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40 シシャ視点:ファーガスとの出会い
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ダイゴの学友として私は選ばれていた。
親たちがしきりにダイゴダイゴと連呼しているから、てっきり私が相手する坊ちゃんの名前は『ダイゴ殿下』だと思い込んでいた。
……ダイゴではなく第五だった。
五番目でも繋げておいて損はない線。従順な私はそれならしょうがないと彼の学友になった。
学友、友達としての役を仰せつかったのは私だけではなく、私を含めて六人も用意されていた。 それなら気楽でいいやと思ったけれど、取り巻き役も楽ではなかった。
家の格と自己主張の強さが殿下との距離に現れる。私は当然一番遠い場所にいた。
気に入らないことがあると殿下のくせに権力ではなく腕力をもってやり込める男。女みたいに柔らかな顔をして切れ味鋭く毒を放つ男。
口数も最小限だから彼は誤解されがちだが、彼の薄い唇から紡がれる言の葉は乱暴で強気だった。
なぜだ。ダイゴ。もっと友を大切にしろ。簡単に手を上げるな。
言葉は丸のみした。
クラスメイトがイタズラのために持っていた虫を取り上げ、私の顔面に放り投げた。何とか避けた。
美しいバラの咲き誇る庭園で立ち小便をし、それを私にも強いた。モノは出したが出なかった。
そんな風に彼の横暴に耐えながら後をついていたら、いつしか二人きりになっていた。
冷静沈着に見せかけて、一気に怒りを放出するダイゴに何年も振り回された。放出先がいつしか私でなくなったのは幸いだ。
彼が風邪をひいて学校を休めばいいと願ったこともあったが、彼の体は見かけに反して頑丈だった。
それなのにタフな彼が体調不良で休んだ日には、空の机ばかり見ている自分がいた。
『菓子をくれると言うから食べたら腹を下した。油断した』
殿下に気安く菓子を渡す人間なんて限られていることだろう。こんな人でも五番目でも彼の暮らす王宮というのは息つけない場所らしい。
一週間ぶりの彼はひと回り小さくなっていた。それでも彼の精神は変わりなく、私の美しい友人がこの先もずっとそのままである事を初めて願ったのだった。
そんなダイゴとの日々を過ごす中で、流され通しの私でも立ち止まった時があった。
幼い私でも長兄の結婚式に出席して思ったのだ。私の結婚を心から祝ってくれる友がそれまでに何人できるだろうかと。
まずは、ダイゴだろ……あとは、ダイゴと……
数える指が一本しか折れない事実に目が泳いだ。まずい。ダイゴしかいないじゃないか。
このままではいけないと目覚めた瞬間はそれだった。
ダイゴはある時から騎士になると公言していた。私はそれを言葉だけではあるが応援した。
友達は続けてもいいが進む道は同じではいけない。
彼以外の交友がないのは嫌だしという本音を隠し、私の親にも彼にも告げて、文官とは正反対の道を目指す事にした。
私の体は風邪知らずの健康体だが、剣をふるうような腕力もないし足も遅い。つまりは鈍で反対される理由はなかった。
ちなみに頭一つ半だけ私が低い世界にいることは、大人になった今も変わらない。
美形と粗暴を兼ね備えたダイゴは希望通り騎士への道を進み、私たちはそこを分かれ道とした。
まったく顔を合わせない月日の中でも、ダイゴの噂は耳に入った。人付き合いが薄い私の元まで届くのはよほどのことだ。
寮を脱出しての夜遊びの顛末が噂のほとんどだった。
女、酒、喧嘩。
噂に尾ひれがつくのは分かっているが、そのうちの幾つかは耳を塞ぎたくなる程に、犯罪に近い物だった。しかし私はその 物語の中にいるダイゴと、私の知っているダイゴとは上手く重ねることができず、いつもチグハグな感触しかなかった。
『期限付きの遊びだから大丈夫。噂なんて捨て置けと言いたい所だけど、思ったより走り過ぎているようだね。政治には興味がないと僕を見ていればわかるだろうに、ダメ押しでもしているのだろうな。困ったものだ』
長期休暇に私の顔を見に来たと我が家やって来たダイゴは、見かけは逞しくなったものの、決して荒れてはいなかった。
私が知る彼と目の前の彼にズレはないと確信した。
噂を野放しにする、彼には彼の考えがあってのことなのだ。色々と問い詰めてみたかったが、のらりくらりとかわされるだろう。
まあ、求められた時にこそ私は全力で応えるべきなんだろう。こいつはこいつで好きにやっていればいい。
