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2 幼稚園のお迎え
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「わあー、なんで光流兄さまがいるのお!」
「郁也に早く会いたくて来たんだよ」
いつもはお迎えが俺一人なのに、今日は兄である光流がついてきたから郁也は驚いている。そして驚きの次に出てきた感情が体に現れて、喜びいっぱいで走ってきて、ジャンプして光流に抱き付いた。
毎日一緒にいる家族でも、思いがけない場面とタイミングで会うと喜びが爆発するらしい。
抱き付いたあとも、うひゃうひゃと高い声をあげている。
平屋建ての園内に入り延長保育の子供たちがいるアヤメ組に入ると、ひとり黙々と積み木をしている郁也を周りの子が体をつっついて、迎えが来たと気付かせてくれて、喜び走ってきたのだ。
「やった、光流のお迎えです」
光流も光流で嬉しさがうつったみたいに笑顔で郁也を抱きかかえている。
もうずっと一緒! みたいに両手足でがっちりしがみつく郁也に見ているこっちが幸せで微笑んでしまう。
久しぶりの延長保育で寂しい思いをしたかもしれないけれど、残っているお友達は少なくないし、そんな気分だったとしてももう吹き飛んでいるだろう。
「ねえ、どうしてここにいるの? 光流兄さま中学校は? 二人で何してたの?」
「今日兄ちゃんの学校は、この前の学園説明会の代休だって朝に説明しただろう。休みだから母さんの病院に付いて行ったんだよ」
「そっかぁ。休みだったんだ」
朝は『兄さま達だけ休みなんてずるいですうっ』て、ほっぺを膨らませたんだけどな……幼稚園が楽しすぎて忘れてたか。
「母さま、大丈夫? 薬いっぱいもらった? 痛かった?」
質問攻めの郁也を降ろして、半端に来ていた紺色スモッグをきちんと着せ身なりを整える光流。最後につばの広い帽子をかぶせてやると、郁也はまた光流に抱き付いていた。
どれだけお兄ちゃんが好きなんだと思われるだろうけど、強いαに魅かれ自分に匂いつけするのは、子供のΩに多く見られる行動だ。
Ωは弱い。少しでも危険を減らすには身近なαの香りを纏うのが一番てっとり早い。
匂いを纏う事は自分を所有するαがいて、所属する群れがあるのだという主張になるからだ。これはΩ性に生まれた者の本能と言える。
無邪気に兄に甘えられる郁也を見て、俺はやっぱり幸せを感じる。それはもう、しみじみと。
自分が小さな頃、近くにαはいなかった。
あの頃自分はどうしてこうもそわそわして、落ちつきがないのかと不思議に思った時がある。あれは知らずにαの匂いを求めていた衝動だったんだと今ならわかる。
だから自分の子供がそんな思いをしないですむということに安堵してしまう。だから光流と郁也がくっついている姿を見ると、いつも目の奥がじんと熱くなる。
子供が一番に求めるのはきっと父親であるαの匂いだ。だけどそれはもう難しい。小さな郁也はそれ知っている。もう、どうしようもないとわかっているから、俺を困らせるようなことは言わない。
わが家で一番小さな子供が我慢しているのが不憫なのか、光流、空、怜の三人のお兄ちゃんはこれでもかと郁也を甘やかしている。
年をとって涙腺の緩んだ俺は、そんな姿を見る度に涙目だ。泣き虫なんて卒業したいのに。
でも不憫なのは環境だけじゃないんだよな……
俺が産んだ四人の男の子達は、元旦那と俺との間に生まれた子。
だけど上三人がαの血を引く旦那似の美形だと言うのに、郁也だけがΩ。しかも顔が俺に激似の超平凡というのが泣けてくる。
Ω=繊細、美貌という常識を覆す、超平顔を継承させてしまった情けなさよ……
