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第10話

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校内放送を聞いたグレイは荷物を心配そうにしていたエルリックに託し、「悪いことはしてないからそんな顔するな」と安心させてから1人学園長室に向かっていた。

学園長室は魔法学園の中央の教諭棟の最上階にあり、10分近くはかかるため考える時間はあった。

グレイはその時間を利用して思考する。

魔法学園学園長・・・たった1代で魔法学園を作ったという人物で国の要人とのパイプも太いというのがもっぱらの噂だ。これだけ聞くとワンマンに思われがちだが裏表のない聖人のような人物というのが学園に通っている生徒にまで伝わっている。

(そんな人物が急に俺を呼び出すなんて・・・)

グレイは思考を途中で止め、この時たまたま通りかかった自分の担当教諭に軽く挨拶をする。

当然校内放送のことを理解している担当教諭は「早く行くんだぞ」とグレイに言いながら教室に向かっていった。

再び1人になったグレイは思考を続ける。

(・・・やっぱり昨日の件だよな)

落ち着いて考えてみても他の理由は思いつかず、そう結論づけた。

(お、いつの間にか着いていたか)

グレイが考え事をしている間に学園長室直通という昇降装置の前に到着していた。

「グレイ・ズー4年生ですね」

学園長の秘書だろうか金髪のショートカットでスーツに身を固めた女性がその昇降装置の前に待機しており、グレイの姿を認めるや声をかけてくる。

「はい。仰る通りです」

グレイは頷きながら、少しでも情報が欲しいため相手の情報を『視る』

『エミリー・カイザー。26歳3ヶ月。寿59321

「どうぞお乗りください」

金髪スーツの女性・・・エミリーが昇降装置に先に乗り込みグレイを招き入れる。

グレイは素直に従い、昇降装置の中に入った。

(姓がカイザーってことは・・・)

何となく聞き覚えのある姓だったので、誰だったかなとグレイが心の中にメモを取る。

グレイは自分の能力で知ることができる情報が貴重と言うことを理解している。

やましい人や訳ありの人間は名前や年齢などは特に隠したがるからだ。

「到着致しました。どうぞお降りください」

エミリーの言葉に従い素直に昇降装置を降りるグレイ。

「では、私はこちらで失礼致します」

「はい。ありがとうございました」

グレイが礼を言うと、エミリーは元いた場所に戻って行った。

「さて・・・行くか」

目の前の大きなドアを前に一度気合を入れた後、ノックする。

コンコンコン

「鍵は空いているから入ってきたまえ」

ノックした感じからすると分厚い板を使っているからか返事が辛うじて聞こえた気がする程度だったため少し躊躇いながら中に入った。

「やぁ、早かったね。君がグレイ・ズー4年生で良いのかな?」

フサフサの白髪、見事な白ひげの見るからに目上な感じの御老人が見た目にそぐわぬ軽い感じで話しかけてきた。

この人こそが魔法学園の学園長その人である。

「はい。仰る通りです」

「良かった。では、そこにかけてくれるかな」

学園長にソファに座るように指示されたので頷きながら素直に従う。

(うわぁ。凄く良い座り心地だなぁ)

想像以上のふかふかに内心で感動しつつ、グレイは学園長を『見る』。

『オスロ・カイザー。68歳7ヶ月。寿21519

(なるほど。カイザーって姓を何処かで聞いたことあると思ったら学園長と同じだったか)

グレイは今の今まで学園長の名前をしっかりとは覚えていなかった。

先程のエミリーは学園長の肉親なのだろう。

「さて、ズー君は何故呼ばれたか分かっているかな?」

「はい。昨日のことですね」

学園長の言葉に頷きながら答える。

「その通りだ。良くやってくれた!!それを直接言いたくて呼んだのだよ」

「!?・・・ありがとうございます」

グレイは褒められるとは思っていなかったため、少し驚きながら、お礼を言ったのだった。




「急に褒められても困るだろうから順を追って話そう」

学園長が驚くグレイを見てそう言う。

「はい。お願いします」

グレイとしてもこの提案はありがたかった。

(自分の行動がどのように話され、どこまで伝わっているかは把握しておきたい)

「今朝早くにな、街の騎士隊長であるキリッジ騎士が儂を訪ねて来た。流石の儂も魔法学園の生徒が何か不味いことをしたのだと身構えたらな・・・」

学園長はそう切り出し話始める。

簡単に言うとこのような内容であった。

朝早くに学園長を尋ねたマリー・キリッジ騎士はは身構える学園長に対して昨日あったことを話始めた。
まず最初は、衝撃的な内容だった。
3大貴族のバルム家の令嬢を魔法学園の生徒が襲ったという内容であったため、流石の学園長も顔面蒼白になっていた。
いくら学園長が様々な要人とのパイプがあると言っても迷惑を掛けたのは3大貴族の血筋だ。
幸い被害者の生徒は無事だったのは良かったが、加害者が同じく生徒ということは学園存続が危うくなったこを意味する。
しかし、話を聞いていくと何と被害者の生徒を救ったのも学園の生徒だったと言うではないか。
それを聞いてまだ救いがあるのではと希望を持った。
そして、その後バルム家の当主から連絡が入り、昨日のようなことがあったため娘を休ませるという話が来た。
てっきり、学園長に対して責任を取れと言った叱責を覚悟していたが一向にその話がないため思い切ってそのことを尋ねたそうだ。
そうしたらバルム家の当主はこのように答えたという。
「あくまで魔法学園は関係なく、そこに通っている生徒が娘を襲って来たのだ。それに助けてくれた人もまた学園の生徒という。そのことで魔法学園を責めるなどということはしませんよ。もちろん、娘に何かあった場合は全力で潰してましたけどね」

