9 / 354
第9話 敬礼
しおりを挟む
「「さあ、ルーク様あなたはもう自由です」」
あの裁判の後、あの2人の兵士に連れられルークは再び入り口まで来ていた。
「分かった」
そのまま立ち去ろうとすると声をかけられる。
「ルーク!」
振り返るとアジスが両手に何かを持った状態で走ってきていた。
「・・・アジス」
ルークとアジスは対峙する。
「すまなかった。本当に」
改めてアジスはルークに頭を下げる。
「・・・もういい」
アジスは顔を上げて、
「俺にも罰を与えてくれ」
“殴ってくれ”と言いたいのだろう。
だが、ルークは首をふる。
「・・・そうだな。なにか困ったことがあったときに助けてくれ。それで手打ちにしよう」
「・・・分かった。お前がそれでいいと言うなら」
アジスは渋々了承した。
そして両手に持っていた包みをルークに差し出す。
「これは?」
「裁判の後、大隊長に頼み込んでこれだけは貰えるようにしたんだ」
ルークはアジスから包みを受け取り、開ける。
「『鬼剣』か」
それは、戦場で数多の命を絶ち、と同時に数多の命を救ったルークの相棒とも呼べる剣であった。
見た目は単純な漆黒の諸刃の剣なのだが、特筆すべきはその硬度である。
特殊な製法で金属を圧縮に圧縮を重ねて作成してあり、剣の弱点とされる刃のない側面からの衝撃でも折れることはない。
事実、ルークは敵からの落石の攻撃を剣の腹で打ち返していたが『鬼剣』は傷一つつかなかった。
欠点とすれば、その重さだ。
尋常な重さではない。
一般人だったら、持ち上げることもできないだろう。
そんな剣をルークは片手で持ちあげる。
「せっかくで悪いが、これはアジスが預かっていてくれ」
ルークは軍を抜けるときにもう必要ないものだと置いてきていた。
その気持ちは今も変わらない。
「・・・わかった。必要になったら手紙をくれ。部下に運ばせる」
アジスは、もうここには来れないだろうルークに気を使った言い方をする。
「ああ。よろしく頼む」
ルークは『鬼剣』をアジスに渡す。
アジスは大事そうに両手で受け取る。
「じゃあ、な」
ルークはそう言うと、頼りなさげに歩いていった。
と、そこでアジスが声を上げる。
「皆の者、我らが英雄に敬礼!!!」
「「「ルーク様!お元気で!!!あなたのことは一生忘れません!!!ありがとうございました!!!」」」
アジスの号令で大音量の声が辺りに響き渡る。
ルークが驚いて振り返ると、軍から大勢の人間が出てきて一斉に敬礼をしていた。
数百レベルではない数千レベルの人数の兵士がそこら中から顔を出していた。
「く・・・馬鹿どもが」
この後あいつらはルークに対して敬礼した罪で、罰が与えられるだろう。
そんなことは構わないと言わんばかりに全員が全員敬礼したまま、ルークを見送っていた。
これ以上見ていられなくなったルークは後ろに手を上げながら、ゆっくりと離れていったのだった。
「行ってしまったな。・・・ザラスよ、お前はとんでもないことをしてくれたな」
支部長室の窓からその様子を見ながら、エルザ―ド大隊長は後ろに控えている男・・・ザラス副隊長に声を掛ける。
「・・・申し訳ございません」
ザラスは全身を包帯で巻いていた。全治2か月の重傷であった。
「ほう、悔いてはいるんだな」
「・・・はい」
正直なところザラスはルークが襲来するまで、そのことを忘れていた。
今までに罪の意識に耐えられなくなったアジスがルークに謝ろうと何度か言ってきたことはあったが、冗談ではない。今の地位が脅かされることなどして堪るものかと袖にしていた。
だが、ルークに殴られた後、アジスにルークの家族や許嫁の話を聞き、ザラスは後悔の念に苛まれていた。
「私にも、罰をお与えください」
ザラスはエルザ―ドに懇願する。
正直、エルザ―ドの裁量でルークの罪は『不問』とはしたものの銃殺刑になってもおかしくはなかった。
他の2つの支部、公国支部や教国支部の支部長だったら間違いなく銃殺刑にしていただろう。
「ふむ・・・ならば早く怪我を直し、今まで以上に私に貢献せよ。再び戦争が起きないように尽力したまえ」
それは、エルザ―ドの温情、ザラスはただただ頭を下げるのであった。
「・・・『剣鬼』不在と知って強国が再び攻めてこないといいんだがな」
ザラスが執務室を出た後、エルザ―ドはひとり呟く。
今回の件は、箝口令を出し支部外への漏洩防止をしたがそんなに長くは持たないだろう。
「今のうちに手を打っておく必要があるな」
そういうと、エルザ―ドは机に戻り、何かを書き始めたのだった。
あの裁判の後、あの2人の兵士に連れられルークは再び入り口まで来ていた。
「分かった」
そのまま立ち去ろうとすると声をかけられる。
「ルーク!」
振り返るとアジスが両手に何かを持った状態で走ってきていた。
「・・・アジス」
ルークとアジスは対峙する。
「すまなかった。本当に」
改めてアジスはルークに頭を下げる。
「・・・もういい」
アジスは顔を上げて、
「俺にも罰を与えてくれ」
“殴ってくれ”と言いたいのだろう。
だが、ルークは首をふる。
「・・・そうだな。なにか困ったことがあったときに助けてくれ。それで手打ちにしよう」
「・・・分かった。お前がそれでいいと言うなら」
アジスは渋々了承した。
そして両手に持っていた包みをルークに差し出す。
「これは?」
