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第17話

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(いよいよですわ)

セリーとの会話を終えたアリシアは次の授業も集中して聞いていた。

しかしながら、お昼が近づくにつれ授業の内容が頭の中に入らなくなってきた。

(お昼になったらすぐにD組に向かわないといけませんわ)

教室の位置関係はアリシアの教室は食堂に近く、グレイの教室は食堂とは反対側の一番遠い方のクラスである。

そのため、たとえアリシアがグレイが教室を出る前にD組に辿り着けなかったとしても食堂までの道の何処かで会える可能性は高かった。

(できましたらグレイさんが教室にいる時に再会したいですわ)

アリシアはそのように考えていた。

アリシアは自分でも如何に周りから注目されているかを理解していた。

グレイの教室に行く道で人だかりができるのは必至である。

アリシアはグレイが近くを通ったら見つける自信は大いにあったが絶対ではない。

一方、グレイがアリシアを見つけるのは絶対であろう。

アリシアは普段の注目のされ方からしてそこには確信を持っていた。

だが、

(グレイさんの性格からして途中の道で私《わたくし》を見かけたとしても声をかけずに進んでしまう気がしますもの)

グレイは一昨日のように緊急時でなければアリシアと接触してくれない気がしていた。

(ですから、グレイさんが教室にいる間にお会いしたいですわ)

流石に教室で再会できたらグレイもアリシアの会話に対応するはずである。

「よし、それじゃあ本日はここまでとする」

アリシアが色々と考えている間に、担当教諭が授業の終わりを告げる。

(はっ!いつの間にか授業が・・・!!)

アリシアは現実に意識を戻すと内心では慌てているものの周りからはそうとは見られないように気を張りながら席を立つ。

「・・・食堂行こ?」

目の前にセリーが来てアリシアを誘ってくる。

「ごめんなさいセリー。私《わたくし》、本日は大切な用事がありまして、御一緒できませんわ」

アリシアがセリーにそう言うと、

「・・・分かった」

セリーは何も聞かず、アリシアの前の道をすんなりと譲る。

「申し訳ございません。この穴埋めは今度致しますわ!」

「・・・ん。期待してる」

アリシアはこうして自分の教室を出て、グレイの教室に向かった。



「ああ。アリシア様!」

「いつ見ても神々しい!!」

「お話したい」

アリシアがグレイのいるD組に向かうと魔法学園の生徒達がアリシアの予想通り騒ぎ出す。

(うう・・・バルム家が注目の的であるとしても本日くらいはそっとしておいて欲しいですのに・・・)

アリシアは中々思ったように前に進めない状況を内心で嘆いていた。

ちなみに毎回アリシアが行動する度に学園の生徒から注目されるのはバルム家ということよりもアリシア自身の魅力によるものなのだが本人は全く気づいてなかった。

生徒達から浴びせられる褒め言葉は全てバルム家の者だからと理解していた。

(ここがJ組ですわね)

優雅に見えるように進みながらもアリシアは教室の表示を確認していく。

(あと少しですわ)

アリシアが移動する度に周りに来る生徒の数が増えていく。

皆、食堂に向かう途中でその流れとは逆行した形になるアリシアを見かけて注目していくからである。

(F組ですわ)

ここまで来るとアリシアの周りには人が取り巻ききれなかったため教室の入口から生徒たちが見てきていた。

(・・・緊張してまいりましたわ)

アリシアは既に取り巻きのことは考えられず、グレイのいる教室に近づいて来たことに心臓がドキドキしていくのを感じる。

(一昨日のグレイさんも私《わたくし》と同じ気持ちだったのかもしれません。もしかしたら私《わたくし》以上に緊張されていたかも)

アリシアはふと一昨日のグレイの心情に思いを馳せた。



(E組)

