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第27話

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「もしかして、アリシア様の隣で眠っているのって」

グレイが教室に入ってからずっと気になっていたものの指摘していいか分からず放置していたことを話し始めた。

グレイの言葉にアリシアとエルリックがそちらを見る。

そこには机に突っ伏して規則正しい寝息を立てている女の子がいた。

グレイには見覚えのある水色のショートカットの子である。

「そうですわね。せっかくの機会ですし。セリー?起きてますの?」

アリシアが自己紹介させようと声を掛ける。

「・・・寝てるよ」

「「!?」」

グレイもエルリックも絶対に寝ていると思っていたので意外とはっきりした声に驚く。

「そう言わないで、自己紹介をしてくださいませんか?」

アリシアが優しく声を掛けると、

「・・・仕方ない」

女の子が眠そうに起き上がり、座ったまま体をグレイとエルリックに向けた。

「グレイさん、エルリックさん、こちらセリー・アイルバーグ。私《わたくし》の友人ですわ」

アリシアが女の子の紹介をする。

「セリーで良い。よろしく」

物言いはぶっきらぼうであったが歩みよる気はあるのか淡々と挨拶をするセリー。

「エルリックです。よろしく」

まず、エルリックが挨拶をし、セリーが頷く。

そして、グレイを軽く見てくる。

「グレイです。よろしく」

釣られるような形でグレイが挨拶をすると、

「・・・もうおかしな名前で呼ばないでね。不審者さん」

セリーが釘を刺すようにそう言った。

しっかりとグレイのことを覚えていたようだ。

「・・・先日はすまなかった」

あれはアリシアに初めて手紙を渡した時である。

彼女のことを『ミル』と呼んだことで動揺し、アリシアに直接話しかけられたと言っても過言ではないが本人は嫌がっているとのことだったので素直に謝る。

「理解してくれたなら良い」

意外にもすんなりと許してくれるセリー。

「あ、ありがとう」

グレイは少しだけ拍子抜けした。

ふとアリシアを見るとグレイとセリーのやり取りもニコニコと嬉しそうに見守っている。

(まぁ、アリシアさんが納得してくれているなら良いか)

グレイはほっとした後、考える。

(それにしても、うっかり『ミル』と呼ばないようにしないとな)

グレイには自己紹介をしあった後でさえ、セリーが言う名前に『視えない』ことに驚きつつ、間違えて呼ばないように気をつけようと意識する。

今までに『視える』名前と『名乗る』名前が一致しないという経験が無かったのでそんなケースもあるのだと学ぶ。

(事情が気になる・・・。いつか仲良くなったら教えて貰おう)

グレイはそのように小さい目標を立てたのだった。



「おい」

グレイがアリシアやエルリック、セリーと団らんしているとふと後から声をかけられた。

グレイがそちらを見ると、

「っ!?」

その異常な迫力に驚く。

「ゾルゲさん。どうされました?」

アリシアがさり気無くグレイの前に立ち、声を掛けて来た人物に問いかける。

「・・・アリシア。そいつは誰なんだ?」

ゾルゲと呼ばれた人物が、アリシアに向かってそう言い放つ。

尖ったような金髪短髪の人物である。

パッと見た感じ、あまり近づきたくない雰囲気である。

その目線は明らかにアリシアの後ろにいるグレイに向けられていた。

(なんだ?・・・そうか、アリシアさんと馴れ馴れしくしているからか)

グレイがさり気無く周りを見ると、ほとんどの人物がこのやり取りを注視していた。

3大貴族であるということも含め、アリシアは容姿、仕草、成績何をとっても良い意味で目立つ人間である。

そんな人間とぽっとでの自分のような人間が楽しそうに話していたら目立って当然であろう。

グレイはとりあえず、目の前の人物の情報を『視る』ことにした。

『マードック・ゾルゲ。16歳1ヶ月。寿7074

(・・・ふむ。名前は分かったがよく分からないな)

グレイは偶に、相手の寿命ではなく別の情報が見られればいいのに思う時がある。

無い物ねだりなのは理解しているが。

「ご紹介しますわね。こちらグレイ・ズーさん。私《わたくし》の『付き人』ですわ」

アリシアがゾルゲとグレイの間を少し譲り、そう紹介する。

「な!!」

ゾルゲは明らかに動揺する。

それと併せて他の『S組』の生徒達も驚く雰囲気を出す。

(・・・逃げるわけには行かない。俺は、アリシアさんの『付き人』なんだ)

グレイは覚悟していたことであるが実際にその場面に直面した今、逃げないと決めていた。

一歩前にでる。

「はじめまして。グレイ・ズーです。本日よりアリシア様の『付き人』を務めさせて頂いております。以後、宜しくお願い致します」

グレイは先ほどのエルリックの仕草をイメージしながら頭を下げた。

「・・・気に入らねぇ」

驚きの声の後、黙って聞いていたゾルゲがドスの聞いた声を出す。

その迫力に思わず後ろに下がりそうになるのをぐっと堪えるグレイ。

(・・・何て迫力だ。こいつ)

