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52 裏の主
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開け放った扉の前を通りかかるセシばあをちょうど発見。俺は慌てて部屋を出る。
セシは掃除のために移動しているのだろう、手には魔女が持つような柄の長いシュロの箒ほうきを持っている。
「ちょっと待って、セシばあ」
「……まっ! 坊ちゃん!」
突然俺が現れてセシが飛び上がった。今のでちょっと寿命を奪ってしまったかもしれない。
「驚かしてごめん。俺、今日は学校休むよ、いいよね?」
「いいよねって、学校へいっているはずの人がどうしてここにいらっしゃるんでしょうっ」
それほど仰天することをしてるつもりはないのに、俺の行動はいつもセシの『坊ちゃんはこうあるべき』の枠から飛び出しているらしい。
メイド服ではなくて普通のワンピースにエプロンを被った七十歳のセシばあは、俺の言うことに『まっ』で返してくることが多い。
体は丸型。顔も脂肪が乗ってて、皺やシミひとつなくてつやっつや。背の高さは俺と一緒。休みのはずの日にも働きにやってくる事がある元気な人だ。
セシは箒を壁に立てかけ、俺の手をとる。ぷっくりとした温かい手が気持ちいい。
熱でもあるのか体調が悪いのかと、おでこにも触れて確かめて、何でもないと判断して溜息をついた。
「病気じゃないよ。ごめん、行くつもりで出てったんだけど……」
「帰ってきてしまったそれ相応の理由があるとおっしゃるんですね?」
言い訳を聞いてくれるようで、少しだけつり上がっていた眉が元の位置に戻る。
セシからしたら健康なのに学校に行かないのは罪深いことらしい。いつも勉強勉強と俺にうるさく言ってくるのは、この家でセシだけだ。
セシは教育係でもないのに、俺があまりにも坊ちゃんらしくないのが気になってしかたないみたい。
屋敷の庭を畑にしようかって耕してた時も、まっ! って目を剥いて驚いてた。
俺みたいな坊ちゃんが野良仕事なんてしちゃだめだって。それに客の目につく場所を畑にするなとめっちゃ怒られた。
田舎で貧乏であっても、ここは領を代表する施設である事にプライドを持てという事らしい。
セシの言うことはなかなか侮れない時もある。
でも外から見える場所に布団を干してもいいのは、それが健康に関わる事だからだって。
セシの発言にはたまに首をひねる事があるけれど、彼女がこの年まで作ってきた独自のルールは、時に父さんたちでも侵す事が出来ない。
「学校行く前に床屋に寄ったんだ」
「確かに、朝とはかわってらっしゃいますね」
「でも全然さっぱりしてないんだよ。俺はイノセみたいにしてって注文したのにさ」
「まっ! イノセ様のように! それはだめです。坊ちゃんがあの頭になったら、みなが悲しみます」
「みなって誰だよ……」
「皆はみなです」
「でもこれじゃ女の子みたいだろ?」
「女の子よりも可愛くなっていますね。ほほっ、皆が喜びます」
だから皆って誰? 屋敷のみんな、それとも屋敷を出るの? どのへんまでが皆なんだ……
セシにはお年頃男子の微妙な気持ちがわからないんだろう。お話にならない。
俺は髪をぐしゃぐしゃと掻きまぜ、床屋いきたての気恥ずかしさをかき消す。
「まっ、綺麗な髪が、もったいない」
セシばあはいそいそとポケットから小さな櫛を出して、俺の後ろに回って髪を整えだした。
「ざっくり結んだのも、それはそれでお似合いでしたね。うちの隣のご隠居さんが、森の精霊が人の姿になって現れたのを見たと言っておりましたが、それは坊ちゃんの事でしょう」
「ぶっ……!」
俺が妖精……淫魔ならまだ頷けるけど、そのじいちゃんいったい幾つなんだ。
セシがご隠居って呼ぶ人の年齢の方が気になるよ。
人の少ない領とはいえ、俺がまだ会った事のない人は沢山いるようだ。
「いつお迎えがあってもおかしくない年ですし、否定せずにおきましたよ。精霊の顔を拝めたのは良い冥土の土産となったでしょう。ほほほっ」
セシは何気に毒舌だ。
「ねえ、もう学校行かなくていいよね」
「さて、どうしましょうか……」
「セシばあはいっつも学校とか勉強ってうるさいけど、ケーシーとか学校来ない時が多いんだよ」
「家の手伝いを優先させているからです。収穫期ですから家族総出、ご近所総出が当然です」
「じゃあ今から俺もケーシーの家の手伝いに行ってくる。俺こう見えて畑は初心者じゃないし」
「何をおっしゃいます、まるっきり素人ですよ。坊ちゃんが行かれたら気をつかわせて作業が遅れます。何だかんだ言ってもあなたは領主の息子なんです。遊びに行く分には歓迎されますが、労働させる訳にはいきませんっ」
俺、役に立つぜ!
