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20 セフレ
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直前までやってたからいいけど、いきなり突っ込まれると息が止まる。でも流石医者っていうか、俺の体を知り尽しているというか、プロというか、無理のない角度を狙って入ってきている。だから入り口さえ突破すれば一気に奥まで入ってしまう。
しかも生だ。
薄い膜がないから熱がダイレクトに伝わる。
最初の時みたいに心臓がばくばくして、侵入してきた熱に体が喜んでいるのがわかる。
小刻みに腰を動かされ、俺の出す粘液が腹の奥でくちゅくちゅ音をさせた。
奥は好きだ。体の持ち主である俺でさえ知らない場所を他人に明け渡すのは快感しかない。ここを気持ちよくしてもらっているんだから、他は目をつぶろうと思ってしまう。
真二さんのものは元夫より長い。奥まった場所にあるΩの子宮に種付けすることを考えれば、生殖においてより長い方が優秀だ。Ωを喜ばせるという点でも。
すごっ……
ねっとりとした腰つきで揺らされて、種をもらう準備として俺の子宮が降りてきている。どうしてわかるのか、そこがαの先とオウトツのように噛み合うってはまる瞬間があるからだ。
「うあっ、あっあっ、あっ」
気持ちいい。そこは俺が思考停止するスイッチだ。
「ん、いやいや……」
ちゅっと惹きあうようにくっつくのに、喜びに震えているとすぐに離れてしまう。小突かないでいいから、にゅってくっつけていて欲しい。
「やぁ……ここ、そこ……ちがっ……やぁ、あっ」
視界に入った真二さんの手を掴んで奪いぺろぺろ舐める。自分でも何でこんな事してんのかわからない。
「フミが猫になったな。私もそろそろ限界だ」
彼の言う限界は吐精しそうという意味じゃない。生ぬるいセックスを続けるのが限界ってこと。
繋がったままで上体を強引に起こされて、ベッドから立ち上がり壁際へと引きずられる。その間、俺は自分の頭が上を向いているのか下を向いているのかわからない。
導かれて両手を壁につく。真二さんは背が高いから俺を下から上へと突く動作になる。
「んっんっ、うああああっ」
破れる。腹が破れる。
俺の体を貫いて口からちんぽの先が出るんじゃないかって、殺されるんじゃないかってほど暴力的な出入り。
体がぶつかる音が低く規則的に続く。
でも俺の体は喜んでいて、つぅっと液が垂れていく。何本も筋を作って垂れて糸を引く。時にごふっと溢れる。
「あんあんあんっ」
手だけでなく額まで壁につけて支えてるのに、徐々に上へと位置がずれる。
かろうじてつま先で立っていたのに、もう足先は床に届かない。
くっ。
俺は真二さんのちんぽで壁に向かって串刺しにされている。信じられない。
「フミ、すごい……これなら瘤まで飲み込めそうだな」
真二さんも驚いたみたいで、でも蕩けた声で囁くから力が抜ける。
俺が倒れてしまわないように、腰に両手が回される。この危険な姿勢からはまだ解放されないようだ。
こんなアクロバティックなのが許されるのは、先生が俺の体を知り尽くしているからだ。
こんなプレイも俺は普通に許す。痛みがないから許すけど、αの瘤を入れられるのはお断りだ。そこまでのハードモードには付き合いきれない。
「たま、たまは、いやっ、いやっ、やっ、入れないで」
「にゃあにゃあ鳴くな」
スピードが落ちてゆっさゆっさされて、外から腹を撫でられて、声、出ない。
俺の声が真二さんにはニャーニャーと聞こえるみたいで、いつも猫と言われてしまう。
「フミには物足りないだろう」
「ちがっ、たりて、る。だめ、だっ」
