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14 チコが知る事件 -父は美しい人だった-
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父親のミハル・マルシクは細く美しく影のある人だった。
母親のアリスは小さくて丸くて可愛らしい人。
チコは二人が大好きだった。
優しくて穏やかな父と、明るく朗らかな母の馴れ初めはどんなだったのだろう。気になるけれどもうその二人はこの世にいない。それを知る人がいたとしても話を聞く事はできない。
初めて父の事件の詳細を知る事になったのは、十二歳の時だった。
そこには当時の新聞、雑誌、里親となってくれた人が書き付けた記録もあった。
未だ幼い精神が壊れないよう配慮され、少しずつ事件の真実をたどる事になった。
既に知っていた事と、後に知った事実で空白になっている部分を埋めていった。
事実と事実でない部分をはっきり分けてくれた事で、取り乱す事なく事件に、自分の過去に、向き合えたのだと思う。
マシューの父と母はそれぞれ貧しい地域からローパー領へと移り住んできた。当時ローパーには新しい工場が建設され労働移民を歓迎していて、他の地方から移り住む人が多かったようだ。
二人は工場で出会い、結婚後も朝から晩まで働いていた。
小さかったマリーとマシューは物心つく前から工場の託児に預けられていた。託児とは言っても大きな子供が小さな子供の面倒を見る小屋があっただけ。周りもそんな貧しい家庭ばかりだった。
街の外れにある小さな平屋の一軒家、移民者住宅が一家の住まいだった。
移住民住宅も無償ではない。菜園にするための庭があったのは、自給自足しろと言う事だろう。
マシューは自分の家が貧しい事を幼心にわかっていた。
服の袖は擦り切れていたし、家の中は寒かった。満腹になることはなくて、でもお腹が空いたなんて口にすることはできなかった。
貧しかった自分達の境遇が大きく変わったのは、父ミハルの転職がきっかけだった。
工場に視察にやってきたローパー領主に気に入られた父は、その人が商う会社にその工場でたった一人引き抜かれたのだ。
領主を務めるのは貴族だ。
領主は領地の経営だけでなく、他の事業と兼任しているのが一般的だという。なかでもこの領主の会社は彼の代で大きくなり、二つの支店を出すほど勢いに乗っていた。
その領主であるロイド・ローパーはミハルよりかなり年上の痩せた神経質そうな老人。
ミハルはロイドの秘書をしつつ、足りない知識を補うための勉強を同時に行っていた。
やがて重宝されるようになったのか、ロイドの出張に帯同するようになった。
見た目もこざっぱりし、スーツを着るようになった父。その姿は子供の目から見ても立派で、輝いているように見えた。
父の帰りは工場の時よりも遅く留守が多くなった。けれど母も工場勤務をやめ内職に切り替えていたので、父が忙しくても寂しい思いをする事はなかった。
住む借家は同じだったが生活レベルが各段に上がったのは、食べる物の量や質、そして与えられる本や玩具からもわかった。
そんな幸せな一家を襲った最初の不幸は、母アリスの事故死。
買い物に出た商店の裏通りで馬にひかれたのだ。馬が興奮したのか母の遺体はあまりに損傷がひどく、子供達は最期の別れで顔を見る事は許されなかった。
当時から馬や馬車のほうが立場が強く、人の方が交通に配慮して避けるべきとされていた。当然、母を殺した側が責任を問われる事はなかった。
三人家族なった事で、父は早く仕事を切り上げ帰宅するようになってくれた。それを許してくれた雇い主のロイドに父がとても感謝していた事を姉のマリーは覚えている。
二人はその時、八歳と四歳。父親は三十歳。
小さいながらも家の中の事は二人で協力して行い、父が出張でいなくなる二泊くらいの留守なら守れるようになっていた。
大切な人を失った悲しみを抱えながら頑張って生きていた。
そんなある日の夕方の事だった。
そろそろ灯りが必要かもう少し我慢するか、そう悩むような、そんな空の色だった。
いつもと違う様子の父が何かに怯えるように帰ってきた。声ははっきりと震えて呂律が回っていなかった。
「ここを出る。外に荷馬車があるから、二人はそこにいなさい。準備ができたらすぐに出るから。急ぐんだ」
「お父さん……」
子供の不安の声に答えず父は表情を凍らせたまま背をむける。これ以上二人に構う時間はないと言っているようだった。
本当に今は邪魔をしてはいけない。察した姉のマリーに手をとられ、マシューは外へ出た。
思ったより遠くに止められていた荷馬車は何かの木箱が幾つか乗ったままだった。馬も大人しく繋がれている。二人で協力して荷台に上がり腰をかけ、自然と寄り添い膝を抱えて小さく丸くなった。
父が怖いと思ったのは初めてだった。
血の気が引いた顔はのっぺりして見えた。