こうして年に一度も会えばいい方、順調にいけばそれ以降も深く交わることはない未来があった。
親たちがしきりにダイゴダイゴと連呼しているから、てっきり私が相手する坊ちゃんの名前は『ダイゴ殿下』だと思い込んでいた。
……ダイゴではなく第五だった。
五番目でも繋げておいて損はない線。従順な私はそれならしょうがないと彼の学友になった。
学友、友達としての役を仰せつかったのは私だけではなく、私を含めて六人も用意されていた。 それなら気楽でいいやと思ったけれど、取り巻き役も楽ではなかった。
家の格と自己主張の強さが殿下との距離に現れる。私は当然一番遠い場所にいた。
気に入らないことがあると殿下のくせに権力ではなく腕力をもってやり込める男。女みたいに柔らかな顔をして切れ味鋭く毒を放つ男。
口数も最小限だから彼は誤解されがちだが、彼の薄い唇から紡がれる言の葉は乱暴で強気だった。
なぜだ。ダイゴ。もっと友を大切にしろ。簡単に手を上げるな。
言葉は丸のみした。
クラスメイトがイタズラのために持っていた虫を取り上げ、私の顔面に放り投げた。何とか避けた。
美しいバラの咲き誇る庭園で立ち小便をし、それを私にも強いた。モノは出したが出なかった。
そんな風に彼の横暴に耐えながら後をついていたら、いつしか二人きりになっていた。
冷静沈着に見せかけて、一気に怒りを放出するダイゴに何年も振り回された。放出先がいつしか私でなくなったのは幸いだ。
彼が風邪をひいて学校を休めばいいと願ったこともあったが、彼の体は見かけに反して頑丈だった。
それなのにタフな彼が体調不良で休んだ日には、空の机ばかり見ている自分がいた。
『菓子をくれると言うから食べたら腹を下した。油断した』
殿下に気安く菓子を渡す人間なんて限られていることだろう。こんな人でも五番目でも彼の暮らす王宮というのは息つけない場所らしい。
一週間ぶりの彼はひと回り小さくなっていた。それでも彼の精神は変わりなく、私の美しい友人がこの先もずっとそのままである事を初めて願ったのだった。
そんなダイゴとの日々を過ごす中で、流され通しの私でも立ち止まった時があった。
幼い私でも長兄の結婚式に出席して思ったのだ。私の結婚を心から祝ってくれる友がそれまでに何人できるだろうかと。
まずは、ダイゴだろ……あとは、ダイゴと……
数える指が一本しか折れない事実に目が泳いだ。まずい。ダイゴしかいないじゃないか。
このままではいけないと目覚めた瞬間はそれだった。
ダイゴはある時から騎士になると公言していた。私はそれを言葉だけではあるが応援した。
友達は続けてもいいが進む道は同じではいけない。
彼以外の交友がないのは嫌だしという本音を隠し、私の親にも彼にも告げて、文官とは正反対の道を目指す事にした。
私の体は風邪知らずの健康体だが、剣をふるうような腕力もないし足も遅い。つまりは鈍で反対される理由はなかった。
ちなみに頭一つ半だけ私が低い世界にいることは、大人になった今も変わらない。
美形と粗暴を兼ね備えたダイゴは希望通り騎士への道を進み、私たちはそこを分かれ道とした。
まったく顔を合わせない月日の中でも、ダイゴの噂は耳に入った。人付き合いが薄い私の元まで届くのはよほどのことだ。
寮を脱出しての夜遊びの顛末が噂のほとんどだった。
女、酒、喧嘩。
噂に尾ひれがつくのは分かっているが、そのうちの幾つかは耳を塞ぎたくなる程に、犯罪に近い物だった。しかし私はその 物語の中にいるダイゴと、私の知っているダイゴとは上手く重ねることができず、いつもチグハグな感触しかなかった。
『期限付きの遊びだから大丈夫。噂なんて捨て置けと言いたい所だけど、思ったより走り過ぎているようだね。政治には興味がないと僕を見ていればわかるだろうに、ダメ押しでもしているのだろうな。困ったものだ』
長期休暇に私の顔を見に来たと我が家やって来たダイゴは、見かけは逞しくなったものの、決して荒れてはいなかった。
私が知る彼と目の前の彼にズレはないと確信した。
噂を野放しにする、彼には彼の考えがあってのことなのだ。色々と問い詰めてみたかったが、のらりくらりとかわされるだろう。
まあ、求められた時にこそ私は全力で応えるべきなんだろう。こいつはこいつで好きにやっていればいい。
こうして年に一度も会えばいい方、順調にいけばそれ以降も深く交わることはない未来があった。
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