宙に浮いていた足が床についたと思ったら、尻のあたりを真二さんの手がはいまわっている。
俺の片っぽの尻たぶを持ちあげて、自分の瘤をごりごりと……
「やだって、言ってるぅ。いれちゃだめ。いれるなぁ」
かちかちの塊を入れられそうになってまじでびびる。そりゃ俺はそこから四人出してるけど無理。絶対にそれは無理。
ぴーぴー泣き出すとようやく手を止めてくれた。それまでは気持ち良くて天国の扉まで見えたのに、最後に泣かすなよ。
「悪い。イヤイヤ言ってかわいいから、遊びが過ぎた。本気じゃない。ごめん」
「そんなのわかるか。冗談にもならない! Ωの医者ならもっとΩを思いやれ。こんな事を遊びって言うならもう会わない!」
ばしっと言い切ると真二さんの動きは止まり、悪い許してくれごめんを繰り返して、ぎゅっと抱きしめるだけになった。
「すまない。フミに、甘えてしまった」
「まじでやめろ……二度目はないから」
「わかった。試すような事は言わない。二度としないと誓う」
ただでさえ多産なΩで局所的に有名人なのに、その上瘤も受け入れ可能になっちゃったら、自分の存在が嫌になってしまう。
もう、今日はやりたくない。
「もう俺……んっ」
やりたくないって思ってるのにベッドに押し倒される。真二さんのちんぽはずっと俺の中に入りっぱなし。で、ごりごりしてくるから、体は喜んでしまう。
「不安にさせた詫びに、フミが気持ちいいだけにしよう」
「それって最初の時みたいのですか?」
優しい大人のセックスなのか、その辺はしっかり確認しとく。
前と後ろの穴から溢れる汁。とろとろぴゅーっのコースだったらお断りしたい。あちこち濡れるし、子供じゃないのにおしっこ出るとか恥ずかしいから。
「最初の時みたいな、まったりしたやつ」
だったらよろしくお願いしますと、俺は自分の上にのっかる真二さんの背中に腕を回した。
「フミはこれが好きなのか?」
声が耳にかかり、真二さんが規則的に出入りする。緩やかな快感に目を閉じて流れにのる。
「体も楽だし、慣れてもいるから」
「前の旦那?」
「あの人は変化なく真面目に正面から突いて、俺を何度いかせられるかを楽しんでたような気がします。ベッドじゃない場所とか色んな体位をしたのは真二さんが初めてですよ……んんっ」
俺の中が勝手にしまって自滅するみたいに声が漏れる。
よしよしするみたいに髪を撫でられて、顔中にキスをされる。
ゆっくり体温が上がってきて頬が熱くなる。
「んぁ……真二さん……いきそう」
指と指を絡めるようにして繋がれ、顔の両側で縫いとめられる。
本当は激しく動きたいのに我慢してくれているんだろう。俺の胸の丘にあるぷっくりした乳首を甘噛みする。
「あっあっあっ……はっはっ……んんっ……くっ、いくっ、いくっ……あっ」
俺の声や肌の血色でイク瞬間がわかったのか、生真面目な前後運動に少しの変化をいれて二人で同時に達していた。
達した後も抜かずに抱き合っていられたのはゴムがなかったからだ。
ドクドク煩いのは心臓じゃなくて繋がっている部分。そこからゆっくりと二人の境目がなくなり溶け合い、もう引き剥がせなくなったような気がした。
ゆったりエッチでも事後はやっぱりだるい。怖くて泣いたし。
「フミ、体起こして口空けて。はい、あーん」
「こう?」
まるで小児科の先生みたいに言うから半笑いで口をあける。
「舌だして」
ぺろっと出すと、舌の上に何かの感触。触れている場所からじわじわと溶けて舌に張りつく感覚。
「これって?」
舌を格納せずもごもご喋る。
「避妊薬」
「ふうん」
渡された水のボトルを受け取り、喉を広げて薬を飲みくだす。小さな粒だったのか苦もなく食道を流れていくのがわかった。
上半身を支えていた肘から力を抜いて、またベッドにつっぷす。