なんて本気で思ってたのに、セシの言葉で結構傷ついた。
セシはしゅんとする俺をみて、しょうがないと言いたげに小さく息を吐いて、櫛を戻した。
「しょうがないですね。今日行かなくても明日からは行くんですよ。お手伝いはしなくていいですから、書庫でお勉強をしてくださいませ、お邪魔しませんから」
俺がたまに書庫にこもって本を読みふけっているのをセシは知っている。
そこから引っ張りだして部屋に持ち込む専門書の種類もわかっているし、俺が抱いている叶わぬ夢もわかっているのだろう。
「やった休みだ。セシばあ、ありがと」
感謝のハグをすると、ようやくいつものように笑った。
「でも、ちょうどよかったです。いつかの旅の方が、またいらしているんですよ」
「旅の方?」
また?
二度目の来訪をしたのは誰だろう。セシと目を合わせる。
「あの方ですよ、半年前にいらした、あの色男です」
「ああっ……ハリドね」
「そう、そのハリド様です。今は応接室にお通しして休憩して頂いています。今夜もお泊りするのならその用意もしないと。食事も必要でしょうか……すぐに帰ってくれると有り難いのですが……」
セシばあはは客人対応に、苦い顔をして頭を巡らせている。
この屋敷に訪れた人が最初に顔を合わせるのは、セシ、もしくは秘書さんだ。
いつものセシは屋敷にやってくる人に対してとても愛想よく応対している。
よそからやってくる人に旅の途中の話や、出身の土地の話を聞くのは、セシの娯楽と言える。
それに、せっかく縁があってケーズへやって来た人なんだし、いい印象を持って帰ってもらいたいから、それはもう張り切ってしまうのだ。
しかし今回の客人であるハリドだけは、どうあっても苦手らしい。応接室に通したものの、あとの処理は娘のアヌーにでも任せてしまおうと探していたのだろう。
「セシばあ、ハリドが今夜泊まるかどうか、何かいるものがあるのか、俺が聞いてくるよ」
「ではお願い致します」
間髪いれずに返ってくるから笑える。
「アヌーを探していたんですが、あの娘では頼りないですしね。私はどうもあの方が苦手で、胡散臭くていけません。近寄ると鳥肌が立ってしまいます……」
セシばあが客をこれほど人をボロクソに言うのを始めて聞いた。でもセシばあは正しい。俺もあいつが苦手だ。
この領主屋敷は旅人の宿泊を断らない。
旅の途中の人や、僧侶、楽師などが町にやってくると、うちが部屋を貸すようにしている。
そもそも領主館というのは、そう言った役割もあるのだ。
この屋敷で使える部屋数はわずかだ。
この家の大きさが見かけだけだと思うのは、食堂、応接室、広間、書庫、執務室二つ、父さんたちの寝室に俺の寝室、客間が二つ、合計で十部屋しか稼働していないから。
数はあってもヒーターが効かないとか、壁が剥がれてボロボロとか、トイレが流れないとかの理由で、セシの判断によって鍵を掛けられ入室できなくなっている。
他の部屋を探検したいなって思っても、鍵の管理者はセシだから貸してもらえない。
ちょっと貸して?って可愛く頼んでも、坊ちゃんには必要ないと鼻息をかけられるだけ。長くここで働いているセシには本当に敵わない。
そもそも客が旅人を装った強盗だったらどうすんだって思ったけど、よく考えればうちには金目の物はないんだよ。
広い屋敷のあちこちにあった壺なんかの装飾も、セシばあとアヌーさん二人では掃除が行き届かないという理由で、半地下にある納戸に隔離され詰め込まれている。
ここに来たとき父さんたちが納戸の中身を丁寧に確認したけど、やっぱり価値のある物はなかったらしい。
少しでも値が付く物があれば売って現金化して、領の財布に入れたかったみたいで、お宝なんかないって覚悟はしていたものの残念がっていた。
こんな感じだから、家に取られて困るものはない。唯一取られて困るのは命だけだ。
