
了承の意を示した。
「はい!では、今度こそ失礼致しますわね」
アリシアはグレイが肯定をしたことが嬉しいのか再度挨拶をする。
「うん。また明日」
こうしてグレイは、アリシアが貴族女子寮に入っていくまで見送るのであった。
グレイは自分の寮の部屋に向かいながらアリシアとの会話を思い出す。
「『決闘に勝ったご褒美は何が良いですか?」か」
(ご褒美って普通何を要求するものなんだ?・・・駄目だ、『付き人』の身の上で出来る要求の範疇が分からない・・・)
グレイは正直、困っていた。
(『決闘』の要求も困ったが、最近困ってばかりだな)
今まで過ごして来た日常がガラッと変わった。
以前であれば、変わり映えのしない毎日を過ごすだけで良かったからだ。
(・・・アリシアさんに会ってからだな。俺の人生が変わったのは)
グレイは最近起こったことを振り返る。
(でも、あのときアリシアさんに会えて良かった。そうでなかったら彼女はもうこの世にはいなかったのだから)
グレイはあのときアリシアに会えていなかったらと思うとぞっとする。
知らない関係であれば、仮にアリシアの死亡を聞いても「そうだったんだ。若いのに可哀想に」くらいしか思わなかったかもしれない。
だが、知り会った今からしたらそのような感情にはとてもならないことが実感としてある。
(たらればの話しをしても仕方ないが、本当に良かった。しかも、アリシアさんに出会って俺の人生が彩ったのだから言うことない)
グレイは今まででは考えられない最近の事柄が別に嫌ではなかった。
急すぎて戸惑うことは多々あるのは間違いないが。
「まさか、忌み嫌っていたこの能力に感謝する時が来るなんてな」
グレイが昔では考えられないことを呟いた。
まさにその時、
ドカッ!
後頭部に強い衝撃を感じ、グレイの意識が闇の中に沈んだのであった。
「うーん。本日も良い朝ですわね!」
アリシアが翌朝、自分の部屋で目を覚ます。
自宅から貴族女子寮に移ってから数日が経っていたが、自宅から通っていた期間が長かったせいかいつもと同じように起きてしまう。
アリシアは時計を見て、
「時間的にはもう少し休めますが、目が覚めてしまいましたわ」
そう呟くと朝食の準備を始めた。
普段、料理を作る機会などないはずにも拘らず、アリシアの動きは迷いが無い。
(ふふふ。いつか一人暮らしができることを夢見てこっそり料理長から料理を教わっていて良かったですわ)
アリシアは魔法学園入学が決まったときにてっきり寮に入ると思っていたため一人暮らしができるように家事全般について料理長やメイドから教えを受けていたのだ。
(・・・まさか、自宅から通うことになるとは思っても見ませんでしたが)
父親のゾルムに寮では無く自宅から通うようにと言われたときは唖然としたものだ。
何せ、何千人も通っている魔法学園の中で自宅から通う人間はほんの一握りだったからだ。
ひとまず、ゾルムの指示に従ったアリシアだったが、せっかく習い始めたことといつかこんな日もあるかも知れないと思いこっそりと習っていたのだ。
(きっかけは物騒でしたが、こうして一人暮らしができるのは良かったですわ)
まだ始まって数日しか経っていないがアリシアは充実していた。
料理をしながら、アリシアはふと思いつく。
「そうですわ。エルリックさんが言うにはグレイさんの料理が絶品だと言っておりましたし今度教えていただきましょう!・・・あ、その前にまずは食べさせて頂くのが先ですわね。どちらにしても楽しみですわ。今日あたり相談してみましょう」
昼食はグレイも交えて、アリシア、エルリック、セリーと貴族側の食堂で食べるようになっていた。
グレイは平民だがアリシアの付き人ということで準貴族扱いを受けられたためだ。
当然食事の場では、料理の話題になることもあり、その時エルリックが「ここの料理も美味しいけど、グレイの料理は最高だ」と語っていたのだ。
その時は思わずアリシアもセリーもその話題に食いついた。
流石に自分の家の食事よりは味が劣るとは言え、貴族向け食堂の料理は美味しいのだ。
それよりも美味しいグレイの手料理と聞いては話をもっと聞きたくなるのも当然だろう。
「あのときのグレイさん、とっても照れてましたわね」
アリシアはその時のグレイの様子を思い出し笑みを浮かべる。
「本当に、グレイさんと出会えて良かったですわ」