聞かなくても避妊薬だと想像ついてた。終わった直後に媚薬仕込まれるとは考えられないし、相手は先生だし。
避妊大事。絶対にゴムするマンの真二さんとゴムなしでやったのは初めてだ。
今も俺の腹の中は彼の精子がたぷたぷに満たされている。発情期でなくても妊娠の可能性があるのだから当然の処置だろう。俺たちは夫婦でも恋人でもない。
いつもこんなものを持ち歩いているのだろうか。職業柄とはいいにくいけど、マナーのある大人として評価はできるのかもしれない。
それはわかるんだけど、副作用が出るときもあるし、その後の体調不良とかの責任をすべてΩが引き受けなきゃいけないのは複雑ではある。
でもこれが理由で先生へ不信感を持つことはない。先生との関係は心地いい、というか楽だ。何より気持ちいい。
俺の体をわかっていて、家庭の事情もある程度知っている。郁也のお迎えの時間も把握している。
先生に対して見栄を張るとか、対等でいたいって気持ちもわかないから、俺が安心してセックスに没頭できる相手はこの人以外にいない。
体だけ持って行けば部屋かホテルに連れてってくれるし、気持ち良くしてくれるし、たまに健康相談もあって、腹が減ってたらルームサービスを食わせてくれる。
もう誰かとセックスする事はないと思ってた……
先生は脱力したままの俺の体を濡れタオルで拭き、最後に精液が垂れてくる下半身に軽く巻き付ける。
フンドシかよ。
笑ってしまうけど、こうしてかいがいしく世話を焼く先生は楽しそうにも見える。
その間俺は俺で先生の顔をただ見る。うちの家庭にはない顔立ちについ見惚れてしまう。
いつもこんな男前とやってんだな。
結婚して子供を授かった。その後も優しい人達と出会った。
これで俺の運は使い果たしてしまったはずだったのに、どういうわけか再び上位のαと関係している。不思議だ。
「なあ、来月の頭に会えるか?」
「来月ですか」
真二さんがそんなふうに誘ってくるのは初めてだ。確実な休みが取れそうなんだろうか。
頭の中で家の冷蔵庫にマグネットで貼りつけている予定表を思い浮かべる。今月来月は学校行事も懇談もなく空白が続いていたはずだ。
「基本大きな予定はないんですけど……その辺りはちょっと空けておきたいので、うーん」
「何かあるのか? 元の旦那に関係しているとか」
すねるような口ぶりをするから驚いてしまう。
「えっとですね、俺にも友達という存在がありまして。その辺の日程で食事をする予定が入りそうなんです」
「友達? 私よりそっちを優先すると?」
「当然でしょう、佐保さんは特別なんです。それに家族ぐるみの付き合いですから。特に上の子とは波長が合うみたいだし」
「αなのか?」
「ええたぶん。先生がどんな人を想像しているかわかりませんが五十代の男性ですよ。俺が離婚してから知り合ったし、年の差がある分だけ楽なんです」
「そのαに狙われているんじゃないのか。五十代はまだ若い。性機能は十分ある。妊娠させることもできる」
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しかも相手は佐保さん、ないない。絶対にないと言い切れる。
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「しかしそれは息子たちが盾になっているんじゃないか」
「それもないです。先生って心配性ですね」
俺の大事な佐保さんを怪しむし、先生はちょっと考えすぎだ。俺のことを衝撃の平凡と言ったくせに、佐保さんの話をした途端αに狙われるとか言い出すし。わけがわからん。
「佐保さんとの約束が決まったら、その後に先生との予定を入れますね」