これから良くな事が起こる、起こっている。それを感じてマシューはガタガタ震えていた。それを抑えるみたいに姉が抱きしめてくれていた。
しばらくすると家の中から人が争う声が聞こえてきた。父しかいなかったはずの家に他の誰かがやってきていたのだ。
体は凍り付いて動かない。
なのにドクドクうるさい鼓動。それは外にまで聞こえるのではないかと思うほど激しかった。
派手な足音、物が倒れ、陶器が割れる音。
不穏な音が続いた後には静寂、誰かの低くて長いうなり声。草を踏む音がし、荒々しく遠ざかっていく。
風が過ぎる音だけになっても二人は動けない。
荷馬車の主である隣人の手によって二人は抱えあげられ、ようやく現実へと戻ってきた。
その時辺りはもう真っ暗で、人の顔も識別できなかった。
父が死んでいるのだと聞かされた時から、頭の中が真っ白になってしまった。
でもそんな言葉を信じる事ができない。行くよと言う姉の決心にマシューは頷いた。
二人で大人を振り切り入った室内は惨憺たるものであった。
家の中にあったすべてが元の形を成していなかった。
奥の部屋で床に倒れ血だまりの中で息絶えていた父。
マシューが見たのは大量の血と父の下半身までだった。すべてが現実離れした事実だった。
そこからは大変な大騒ぎとなり、町中の人間が集結したのではないかと思うほど、家は人に囲まれていた。
翌日も翌々日もその後もずっと、野次馬に囲まれていたらしい。
父を亡くしたマリーとマシューは近所の人にお世話になっていた。自分の家に入ることはできず、詳しく事情を説明してくれる大人もおらず、肩を寄せあって励ましあうことしかできなかった。
あちこちの家にお世話になるうちに、二人は事件のあらましを知ることになった。そして同時に自分たちが蔑まれていた理由を理解するようになった。
彼ら曰く、父親は色で領主を落とし今の職を得た。
愛人という立場にあぐらをかき横暴になった。
実際に仕事などしておらず、職場では煙たがられる存在だった。
今回の事件の発端は父にあり、どうやら書類を操作し、相当の金額を横領し懐に入れていたらしい。
それでは領主が怒るのも無理はない。それで家探しされたのだ。
領主も被害者だ。殺されるほどの理由があったんだから。
どれもこれも子供に聞かせる内容ではないが、彼らは二人に憎しみをぶつけるように話をした。
家族の家は壊され、母の墓も同じ目にあった。
この世の中の多くの人が、父はロイドの愛人として金満生活を送り、痴情のもつれで殺されたのだと思い込んだ。
どこから手に入れたのか、父の写真はロイドと並べられ、極悪人かのように新聞に載った。
それを見せられた時、二人は本当の暗闇を知った。
母親のアリスは小さくて丸くて可愛らしい人。
チコは二人が大好きだった。
優しくて穏やかな父と、明るく朗らかな母の馴れ初めはどんなだったのだろう。気になるけれどもうその二人はこの世にいない。それを知る人がいたとしても話を聞く事はできない。
初めて父の事件の詳細を知る事になったのは、十二歳の時だった。
そこには当時の新聞、雑誌、里親となってくれた人が書き付けた記録もあった。
未だ幼い精神が壊れないよう配慮され、少しずつ事件の真実をたどる事になった。
既に知っていた事と、後に知った事実で空白になっている部分を埋めていった。
事実と事実でない部分をはっきり分けてくれた事で、取り乱す事なく事件に、自分の過去に、向き合えたのだと思う。
マシューの父と母はそれぞれ貧しい地域からローパー領へと移り住んできた。当時ローパーには新しい工場が建設され労働移民を歓迎していて、他の地方から移り住む人が多かったようだ。
二人は工場で出会い、結婚後も朝から晩まで働いていた。
小さかったマリーとマシューは物心つく前から工場の託児に預けられていた。託児とは言っても大きな子供が小さな子供の面倒を見る小屋があっただけ。周りもそんな貧しい家庭ばかりだった。
街の外れにある小さな平屋の一軒家、移民者住宅が一家の住まいだった。
移住民住宅も無償ではない。菜園にするための庭があったのは、自給自足しろと言う事だろう。
マシューは自分の家が貧しい事を幼心にわかっていた。
服の袖は擦り切れていたし、家の中は寒かった。満腹になることはなくて、でもお腹が空いたなんて口にすることはできなかった。
貧しかった自分達の境遇が大きく変わったのは、父ミハルの転職がきっかけだった。
工場に視察にやってきたローパー領主に気に入られた父は、その人が商う会社にその工場でたった一人引き抜かれたのだ。
領主を務めるのは貴族だ。
領主は領地の経営だけでなく、他の事業と兼任しているのが一般的だという。なかでもこの領主の会社は彼の代で大きくなり、二つの支店を出すほど勢いに乗っていた。
その領主であるロイド・ローパーはミハルよりかなり年上の痩せた神経質そうな老人。
ミハルはロイドの秘書をしつつ、足りない知識を補うための勉強を同時に行っていた。
やがて重宝されるようになったのか、ロイドの出張に帯同するようになった。