「裁判の後、大隊長に頼み込んでこれだけは貰えるようにしたんだ」
ルークはアジスから包みを受け取り、開ける。
「『鬼剣』か」
それは、戦場で数多の命を絶ち、と同時に数多の命を救ったルークの相棒とも呼べる剣であった。
見た目は単純な漆黒の諸刃の剣なのだが、特筆すべきはその硬度である。
特殊な製法で金属を圧縮に圧縮を重ねて作成してあり、剣の弱点とされる刃のない側面からの衝撃でも折れることはない。
事実、ルークは敵からの落石の攻撃を剣の腹で打ち返していたが『鬼剣』は傷一つつかなかった。
欠点とすれば、その重さだ。
尋常な重さではない。
一般人だったら、持ち上げることもできないだろう。
そんな剣をルークは片手で持ちあげる。
「せっかくで悪いが、これはアジスが預かっていてくれ」
ルークは軍を抜けるときにもう必要ないものだと置いてきていた。
その気持ちは今も変わらない。
「・・・わかった。必要になったら手紙をくれ。部下に運ばせる」
アジスは、もうここには来れないだろうルークに気を使った言い方をする。
「ああ。よろしく頼む」
ルークは『鬼剣』をアジスに渡す。
アジスは大事そうに両手で受け取る。
「じゃあ、な」
ルークはそう言うと、頼りなさげに歩いていった。
と、そこでアジスが声を上げる。
「皆の者、我らが英雄に敬礼!!!」
「「「ルーク様!お元気で!!!あなたのことは一生忘れません!!!ありがとうございました!!!」」」
アジスの号令で大音量の声が辺りに響き渡る。
ルークが驚いて振り返ると、軍から大勢の人間が出てきて一斉に敬礼をしていた。
数百レベルではない数千レベルの人数の兵士がそこら中から顔を出していた。
「く・・・馬鹿どもが」
この後あいつらはルークに対して敬礼した罪で、罰が与えられるだろう。
そんなことは構わないと言わんばかりに全員が全員敬礼したまま、ルークを見送っていた。
これ以上見ていられなくなったルークは後ろに手を上げながら、ゆっくりと離れていったのだった。
「行ってしまったな。・・・ザラスよ、お前はとんでもないことをしてくれたな」
支部長室の窓からその様子を見ながら、エルザ―ド大隊長は後ろに控えている男・・・ザラス副隊長に声を掛ける。
「・・・申し訳ございません」
ザラスは全身を包帯で巻いていた。全治2か月の重傷であった。
「ほう、悔いてはいるんだな」
「・・・はい」
正直なところザラスはルークが襲来するまで、そのことを忘れていた。
今までに罪の意識に耐えられなくなったアジスがルークに謝ろうと何度か言ってきたことはあったが、冗談ではない。今の地位が脅かされることなどして堪るものかと袖にしていた。
だが、ルークに殴られた後、アジスにルークの家族や許嫁の話を聞き、ザラスは後悔の念に苛まれていた。
「私にも、罰をお与えください」
ザラスはエルザ―ドに懇願する。
正直、エルザ―ドの裁量でルークの罪は『不問』とはしたものの銃殺刑になってもおかしくはなかった。
他の2つの支部、公国支部や教国支部の支部長だったら間違いなく銃殺刑にしていただろう。
「ふむ・・・ならば早く怪我を直し、今まで以上に私に貢献せよ。再び戦争が起きないように尽力したまえ」
それは、エルザ―ドの温情、ザラスはただただ頭を下げるのであった。
「・・・『剣鬼』不在と知って強国が再び攻めてこないといいんだがな」
ザラスが執務室を出た後、エルザ―ドはひとり呟く。
今回の件は、箝口令を出し支部外への漏洩防止をしたがそんなに長くは持たないだろう。
「今のうちに手を打っておく必要があるな」
そういうと、エルザ―ドは机に戻り、何かを書き始めたのだった。
11
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく
竹桜
ファンタジー
神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。
巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。
千年間も。
それなのに主人公は鍛錬をする。
1つのことだけを。
やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。
これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。
そして、主人公は至った力を存分に振るう。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?
雪詠
ファンタジー
大学受験に失敗し引きこもりになった男、石動健一は異世界に迷い込んでしまった。
特殊な力も無く、言葉も分からない彼は、怪物や未知の病に見舞われ何度も死にかけるが、そんな中吸血鬼の王を名乗る者と出会い、とある取引を持ちかけられる。
その内容は、安全と力を与えられる代わりに彼に絶対服従することだった!
吸血鬼の王、王の娘、宿敵、獣人のメイド、様々な者たちと関わる彼は、夢と希望に満ち溢れた異世界ライフを手にすることが出来るのだろうか?
※こちらの作品は他サイト様でも連載しております。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる