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続けていた抵抗
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こんな事をしたからと言って、月から逃れられない運命だとはもうわかっている。だけど一応の抵抗はまだしていた。
こんな小さな抵抗を講じたのはもう何度目かわからない。
睦と子鬼との三人暮らしの家は、部屋数だけは余裕があるが二階にあるのは二部屋だけ。涼丸が子供の頃から使っていた部屋とは別に空いている部屋がある。ガランとしたそこにあるのはカラーボックスと扇風機くらいだ。
急角度の狭い階段を上がった先に一畳ほどの廊下が続き、両側に部屋がある造りになっているのだが、そこで、いつも眠っている自分の部屋から隣へと移ってみたのは浅はかな思いつきだった。
そんな小細工をした所で何でもお見通しっぽい月にはバレてしまのだろうけど、ちょっとした仕返しくらいになったらラッキーくらいに思った。
そして、そんな慣れない事をしてしまったせいか、環境が変わってしまったせいか、気になって寝付けないと言う事態に陥ってしまっていた。
僕はあほだ。
いつもとは布団も枕も違うせいか寝返りばかり打って体の位置を調整してしまう。眠る場所が変わったくらいでこうなるほど繊細なつもりはないから、やはり月を意識しすぎているのだろう。
来るか来ないのかもわからないのに。
やれやれ……
枕元の目覚ましを確認し日付が変わった頃だとわかると、焦る気持ちが少し減った。今から隣の部屋に戻れば朝まで充分な睡眠が確保できる。
思いつきで事をするべきではないのだと納得して、頭をかき体を起こし目覚ましを持って襖を開けると、月が目の前に立っていた。
ひっ……!
常識的な涼丸は、下には睦がいる月日がいると、とっさに口を押さえたせいか、代わりにシャツを湿らせるほどの汗が背中からふき出した。
月がいた事に驚いたと言うより、すっかり気の抜けている所で、思わぬタイミングで出くわした事に不意を突かれたのだ。
「出迎えか。丸にしては良い心掛けだ」
月の体はいつもの涼丸の部屋へと向いていたが、反対側の襖が自動的に空いた事で、何の疑問もなく涼丸の体の横をすり抜け中へ入っていって布団に腰を落ち着けている。
「あ、僕、何か持ってきます」
最近は鬼がやってくる事に慣れてしまったのか、もてなしの準備をこうして忘れてしまう事がたまにある。
「……よい。座れ」
準備を怠った事で月のご機嫌を損ねた事はないのだが、今夜は少し違うようだ。言葉に不満が滲んで、それが月を囲む空気を汚染しているように見える。つまり、ぶさっくれているのだ。
ちょっとの時間ですから待っててください、なんて言おう物ならこの鬼は更にむっとするのだろうと、大人しく従う事にした。
「どうかしましたか?」
場所は違うが、いつものように南の窓に向かって胡坐をかいている。顔の角度は上がり空を見ていたが、涼丸の問いの後にたっぷり時間を取ってから顔を向けた。
「丸よ、今宵は、随分……賑やかであったようだな」
「は?」
まるで隠し事があるのなら、悪い事は言わないから今のうちに告白しておけ、と言う意味を含んでいるように聞こえるのは、言葉をやけに区切って言うからだ。そして涼丸にはまったく身に覚えはない。
「カレー、じゃないですよね?」
夕飯はカレーだった。
月日には人気キャラの絵がついている甘口アンポンタンカレーを出し、オマケについていたアンポンシールを頬に貼っていたのが超可愛いと、睦と二人で盛り上がったその件の事だろうかと思ったのだが、当然まったく違うのだろう。
「察しの悪い男だ。夕時、山がやけに騒がしく煙がたっておった故、奇襲であればこのボロ小屋もすでに敵に堕ちているだろうと思うてな」
「奇襲って、うちは一体誰と戦ってるんですか。攻撃を受けていると思ったのなら、すぐに来てくださいよ」
「決して臆したわけではない。すぐに丸の発する間抜けな奇声が届き、大事ないと判断した。しかし、ようやく日が落ちここへ来てみれば、火薬の臭いが残っているではないか」
「火薬……」
「水に浮かぶ、捨て置かれた残滓があった」
「ああ、花火ですね」
車検のおまけにもらったお子様花火セットがあったから、カレーを食べた後に三人で手持ち花火を楽しんだのだ。煙や臭いは出るけれど、気を遣う必要がないほどお隣さんとは離れている。
