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第9話

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その後はスムーズに事が進んだ。

グレイはマリーを含めた騎士達を無事に現場に案内することが出来た。

もう一度近づくとまた殴ってしまいそうだったのでグレイは自分の手が届かない距離からアリシアを襲った男子生徒の顔を確認し、マリーに報告をした。

騎士達は未だ気絶している男子生徒の縄を解き、魔法封じの手錠をかけると速やかに連行して行く。

男子生徒は気絶しているだけで魔物にも襲われていなかった。

短い時間とは言え無防備で居たというのに運の良い奴である。

グレイはマリー達とその場に残り、状況説明をできるだけ詳細に話すとようやく解放された。

森の中から街道まで一緒に行き、

マリーが

「寮まで部下に送らせるがどうする?」

と聞いてきたが、

「御心遣いありがとうございます。ですが、一人で帰れますので大丈夫です」

グレイが丁重にその申し出を断わった。

「そうか、分かった。道中気をつけてな」

(色々とゆっくり歩いて考えたいのだろう)

マリーはグレイの行動をそう判断した。

「はい。ありがとうございます」

グレイが礼を言って学園に戻るために振り返ろうとした時、

マリーが

「・・・今回ズーがしたことは大変功績のあるものだ。もしかしたら勲章とかも授与されるかも知れぬぞ」

というと、

「えっ!?」

グレイの外向けの表情が崩れ、勘弁してくれという顔になる。

「ふふふ。当然だろう。それよりもようやく素の表情を出したな」

マリーが笑いながらそう言う。

「・・・性格悪いって言われません?」

(しまった。俺としたことが・・・)

グレイは動揺を隠しながらも一矢報いる気持ちでそう言い返す。

「騎士なんて仕事をしていればそうなるさ。それより、君さえ良ければ騎士にならないか?喜んで迎え入れるぞ」

グレイのどこかを気に入ったのかマリーが勧誘してくる。

「・・・一応、魔法学園に通ってますので、お断りさせていただきます」

「・・・そうか。気が変わったらいつでも言ってくれ。長時間拘束してすまなかった」

「はい。では、失礼致します」

そう言ってグレイは一人学園に向かって歩いていく。

グレイの姿が見えなくなってからマリーの傍にいた他の騎士が尋ねる。

「隊長が勧誘するなんて珍しいですね。どういう風の吹き回しですか?」

「無論、逸材だと思ったからだ。あの年であれだけの分析力、行動力、我々相手にも物怖じしない胆力、そして何よりも・・・」

マリーは一度言葉を切ってから、

「私の勘が彼を引き込むべきだと言っている」

「なるほど、隊長の勘は良く当たりますからね」

「まあ、袖にされてしまっては仕方がない、よし、まだまだやることは多いぞ。次はここの現場検証だ!」

「「「はっ!」」」

騎士達の仕事はまだまだ続くのだった。




「ふぅ。21時37分か」

グレイは一人魔法学園への登り坂を歩きながら時計を見る。

何やかんやでかなりの時間が経過していた。

「今日は本当に良かった」

グレイが本日あった事を思い出しながら呟く。

何とも濃密な1日であった。

走り通しで物凄く苦しかったが終わりが良かったので清々しささえ感じている。

「良く考えたら、俺ってとんでもない偉い人と喋ってたんだな・・・しかもタメ口で」

ふと我にかえると自分がアリシアにしていた接し方を思い出し肝が震えた。

「まぁ、いいか。そうそう会える人でも無いからな」

深く考えるとどツボに嵌りそうだったので余り考えないようにする。

「とにかく、本当に良かった」

グレイは心の底からそう思ったのだった。



コンコンコン

グレイの部屋のドアがノックされる。

「おーい、グレイ~。もう行ける~?」

「・・・・・・」

「あれ?おかしいな??」

エルリックはいつもと違いグレイから反応がないことを訝しむ。

グレイが寝坊したことは今まで無かったはずだからだ。

ガチャ

試しにドアノブを回してみると、鍵をかけていないのかすんなりと開いた。

(不用心なだけだよね?まさか誰かが侵入しているとか!?)