だから客が泊まる夜だけは、父さんたちの部屋に呼ばれて一緒に眠ることになっている。
部屋の鍵はもちろんかけるけれど、腕に覚えがあるイノセがいるのは心強い。
幸いなことに、これまで何度かの人を泊めているけれど、困った事態になったことはない。
違うな……一度だけあった。
父さん達のいない所で、俺をそんな目に合わせたのが一人いた。
それがハリドだった。
ちょい悪の危険な香りがする風貌。それを強めるのは褐色の肌で、それは日焼けのせいではなく元々ハリドが持つ色だった。
二十代後半のハリドは、若さと成熟さの両方を持っていた。
彼の登場でセシばあの娘であるアヌーが浮足立ったのをよく覚えている。
アヌーはセシばあの娘だから年齢は五十代半ばだ。それでもハリドがいる間はやけに艶めいた肌をして、鼻歌なんて歌っていた。
色男を見ているだけでホルモンが活発したのだろうと俺はみた。
ハリドは自分の容姿をよくわかっているようで、変に注目されるのはごめんだと、二日間の滞在中外へは出なかったようだ。
こっちは領主の息子としてハリドの話し相手になったのに、艶のある話ばかりをして俺で楽しんでいた。
移動する町々で女性からの誘惑があった。世話になった時には体で恩返しすることもあったって……そんな話、ききたかないっての。
言っとくけど田舎の方がもっとハードな話があるから。こっちは接待だから聞いてあげてるだけだって言うの。セクハラかよ。
とは、かろうじて心の中にだけ留めておいた。
でもそんなお遊びがなきゃ、あんな色気は身に着かないんだろうな。
セシが鳥肌立つって言ってたの、俺はよくわかる。
要するに彼は、得体が知れないんだ。
ハリドには貴族の雇い主がいて、正式なパシリとして働いてるって言ってたのは嘘じゃない。名のある貴族のサインの入った正式な紹介状を父さんたちに見せていたからだ。
ちなみに、紹介状って言うのは、土地を離れる時には必須のアイテム。
うちの領民が仕事で旅に出る時なんかも、届け出があれば領主である父さんが発行する事になっている。
この人はこの領に住む人間だと言うことを書き連ねた紙で、他の領主屋敷や宿に泊まる時に見せたり、大きな金が動く商売の時に見せたりと、個人を証明する事ができる身分証になる。
まあいくらでも偽造できるものだけど、ないよりは格段に心象がよくなると思う。
こんな田舎にハリドが二度目の訪問。ケーズが通り道だとしても、このド田舎に何度も用事なんてあるだろうか。
何しに来たんだ……?
セシは掃除のために移動しているのだろう、手には魔女が持つような柄の長いシュロの箒ほうきを持っている。
「ちょっと待って、セシばあ」
「……まっ! 坊ちゃん!」
突然俺が現れてセシが飛び上がった。今のでちょっと寿命を奪ってしまったかもしれない。
「驚かしてごめん。俺、今日は学校休むよ、いいよね?」
「いいよねって、学校へいっているはずの人がどうしてここにいらっしゃるんでしょうっ」
それほど仰天することをしてるつもりはないのに、俺の行動はいつもセシの『坊ちゃんはこうあるべき』の枠から飛び出しているらしい。
メイド服ではなくて普通のワンピースにエプロンを被った七十歳のセシばあは、俺の言うことに『まっ』で返してくることが多い。
体は丸型。顔も脂肪が乗ってて、皺やシミひとつなくてつやっつや。背の高さは俺と一緒。休みのはずの日にも働きにやってくる事がある元気な人だ。
セシは箒を壁に立てかけ、俺の手をとる。ぷっくりとした温かい手が気持ちいい。
熱でもあるのか体調が悪いのかと、おでこにも触れて確かめて、何でもないと判断して溜息をついた。
「病気じゃないよ。ごめん、行くつもりで出てったんだけど……」
「帰ってきてしまったそれ相応の理由があるとおっしゃるんですね?」
言い訳を聞いてくれるようで、少しだけつり上がっていた眉が元の位置に戻る。