たまにどこからかもくもくと煙が上がっている事があるのだが、それにはもれなく焼き魚や肉の臭いがついてくるのが常。針地区でもこの辺りは子供世帯がないので、花火の気配をさせるのはこの家だけだ。
色味も豊かで意外にも迫力のある花火を月日はいたく気にいり、しゃがんでじいっと弾ける炎の先を凝視していた。
燃焼が終わると水を張ったバケツにつっこみ、ジュッと音をさせるまでの手順も飽きる事なく繰り返していた。
『おーい、月日、見て!』
花火の両手持ちや腕をぐるぐる回す、なんて最もやってはいけない事をして見せたせいか、月日に邪道を見るような視線を向けられ大人しく反省した。そんな月日と涼丸の姿を眺めて睦はビールを飲み夏の夜を楽しんでいたのだ。
ただし睦が職場の同僚にもらってきたという投げ玉だけは失敗だった。
一センチほどの球形の玉は光はしないが、衝撃を与えると空を切り裂くようなバチッという派手な音を立てるのだが、最初のひとつが成功しただけで、残りの十数個は車庫の横にあるスチールの物置にぶつけても破裂せず、庭のあちこちに跳ね返って終わったのだ。
古いやつだったのかもしれないね、と睦が言うので小さな花火大会はそこで終わり、最後にホースで水を撒いたのだった。
「のう、丸よ。今時の花火は多様な色がついていると聞くがまことか。昔は赤銅のみであったのだが」
「色は僕が子供だった頃よりも進化してますよ。月日がとても喜んで」
「ほう」
「だから残ってないです」
ちっ。
聞き逃しようのないはっきりとした舌打ちが月から漏れた。もう残りはないのだと言う宣告に気を悪くしたのだろう。まるで子供な態度に笑いだしそうになってしまう。
大方、火薬の臭いにあてられ、体が高ぶり悪い血が騒いだのだろう。癒しが得意な事とは裏腹に、この鬼は不遜で強気な所ばかりだ。
「今度する時には月の分を残しておきます。だから機嫌を直しましょうよ」
「私は花火ごときで世を拗ね恨みはせん。分身である月日たりとも許さぬ!……とも思っておらん」
だったら花火ごときでそんな不穏な言葉を持ち出さないでほしい。
本当はすごくしたかったんだろうな……
「だったら打ち上げ花火でいいじゃないですか。夏はまだまだ終わりません。これからも花火大会は沢山ありますよ」
「生憎だが、この体の状態では山からは出られぬ」
「嘘……そうなの」
自分がとんでもない事を言ってしまった気がして、月の顔を見たまま瞬きもできなくなる。夜であれば自由に動けるのだと思っていた。それが昼だけでなく、この場所からも出る事ができないなんて。
「丸のその顔は愉快。しかし、同情を嫌う者もおる、心せよ」
「あの、そんなつもりはなかったんだけど、ごめんなさい」
「人は他人が当たり前に持っていて、その幸運にも気付かずにいる事に強く嫉妬する。当たり前でない物を当たり前に持っている者を恨む。丸はそれを引き寄せやすかったのかもしれん」
「それってどういう意味ですか?」
「わからんか」
月は涼丸の肩に手を置き、そこから首を通り、しっとりした頬をぎゅっと押さえ、鼻先が触れるかと思うほど顔を接近させてきた。
月の息が触れる。
「こうしているだけで生気が流れ込んでくる。この清さを羨み牙を剥く下衆《げす》もおろう」
その指先が遊ぶように悪戯に動く。言葉に熱でもあるかのようにあてられ、涼丸の瞳は揺れる。
振り払う為に上げた手はすぐに力を失い、月の手首にすがるようにかかるだけになってしまった。
「もよおしたか?」
涼丸の下半身の小さな童が、薄衣をわずかに押し上げていた。月の視線は一度も下に降りていなのに感づいたのは、人ではわからないほどの分泌を嗅ぎ取ったからだろうか。
「私に花火を見せたいと言うのであれば、丸、できる事はただひとつ」
私を慰めよ……
あっと思った時には天井を向いていて、いつものように身ぐるみ剥がされ、執拗に解され、息が止まるほど深く繋がっていた。
お腹の奥でパチパチと弾け続ける快感に、月日の手がもっていた小さな花火を重ね合わせてしまう事に罪悪感を覚える。
しかし次々と襲ってくる流れに揉まれているうちに、透明な液を吐きだしながら崩れるように意識を失ってしまっていた。
どれだけ乱れた夜であっても、月の肌は冷たいまま。決して熱くはならない肌に触れられるのは、人と鬼との違いを見せつけられているようだった。
そして意識は沈んだ。
バチッ、バチッ……バチッ! バチッ!