いつもはしっかりと鍵をかけているはずなため、戸惑いながらそっと入る。

(本当はせめて声をかけながら入るべきだけど、侵入者がいる場合もあるかもしれないから黙って行こう)

エルリックが最悪の場合いつでも魔法を放てるように準備をする。

寮の部屋は貴族かどうかで中身が異なるが、貴族以外の構造はどこも一緒だ。

エルリックは貴族ではあるが、よくグレイの部屋で遊んで居たので中の構造を熟知していた。

寝室と簡易的なキッチンのある居間の2部屋だけである。

寮のドアを開けるとまずは居間に繋がるためそちらから異常が無いかを確認していく。

(相変わらず殺風景な部屋だよね)

グレイは本当に必要なもの以外は部屋に置かないため、すぐに異常が無いことが分かった。

(あとは寝室だ)

エルリックは音を立てないよう慎重に寝室のドアを開ける。

「・・・ふぅ。何だ。ただの寝坊か」

エルリックの視界にはグレイが満足そうに寝ている姿が映っていた。

侵入者が居たわけではなかったのでいつでも放てるようにしていた魔法を解除し、グレイの体をゆすりながら呼びかける。

「グレイ。起きて。遅刻しちゃうよ」

「ん・・・うーん。・・・あれ?エル??」

ほどなくしてグレイが目覚めるや寝ぼけた目でエルリックを捉え、キョトンとする。

「おはよ!早速だけど早くしないと遅刻だよ」

「・・・あーーー!!」

エルリックの言葉に完全に覚醒したグレイが慌てて準備を始める。

「エル!!起こしてくれてサンキュ!!超速で準備するから居間で待っててくれ!!!」

「りょーかい!」

ドッタンバッタンしながら準備を進めるグレイ。

エルリックはもう大丈夫だと居間で待つことにする。

「まずいまずいまずい」

昨夜完全施錠された魔法学園と寮の入口を何とか攻略して部屋に戻ったのが夜の11時過ぎだった。

体力的にはまだまだ余裕だと思っていたがいざ横になって見るとそうではなかったのか、今まで爆睡してしまったようだ。

「よし!準備完了!!」

学園指定の制服に着替え終わったグレイが居間に行く。

「エル待たせて悪い。助かった!」

「いいよ~。行こうか」

「ああ」

2人は仲良く学園に向かう。

「それにしてもグレイが寝坊するなんて珍しいね」

エルリックがそう話しかける。

「昨日は珍しく夜ふかししてしまったんだよ」

聞かれると思っていた内容だったので淡々と答えるグレイ。

「ふーん。そっか。アリシアさんのことを考えていたんだね」

ぶぅぅぅぅぅ

グレイはエルリックの言葉に思わず吹き出す。

「な、なんでそこでアリ・・・バルムさんの名前が出てくるんだよ!」

グレイは思わずエルリックに向かって大きな声を上げる。

「おやおやぁ。試しに言ってみただけだけど、図星かな?昨日食堂で珍しくグレイが女の子のことを聞いてきたからひょっとしてって思ったんだよね」

エルリックが気持ちのいい笑顔でグレイを弄ってくる。

「・・・別に、バルムさんのことを考えていたわけじゃないぞ」

(ふーん。嘘では無さそうだね)

エルリックはグレイの仕草からそう判断する。

(グレイに初めての春の訪れが来るかもしれないから、今はこれ以上刺激を与えないようにしよう)