「・・・おかしいですわね」
その後、授業の予習復習などをして過ごしてから家を出たアリシアが貴族女子寮の前で呟く。
「・・・グレイの事?」
隣りにいたセリーが尋ねる。
「はい。いつも私《わたくし》よりも先に来て待っていてくださるにも拘らず、まだ来ていらっしゃらないとは」
「・・・まだ、『付き人』になって数日でしょ?そのように教育を受けて来た人間ならまだしもいきなりだからこういう時もあるんじゃない?」
セリーがアリシアに諭すように言う。
「そうかもしれないですわね。もう少し待っていらっしゃらなかったら学園に向かいましょう。セリーは先に行きますか?」
「・・・私も待ってる」
アリシアとセリーが待っていたが結局グレイはやって来ず、2人はしぶしぶと魔法学園に向かった。
(・・・なんでしょう。とても嫌な予感がしますわ)
アリシアは嫌な予感がして堪らなかった。
「バルムさん!!」
アリシアとセリーが『S組』に到着すると、既に登校していたエルリックが駆け寄ってくる。
「バスターさん・・・もしかしてグレイさんはまだいらしてないのですか?」
アリシアはエルリックの様子と教室内を見渡し、グレイが居ないことを悟る。
「そうなんです。いつものようにグレイの部屋に迎えに行っても反応がなくアリシアさんをお迎えに行ったのかと思って一人で来ていたのですが・・・」
エルリックが事情を説明する。
「・・・私《わたくし》のところにも来ていらっしゃらないです。セリーと待ち合わせの場所で待っていたのですがグレイさんが現れず仕方なく参ったのですが・・・」
アリシアも事情を話す。
「・・・風邪引いて寝込んでいるんじゃない?」
アリシアとエルリックの話を聞いていたセリーが呟く。
「・・・僕の知る限りグレイが病気になったことなんてないけど、、、」
エルリックがセリーの言った通りだったらいいなと思いながら答える。
「・・・セリー」
アリシアがセリーに声を掛ける。
「なに?」
「申し訳ないですが、ユイ先生に言伝をお願い致します」
「わかった。何て伝えればいい」
セリーがアリシアの様子を見て二つ返事で了承する。
「ありがとう。ではこうお伝えください『グレイさんが行方不明の可能性があります。バスターさんとアリシアは寮にいないか確認して参ります。最悪の場合を想定していてください』と」
(ユイ先生もグレイさんの『魔功章』のことは聞いているはず。そして授かるに至った理由もご存知でしょうからこの言葉だけで察してくださるはず)
もしグレイが病気でなかった場合。
『付き人』になったことをねたんでの行動の可能性も否定できないがまだ『付き人』になってから数日しか経っていない。
いくらなんでも行動が早すぎる。
となれば、グレイがアリシアを助けたことに関わることに端を発すると考えた方が自然だろう。
アリシアはそこまで考え、セリーに伝言を頼んだ。
「・・・分かった」
セリーがアリシアの伝言から大事の可能性を理解し頷く。
それを確認したアリシアがエルリックの方に向き、
「バスターさん。申し訳ございませんが・・・」
「グレイの部屋だね。早く行こう」
アリシアの言葉をみなまで聞かず、状況を理解したエルリックが頷くや否や教室を飛び出した。
話しの早いエルリックにアリシアはほっとしながら自らも教室を飛び出しエルリックに続いた。
「バルムさん、このスピードで平気?」
エルリックが中々のスピードで走りながらアリシアに尋ねる。
「大丈夫ですわ!」
アリシアもエルリックの後ろに遅れなくついていきながら答える。
2人とも息も上がっていない。
「よかった!それなら、まだスピード上げても平気?」
エルリックはグレイの事が心配で堪らないのか、再度アリシアに問う。
「もちろんですわ!早く、参りましょう!!」
グレイのことが心配なのはアリシアも同じ。
エルリックの提案は望むところだった。
「よしっ!!」
アリシアの言葉を聞くやいなやエルリックは更にスピードを上げ、それにアリシアも追従したのであった。
「うん。また明日」
あの後、他愛のない話を少しした後、グレイが貴族女子寮までアリシアを送り、挨拶を交わす。
アリシアは貴族女子寮に向かう途中で振り返る。
「?」
アリシアが見えなくなるまで見送ろうとしていたグレイはアリシアの行動に疑問符を浮かべる。
何か言い忘れたことでもあるのだろうか?
