訳ありの僕が完璧な恋人にプロポーズしてみた結果

宇井

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5 オイルの夜

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「愛してる。結婚しよっ」
「……」

 目覚めてすぐ、布団の中でのプロポーズに返事はなく、ぎゅーっと長く抱きしめられて一瞬の悲しみは飛んでしまった。
 ずっとブラムの目が覚めるの待ってたのに、嬉しい返事をくれない。
 でもま、こんなものかと諦めて起き上がり、チコは朝の準備にかかった。

 朝食は目玉焼きにソーセージ。トーストには蜂蜜をかけた。
 チコが用意していれば食べる派のブラムは上半身は裸、下はゆるゆるズボンという気だるげな姿で口をもしゃもしゃ動かしている。それだけなのに絵になる。かっこいい。
 テーブルを挟んでじっくりその姿をながめる。
 
「ねえ、こんなに可愛くて若い子に迫られるって、この機会を逃したら次はないと思うよ」
「確かに。ならもっと大事にしないとな。チコに振られないように努力する」
「うっ」

 嬉しい。
 でもここで満足して終わらせたらだめだ。

「あのね、改めて言うけど、うちは両親が亡くなってるから面倒な挨拶は必要ないよ。反対される事もない。つまり気楽!」

 そう言うと前からブラムの腕がのびてきて、髪を撫でられた。
 よしよし、みたいな感じ。犬じゃないんだけどな。
 ちなみにブラムも家族は姉だけ。家族関係が複雑だったのか、あまり過去について喋りたがらない。それもあってチコも無理に聞き出したりしなかった。
 そこでチコは唐突に気づいた。自分がブラムの事をあまり知らない事に。

「って言うかさ。ブラムって、実は既婚者って事はないよね?」

 独身だと思っていた彼氏が既婚だったなんて事はたまに聞く話だ。浮気男は平気で嘘をついて、あっちとこっちで良いところ取りをするらしい。
 しかしブラムに呆れた顔を向けられ、ゴメンと小さくなる。

「ずっと独身だ。でも婚約者がいた事はあったか。恋愛ではなく家の都合で」
「え。政略結婚? ブラムのお家ってもしかして貴族だったりする?」
「まさか。でも父親は、会社を経営してた」
「ふうん」

 そういう事なら貴族ではなくてもお金持ちではあるんだな。
 お行儀は悪いけど、そこはかとない品が垣間見れる……気がするし。
 外国語もできるから通訳の仕事が回ってくるって言ってたし、何しろ王子様っぽいし。

「家にピアノはあった?」
「ああ」
「弾けたりする?」
「少しは」
「すごい。それは知らなかった。弾いてるところ、見たい」

 何でもできるんだなあ。

「チコは? 何か得意?」
「僕はなにも。ピアノはできないし、絵も描けない。だけど、昔は笛が好きだったよ。木製で長さが違うのが並んでくっついてるやつ。父さんに教えてもらって、最初に音を出すのが難しかったなあ」

 むかし父親が持っていた笛。それは何だか物悲しい音色がするから、どちらかと言うと好きではない。こんな話をしていてようやく思い出したくらいだ。
 ブラムはそんな笛に心当たりがないようでピンとこない顔をしている。庶民の嗜みを知らないなんて、やっぱりお坊ちゃまなんだと確信する。

「ねえ、僕のどこが好き?」
「んー、体」
「えーっ。嬉しいけどちょっと違う」
「チコも俺の顔が好きっていつも言うだろう」
「それはそうだけど、表面的なことじゃなくてさあ、もっとこう内面の部分を……」

 ふふんと笑われる。

「わかった。チコの素直な所が好き。俺を愛してくれてる所が好き。でもやっぱり、淫らな体が一番好きだな」

 ああ、爽やかな朝になんて事を……
 ブラムが愛を囁くのは決まって夜。それが思いもかけず一日の始まりに聞かされるとは。
 赤くなったまま動けなくなったチコを見ながら、ブラムは余裕で食事を終えた。
 席を立ったブラムはその場で着替え始める。素肌に藍色のシャツが似合う。それをチラチラと見ていたら、意地悪な事に背を向けられてしまった。



 仕事だ。

「あさのパン……ほかほかパン……レーズン、たまご、ふふふん……」
 
 適当な節をつけて心を解放していたら姉のリアナから「やめろ」と二度目の注意を受けた。チコの創作歌は相当イライラするらしい。でも無自覚なんだから許してほしい。

 ブラムの出張は近い。今日がだめでも明日までは、この溢れる思いを受け取ってもらえるチャンスはある。
 またもワゴンセール品の商品を作っているのだが、姉が隣にやってきて紐をかける仕事を請け負ってきた。今日は昨日と違って午後まで大量に売り出すつもりだ。