「そっか。それはそれとして、先週末に街に行ったんだけど、美味しいご飯屋を見つけたんだよね。今度行かない?」

「それはいいな!・・・でもエルが美味しいっていう店って高いんだろ?」

「ううん。そんなことないよ」

「で、いくらぐらいなんだ?」

などど、エルリックは咄嗟に話を変えながら学園に向かうのだった。



「ふぅ。間に合ったな。エル。本当にありがとう」

「いえいえどういたしまして」

グレイとエルリックが学園に到着するやグレイがエルリックに礼を言う。

まだ、始業時間には余裕で間に合う時間であった。

他愛の無い会話をしながら2人が教室に向かっていると、珍しく校内放送が聞こえてきた。



『グレイ・ズー。至急、学園長室まで来なさい』



「・・・は?」

予想外の内容にグレイは思わず間の抜けた声を上げてしまったのだった。



「お嬢様。朝でございます。お目覚めください」

「・・・はい。いつもありがとうございます。サリアさん」

翌朝、アリシアは珍しくメイドに起こされて目が覚めた。

昨夜は、体の汚れを落とすために湯浴みをした後、夕食を食べる気力もなくすぐに寝てしまい、今に至る。

(あのようなことがあったのですもの。お疲れなのも無理はないですわね)

アリシアを起こしにきたメイド・・・サリアはアリシアのことを心配する。

アリシアの朝は当然ながら早い。

約2時間の通う時間や支度の時間があるからである。

外の景色も少し明るくなったくらいであった。

「お食事の準備が出来ております。ご支度が整いましたら足をお運びください」

「畏まりましたわ」

アリシアが完全に目覚めたことを確認した後、サリアはそのように告げると、退室していった。

「珍しくサリアさんに起こされてしまいましたわね。そこまで疲れてはいないと思っておりましたが、そうでは無かったようですわね」

サリアが退室した後、アリシアが呟く。

それにしても昨日の事がまるで夢のようにも感じられた。

ふと、アリシアが机を見ると、グレイに貰った手紙が置いてあるのを確認し、

「ふふ。夢じゃなかったですわ」

自然と笑顔になるのが自分でも分かった。

そのまま、机に近づきもう何回読んだか分からないグレイからの手紙を読み返す。

「はっ!早く支度しませんと」

アリシアは少し慌てて支度を始めたのだった。



「おはようございます。お父様。お母様」

「おはよう。アリシア」

「アリシアちゃん、おはよう」

アリシアがダイニングというか食堂といった方がしっくりくるサイズの部屋に行くと既に両親が座って待っていた。

流石に双子の妹弟はまだ朝が早過ぎて起きられない。

数時間後に母が付き添って朝食をとるはずである。

「お待たせしてしまい申し訳ございませんでした」

アリシアが両親に謝りながら席に着く。

「気にすることはない。酷い目にあったのだからな。無理して起きなくても良かったくらいだ」

「そうよ。アリシアちゃん、大丈夫なの?」

「はい。昨夜は疲れていただけでしたからぐっすり眠らせて頂きもうすっかり元気ですわ!」

アリシアが両手を上げて元気アピールをする。

「それは何よりだ。ひとまず今日は学園を休みなさい。その旨は学園側にもう伝えてある」

「え?・・・はい。畏まりましたわ」

父親の突然の話に驚きながらも頷くアリシア。

(せっかくグレイさんにお会いできると思ってましたのに・・・)

アリシアのテンションは急に落ちてしまった。

「あら」

母親がアリシアの様子を感じ取りおやっ?という仕草をする。

父親は2人の様子に気づかず話を続ける。

「恐らく、騎士隊長のキリッジ騎士も今日、調査報告に来るだろう。辛いだろうがその時はアリシアも同席してくれるか?」

「え、ええ、もちろんですわ」

(確かに改めて訪問とは仰ってましたが本当に昨日の今日でいらっしゃるのかしら?)

アリシアは疑問に思ったが話しても仕方のないことなのでそこには触れずにおいた。

「では、食べようか」

父親のその言葉に従い、3人仲良く朝食を取り始める。

(絶対絶対明日は学園に行きますわよ!そしてグレイさんにもう一度お会いするのですわ!!)

アリシアが食事を取りながらも固く胸に誓うのだった。
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