「グレイさん。先ほどお伝えし忘れていたのですが、『決闘』に勝ったご褒美は何が良いですか?」
嬉しそうにアリシアがグレイに尋ねる。
「え?いや、別にいいよ。アリシアさんの為というよりは自分のためにやったんだから」
「ふふふ。そうおっしゃると思いましたわ。ですが、結局は私《わたくし》のためですから断るのは無しです!」
アリシアが両手の人差し指でバッテンを作りながら答える。
(・・・これは断れないやつだな)
グレイはアリシアの様子からそう判断し、
「ふぅ・・・分かったよ。考えておくね」
了承の意を示した。
「はい!では、今度こそ失礼致しますわね」
アリシアはグレイが肯定をしたことが嬉しいのか再度挨拶をする。
「うん。また明日」
こうしてグレイは、アリシアが貴族女子寮に入っていくまで見送るのであった。
グレイは自分の寮の部屋に向かいながらアリシアとの会話を思い出す。
「『決闘に勝ったご褒美は何が良いですか?」か」
(ご褒美って普通何を要求するものなんだ?・・・駄目だ、『付き人』の身の上で出来る要求の範疇が分からない・・・)
グレイは正直、困っていた。
(『決闘』の要求も困ったが、最近困ってばかりだな)
今まで過ごして来た日常がガラッと変わった。
以前であれば、変わり映えのしない毎日を過ごすだけで良かったからだ。
(・・・アリシアさんに会ってからだな。俺の人生が変わったのは)
グレイは最近起こったことを振り返る。
(でも、あのときアリシアさんに会えて良かった。そうでなかったら彼女はもうこの世にはいなかったのだから)
グレイはあのときアリシアに会えていなかったらと思うとぞっとする。
知らない関係であれば、仮にアリシアの死亡を聞いても「そうだったんだ。若いのに可哀想に」くらいしか思わなかったかもしれない。
だが、知り会った今からしたらそのような感情にはとてもならないことが実感としてある。
(たらればの話しをしても仕方ないが、本当に良かった。しかも、アリシアさんに出会って俺の人生が彩ったのだから言うことない)
グレイは今まででは考えられない最近の事柄が別に嫌ではなかった。
急すぎて戸惑うことは多々あるのは間違いないが。
「まさか、忌み嫌っていたこの能力に感謝する時が来るなんてな」
グレイが昔では考えられないことを呟いた。
まさにその時、
ドカッ!
後頭部に強い衝撃を感じ、グレイの意識が闇の中に沈んだのであった。
「うーん。本日も良い朝ですわね!」
アリシアが翌朝、自分の部屋で目を覚ます。
自宅から貴族女子寮に移ってから数日が経っていたが、自宅から通っていた期間が長かったせいかいつもと同じように起きてしまう。
アリシアは時計を見て、
「時間的にはもう少し休めますが、目が覚めてしまいましたわ」
そう呟くと朝食の準備を始めた。
普段、料理を作る機会などないはずにも拘らず、アリシアの動きは迷いが無い。
(ふふふ。いつか一人暮らしができることを夢見てこっそり料理長から料理を教わっていて良かったですわ)
アリシアは魔法学園入学が決まったときにてっきり寮に入ると思っていたため一人暮らしができるように家事全般について料理長やメイドから教えを受けていたのだ。
(・・・まさか、自宅から通うことになるとは思っても見ませんでしたが)
父親のゾルムに寮では無く自宅から通うようにと言われたときは唖然としたものだ。
何せ、何千人も通っている魔法学園の中で自宅から通う人間はほんの一握りだったからだ。
ひとまず、ゾルムの指示に従ったアリシアだったが、せっかく習い始めたことといつかこんな日もあるかも知れないと思いこっそりと習っていたのだ。
(きっかけは物騒でしたが、こうして一人暮らしができるのは良かったですわ)
まだ始まって数日しか経っていないがアリシアは充実していた。
料理をしながら、アリシアはふと思いつく。
「そうですわ。エルリックさんが言うにはグレイさんの料理が絶品だと言っておりましたし今度教えていただきましょう!・・・あ、その前にまずは食べさせて頂くのが先ですわね。どちらにしても楽しみですわ。今日あたり相談してみましょう」
昼食はグレイも交えて、アリシア、エルリック、セリーと貴族側の食堂で食べるようになっていた。
グレイは平民だがアリシアの付き人ということで準貴族扱いを受けられたためだ。
当然食事の場では、料理の話題になることもあり、その時エルリックが「ここの料理も美味しいけど、グレイの料理は最高だ」と語っていたのだ。
その時は思わずアリシアもセリーもその話題に食いついた。
