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第6話

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「う・・・うーん」

小屋に連れてこられたアリシアがしばらくしてから目を覚ます。

「ようやくお姫様のお目覚めだね」

アリシアの前の少年が下品な笑みを浮かべて見てくる。

「あなたは・・・マギーさんですわね」

アリシアが動揺すらなく、少年の名前を呼び当てる。

(状況的にバランさんが私《わたくし》を連れてきたようですわね)

「あははははっ!流石だねアリシアちゃん!!僕の名前を覚えているなんて!!」

少年・・・マギーが楽しそうに笑う。

(魔法を・・・駄目ですわ。魔力を感じられない。魔法封じの縄で結ばれているようですね)

アリシアは内心ではマギーの様子は気にも止めず、自分の置かれた状況を確認していく。

(小屋のようですわね。森の中にあるといった感じでしょうか)

「一応聞いておきますわ。何故私をさらったのですか?」

アリシアはマギーの言葉には反応せず、聞きたいことを尋ねる。

「ふふふ。決まっているだろぅ。君を手に入れるためさ」

マギーはアリシアの態度に気にした様子もなく、誘拐した理由を答える。

「あなたの申し出は何度もお断りしたはずですが?」

アリシアが昔を思い出す。

あれはもう4年前位になるか、アリシアが入学した当初からこの少年が執拗に求婚してきたのだ。

彼の親が有名な大金持ちで財産だけは3大貴族にも並ぶと言われており、あの手この手で手段を選ばずアリシアを手に入れようとしてきたのだ。

断り続けてようやくここの所しばらくは大人しくなっていたのだが・・・。

(私を誘拐するために準備を進めてきたというわけですわね)

確実にマギーの親もグルだろう。

御者のバランを懐柔した手腕。

高価な魔法封じの縄の用意。

森の中の小屋の準備。

マギー1人では逆立ちしても無理だろう。

「この状況でもそんな事を言えるなんてやっぱりアリシアちゃんは最高だよ。そんなアリシアちゃんに最後のチャンスだ。大人しく僕と結婚すれば手荒な真似はしないよ?」

マギーが嬉しそうに聞いてくる。

絶対に断られないと思っているのだろう。

「お断り致しますわ」

アリシアは悩むことなく間髪入れずに否定した。

「は?」

マギーがアリシアの意外な答えに呆然とし、見て分かるくらいにワナワナ震え出し、

「ふざけてんじゃねーぞ!!状況わかってんのか!?いつもいつもすました様子で僕を邪険にしやがって!!」

堪忍袋の緒が切れたのかマギーがキレだす。

「どのような状況でありましてもあなたの申し出をお受けすることはございません」

アリシアが再度全否定をする。

「・・・ふっふふふ。それなら仕方がない。無理やり僕の女にしてやるよ」

マギーがアリシアの意思など関係なく手籠めにしようとゆっくりと近づいてくる。

(残念ながらこの状況ですと私が自力で逃げることは不可能ですわ。・・・そして外部からの助けの可能性も絶望的)

魔法は封じられ、体も拘束されている。

そして気絶させられた薬のせいで思うように体が動かない。

さらに、ただでさえ学園に通う者が少ない上、森の中の小屋にいるという事実。

(完全に詰みましたわね)

ちらりと小屋にある時計を見ると17時31分であった。

(ズーさん。ようやく分かりましたわ。私がどのように寿命を終えるのか)

アリシアは実際に直面してみて初めて自分がどうやって死ぬのかを理解したのだった。





「あと一歩でも近づくようでしたら、舌を噛んで死にますわよ」

アリシアが近づいてくるマギーに向かって宣言する。

時刻は17時32分。グレイの視た時刻からすると後1分である。

「・・・なんだって?」

マギーがアリシアの言葉に足を止める。

(恐らくそれも一瞬のこと。この1分は私の最期の時間)

死を覚悟したからだろうか。

走馬灯のように今までの記憶が思い出されてくる。

(私は自分の生を精一杯生きることができました。思い残すことは・・・1つだけありましたわね)

