戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

第111話 懐柔②

「・・・ゼーラの街の領主の知り合いだ」

ルークが肥え太った男・・・バストロの問いに答える。

「知り合いだと？舐めたことを言いよって」

バストロが吐き捨てるように言う。

（だが、この男ただ者じゃないな）

「まあいい。どうせそこの男に雇われたのだろう」

バストロがルークが保護しているケビンを指差しそう言う。

「・・・」

「どうだ？儂に使えぬか？その男から貰っている額の3倍は出すぞ」

沈黙を肯定と受け取ったバストロがルークを引き抜こうと交渉してきた。

「・・・断る」

「・・・そうか。馬鹿な奴よ。おい！」

バストロが私兵達の後ろに隠れながら声を出すと代りに隊長と思われる男が前に出る。

「へいへい。あんたには恨みはないが、死んでもらいますぜぃ」

飄々とした男がルークに声を掛ける。

「ああ。やってみろ。・・・あんたも大変だな」

ルークが雇い主を選べない立場の男を慮り同情する。

「・・・」

流石にこの場での肯定はできない隊長格の男は無言を貫く。

だが、ルークには隊長格の表情から指摘通りであることを悟った。

「やれぃ！」

隊長格が部下に指示を出すと一斉に矢がルークを目掛けて放たれる！

「ふっ！」

ルークが息を吐き出し、跳躍する。

ザク！

先ほどまでルークが居た地面に突き刺さる十数本の矢。

「「「ちぃ」」」

私兵達が改めて矢を放とうとする時には既にルークは穴を空けた壁から離脱していた。

「追いかけろぃ！！」

隊長格・・・アグラスが部下たちにルークを追うように指示を出す。

私兵達は警戒しながら隊列を組み移動をし始める。

ルークは自分の空けた穴から隣の部屋に移動すると扉の鍵を閉め、ケビンを床に座らせ声を掛ける。

「ケビン様、しばらくここに居てください」

「・・・分かった。君に任せよう」

ケビンは大人しくルークの言葉に従う。

ルークは壁に空けた穴から溢れるようにやってくる護衛達を相手に最後の戦いを始めたのだった。