セシからしたら健康なのに学校に行かないのは罪深いことらしい。いつも勉強勉強と俺にうるさく言ってくるのは、この家でセシだけだ。
セシは教育係でもないのに、俺があまりにも坊ちゃんらしくないのが気になってしかたないみたい。
屋敷の庭を畑にしようかって耕してた時も、まっ! って目を剥いて驚いてた。
俺みたいな坊ちゃんが野良仕事なんてしちゃだめだって。それに客の目につく場所を畑にするなとめっちゃ怒られた。
田舎で貧乏であっても、ここは領を代表する施設である事にプライドを持てという事らしい。
セシの言うことはなかなか侮れない時もある。
でも外から見える場所に布団を干してもいいのは、それが健康に関わる事だからだって。
セシの発言にはたまに首をひねる事があるけれど、彼女がこの年まで作ってきた独自のルールは、時に父さんたちでも侵す事が出来ない。
「学校行く前に床屋に寄ったんだ」
「確かに、朝とはかわってらっしゃいますね」
「でも全然さっぱりしてないんだよ。俺はイノセみたいにしてって注文したのにさ」
「まっ! イノセ様のように! それはだめです。坊ちゃんがあの頭になったら、みなが悲しみます」
「みなって誰だよ……」
「皆はみなです」
「でもこれじゃ女の子みたいだろ?」
「女の子よりも可愛くなっていますね。ほほっ、皆が喜びます」
だから皆って誰? 屋敷のみんな、それとも屋敷を出るの? どのへんまでが皆なんだ……
セシにはお年頃男子の微妙な気持ちがわからないんだろう。お話にならない。
俺は髪をぐしゃぐしゃと掻きまぜ、床屋いきたての気恥ずかしさをかき消す。
「まっ、綺麗な髪が、もったいない」
セシばあはいそいそとポケットから小さな櫛を出して、俺の後ろに回って髪を整えだした。
「ざっくり結んだのも、それはそれでお似合いでしたね。うちの隣のご隠居さんが、森の精霊が人の姿になって現れたのを見たと言っておりましたが、それは坊ちゃんの事でしょう」
「ぶっ……!」
俺が妖精……淫魔ならまだ頷けるけど、そのじいちゃんいったい幾つなんだ。
セシがご隠居って呼ぶ人の年齢の方が気になるよ。
人の少ない領とはいえ、俺がまだ会った事のない人は沢山いるようだ。
「いつお迎えがあってもおかしくない年ですし、否定せずにおきましたよ。精霊の顔を拝めたのは良い冥土の土産となったでしょう。ほほほっ」
セシは何気に毒舌だ。
「ねえ、もう学校行かなくていいよね」
「さて、どうしましょうか……」
「セシばあはいっつも学校とか勉強ってうるさいけど、ケーシーとか学校来ない時が多いんだよ」
「家の手伝いを優先させているからです。収穫期ですから家族総出、ご近所総出が当然です」
「じゃあ今から俺もケーシーの家の手伝いに行ってくる。俺こう見えて畑は初心者じゃないし」
「何をおっしゃいます、まるっきり素人ですよ。坊ちゃんが行かれたら気をつかわせて作業が遅れます。何だかんだ言ってもあなたは領主の息子なんです。遊びに行く分には歓迎されますが、労働させる訳にはいきませんっ」
俺、役に立つぜ!
なんて本気で思ってたのに、セシの言葉で結構傷ついた。
セシはしゅんとする俺をみて、しょうがないと言いたげに小さく息を吐いて、櫛を戻した。
「しょうがないですね。今日行かなくても明日からは行くんですよ。お手伝いはしなくていいですから、書庫でお勉強をしてくださいませ、お邪魔しませんから」
俺がたまに書庫にこもって本を読みふけっているのをセシは知っている。
そこから引っ張りだして部屋に持ち込む専門書の種類もわかっているし、俺が抱いている叶わぬ夢もわかっているのだろう。
「やった休みだ。セシばあ、ありがと」
感謝のハグをすると、ようやくいつものように笑った。
「でも、ちょうどよかったです。いつかの旅の方が、またいらしているんですよ」
「旅の方?」
また?