アリシアは今までの人生を振り返る。

自分なりに必死にその日その日を精一杯に生きてきた。

平均に比べては短い人生だったが、密度は濃かったに違いない。

思い残すことは何もない。

・・・と結論づけようとしたときにアリシアは気づく。

(もっとズーさんとお話をして見たかった)

「は・・・はったりだ。アリシアちゃんは僕を試しているだけに違いない」

マギーがそう思い込み、アリシアにとっては最期の、マギーにとっては念願成就のための一歩を踏み出す。

「私は3大貴族のバルム家の娘・・・アリシア・エト・バルム。好きでもない、いえ寧ろ嫌悪さえするあなたに手籠めにされるくらいなら死を選びます!」

今まで見たことのないアリシアの本気の拒絶。

流石にマギーもはったりでは無いと理解し、

「ま・・・待て!」

慌てて辞めさせようとする。

(ズーさん・・・いえ、グレイさん。最期にあなたと話せて良かったですわ)

アリシアが舌を出し思い切り噛み切ろうと口を閉じる瞬間。



ドガァァァ



小屋のドアが大きな音を立てて破壊された。

用意してから掃除を一度もしていないのだろう。ほこりが舞い上がり視界が遮られる。

「え?」

アリシアが突然のことに珍しく間の抜けた声を上げ、口を閉じるのすら忘れてドアの方を見る。

誰も気に留めていないが、この時の時刻は17時34分になっていた。

「な・・・なんだ?」

マギーは慌ててドアの方に振り返る。



バキ



何者かがドアの破片を踏み砕きながら小屋に侵入してきた。




「助けに来た」




入ってきたのは黒髪黒目、中肉中背の少年である。

「っ!?」

アリシアが有り得ぬ助けに夢でも見ているかと声にならない声を上げる。

(ああ。何という・・・何ということでしょう。まさか・・・まさか・・・)

自然と涙が溢れだす。

「なんだ貴様は!?」

マギーが入ってきた男・・・グレイに向かって怒声を浴びせる。

「・・・うるせぇよ。人間のクズが」

グレイが自分でも驚くくらいドスの聞いた声を上げる。

「!!・・・なんだと?」

マギーがグレイの覇気に一度萎縮したものの、すぐに戦闘態勢に入る。

「誰だか知らないが、この場を見たからには生かして返すわけにはいかない。悪いが死んでもらう」

マギーが言うや膨大な魔力が溢れだす。

こんなクズではあるが、魔法の才能だけはトップクラスであった。

「てめぇの事情なんて知らねーよ」

グレイが拳を構える。

「死ね!業炎よ!!」

マギーが魔法を放つ。

小屋の半分を吹き飛ばす大きさの炎の塊だ。

「ズーさん!!!」

アリシアが思わず叫ぶ。

グレイの保有魔力はマギーに比べて圧倒的に少ない。

このレベルの魔法を食らったらひとたまりもないだろう。

だが、グレイは迷わず、炎の塊に自分から突っ込んでいく。

「バカな!!自ら炎に突っ込むなど!!」

マギーが驚愕の声を上げる。

「ぐぅぅ」

グレイの体が物凄いスピードで焼けていくが、お構いなしで加速する。

ボフン

炎を抜け出すグレイ。

マギーは余りのことに唖然として体が固まっている。

(手は・・・ダメだ炎でボロボロだ。なら!)

グレイは本当は殴り飛ばしたかったがそれが無理と悟るや走った勢いそのままで跳躍し、体を捻る。

「自分勝手に人の寿命に関与するんじゃねぇよ!!」


ドゴォォォ


グレイの蹴りがマギーの顔にクリーンヒットし、物凄い勢いて小屋にぶつかり壊しながら吹き飛んだ。

「ズーさん!!」

ボロボロのグレイを見てアリシアが叫ぶ。

「・・・バルムさん、無事で・・・よかっ・・・た」

グレイはアリシアの様子を見て無事だと分かるとそのまま前のめりに倒れた。


「ズーさん!!ズーさーん!!!!」


その様子を見たアリシアの叫び声が森の中に響き渡ったのであった。
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