澄んだ空気の中をどこまでも遠く通る不躾な音が、涼丸の腕を取り眠りの浅い場所まで無理矢理引き上げてくる。
夏休み中の学生が山で爆竹でも鳴らしているのか、いい迷惑だと思いながら涼丸は枕を抱え直し、また深く沈んでいった。
とにかく眠いし、体の節々が痛むのだ。
タオルケットを引き寄せ、素肌にまとわりつかせる。
外から聞こえてくる賑やかな音が近く、月が不発だった投げ玉をうっかり踏みしめたのだとは思いも及ばない事だった。
思わぬ形で意趣返しされていた月だったが、大きく動じる事はなく足元の小さな粒を次々に見つけてはぐいと力を込めて潰していた。
片腹痛いわ……このような小賢しい仕掛けをつぶすなど、造作もない……
月は何かと闘っていた。
通販の梱包についてくる気泡のプチプチシートを懸命に潰すような、どこか中毒に犯されているような無邪気とも言える姿を、涼丸は見る事ができなかった。
こんな小さな抵抗を講じたのはもう何度目かわからない。
睦と子鬼との三人暮らしの家は、部屋数だけは余裕があるが二階にあるのは二部屋だけ。涼丸が子供の頃から使っていた部屋とは別に空いている部屋がある。ガランとしたそこにあるのはカラーボックスと扇風機くらいだ。
急角度の狭い階段を上がった先に一畳ほどの廊下が続き、両側に部屋がある造りになっているのだが、そこで、いつも眠っている自分の部屋から隣へと移ってみたのは浅はかな思いつきだった。
そんな小細工をした所で何でもお見通しっぽい月にはバレてしまのだろうけど、ちょっとした仕返しくらいになったらラッキーくらいに思った。
そして、そんな慣れない事をしてしまったせいか、環境が変わってしまったせいか、気になって寝付けないと言う事態に陥ってしまっていた。
僕はあほだ。
いつもとは布団も枕も違うせいか寝返りばかり打って体の位置を調整してしまう。眠る場所が変わったくらいでこうなるほど繊細なつもりはないから、やはり月を意識しすぎているのだろう。
来るか来ないのかもわからないのに。
やれやれ……
枕元の目覚ましを確認し日付が変わった頃だとわかると、焦る気持ちが少し減った。今から隣の部屋に戻れば朝まで充分な睡眠が確保できる。
思いつきで事をするべきではないのだと納得して、頭をかき体を起こし目覚ましを持って襖を開けると、月が目の前に立っていた。
ひっ……!