「・・・という訳で君のお陰で魔法学園が救われたといっても過言ではないのだ。本当に良くやってくれた!!」

事情を話し終えた学園長はグレイの手を取り、頭を下げてきたくる。

「そういうことだったのですね。学園長先生、顔を上げてください。私はバルムさんを助けたかっただけで他のことは考えてもおりませんでしたので」

グレイはそう学園長に告げると、学園長は首を振り、

「もちろんだ。ズー君が当学園のためにと思って行動に移したとは思っていない。だが、どうしても礼を言いたくて呼んでしまったのだ。これは儂の気持ちの問題だ。本当にありがとう」

そのまま、更に深く頭をさげる。

「分かりました!分かりましたから、顔を上げてください!!」

グレイは学園長という自分よりもはるか上の地位の偉い人間に頭を下げられているという事実に耐えられなくなり、思わず大きな声を出してしまう。

「他ならぬズー君が言うのであれば」

そういってようやく学園長は顔を上げたが、更に、とんでもないことを提案してきた。

「我が魔法学園を救ってくれたズー君にささやかながら贈り物があるのだ」

そして懐から、あるものを出す。

「なっ!それは!?」

グレイは思わず声を上げる。

学園長が出した物・・・それは金色に輝くバッチであった。

「そうだ。『魔功章』だ」

学園長がグレイの反応見てそう答える。

魔功章・・・魔法学園内において優れた業績を成し遂げたものに贈られるバッチである。これを授かるものは魔法学園の学費免除、食堂での無料飲食など魔法学園内における全てのことにおいて優遇される。なお、魔法学園創立以来魔功章を送られた生徒は数えられるくらいしかいないという。

「い、いえ。流石に受け取れませんよ!」

グレイが珍しく慌てながらそう答える。

「自信を持っていい。ズー君の功績は十二分に魔功章を受け取るに足るものなのだから」

学園長が真剣な目をしてそう言ってくる。

(参ったな。これは断れない奴だ・・・)

グレイは覚悟を決めて答える。

「・・・分かりました。謹んでお受け取りします。ですが、このことは内緒にして貰えませんでしょうか?」

「何故だ?」

学園長が不思議そうに聞いてくる。魔功章を貰うことを秘密にする生徒は今までにいたことがないのだろう。

「自分で言うのもお恥ずかしい限りですが、私は実技も魔法もとても優秀とは言えません。そんな人間が急に『魔功章』を貰ったとなるとどう思われますでしょうか?」

「・・・何故なのか知りたがるだろうな。そうか!そのことにより、バルム家のご令嬢の件が明るみに出ることを恐れているという訳だな!」

学園長がグレイが皆まで言う前に理解する。

「はい。仰る通りです」

(たまたま未然に防げたから皆には伝わっていないがアリシアさんは死ぬところだったからな。そんな事件忘れたいに違いない)

グレイはそう考えていた。

「分かった。このことは生徒には秘密にする。しかし、先生たちや事務員の皆には伝えないわけにはいかないのは勘弁して欲しい」

「ありがとうございます。それで大丈夫です。私はこれで失礼してもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。授業の時間を割いてしまって申し訳ない」

「いえ。では失礼致します」

グレイは学園長に礼を言い、ドアに向けて歩いていくと、声を掛けられる。

「ズー君。もし困ったことがあればいつでも相談に来て構わない。本当にありがとう」

振り返ると学園長がまたもや頭を下げていた。

「ありがとうございます。では失礼致します」

グレイがそう言うと学園長室を出て行ったのだった。



「グレイ・ズー君か・・・欲の無い良い生徒じゃないか」

一人部屋に残った学園長がそう呟く。

今まで魔功章を授かると知った生徒の反応を見て来た学園長はグレイの対応に好印象を持っていた。

過去には似たような理由で魔功章を授かった生徒もいたのだ。

そういった生徒たちはこぞって自分のことしか考えていなかった。

しかし、グレイはそうでは無かった。自分ではなく相手のことを考えていたのだ。

魔功章を受け取らないという選択肢も学園長の気持ちを汲み取って受け取ったのだろう。

1代でここまで魔法学園を大きくしてきた学園長は数多くの権謀術数の中で生きて来た。

そんな中でのグレイという生徒の反応は学園長にとって気持ちの良いものであった。

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