しかし、しかしだ! 郁也は周りのお友達の誰よりも顔が小さくて、園児のくせに手足がすらりとしている。指まで長い。ここだけは別の流れを受け継いだってのが、せめてもの救いだ。
スタイル以外にも郁也には類まれなるギフトが一つある。他にない天性のものが備わっているんだ。ただこれが、郁也の将来に凶と出るか吉と出るかは、今の時点ではわからない。だからちょっと、ちょっとだけ不安。
「ねえねえ、いくちゃん!」
「ん、えいき君、なにかようじ?」
帰り支度を終えた俺達の所に色白美少年がかけてきた。二人が並ぶとどうしても郁也が見劣る。
「あのね、いくちゃんにこれあげたくて。今日の分、もらってくれる?」
えいき君が郁也に手渡したのは折り紙で作った怪獣。紙を何度も折り返して作って、何枚かをテープで繋ぎ合わせた大作で、なんとかザウルスってやつだ。
大人の俺でも折れない特殊折り紙を、園児でありながら完成させてしまうのだから、えいき君はきっと頭脳派αなんだろう。
「わぁ、えいき君、恐竜さん作ったの。すごいね、天才だね」
「えっとね、それ作るのに家で一生懸命に練習したんだ。いくちゃんは恐竜好きかなって考えながら、それでね……」
「うん、ありがとう! 僕はもう帰るから、話はまた明日でいいよね。ばいばい」
郁也は折り紙をポケットに雑に入れ、光流の足に抱き付いた。郁也の心の中に、もうえいき君はいない。
郁也は本当にえいき君を凄いと思ったのだろう。恐竜もかっこいいと思ったのだろう。しかし郁也は切り替えが早い。まだ何か言いたげにしているえいき君より、大好きな光流に気を取られ過ぎている。
なるほど。
この頃いつもポケットに入っている芸術的な折り紙は、このえいき君からの貢ぎ物だったんだな。
えいき君ごめん。郁也の頭はとっても、もしかしたら鳥の羽より軽いんだ……
目の前にある折り紙の凄さはわかる。でも作る過程がどれだけ大変か想像できない郁也。
単純にどっちにも興味がないんだろうな。えいき君自身にも折り紙にも。
平凡にあしらわれる美少年。すごく不憫だ。親としては申し訳ない。
「えっと、いつも折り紙ありがとう、えいき君」
「いくちゃんの、ぱぱ……?」
「そう、郁也と俺って結構そっくりでしょ」
「ええ……目がそっくりで、かわいいです」
まじか、俺もかわいいの? めっちゃいい子や。
よしよしと、えいき君のその頭を撫でてやる。愛しい郁也と同じ顔の俺に反応して頬を染める少年って、君の方がめっちゃかわいいな!
どうして郁也がいいの? よく見るとたいしたことないよ? なんて周りに誰もいなければ他にいいΩが周りにいると説得してたかもしれん。
基本愛想がいいのに時に塩対応。気分によってはそんな両極端な郁也はこの幼稚園でモテモテの様子。俺の幼少期にはなかったそれにびびっている。
『まるでたんぽぽの綿毛のようだね。無意識に愛を飛ばすなんて、君はなんて罪な人なんだ』
アヤメ組に君臨するαのケント君王子にそう例えられた通り、郁也は風に吹かれあちこちに愛と色気を飛ばしているΩだ。
くぅ……本当に俺の子かよ……羨ましい…
この年まで非モテを通してきた俺は常にそうつぶやいてばかりだ。
名残惜しいながらもえいき君に別れを告げて、とっくに外に出てしまった二人を追いかけた。
俺を待っていた光流と郁也の二人は楽しそうに今夜の話をしていた。
「明日は引越しだから、郁也があの部屋で寝るのは今夜が最後になるんだよ」
「忘れてないよ。お友達にも引越しするから遊びに来てねって言ってあるもの」
「ちょっと園からは遠くなるけど頑張れるか?」
「平気です。ちょっと早起きするだけなのです」
「あの大きな家の広い部屋で眠れる?」
「母さまが隣にいるから平気です。このお引越しで、本当に家族が一緒になれるのは嬉しいです」
お前、なんて可愛いこと言うんだ郁也。