常識的な涼丸は、下には睦がいる月日がいると、とっさに口を押さえたせいか、代わりにシャツを湿らせるほどの汗が背中からふき出した。
月がいた事に驚いたと言うより、すっかり気の抜けている所で、思わぬタイミングで出くわした事に不意を突かれたのだ。
「出迎えか。丸にしては良い心掛けだ」
月の体はいつもの涼丸の部屋へと向いていたが、反対側の襖が自動的に空いた事で、何の疑問もなく涼丸の体の横をすり抜け中へ入っていって布団に腰を落ち着けている。
「あ、僕、何か持ってきます」
最近は鬼がやってくる事に慣れてしまったのか、もてなしの準備をこうして忘れてしまう事がたまにある。
「……よい。座れ」
準備を怠った事で月のご機嫌を損ねた事はないのだが、今夜は少し違うようだ。言葉に不満が滲んで、それが月を囲む空気を汚染しているように見える。つまり、ぶさっくれているのだ。
ちょっとの時間ですから待っててください、なんて言おう物ならこの鬼は更にむっとするのだろうと、大人しく従う事にした。
「どうかしましたか?」
場所は違うが、いつものように南の窓に向かって胡坐をかいている。顔の角度は上がり空を見ていたが、涼丸の問いの後にたっぷり時間を取ってから顔を向けた。
「丸よ、今宵は、随分……賑やかであったようだな」
「は?」
まるで隠し事があるのなら、悪い事は言わないから今のうちに告白しておけ、と言う意味を含んでいるように聞こえるのは、言葉をやけに区切って言うからだ。そして涼丸にはまったく身に覚えはない。
「カレー、じゃないですよね?」
夕飯はカレーだった。
月日には人気キャラの絵がついている甘口アンポンタンカレーを出し、オマケについていたアンポンシールを頬に貼っていたのが超可愛いと、睦と二人で盛り上がったその件の事だろうかと思ったのだが、当然まったく違うのだろう。
「察しの悪い男だ。夕時、山がやけに騒がしく煙がたっておった故、奇襲であればこのボロ小屋もすでに敵に堕ちているだろうと思うてな」
「奇襲って、うちは一体誰と戦ってるんですか。攻撃を受けていると思ったのなら、すぐに来てくださいよ」
「決して臆したわけではない。すぐに丸の発する間抜けな奇声が届き、大事ないと判断した。しかし、ようやく日が落ちここへ来てみれば、火薬の臭いが残っているではないか」
「火薬……」
「水に浮かぶ、捨て置かれた残滓があった」
「ああ、花火ですね」
車検のおまけにもらったお子様花火セットがあったから、カレーを食べた後に三人で手持ち花火を楽しんだのだ。煙や臭いは出るけれど、気を遣う必要がないほどお隣さんとは離れている。
たまにどこからかもくもくと煙が上がっている事があるのだが、それにはもれなく焼き魚や肉の臭いがついてくるのが常。針地区でもこの辺りは子供世帯がないので、花火の気配をさせるのはこの家だけだ。
色味も豊かで意外にも迫力のある花火を月日はいたく気にいり、しゃがんでじいっと弾ける炎の先を凝視していた。
燃焼が終わると水を張ったバケツにつっこみ、ジュッと音をさせるまでの手順も飽きる事なく繰り返していた。
『おーい、月日、見て!』
花火の両手持ちや腕をぐるぐる回す、なんて最もやってはいけない事をして見せたせいか、月日に邪道を見るような視線を向けられ大人しく反省した。そんな月日と涼丸の姿を眺めて睦はビールを飲み夏の夜を楽しんでいたのだ。
ただし睦が職場の同僚にもらってきたという投げ玉だけは失敗だった。
一センチほどの球形の玉は光はしないが、衝撃を与えると空を切り裂くようなバチッという派手な音を立てるのだが、最初のひとつが成功しただけで、残りの十数個は車庫の横にあるスチールの物置にぶつけても破裂せず、庭のあちこちに跳ね返って終わったのだ。
古いやつだったのかもしれないね、と睦が言うので小さな花火大会はそこで終わり、最後にホースで水を撒いたのだった。
「のう、丸よ。今時の花火は多様な色がついていると聞くがまことか。昔は赤銅のみであったのだが」