真二さんって呼んでいたはずが先生呼びに戻っていた。診察の時にうっかり真二さんなんて口をついたらまずいし、先生も気付いてないからこのままでいよう。それが平和だ。
しかも生だ。
薄い膜がないから熱がダイレクトに伝わる。
最初の時みたいに心臓がばくばくして、侵入してきた熱に体が喜んでいるのがわかる。
小刻みに腰を動かされ、俺の出す粘液が腹の奥でくちゅくちゅ音をさせた。
奥は好きだ。体の持ち主である俺でさえ知らない場所を他人に明け渡すのは快感しかない。ここを気持ちよくしてもらっているんだから、他は目をつぶろうと思ってしまう。
真二さんのものは元夫より長い。奥まった場所にあるΩの子宮に種付けすることを考えれば、生殖においてより長い方が優秀だ。Ωを喜ばせるという点でも。
すごっ……
ねっとりとした腰つきで揺らされて、種をもらう準備として俺の子宮が降りてきている。どうしてわかるのか、そこがαの先とオウトツのように噛み合うってはまる瞬間があるからだ。
「うあっ、あっあっ、あっ」
気持ちいい。そこは俺が思考停止するスイッチだ。
「ん、いやいや……」
ちゅっと惹きあうようにくっつくのに、喜びに震えているとすぐに離れてしまう。小突かないでいいから、にゅってくっつけていて欲しい。
「やぁ……ここ、そこ……ちがっ……やぁ、あっ」
視界に入った真二さんの手を掴んで奪いぺろぺろ舐める。自分でも何でこんな事してんのかわからない。
「フミが猫になったな。私もそろそろ限界だ」
彼の言う限界は吐精しそうという意味じゃない。生ぬるいセックスを続けるのが限界ってこと。
繋がったままで上体を強引に起こされて、ベッドから立ち上がり壁際へと引きずられる。その間、俺は自分の頭が上を向いているのか下を向いているのかわからない。
導かれて両手を壁につく。真二さんは背が高いから俺を下から上へと突く動作になる。
「んっんっ、うああああっ」
破れる。腹が破れる。
俺の体を貫いて口からちんぽの先が出るんじゃないかって、殺されるんじゃないかってほど暴力的な出入り。
体がぶつかる音が低く規則的に続く。
でも俺の体は喜んでいて、つぅっと液が垂れていく。何本も筋を作って垂れて糸を引く。時にごふっと溢れる。
「あんあんあんっ」
手だけでなく額まで壁につけて支えてるのに、徐々に上へと位置がずれる。
かろうじてつま先で立っていたのに、もう足先は床に届かない。
くっ。
俺は真二さんのちんぽで壁に向かって串刺しにされている。信じられない。
「フミ、すごい……これなら瘤まで飲み込めそうだな」
真二さんも驚いたみたいで、でも蕩けた声で囁くから力が抜ける。
俺が倒れてしまわないように、腰に両手が回される。この危険な姿勢からはまだ解放されないようだ。
こんなアクロバティックなのが許されるのは、先生が俺の体を知り尽くしているからだ。
こんなプレイも俺は普通に許す。痛みがないから許すけど、αの瘤を入れられるのはお断りだ。そこまでのハードモードには付き合いきれない。
「たま、たまは、いやっ、いやっ、やっ、入れないで」
「にゃあにゃあ鳴くな」
スピードが落ちてゆっさゆっさされて、外から腹を撫でられて、声、出ない。
俺の声が真二さんにはニャーニャーと聞こえるみたいで、いつも猫と言われてしまう。
「フミには物足りないだろう」
「ちがっ、たりて、る。だめ、だっ」
宙に浮いていた足が床についたと思ったら、尻のあたりを真二さんの手がはいまわっている。
俺の片っぽの尻たぶを持ちあげて、自分の瘤をごりごりと……
「やだって、言ってるぅ。いれちゃだめ。いれるなぁ」
かちかちの塊を入れられそうになってまじでびびる。そりゃ俺はそこから四人出してるけど無理。絶対にそれは無理。
ぴーぴー泣き出すとようやく手を止めてくれた。それまでは気持ち良くて天国の扉まで見えたのに、最後に泣かすなよ。