さっきまで光流光流ってべたべたしてたのに、やっぱり眠る時には母さんって。
やば、また泣きそうになってるわ、俺。
「郁也に早く会いたくて来たんだよ」
いつもはお迎えが俺一人なのに、今日は兄である光流がついてきたから郁也は驚いている。そして驚きの次に出てきた感情が体に現れて、喜びいっぱいで走ってきて、ジャンプして光流に抱き付いた。
毎日一緒にいる家族でも、思いがけない場面とタイミングで会うと喜びが爆発するらしい。
抱き付いたあとも、うひゃうひゃと高い声をあげている。
平屋建ての園内に入り延長保育の子供たちがいるアヤメ組に入ると、ひとり黙々と積み木をしている郁也を周りの子が体をつっついて、迎えが来たと気付かせてくれて、喜び走ってきたのだ。
「やった、光流のお迎えです」
光流も光流で嬉しさがうつったみたいに笑顔で郁也を抱きかかえている。
もうずっと一緒! みたいに両手足でがっちりしがみつく郁也に見ているこっちが幸せで微笑んでしまう。
久しぶりの延長保育で寂しい思いをしたかもしれないけれど、残っているお友達は少なくないし、そんな気分だったとしてももう吹き飛んでいるだろう。
「ねえ、どうしてここにいるの? 光流兄さま中学校は? 二人で何してたの?」
「今日兄ちゃんの学校は、この前の学園説明会の代休だって朝に説明しただろう。休みだから母さんの病院に付いて行ったんだよ」
「そっかぁ。休みだったんだ」
朝は『兄さま達だけ休みなんてずるいですうっ』て、ほっぺを膨らませたんだけどな……幼稚園が楽しすぎて忘れてたか。
「母さま、大丈夫? 薬いっぱいもらった? 痛かった?」
質問攻めの郁也を降ろして、半端に来ていた紺色スモッグをきちんと着せ身なりを整える光流。最後につばの広い帽子をかぶせてやると、郁也はまた光流に抱き付いていた。
どれだけお兄ちゃんが好きなんだと思われるだろうけど、強いαに魅かれ自分に匂いつけするのは、子供のΩに多く見られる行動だ。
Ωは弱い。少しでも危険を減らすには身近なαの香りを纏うのが一番てっとり早い。
匂いを纏う事は自分を所有するαがいて、所属する群れがあるのだという主張になるからだ。これはΩ性に生まれた者の本能と言える。
無邪気に兄に甘えられる郁也を見て、俺はやっぱり幸せを感じる。それはもう、しみじみと。
自分が小さな頃、近くにαはいなかった。
あの頃自分はどうしてこうもそわそわして、落ちつきがないのかと不思議に思った時がある。あれは知らずにαの匂いを求めていた衝動だったんだと今ならわかる。
だから自分の子供がそんな思いをしないですむということに安堵してしまう。だから光流と郁也がくっついている姿を見ると、いつも目の奥がじんと熱くなる。
子供が一番に求めるのはきっと父親であるαの匂いだ。だけどそれはもう難しい。小さな郁也はそれ知っている。もう、どうしようもないとわかっているから、俺を困らせるようなことは言わない。
わが家で一番小さな子供が我慢しているのが不憫なのか、光流、空、怜の三人のお兄ちゃんはこれでもかと郁也を甘やかしている。
年をとって涙腺の緩んだ俺は、そんな姿を見る度に涙目だ。泣き虫なんて卒業したいのに。
でも不憫なのは環境だけじゃないんだよな……
俺が産んだ四人の男の子達は、元旦那と俺との間に生まれた子。
だけど上三人がαの血を引く旦那似の美形だと言うのに、郁也だけがΩ。しかも顔が俺に激似の超平凡というのが泣けてくる。
Ω=繊細、美貌という常識を覆す、超平顔を継承させてしまった情けなさよ……
しかし、しかしだ! 郁也は周りのお友達の誰よりも顔が小さくて、園児のくせに手足がすらりとしている。指まで長い。ここだけは別の流れを受け継いだってのが、せめてもの救いだ。