「色は僕が子供だった頃よりも進化してますよ。月日がとても喜んで」
「ほう」
「だから残ってないです」
ちっ。
聞き逃しようのないはっきりとした舌打ちが月から漏れた。もう残りはないのだと言う宣告に気を悪くしたのだろう。まるで子供な態度に笑いだしそうになってしまう。
大方、火薬の臭いにあてられ、体が高ぶり悪い血が騒いだのだろう。癒しが得意な事とは裏腹に、この鬼は不遜で強気な所ばかりだ。
「今度する時には月の分を残しておきます。だから機嫌を直しましょうよ」
「私は花火ごときで世を拗ね恨みはせん。分身である月日たりとも許さぬ!……とも思っておらん」
だったら花火ごときでそんな不穏な言葉を持ち出さないでほしい。
本当はすごくしたかったんだろうな……
「だったら打ち上げ花火でいいじゃないですか。夏はまだまだ終わりません。これからも花火大会は沢山ありますよ」
「生憎だが、この体の状態では山からは出られぬ」
「嘘……そうなの」
自分がとんでもない事を言ってしまった気がして、月の顔を見たまま瞬きもできなくなる。夜であれば自由に動けるのだと思っていた。それが昼だけでなく、この場所からも出る事ができないなんて。
「丸のその顔は愉快。しかし、同情を嫌う者もおる、心せよ」
「あの、そんなつもりはなかったんだけど、ごめんなさい」
「人は他人が当たり前に持っていて、その幸運にも気付かずにいる事に強く嫉妬する。当たり前でない物を当たり前に持っている者を恨む。丸はそれを引き寄せやすかったのかもしれん」
「それってどういう意味ですか?」
「わからんか」
月は涼丸の肩に手を置き、そこから首を通り、しっとりした頬をぎゅっと押さえ、鼻先が触れるかと思うほど顔を接近させてきた。
月の息が触れる。
「こうしているだけで生気が流れ込んでくる。この清さを羨み牙を剥く下衆《げす》もおろう」
その指先が遊ぶように悪戯に動く。言葉に熱でもあるかのようにあてられ、涼丸の瞳は揺れる。
振り払う為に上げた手はすぐに力を失い、月の手首にすがるようにかかるだけになってしまった。
「もよおしたか?」
涼丸の下半身の小さな童が、薄衣をわずかに押し上げていた。月の視線は一度も下に降りていなのに感づいたのは、人ではわからないほどの分泌を嗅ぎ取ったからだろうか。
「私に花火を見せたいと言うのであれば、丸、できる事はただひとつ」
私を慰めよ……
あっと思った時には天井を向いていて、いつものように身ぐるみ剥がされ、執拗に解され、息が止まるほど深く繋がっていた。
お腹の奥でパチパチと弾け続ける快感に、月日の手がもっていた小さな花火を重ね合わせてしまう事に罪悪感を覚える。
しかし次々と襲ってくる流れに揉まれているうちに、透明な液を吐きだしながら崩れるように意識を失ってしまっていた。
どれだけ乱れた夜であっても、月の肌は冷たいまま。決して熱くはならない肌に触れられるのは、人と鬼との違いを見せつけられているようだった。
そして意識は沈んだ。
バチッ、バチッ……バチッ! バチッ!
澄んだ空気の中をどこまでも遠く通る不躾な音が、涼丸の腕を取り眠りの浅い場所まで無理矢理引き上げてくる。
夏休み中の学生が山で爆竹でも鳴らしているのか、いい迷惑だと思いながら涼丸は枕を抱え直し、また深く沈んでいった。
とにかく眠いし、体の節々が痛むのだ。
タオルケットを引き寄せ、素肌にまとわりつかせる。
外から聞こえてくる賑やかな音が近く、月が不発だった投げ玉をうっかり踏みしめたのだとは思いも及ばない事だった。
思わぬ形で意趣返しされていた月だったが、大きく動じる事はなく足元の小さな粒を次々に見つけてはぐいと力を込めて潰していた。
片腹痛いわ……このような小賢しい仕掛けをつぶすなど、造作もない……
月は何かと闘っていた。
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