「昨日ブラムと話してさ、ペアリング買おうかって言われた。プロポーズは失敗だったけど、ちょっと嬉しいよね。その気持ちがさ、へへっ」
「結婚は断っといて同棲は継続。中途半端にペアリングだと? 煮え切らない男ね」
「でもさ、言葉に気持ちを乗せて伝えられるのって嬉しいね。普段の生活してると、なかなかそんな事ないじゃん? 好きとか愛してるとか。ベッドの中だと簡単に言えるんだけど、やっぱりそうじゃない場面だと重みが違うじゃん」
「アホ。あんたの下ネタは聞きたくない」

 文庫本で後頭部を叩かれた。薄いとはいえ痛い。
 姉は弟のそれんな話は聞きたくないらしい。まあ、チコも姉たちの事を聞かされたら困るから少し反省した。


 午後になり、その日のワゴンも空になった。
 チコが大盤振る舞いをした事もあって、きっと赤字だっただろう。だけど店の裏でほこりを被っていた分が大方はけて、倉庫の床が見えるのは気分がいい。
 そしてようやく閉店となった時、昨日に続き姉がチコになにかを手渡してきた。
 小さくて繊細で、それが食べ物でない事はわかる。

「これって?」
「売れ残りのオイルよ。間違っても食べるんじゃないわよ。髪や肌にいいし、何より香りがいいの。ただ男性向けとは言い難いから、家で頭とか体のマッサージに使って。捨てるのも勿体ないしね」
「へえ、ありがとう」
「それ五千トルするの。高すぎて売れなかったわ」
「たしかに高い。若者には厳しいよ」

 手の平におさまる小瓶の細工は使用後にも飾りとして使えそうだ。

「手の平で温めて、それを肌の上で薄く延ばすように使うの。食事も入浴も終わってリラックスして使うのよ。一度で使い切れるわ。いい夜をねって……一応言っておくけど、これは下ネタじゃないから」

 勝手にぷんぷんする姉に笑顔を返し、そのまま姉に見送られて店をでた。


 姉から背中を押された気がして、その夜はもらったオイルを使う事にした。
 チコは姉の指示通り、風呂上がりでリラックスしているブラムをベッドに寝かせてマッサージタイムに入る。
 チコ自身も風呂上りに首筋と腕にオイルをぬりぬりしているから、確かに質の良いオイルだとわかる。
 
「明日から出張で忙しくなるブラムに、極上のマッサージをプレゼント!」

 マッサージなどした経験はないけれど、そこは何とかなるだろう。
 うつ伏せにさせたブラムの腰の辺りにまたがってオイルを広げる。
 むむっ、かたい。
 肩とか二の腕とか筋肉がかたまっている気がする。
 痛みがないか聞きながら優しくもんでいると、ブラムがあっちをほぐせ、今度はこっちもよろしく。と指示してくるからチコは汗だくになってしまった。
 マッサージを施術する側は体力勝負らしい。
 もー、しんどい。ちょっと休憩。
 とブラムの背中に倒れ込む。そしてそこからは、ぬるぬるオイルプレイに発展してしまった。

「チコの姉さんはいいオイルを持たせてくれたんだな。確かに艶が違う」
「あうっ……」

 全身テカテカになってしまっているチコがブラムの下で蠢く。
 カーテンを全開にした室内に星明りが届き、チコの背中が妖艶に浮かび上がる。
 深く繋がりたいと言うチコは腰を高く上げてブラムを受け入れていた。
 
「あっ、ふかい……」

 ぐっと体重を乗せられ押しつけられてしまい息が詰まる。
 捧げた穴はぱんぱんに膨らみ、知らなかった場所まで犯されいる。
 小刻みに揺さぶられ続け頭の中はもう真っ白だ。
 チコの小さな尻から巨大な物を支える根本が見え隠れする。出ては入り出ては入りをするうちに、チコの先端からたらたらと何かが流れた。
 いっている自覚もないほど、後ろの刺激が強すぎて、そっちの刺激ばかり求めてしまう。
 チコは知らずに腰を大きく動かしていて、パンパンと打ち付ける音も自分が発しているとは思わずにいた。

「はぁ、はぁ、はぁ……うっくぅ……あん、あん、あん」

 チコに自由にさせていたブラムもここで抑えが効かなくなり、目の前の腰を抱えて獣のように腰を振った。

「やばっ、それ、あうっ……いく、いく……いくう!」

 チコは喉をそらしてあえいだ後、たまらず腰を落としてしまう。
 ブラムの竿がすぽんと抜けて、蕾からは残滓が流れ出た。
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