「悪い。イヤイヤ言ってかわいいから、遊びが過ぎた。本気じゃない。ごめん」
「そんなのわかるか。冗談にもならない! Ωの医者ならもっとΩを思いやれ。こんな事を遊びって言うならもう会わない!」
ばしっと言い切ると真二さんの動きは止まり、悪い許してくれごめんを繰り返して、ぎゅっと抱きしめるだけになった。
「すまない。フミに、甘えてしまった」
「まじでやめろ……二度目はないから」
「わかった。試すような事は言わない。二度としないと誓う」
ただでさえ多産なΩで局所的に有名人なのに、その上瘤も受け入れ可能になっちゃったら、自分の存在が嫌になってしまう。
もう、今日はやりたくない。
「もう俺……んっ」
やりたくないって思ってるのにベッドに押し倒される。真二さんのちんぽはずっと俺の中に入りっぱなし。で、ごりごりしてくるから、体は喜んでしまう。
「不安にさせた詫びに、フミが気持ちいいだけにしよう」
「それって最初の時みたいのですか?」
優しい大人のセックスなのか、その辺はしっかり確認しとく。
前と後ろの穴から溢れる汁。とろとろぴゅーっのコースだったらお断りしたい。あちこち濡れるし、子供じゃないのにおしっこ出るとか恥ずかしいから。
「最初の時みたいな、まったりしたやつ」
だったらよろしくお願いしますと、俺は自分の上にのっかる真二さんの背中に腕を回した。
「フミはこれが好きなのか?」
声が耳にかかり、真二さんが規則的に出入りする。緩やかな快感に目を閉じて流れにのる。
「体も楽だし、慣れてもいるから」
「前の旦那?」
「あの人は変化なく真面目に正面から突いて、俺を何度いかせられるかを楽しんでたような気がします。ベッドじゃない場所とか色んな体位をしたのは真二さんが初めてですよ……んんっ」
俺の中が勝手にしまって自滅するみたいに声が漏れる。
よしよしするみたいに髪を撫でられて、顔中にキスをされる。
ゆっくり体温が上がってきて頬が熱くなる。
「んぁ……真二さん……いきそう」
指と指を絡めるようにして繋がれ、顔の両側で縫いとめられる。
本当は激しく動きたいのに我慢してくれているんだろう。俺の胸の丘にあるぷっくりした乳首を甘噛みする。
「あっあっあっ……はっはっ……んんっ……くっ、いくっ、いくっ……あっ」
俺の声や肌の血色でイク瞬間がわかったのか、生真面目な前後運動に少しの変化をいれて二人で同時に達していた。
達した後も抜かずに抱き合っていられたのはゴムがなかったからだ。
ドクドク煩いのは心臓じゃなくて繋がっている部分。そこからゆっくりと二人の境目がなくなり溶け合い、もう引き剥がせなくなったような気がした。
ゆったりエッチでも事後はやっぱりだるい。怖くて泣いたし。
「フミ、体起こして口空けて。はい、あーん」
「こう?」
まるで小児科の先生みたいに言うから半笑いで口をあける。
「舌だして」
ぺろっと出すと、舌の上に何かの感触。触れている場所からじわじわと溶けて舌に張りつく感覚。
「これって?」
舌を格納せずもごもご喋る。
「避妊薬」
「ふうん」
渡された水のボトルを受け取り、喉を広げて薬を飲みくだす。小さな粒だったのか苦もなく食道を流れていくのがわかった。
上半身を支えていた肘から力を抜いて、またベッドにつっぷす。
聞かなくても避妊薬だと想像ついてた。終わった直後に媚薬仕込まれるとは考えられないし、相手は先生だし。
避妊大事。絶対にゴムするマンの真二さんとゴムなしでやったのは初めてだ。
今も俺の腹の中は彼の精子がたぷたぷに満たされている。発情期でなくても妊娠の可能性があるのだから当然の処置だろう。俺たちは夫婦でも恋人でもない。