「アリシア。どうして、こんな訳の分からない奴を『付き人』にしたんだよ?」

ゾルゲはアリシアにそう問いかける。

「・・・ゾルゲさんにバルム家の『付き人』のことをとやかく言われる筋合いはございませんが?」

アリシアが珍しく、素っ気なく返す。

(・・・アリシアさん。俺のために怒ってくれているんだな)

グレイはアリシアの態度に驚いたがその根底にある気持ちには素直に嬉しく思う。

「・・・確かにそうだな。おい。グレイと言ったか?」

ゾルゲはアリシアに話しかけるのはやめ、グレイに矛先を向ける。

「はい。そうです」

グレイは何か嫌な予感を感じながら肯定する。

「お前。俺と勝負しろ。そして、負けたら即刻『付き人』を辞めろ!」

予想通り、ゾルゲがとんでもないことを言い出した。




「お前。俺と勝負しろ。そして、負けたら即刻『付き人』を辞めろ!」

その言葉に真っ先に反応したのはアリシアであった。

「ゾルゲさん!!」

直ぐにグレイとゾルゲの間に立ち、責めるように言う。

「・・・アリシアは黙っていてくれ。俺はそいつ・・・ズーと話している」

ゾルゲの目はアリシアを一瞬見た後、グレイだけを見据えている。

(・・・まさか。初日からとはな)

グレイは覚悟を決める。

「・・・アリシアさん。良いんだ。ありがとう。ゾルゲといったな。それは『決闘』を申し込んだということか?」

敵対してくる相手にまで敬語を話す言われはない。

グレイはゾルゲに端的に確認を取る。

ゾルゲは上等だとばかりに笑みを浮かべ、

「良く知っているじゃないか。そうだ。『決闘』だ」

不敵に言い放つ。

「なっ!ゾルゲさん、取り下げてください!」

アリシアが動揺する。

「アリシア、部外者は黙っていてくれ」

決闘・・・主に貴族の名誉を守るために行われる戦いのことである。戦いを挑んだ側と挑まれた側との合意がされたときそれぞれの矜持を守るため戦う。決闘の内容は挑まれた側が決めることが出来るが、基本的には直接戦闘によって行われることが多い。

「・・・く」

ゾルゲがグレイに決闘を挑んだため、例えバルム家の『付き人』のことでさえアリシアは部外者にあたる。

そのことを理解しているアリシアは悔しい声を上げ、当事者の一人であるグレイに体を向け、

「グレイさん!受けたりしませんよね?」

懇願する。

グレイはその言葉に頷きそうになるが、ぐっと堪え、

「アリシア様、申し訳ございませんが逃げるわけには参りません。私のようなものがあなた様の『付き人』でやっていくには示さなければなりません」

「示す・・・ですか?」

アリシアがグレイの言葉に耳を貸す。

「はい。私がアリシア様の『付き人』足る人物ということを示し続ける必要があります」

グレイが覚悟を持った目でアリシアを見つめながらそう言う。

「・・・そう。ですか、、、意思は固いのですね」

グレイの表情を見たアリシアが感情では納得していないものの頭では納得しようと呟く。

「・・・はい」

グレイは肯定する。

「・・・ふぅ。分かりました。ですが、これだけは約束してください。絶対に勝つと」

アリシアは致し方ないというようにグレイに言う。

「はい。仰せのままに」

グレイは頷く。

「よろしいですわ。それでは、私《わたくし》はもう何も申しません」

アリシアがグレイとゾルゲの間からズレる。

「ありがとうございます」

グレイが礼を言う。

と、その様子を見ていたゾルゲが、

「話は纏まったようだな。ズーよ。お前は気に入らないがその潔さは気に入った。アリシアの『付き人』を辞めたら当家で小間使い位にならしてやろう」

そう言ってくる。

「・・・願い下げだよ。それで、お前は俺に負けたら何してくれるんだ?」

グレイが挑戦的にゾルゲに言う。

「そうだな。もしそんなことがあればお前の言うことを俺が叶えられる範囲で叶えてやろう。万に一つも無いがな」

ゾルゲは余裕そうに言う。

「・・・その話、聞かせて貰ったわよ」

「「「!!!」」」

唐突に響く第三者の声に誰もが驚く。

声のした方を見ると、そこには、黒い長髪を一本に結わえた女性教諭が腕を組んだ状態で不敵に笑っていた。

「その『決闘』、『S組』担任ユイ・カグラが預かったわ!!!」

クラスメイトの視線が集まる中、声高らかに宣言したのであった。
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