流石に自分の家の食事よりは味が劣るとは言え、貴族向け食堂の料理は美味しいのだ。
それよりも美味しいグレイの手料理と聞いては話をもっと聞きたくなるのも当然だろう。
「あのときのグレイさん、とっても照れてましたわね」
アリシアはその時のグレイの様子を思い出し笑みを浮かべる。
「本当に、グレイさんと出会えて良かったですわ」
「・・・おかしいですわね」
その後、授業の予習復習などをして過ごしてから家を出たアリシアが貴族女子寮の前で呟く。
「・・・グレイの事?」
隣りにいたセリーが尋ねる。
「はい。いつも私《わたくし》よりも先に来て待っていてくださるにも拘らず、まだ来ていらっしゃらないとは」
「・・・まだ、『付き人』になって数日でしょ?そのように教育を受けて来た人間ならまだしもいきなりだからこういう時もあるんじゃない?」
セリーがアリシアに諭すように言う。
「そうかもしれないですわね。もう少し待っていらっしゃらなかったら学園に向かいましょう。セリーは先に行きますか?」
「・・・私も待ってる」
アリシアとセリーが待っていたが結局グレイはやって来ず、2人はしぶしぶと魔法学園に向かった。
(・・・なんでしょう。とても嫌な予感がしますわ)
アリシアは嫌な予感がして堪らなかった。
「バルムさん!!」
アリシアとセリーが『S組』に到着すると、既に登校していたエルリックが駆け寄ってくる。
「バスターさん・・・もしかしてグレイさんはまだいらしてないのですか?」
アリシアはエルリックの様子と教室内を見渡し、グレイが居ないことを悟る。
「そうなんです。いつものようにグレイの部屋に迎えに行っても反応がなくアリシアさんをお迎えに行ったのかと思って一人で来ていたのですが・・・」
エルリックが事情を説明する。
「・・・私《わたくし》のところにも来ていらっしゃらないです。セリーと待ち合わせの場所で待っていたのですがグレイさんが現れず仕方なく参ったのですが・・・」
アリシアも事情を話す。
「・・・風邪引いて寝込んでいるんじゃない?」
アリシアとエルリックの話を聞いていたセリーが呟く。
「・・・僕の知る限りグレイが病気になったことなんてないけど、、、」
エルリックがセリーの言った通りだったらいいなと思いながら答える。
「・・・セリー」
アリシアがセリーに声を掛ける。
「なに?」
「申し訳ないですが、ユイ先生に言伝をお願い致します」
「わかった。何て伝えればいい」
セリーがアリシアの様子を見て二つ返事で了承する。
「ありがとう。ではこうお伝えください『グレイさんが行方不明の可能性があります。バスターさんとアリシアは寮にいないか確認して参ります。最悪の場合を想定していてください』と」
(ユイ先生もグレイさんの『魔功章』のことは聞いているはず。そして授かるに至った理由もご存知でしょうからこの言葉だけで察してくださるはず)
もしグレイが病気でなかった場合。
『付き人』になったことをねたんでの行動の可能性も否定できないがまだ『付き人』になってから数日しか経っていない。
いくらなんでも行動が早すぎる。
となれば、グレイがアリシアを助けたことに関わることに端を発すると考えた方が自然だろう。
アリシアはそこまで考え、セリーに伝言を頼んだ。
「・・・分かった」
セリーがアリシアの伝言から大事の可能性を理解し頷く。
それを確認したアリシアがエルリックの方に向き、
「バスターさん。申し訳ございませんが・・・」
「グレイの部屋だね。早く行こう」
アリシアの言葉をみなまで聞かず、状況を理解したエルリックが頷くや否や教室を飛び出した。
話しの早いエルリックにアリシアはほっとしながら自らも教室を飛び出しエルリックに続いた。
「バルムさん、このスピードで平気?」
エルリックが中々のスピードで走りながらアリシアに尋ねる。
「大丈夫ですわ!」
アリシアもエルリックの後ろに遅れなくついていきながら答える。
2人とも息も上がっていない。
「よかった!それなら、まだスピード上げても平気?」
エルリックはグレイの事が心配で堪らないのか、再度アリシアに問う。
「もちろんですわ!早く、参りましょう!!」
グレイのことが心配なのはアリシアも同じ。
エルリックの提案は望むところだった。
「よしっ!!」
アリシアの言葉を聞くやいなやエルリックは更にスピードを上げ、それにアリシアも追従したのであった。
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