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第13話

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「あんたこそなんで、こんなに手間取っていたの?」



「実は・・・何かの手違いで、一部屋しか予約がされていなかったので、なんとかしてもらおうと粘っていたのですが、やはりどうにもなりませんでした」



「そう、じゃあ相部屋にする?」



あたしのナイスな提案に、ギルバートはこれ以上ないほど顔を赤くして、



「めっ、滅相もございません。私のことなど、馬車にて夜を明かすので心配なされないでください。では、失礼いたします」



そういって、食事も取らぬまま、店の外へ出ていってしまった。なにも、食事くらい取ればいいのに・・・ちょっとからかいすぎたかしら?



「隣の席いい?マーヘン・リバースさん」



その声は、あたしがギルバートを連れ戻そうとしたときに掛けられた。



「ええ、どうぞ」



さっきの大男なら、間違いなく動揺の色を見せただろうが、あたしは自分を制御して表面上、平静を保った。



なんであたしの名前を知っている?



内心ではそんなことを考えながら、声をかけてきた人物・・・さっき、驚くほどの立ち回りを見せた少年をじっくり観察した。



年はどうみても十歳近くだろろう、使い込まれたゆったりとした白い服・・・色は褪せてきている・・・を上下ともに着ている。

荷物は革製の袋一つみたいで、ほかには何ももっていなかった。特に目を引くのは、髪と同じ色をした漆黒の目であった。



「坊や、あたしに何か用?」



「うん、ありがとうと言いたくて来たんだ」



「ありがとう?」



少年が音程がわずかに狂った声で訳のわからないことを言ってくる。あたしをからかってるのかしら。



「そう。さっきマーヘンさんは僕の代わりにあの人たちをどうにかしようとしてくれたでしょ?まあ、面倒だけどって感じだったけど・・・」



あたしは、久々にかなり驚いた。

たしかに、男たちが店を出ようとしたときにそんなようなことを一人ごちた。だがそれは誰にも聞こえないようにだ。だけどこの少年はそのことを把握している。これを驚かずにいられるだろうか、だがなんとかそのことをも顔に出さずに、少年に尋ねる。



「よくわかったわね。どうして?」



「ちょっと違うけど、分かりやすく言えば唇を読んだって感じだよ。ちなみに、名前はさっき食事を勧めてくれた人から聞いたんだ。驚いたよ、まさかこんなところで『速切りのマーヘン』に逢えるなんて」



やや音程の狂った声で少年がさらりと言う。

この子、あたしの通り名を知ってる!しかも、あの状態で、唇を読んだですって!?

あたしには考えられなかった、たしかに戦場では常に相手の動向を伺う必要がある。しかし、それはあくまで動作であって、唇を読むなんていうのは含まれていない。



ん、まてよ・・・あたしは不意に、過去に一度だけ、すべての事柄がわかったときがあったことを思い出した。



確かあれは、あたしが十五のときだった、そのときは食料の輸送の護衛をしていて、前方に崖が見えてきた頃、あたしが一人で先に様子を見にいくことになったのだ。



不覚にも、あたしは食料を強奪しようとしている輩がいることに気付かず、相手が護衛であるあたしを亡きものとしようと大小無数の岩を落としたしてきたのだ。



さすがのあたしも今度ばかりは死ぬと思った。



無駄なあがきでもできるだけ、避けてやろうと身構えたとき、それは起こった。



辺りの景色が消え、音もない白い世界、あるのはやけに遅く落下してくる岩とあたしの姿のみ。すべてを避けたあと、もとの世界に戻ったのだった。



そのあとは、これ幸いと、崖をよじ登り、あたしを殺そうとした輩をとっ捕まえた。



あの時は、あまり気にしなかったけども・・・もしこの少年がそれに近いことが普段からできる素質を持つルフトだったのなら、すべてのつじつまは合うわね。
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