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第25話

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パンッ

食堂に残されたグレイ、アリシア、ウェンディの内ウェンディが両手を叩く。

「さて、では話も纏まったことだしアリシアがグレイ君に惹かれている理由を聞きましょうかしら!!」

ニコニコ顔をウェンディが身を乗り出す。

アリシアは突然立ち上がり、グレイの方に向くと、

「グレイさん!付き人をしてくださるということはこの屋敷の構造を知っておいた方がよろしいですわよね!?」

ウェンディの言葉には答えず、聞いてくる。

「あ・・・えっと・・・はい」

「でしたら、今から私《わたくし》がご案内しますわ!」

アリシアがグレイを立たせながら、ウェンディの方に向き、

「お母様。申し訳ございませんがそういうことですのでお話はまた今度ということで」

ぺこりと頭を下げると2人で食堂を後にした。

ウェンディは2人が視えなくなってから、

「・・・逃げたわね」

ぼそりと呟いた。

「ふぅ。そろそろリリィとソルが朝ご飯に起きる時間だから勘弁してあげましょう。だけど、今度じっくり聞いてあげるから覚悟しておきなさいね。」

ウェンディが姿が見えなくなったアリシアに向かった言葉を紡いだ。


ビクッ!

グレイを伴って食堂を後にしたアリシアが突然硬直する。

「アリシアさん?どうした??」

周りに人がいないため、グレイは敬語無しでアリシアに話しかける。

「いえ。なんでもありませんわ」

(これはお母様ですわね・・・)

アリシアは先ほどのやり取りの延長線上のものだと何となく理解していた。

「そう?ならいいけど。それより、良かったの?ウェンディ様の話の途中で出てきちゃって?」

グレイが心配したように聞いてくる。

「大丈夫ですわ?そろそろリリィとソルが朝ご飯に起きる時間ですし」

「リリィ様とソル様??」

グレイはアリシアから出た知らない名前に対して思わず聞き返す。

「あ。私《わたくし》の双子の妹と弟ですの」

「へぇ。アリシアさんに双子の妹弟がいるんだね」

「ええ。そう言えばグレイさんは?」

「俺?俺は、1人っ子だよ」

「そうなのですね・・・」

(確かグレイさんはご両親ももういらっしゃらないはず・・・)

アリシアはグレイが天涯孤独であることを理解し、暗くなる。

何となくアリシアが自分のことで落ち込んでくれていることを察したグレイは少しだけ嬉しく思いながら、話題を変える。

「それにしてもさっきのは驚いたなぁ」

「さっき?ですか??」

グレイのぼかした言い方にアリシアは少し不思議に思った後、

「あっ・・・そうですわね。上手く話を紡いでくださってありがとうございます」

顔を真っ赤にさせながら答える。

もちろん、ゾルムの『娘のどこに惹かれたんだね?』という問いに対してである。

「い、いや・・・アリシアさんが俺のことを思って能力を黙ってくれたんだから当然だよ」

グレイは自分が3人の前で言ったことを思い出し顔を真っ赤にしながら答える。

「そ、そうですわよね。私《わたくし》ったらあの場を取り繕うための言葉だと分かっているにも関わらず、グレイさんの言葉に恥ずかしくなってしまいましたわ」

アリシアもグレイと同じように顔を赤くする。

(ん?あの場を取り繕うための言葉??)

グレイはアリシアの言葉に違和感を覚える。

(・・・なるほど、アリシアさんには俺の言葉があの場限りの嘘だと思っているんだ)

グレイは、そう結論付けた途端思わず、前を歩くアリシアの前方に回り込み真っすぐにアリシアを見る。

「きゃっ!グレイさん突然どうなされたのですか?」

アリシアはグレイの突然の行動に驚く。

グレイはアリシアの目を見たまま、

「アリシアさん」

「は、はい・・・」

「さっき言った言葉は事実と順番は異なるものの、全部本音だからね。誤解をしているようだからそれだけは言っておくよ。・・・ちょっと慣れないことして疲れちゃったからあそこのベンチに座らせてもらうね」

グレイはそう言うや屋敷の中央にある中庭のベンチに向かって一人歩いて行った。

「・・・はへ?」

アリシアは思わぬグレイの言葉に珍しく動揺したのだった。



「グレイさん」

グレイがベンチに座って少ししてからアリシアが声を掛けて来た。

すぐにアリシアが来なかったのは先程の発言の所為だろうとグレイは理解していた。

自分が落ち着いたのもついさっきだったので心の中でホッとする。

「アリシアさんも座る?」

グレイは隣を軽く右手で叩きアリシアを誘うと、

「ええ。失礼致しますわ」

流れるような動作で座った。

(・・・綺麗だな)