アリシアの心音は加速し、周りの人にも聞かれているのではと心配になる。

「あぁ。このような場所でお会いできるなんて」

「俺、話しかけてみようかな」

「やめとけ!下手したら不敬罪で捕まるぞっ!」

「ああ!相も変わらず美しい!!」

「どけよっ!俺にも見せてくれっ!!」

アリシアの周りを付いてくる生徒達がそのようなことを言ったのをぼんやりと耳にしながら、

(D組ですわ)

アリシアは目的地に到着する。

だが、生徒で教室の入口が塞がっていたため、

「申し訳ございませんが通して頂けませんか?」

アリシアが道を開けて貰えるように声をかけた。

「「「は・・・はいぃぃぃ」」」

アリシアの言葉を受け、入口を塞いでいた生徒達が蜘蛛の子を散らすようにバラバラになり教室への道を開けてくれる。

(さあ・・・行きますわよ!)

アリシアは緊張をしながら教室の中に足を踏み入れる。

(グレイさんは・・・)

アリシアは教室の中を見回す。

1クラス50人もいるため探すのにも時間がかかる。

今はお昼休みで席を立っているものも多く、尚更グレイを探すのも時間がかかる。

(いらっしゃらないかしら?)

アリシアは教室の中にグレイがいないかもと不安になりながら探していると、ある場所に目がとまった。

他の生徒が立ち上がっている中にあって1組の男子生徒2人だけ座って待機しているのだ。

立っている生徒に隠れて見えづらかったが、あれはグレイに違いない。

(まだ、教室に居てくださって良かったですわ!)

グレイを見つけたことで自然と笑顔になる自分に気づきながら、慌てないように自制しグレイのところに向かって歩いていく。

アリシアの道を塞がないようにグレイの前付近に立っていた生徒が場所を開け、グレイの姿がはっきりと見える。

(やっぱり。グレイさんですわ)

アリシアはグレイのもとにたどり着くと、ドキドキしながら声をかける。

「良かったですわ。今日、お会いできて」

(私《わたくし》の声、震えてませんよね)

緊張するアリシア。

「アリ・・・バルム様」

グレイがアリシアの名を呼びそうになるのを途中でやめ、家名で呼ぶ。

(そうですわよね・・・この場では名を呼ぶのは難しいですわよね)

アリシアがグレイの立場を考えると当然だと納得しながらも、

「学園ではそう畏まらなくて良いですのよ。グレイさん」

寂しい気持ちを堪え切れず、アリシアが苦笑を浮かべながら言う。

「いえ、流石にそういう訳には・・・」

グレイはアリシアの言葉に対して丁寧に受け答えをする。

(一昨日とは別人のように話すのですね)

アリシアはグレイの言葉に寂しく思いながら、

「・・・そうですか。無理もないですわね」

アリシアがそう言って瞬間、グレイが見るからに動揺しているのが見て取れ、

(私《わたくし》としたことが・・・グレイさんの立場なら困って当然ですのに。これ以上困らせては申し訳ないですものね)

我に返った後、

「うふふふ。冗談ですわ。そのような顔をしなくて良いのですわよ。グレイさん」

グレイの動揺する姿を見てほっとしたアリシアが笑顔に変える。

「ありがとうございます。お気遣いをさせてしまい申し訳ございません」

(アリシアさん。すまない。この場では一昨日のようには接することが出来ない)

アリシアにはグレイの言葉ではなく、不思議と心の声でそう言っているように聞こえてきた。

そのため、アリシアは寂しい気持ちはすっかりと消え、グレイに会いに来た目的を果たすために言葉を続ける。

アリシアもグレイのように気持ちを伝えようと心の声が届きますようにという思いも込めながら、

「良いのですよ。それより先日の件でお話があるのですが放課後お時間ありますでしょうか?」

(グレイさんの立場は分かっておりますから大丈夫ですわ)