見た目もこざっぱりし、スーツを着るようになった父。その姿は子供の目から見ても立派で、輝いているように見えた。
父の帰りは工場の時よりも遅く留守が多くなった。けれど母も工場勤務をやめ内職に切り替えていたので、父が忙しくても寂しい思いをする事はなかった。
住む借家は同じだったが生活レベルが各段に上がったのは、食べる物の量や質、そして与えられる本や玩具からもわかった。
そんな幸せな一家を襲った最初の不幸は、母アリスの事故死。
買い物に出た商店の裏通りで馬にひかれたのだ。馬が興奮したのか母の遺体はあまりに損傷がひどく、子供達は最期の別れで顔を見る事は許されなかった。
当時から馬や馬車のほうが立場が強く、人の方が交通に配慮して避けるべきとされていた。当然、母を殺した側が責任を問われる事はなかった。
三人家族なった事で、父は早く仕事を切り上げ帰宅するようになってくれた。それを許してくれた雇い主のロイドに父がとても感謝していた事を姉のマリーは覚えている。
二人はその時、八歳と四歳。父親は三十歳。
小さいながらも家の中の事は二人で協力して行い、父が出張でいなくなる二泊くらいの留守なら守れるようになっていた。
大切な人を失った悲しみを抱えながら頑張って生きていた。
そんなある日の夕方の事だった。
そろそろ灯りが必要かもう少し我慢するか、そう悩むような、そんな空の色だった。
いつもと違う様子の父が何かに怯えるように帰ってきた。声ははっきりと震えて呂律が回っていなかった。
「ここを出る。外に荷馬車があるから、二人はそこにいなさい。準備ができたらすぐに出るから。急ぐんだ」
「お父さん……」
子供の不安の声に答えず父は表情を凍らせたまま背をむける。これ以上二人に構う時間はないと言っているようだった。
本当に今は邪魔をしてはいけない。察した姉のマリーに手をとられ、マシューは外へ出た。
思ったより遠くに止められていた荷馬車は何かの木箱が幾つか乗ったままだった。馬も大人しく繋がれている。二人で協力して荷台に上がり腰をかけ、自然と寄り添い膝を抱えて小さく丸くなった。
父が怖いと思ったのは初めてだった。
血の気が引いた顔はのっぺりして見えた。
これから良くな事が起こる、起こっている。それを感じてマシューはガタガタ震えていた。それを抑えるみたいに姉が抱きしめてくれていた。
しばらくすると家の中から人が争う声が聞こえてきた。父しかいなかったはずの家に他の誰かがやってきていたのだ。
体は凍り付いて動かない。
なのにドクドクうるさい鼓動。それは外にまで聞こえるのではないかと思うほど激しかった。
派手な足音、物が倒れ、陶器が割れる音。
不穏な音が続いた後には静寂、誰かの低くて長いうなり声。草を踏む音がし、荒々しく遠ざかっていく。
風が過ぎる音だけになっても二人は動けない。
荷馬車の主である隣人の手によって二人は抱えあげられ、ようやく現実へと戻ってきた。
その時辺りはもう真っ暗で、人の顔も識別できなかった。
父が死んでいるのだと聞かされた時から、頭の中が真っ白になってしまった。
でもそんな言葉を信じる事ができない。行くよと言う姉の決心にマシューは頷いた。
二人で大人を振り切り入った室内は惨憺たるものであった。
家の中にあったすべてが元の形を成していなかった。
奥の部屋で床に倒れ血だまりの中で息絶えていた父。
マシューが見たのは大量の血と父の下半身までだった。すべてが現実離れした事実だった。
そこからは大変な大騒ぎとなり、町中の人間が集結したのではないかと思うほど、家は人に囲まれていた。
翌日も翌々日もその後もずっと、野次馬に囲まれていたらしい。
父を亡くしたマリーとマシューは近所の人にお世話になっていた。自分の家に入ることはできず、詳しく事情を説明してくれる大人もおらず、肩を寄せあって励ましあうことしかできなかった。
あちこちの家にお世話になるうちに、二人は事件のあらましを知ることになった。そして同時に自分たちが蔑まれていた理由を理解するようになった。
彼ら曰く、父親は色で領主を落とし今の職を得た。
愛人という立場にあぐらをかき横暴になった。
実際に仕事などしておらず、職場では煙たがられる存在だった。
今回の事件の発端は父にあり、どうやら書類を操作し、相当の金額を横領し懐に入れていたらしい。
それでは領主が怒るのも無理はない。それで家探しされたのだ。
領主も被害者だ。殺されるほどの理由があったんだから。
どれもこれも子供に聞かせる内容ではないが、彼らは二人に憎しみをぶつけるように話をした。
家族の家は壊され、母の墓も同じ目にあった。
この世の中の多くの人が、父はロイドの愛人として金満生活を送り、痴情のもつれで殺されたのだと思い込んだ。
どこから手に入れたのか、父の写真はロイドと並べられ、極悪人かのように新聞に載った。
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