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第139話 ヒルダ・ノーム・ジークムント
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「・・・今何と言った?」
先ほどまでご機嫌一直線であったヒルダの顔が見事に硬直する。
その様子を見たミリーナは、
(あちゃ~。正直に話すとそりゃそうなるわよね・・・)
と今のルークとヒルダの間の空気に居心地の悪さを感じていると、
「俺の名はルークだ」
ルークが、ミリーナの心情を知ってか知らずか不明だがはっきりとした口調で再度名乗るルーク。
(ここで誤魔化すのは簡単だ。だが、そうするわけにはいかない)
国のためとは言え、ルークは長年ヒルダの住む国の者と戦ってきた。
そのことに後悔はないと言えば嘘になるだろう。
立場が違えば正義も違う。
その事をルークは身にしみて理解していた。
何故戦わねばならないのか幾度となく自問し、故郷で待つ両親や許嫁のためだと自身を納得させてきた。
はっきり言ってルーク個人としてはジークムント王国民への恨みがあるわけではないのだ。
しかしヒルダ達にとってはそうはいかない。
彼女らからしたら間違いなくルーク達は悪なのだ。
とは言え、ここで誤魔化すのは違うとルークは考えた。
ミリーナはルークとヒルダの間に立ち、いつでもフォローに入れるように身構える。
「・・・大勢の中でも一際目立ち、見る者を絶望に陥らせる白い髪。武の心得が無くとも分かる異常な気配。そしてルークという名」
ヒルダが能面のような顔でルークをまじまじと見ながらぶつぶつ呟く。
「・・・お主が『魔人鬼』ルークか!?」
ヒルダが大きな声を上げた瞬間
ブワァ!
まさにそのような音が出るかのようにヒルダの全身より汗が溢れ出す。
その顔に浮かぶのは怖れ。
「え?」
ミリーナは予想とは異なるヒルダの様子に思わず疑問の声を上げるが、
ダッ!
ミリーナが止めるよりも早く、ヒルダが全力で走り、川付近から森の木の後ろに移動する。
「「・・・」」
ヒルダの突然の行動に流石のルークもミリーナと共に沈黙する。
いちはやく正気に戻ったルークがミリーナに話しかける。
「・・・ひとまず、ヒルダを害するつもりはないと伝えてきてくれないか?」
「わ、わかったわ」
ミリーナがルークの頼みに返事をし、ヒルダの方に向かっていった。
やがて、口論しているようなやりとりが辛うじて聞こえてくる。
「・・・まだかかりそうだな」
ルークはそう呟くと、熊肉を再度焼き始めた。
ミリーナとヒルダのためにずっと焼いていたため、ルーク自身はほとんど食べられていなかったのだ。
「ふぅ。お待たせルーク」
「悪かったな」
「気にしないで」
そうミリーナがヒルダを連れて来たのはルークが食べ終わって満腹になった頃であった。
先ほどまでご機嫌一直線であったヒルダの顔が見事に硬直する。
その様子を見たミリーナは、
(あちゃ~。正直に話すとそりゃそうなるわよね・・・)
と今のルークとヒルダの間の空気に居心地の悪さを感じていると、
「俺の名はルークだ」
ルークが、ミリーナの心情を知ってか知らずか不明だがはっきりとした口調で再度名乗るルーク。
(ここで誤魔化すのは簡単だ。だが、そうするわけにはいかない)
国のためとは言え、ルークは長年ヒルダの住む国の者と戦ってきた。
そのことに後悔はないと言えば嘘になるだろう。
立場が違えば正義も違う。
その事をルークは身にしみて理解していた。
何故戦わねばならないのか幾度となく自問し、故郷で待つ両親や許嫁のためだと自身を納得させてきた。
はっきり言ってルーク個人としてはジークムント王国民への恨みがあるわけではないのだ。
しかしヒルダ達にとってはそうはいかない。
彼女らからしたら間違いなくルーク達は悪なのだ。
とは言え、ここで誤魔化すのは違うとルークは考えた。
ミリーナはルークとヒルダの間に立ち、いつでもフォローに入れるように身構える。
「・・・大勢の中でも一際目立ち、見る者を絶望に陥らせる白い髪。武の心得が無くとも分かる異常な気配。そしてルークという名」
ヒルダが能面のような顔でルークをまじまじと見ながらぶつぶつ呟く。
「・・・お主が『魔人鬼』ルークか!?」
ヒルダが大きな声を上げた瞬間
ブワァ!
まさにそのような音が出るかのようにヒルダの全身より汗が溢れ出す。
その顔に浮かぶのは怖れ。
「え?」
ミリーナは予想とは異なるヒルダの様子に思わず疑問の声を上げるが、
ダッ!
ミリーナが止めるよりも早く、ヒルダが全力で走り、川付近から森の木の後ろに移動する。
「「・・・」」
ヒルダの突然の行動に流石のルークもミリーナと共に沈黙する。
いちはやく正気に戻ったルークがミリーナに話しかける。
「・・・ひとまず、ヒルダを害するつもりはないと伝えてきてくれないか?」
「わ、わかったわ」
ミリーナがルークの頼みに返事をし、ヒルダの方に向かっていった。
やがて、口論しているようなやりとりが辛うじて聞こえてくる。
「・・・まだかかりそうだな」
ルークはそう呟くと、熊肉を再度焼き始めた。
ミリーナとヒルダのためにずっと焼いていたため、ルーク自身はほとんど食べられていなかったのだ。
「ふぅ。お待たせルーク」
「悪かったな」
「気にしないで」
そうミリーナがヒルダを連れて来たのはルークが食べ終わって満腹になった頃であった。
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