いつもこんなものを持ち歩いているのだろうか。職業柄とはいいにくいけど、マナーのある大人として評価はできるのかもしれない。
それはわかるんだけど、副作用が出るときもあるし、その後の体調不良とかの責任をすべてΩが引き受けなきゃいけないのは複雑ではある。
でもこれが理由で先生へ不信感を持つことはない。先生との関係は心地いい、というか楽だ。何より気持ちいい。
俺の体をわかっていて、家庭の事情もある程度知っている。郁也のお迎えの時間も把握している。
先生に対して見栄を張るとか、対等でいたいって気持ちもわかないから、俺が安心してセックスに没頭できる相手はこの人以外にいない。
体だけ持って行けば部屋かホテルに連れてってくれるし、気持ち良くしてくれるし、たまに健康相談もあって、腹が減ってたらルームサービスを食わせてくれる。
もう誰かとセックスする事はないと思ってた……
先生は脱力したままの俺の体を濡れタオルで拭き、最後に精液が垂れてくる下半身に軽く巻き付ける。
フンドシかよ。
笑ってしまうけど、こうしてかいがいしく世話を焼く先生は楽しそうにも見える。
その間俺は俺で先生の顔をただ見る。うちの家庭にはない顔立ちについ見惚れてしまう。
いつもこんな男前とやってんだな。
結婚して子供を授かった。その後も優しい人達と出会った。
これで俺の運は使い果たしてしまったはずだったのに、どういうわけか再び上位のαと関係している。不思議だ。
「なあ、来月の頭に会えるか?」
「来月ですか」
真二さんがそんなふうに誘ってくるのは初めてだ。確実な休みが取れそうなんだろうか。
頭の中で家の冷蔵庫にマグネットで貼りつけている予定表を思い浮かべる。今月来月は学校行事も懇談もなく空白が続いていたはずだ。
「基本大きな予定はないんですけど……その辺りはちょっと空けておきたいので、うーん」
「何かあるのか? 元の旦那に関係しているとか」
すねるような口ぶりをするから驚いてしまう。
「えっとですね、俺にも友達という存在がありまして。その辺の日程で食事をする予定が入りそうなんです」
「友達? 私よりそっちを優先すると?」
「当然でしょう、佐保さんは特別なんです。それに家族ぐるみの付き合いですから。特に上の子とは波長が合うみたいだし」
「αなのか?」
「ええたぶん。先生がどんな人を想像しているかわかりませんが五十代の男性ですよ。俺が離婚してから知り合ったし、年の差がある分だけ楽なんです」
「そのαに狙われているんじゃないのか。五十代はまだ若い。性機能は十分ある。妊娠させることもできる」
まるで佐保さんが俺を狙う悪者みたいに言うから吹き出しそうになる。俺も一応世間的におっさんだし、そう言う意味のアプローチがあれば勘づく位の経験値はある。
しかも相手は佐保さん、ないない。絶対にないと言い切れる。
「ないです。佐保さんってすごく紳士で性的な匂いがまったくない人なんで。うちは長男の警戒心が強いんですけど佐保さんにはすぐ懐いたし。なにより佐保さんと会うとなると必ず誰かがついてくるんで、二人きりになったこともないですよ」
「しかしそれは息子たちが盾になっているんじゃないか」
「それもないです。先生って心配性ですね」
俺の大事な佐保さんを怪しむし、先生はちょっと考えすぎだ。俺のことを衝撃の平凡と言ったくせに、佐保さんの話をした途端αに狙われるとか言い出すし。わけがわからん。
「佐保さんとの約束が決まったら、その後に先生との予定を入れますね」
真二さんって呼んでいたはずが先生呼びに戻っていた。診察の時にうっかり真二さんなんて口をついたらまずいし、先生も気付いてないからこのままでいよう。それが平和だ。
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