二度目の来訪をしたのは誰だろう。セシと目を合わせる。
「あの方ですよ、半年前にいらした、あの色男です」
「ああっ……ハリドね」
「そう、そのハリド様です。今は応接室にお通しして休憩して頂いています。今夜もお泊りするのならその用意もしないと。食事も必要でしょうか……すぐに帰ってくれると有り難いのですが……」
セシばあはは客人対応に、苦い顔をして頭を巡らせている。
この屋敷に訪れた人が最初に顔を合わせるのは、セシ、もしくは秘書さんだ。
いつものセシは屋敷にやってくる人に対してとても愛想よく応対している。
よそからやってくる人に旅の途中の話や、出身の土地の話を聞くのは、セシの娯楽と言える。
それに、せっかく縁があってケーズへやって来た人なんだし、いい印象を持って帰ってもらいたいから、それはもう張り切ってしまうのだ。
しかし今回の客人であるハリドだけは、どうあっても苦手らしい。応接室に通したものの、あとの処理は娘のアヌーにでも任せてしまおうと探していたのだろう。
「セシばあ、ハリドが今夜泊まるかどうか、何かいるものがあるのか、俺が聞いてくるよ」
「ではお願い致します」
間髪いれずに返ってくるから笑える。
「アヌーを探していたんですが、あの娘では頼りないですしね。私はどうもあの方が苦手で、胡散臭くていけません。近寄ると鳥肌が立ってしまいます……」
セシばあが客をこれほど人をボロクソに言うのを始めて聞いた。でもセシばあは正しい。俺もあいつが苦手だ。
この領主屋敷は旅人の宿泊を断らない。
旅の途中の人や、僧侶、楽師などが町にやってくると、うちが部屋を貸すようにしている。
そもそも領主館というのは、そう言った役割もあるのだ。
この屋敷で使える部屋数はわずかだ。
この家の大きさが見かけだけだと思うのは、食堂、応接室、広間、書庫、執務室二つ、父さんたちの寝室に俺の寝室、客間が二つ、合計で十部屋しか稼働していないから。
数はあってもヒーターが効かないとか、壁が剥がれてボロボロとか、トイレが流れないとかの理由で、セシの判断によって鍵を掛けられ入室できなくなっている。
他の部屋を探検したいなって思っても、鍵の管理者はセシだから貸してもらえない。
ちょっと貸して?って可愛く頼んでも、坊ちゃんには必要ないと鼻息をかけられるだけ。長くここで働いているセシには本当に敵わない。
そもそも客が旅人を装った強盗だったらどうすんだって思ったけど、よく考えればうちには金目の物はないんだよ。
広い屋敷のあちこちにあった壺なんかの装飾も、セシばあとアヌーさん二人では掃除が行き届かないという理由で、半地下にある納戸に隔離され詰め込まれている。
ここに来たとき父さんたちが納戸の中身を丁寧に確認したけど、やっぱり価値のある物はなかったらしい。
少しでも値が付く物があれば売って現金化して、領の財布に入れたかったみたいで、お宝なんかないって覚悟はしていたものの残念がっていた。
こんな感じだから、家に取られて困るものはない。唯一取られて困るのは命だけだ。
だから客が泊まる夜だけは、父さんたちの部屋に呼ばれて一緒に眠ることになっている。
部屋の鍵はもちろんかけるけれど、腕に覚えがあるイノセがいるのは心強い。
幸いなことに、これまで何度かの人を泊めているけれど、困った事態になったことはない。
違うな……一度だけあった。
父さん達のいない所で、俺をそんな目に合わせたのが一人いた。
それがハリドだった。
ちょい悪の危険な香りがする風貌。それを強めるのは褐色の肌で、それは日焼けのせいではなく元々ハリドが持つ色だった。
二十代後半のハリドは、若さと成熟さの両方を持っていた。
彼の登場でセシばあの娘であるアヌーが浮足立ったのをよく覚えている。
アヌーはセシばあの娘だから年齢は五十代半ばだ。それでもハリドがいる間はやけに艶めいた肌をして、鼻歌なんて歌っていた。
色男を見ているだけでホルモンが活発したのだろうと俺はみた。
ハリドは自分の容姿をよくわかっているようで、変に注目されるのはごめんだと、二日間の滞在中外へは出なかったようだ。
こっちは領主の息子としてハリドの話し相手になったのに、艶のある話ばかりをして俺で楽しんでいた。
移動する町々で女性からの誘惑があった。世話になった時には体で恩返しすることもあったって……そんな話、ききたかないっての。
言っとくけど田舎の方がもっとハードな話があるから。こっちは接待だから聞いてあげてるだけだって言うの。セクハラかよ。
とは、かろうじて心の中にだけ留めておいた。
でもそんなお遊びがなきゃ、あんな色気は身に着かないんだろうな。
セシが鳥肌立つって言ってたの、俺はよくわかる。
要するに彼は、得体が知れないんだ。
ハリドには貴族の雇い主がいて、正式なパシリとして働いてるって言ってたのは嘘じゃない。名のある貴族のサインの入った正式な紹介状を父さんたちに見せていたからだ。
ちなみに、紹介状って言うのは、土地を離れる時には必須のアイテム。
うちの領民が仕事で旅に出る時なんかも、届け出があれば領主である父さんが発行する事になっている。
この人はこの領に住む人間だと言うことを書き連ねた紙で、他の領主屋敷や宿に泊まる時に見せたり、大きな金が動く商売の時に見せたりと、個人を証明する事ができる身分証になる。
まあいくらでも偽造できるものだけど、ないよりは格段に心象がよくなると思う。
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