その所作に思わず見惚れていると、

「どうかされましたか?」

アリシアが不思議そうに聞いてくる。

「い、いや何でもないよ。ここのお庭はとても素敵だね」

グレイは何とか誤魔化そうと話を変える。

広大な面積、緑豊かな植物、周りを館に囲まれているものの空は開けているため色んな鳥たちが遊びに来ている。

「ありがとうございます。ここは私《わたくし》のお気に入りの場所ですの。お天気の良い日にはお茶したりしますのよ」

アリシアは自分の気にいっている場所をグレイに褒められてとても嬉しそうに答える。

「へぇ。それは気持ちよさそうだね」

ただ座っているだけでも癒やされていると感じるのだ。

お茶をしたらさぞかし楽しいに仕方がない。

「・・・」

「・・・」

そしてしばらくの間、グレイもアリシアも何も言わず風景を楽しんだ。

「・・・あの」

そうしていると徐ろにアリシアがグレイに声を掛けて来る。

「ん?ああ。どうしたの?」

先程までの緊張感が緩んだグレイは少しうとうとしてしまいアリシアの言葉で正気に戻る。

「先程の言葉・・・とても嬉しかったです」

グレイがアリシアを見ると恥ずかしそうにそう言う。

少し俯き気味だったので分かりづらかったが顔を赤くしているように見える。

「・・・どういたしまして」

グレイはこんな時どのように答えたら良いか分からず、そんな言葉だけしか言えない自分にもどかしさを感じた。

「わ・・・私《わたくし》もグレイさんに惹かれてます」

「え?今なんて言ったの?」

アリシアが続けて物凄く小さな声で呟くがよく聞こえずグレイが聞き返すが、アリシアはベンチから立ち上がり、

「さ、さぁ、休憩はひとまずこれまでにして屋敷をご案内しますわね!!」

と明らかに誤魔化すようにグレイを促す。

「え、あ、はい。よろしくお願いします」

グレイは突然のアリシアの行動に面食らいながらもアリシアの後に続くため立ち上がる。

アリシアは先導し始めた。

(ううう。私《わたくし》には恥ずかしすぎてグレイさんの本人に直接惹かれている内容をはっきりと言えませんわ。グレイさんには申し訳無いことをさせてしまいました)

直接当事者に言うのだけでも恥ずかしすぎるのだ。

当事者プラス両親の前で何てどれだけの恥ずかしさか、想像も出来ない。

(今度は私《わたくし》がグレイさんに直接話しますから本日は勘弁してください)

自分もグレイに惹かれている理由はスラスラと浮かぶ。

が、声に出すにはまだ勇気が足りなかった。

アリシアは心の中でグレイに謝りながら屋敷内を案内したのだった。



「ふぅ。ヒヤヒヤした場面も多かったが何とか乗り切れたみたいで良かった」

バルム家から魔法学園まで馬車にて送ってもらったグレイが敷地内の寮への道を歩きながら呟いた。

あの後、アリシアにバルム家の屋敷内を案内してもらったり、遅めの昼食を御馳走になったり何だかんだですっかり暗くなっていた。

バルム家の方々には泊っていけばいいと言われたが、丁重にお断りをし今に至る。

気を張りっぱなしだったのでグレイの精神力がこれ以上持たなかったというのが正直なところだ。

無事に寮に到着したグレイはシャワーを浴びるとベッドに入り死んだように眠るのだった。



その翌々日の朝、グレイは魔法学園の門前で待機していた。

直立不動で待機すること十数分、1台の馬車がゆっくりとやってくる。

そしてしばらくした後、静かに馬車が静止した。

グレイは速やかに移動し馬車に近づくと御者への挨拶を軽くした後、扉を開ける。

「おはようございます。アリシア様」

グレイが挨拶をすると、

「はい!おはようございますグレイさん」

アリシアがとても嬉しそうに挨拶をした。



「ああ!アリシア様!今日もお美しい!!」

「週始めからお会い出来るなんて最高だ」

「おい?誰だあの男?」

「見ない顔ね」

「あの立ち位置、もしかして付き人か」

「くぅ~、羨ましい!」

「おい!急いで調べろっ!」

グレイがアリシアのカバンを持ち、右後方を付いていくと学園の生徒達の反応が物凄かった。

ちなみにカバンは持たなくていいとアリシアに言われたがそういうわけにもいかないとグレイが言ったため持っている状態である。

どんどん溢れてくる野次馬に注視しながらようやく教室に到着する。

「では、こちらで失礼致します」

「はい。ありがとうございます」

グレイがアリシアにカバンを渡す。

「次は放課後ですか?」

グレイが付き人の次の役目のスケジュールを確認すると、アリシアが少しだけ意地悪そうな顔をしてから、

「もっと早くなると思いますわ」

「はい?」

理由がわからずグレイが尋ねるが、

「ふふふ、すぐ分かりますわよ」

とアリシアは答えてくれる気がなさそうなのでこれ以上聞くのは諦める。

「では、ひとまずこれで失礼致します」

「はい。では、また」

グレイがその場を離れると、直ぐ様全力ダッシュする。

それはもちろん

「待ち給え、君!!」

「アリシア様との関係は?」

「追いかけろ!!」

面倒くさい追求を逃れるためであった。



「ふぅ。酷い目にあった」

何とか逃げ切ったグレイは教室の自分の席で呟く。

幸いクラスメイトには朝の光景を見られていなかったようで誰も何も言ってこない。

「お疲れさん、グレイ!」

そんな中唯一の友人であるエルリックがグレイの席までやってきた。

「ああ・・・ありがとうエル」

「あら、結構辛そうだね」

エルリックには大体の事情は話してある。

「うーん。まだ初日だから慣れてないだけだとは思うが・・・あの周りから見られる視線はごっそり体力と気力がもっていかれるのな」

「あははは。すぐ慣れるさ」

グレイの泣き言にまるでどうという事もないようにエルリックが笑いながら言った。
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