アリシアは先ほどまでの緊張が嘘のようにすんなりとグレイを誘うことができたことに自分でも驚く。

「はい。もちろん大丈夫です」

アリシアの言葉にグレイが二つ返事で肯定をするのを聞き、

(了承してくださってとても嬉しいですわ)

と思い、体で喜びを表したくなるのを堪え、

「では、また後ほど」

(時間や場所をこの場でいうことはできませんわ。おそらくグレイさんなら一昨日と同じ時間と場所だと気づいてくださるはず)

アリシアはそう考え、教室を後にした。



「はっ!?」

アリシアはグレイとの会話の後、浮かれてぼーっとしていたようだ

目の前には扉があった。

(私《わたくし》ったら・・・早くグレイさんとちゃんとお会いしたくて屋上まで来てしまったのですわね)

その事実に自分のことながら動揺する。

(せっかく来たのですから出てみましょう)

昼休みの時間はまだたっぷりあるため、アリシアは屋上に出ることにした。

(まだ2日しか経っていないのにかなり前のことに思えますわね)

「風が気持ち良いですわね」

アリシアは屋上から見える大森林を見ながら呟く。

「あの辺りでしたか」

アリシアはグレイが助けに来てくれた小屋の辺りと思う場所に検討をつけて眺める。

「まさかあんなことがあるとは夢にも思いませんでしたわ」

酷く現実離れした感じに囚われ不思議な気持ちになった。

そのまま景色を眺めていると、鐘のなる音が学園中に響き渡った。

「あら・・・もうお昼休みが終わってしまったのですね。教室に戻りませんと」

アリシアはいつの間にか時間が過ぎていたことに驚き、教室に戻ろうと動き出す。

屋上の扉を開けると、

(え・・・どなたかが上がって来てますわ)

誰かが上がってくる気配を感じた。

(きっと上級生が教室に向かって歩いているだけですわ)

そう思いながらもアリシアは念のため屋上に戻り、扉から見えない位置に隠れる。

一昨日の事があってから人と一対一で会うのが少し怖かったためだ。

(早く行って下さいまし)

アリシアは授業に遅れることはもう仕方ないと諦め、待機する。

しかし、

ガチャ

(まさか!?屋上まで来てしまいましたわ!)

アリシアの脳裏に一昨日の恐怖が蘇る。

表面上は気丈に見せれたとしても内心では怖かったのだ。

その時の記憶が思い出され、思わず目を瞑る。

(気づかれませんように)

ガチャ

屋上の扉が閉まる音がやけに大きく響く。

(駄目ですわ。目を開けませんと)

アリシアがバルム家たるものあらゆることに目を背けてはならないという矜持を思い出し、ゆっくりと目を開け、扉から出てきた人物をそーっと覗く。

(あれは!?)

その人物がアリシアの見知った人物・・・最も会いたい人物であったためアリシアは思わず駆け出す。

ぎゅう

気づいたらその人物の背後から抱きついていた。

(わ、私《わたくし》ったらなんということを!?)

アリシアが自分の行動に驚く。

「!?な、何だ!?」

抱きつかれた人物がアリシアだと知らずにどうにか振り解こうと暴れ出す。 

(あわわわわ、どうしましょう。今の私《わたくし》の顔はきっと凄いことになってますのに)

アリシアは自分でも分かるくらい顔が真っ赤になっていたため、離されないように必死で力を込める。

その人物は諦めたのか、振りほどこうとするのをやめる。

(ほっ。あれ以上力を込められていたら解かされていましたわ)

アリシアがひと安心した瞬間、

「・・・アリシアさん?」

びくっ!

(き・・・気づかれてしまいましたわ)

その人物に呼ばれ、驚いたアリシアは自分の体が硬直したことを自覚する。

(もう誤魔化しは効きませんわね)

元から誤魔化しきれることはなかったのだが、動揺しているアリシアは気づかない。

「・・・グレイさん、お会いしたかったですわ」

そして、その人物・・・グレイの名前を呼んだのであった。
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