スタイル以外にも郁也には類まれなるギフトが一つある。他にない天性のものが備わっているんだ。ただこれが、郁也の将来に凶と出るか吉と出るかは、今の時点ではわからない。だからちょっと、ちょっとだけ不安。
「ねえねえ、いくちゃん!」
「ん、えいき君、なにかようじ?」
帰り支度を終えた俺達の所に色白美少年がかけてきた。二人が並ぶとどうしても郁也が見劣る。
「あのね、いくちゃんにこれあげたくて。今日の分、もらってくれる?」
えいき君が郁也に手渡したのは折り紙で作った怪獣。紙を何度も折り返して作って、何枚かをテープで繋ぎ合わせた大作で、なんとかザウルスってやつだ。
大人の俺でも折れない特殊折り紙を、園児でありながら完成させてしまうのだから、えいき君はきっと頭脳派αなんだろう。
「わぁ、えいき君、恐竜さん作ったの。すごいね、天才だね」
「えっとね、それ作るのに家で一生懸命に練習したんだ。いくちゃんは恐竜好きかなって考えながら、それでね……」
「うん、ありがとう! 僕はもう帰るから、話はまた明日でいいよね。ばいばい」
郁也は折り紙をポケットに雑に入れ、光流の足に抱き付いた。郁也の心の中に、もうえいき君はいない。
郁也は本当にえいき君を凄いと思ったのだろう。恐竜もかっこいいと思ったのだろう。しかし郁也は切り替えが早い。まだ何か言いたげにしているえいき君より、大好きな光流に気を取られ過ぎている。
なるほど。
この頃いつもポケットに入っている芸術的な折り紙は、このえいき君からの貢ぎ物だったんだな。
えいき君ごめん。郁也の頭はとっても、もしかしたら鳥の羽より軽いんだ……
目の前にある折り紙の凄さはわかる。でも作る過程がどれだけ大変か想像できない郁也。
単純にどっちにも興味がないんだろうな。えいき君自身にも折り紙にも。
平凡にあしらわれる美少年。すごく不憫だ。親としては申し訳ない。
「えっと、いつも折り紙ありがとう、えいき君」
「いくちゃんの、ぱぱ……?」
「そう、郁也と俺って結構そっくりでしょ」
「ええ……目がそっくりで、かわいいです」
まじか、俺もかわいいの? めっちゃいい子や。
よしよしと、えいき君のその頭を撫でてやる。愛しい郁也と同じ顔の俺に反応して頬を染める少年って、君の方がめっちゃかわいいな!
どうして郁也がいいの? よく見るとたいしたことないよ? なんて周りに誰もいなければ他にいいΩが周りにいると説得してたかもしれん。
基本愛想がいいのに時に塩対応。気分によってはそんな両極端な郁也はこの幼稚園でモテモテの様子。俺の幼少期にはなかったそれにびびっている。
『まるでたんぽぽの綿毛のようだね。無意識に愛を飛ばすなんて、君はなんて罪な人なんだ』
アヤメ組に君臨するαのケント君王子にそう例えられた通り、郁也は風に吹かれあちこちに愛と色気を飛ばしているΩだ。
くぅ……本当に俺の子かよ……羨ましい…
この年まで非モテを通してきた俺は常にそうつぶやいてばかりだ。
名残惜しいながらもえいき君に別れを告げて、とっくに外に出てしまった二人を追いかけた。
俺を待っていた光流と郁也の二人は楽しそうに今夜の話をしていた。
「明日は引越しだから、郁也があの部屋で寝るのは今夜が最後になるんだよ」
「忘れてないよ。お友達にも引越しするから遊びに来てねって言ってあるもの」
「ちょっと園からは遠くなるけど頑張れるか?」
「平気です。ちょっと早起きするだけなのです」
「あの大きな家の広い部屋で眠れる?」
「母さまが隣にいるから平気です。このお引越しで、本当に家族が一緒になれるのは嬉しいです」
お前、なんて可愛いこと言うんだ郁也。
さっきまで光流光流ってべたべたしてたのに、やっぱり眠る時には母さんって。
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