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一鬼 その男、鬼市なり1
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盆地特有の蒸し蒸しとした空気に突き刺さるような熱気ある太陽光。
毎年の事ながら、異様なほどこの土地は暑い。
雨が今年は少ないせいもあってか、水田の水かさも少し心許なくなってきていた。
耳に突き刺さるクマゼミの大合唱がさらに暑苦しい空気を演出していた。
そんな中、誰も歩かない灼熱の方田舎道を古ぼけた後部が幌となっている軽トラックが、黒煙を上げながら走っていた。
パワーが足りていないのか、窓は全開となっており、運転手は汗だくになりながらやる気なさげにハンドルを握っていた。
流れてくるラジオからは、昭和の歌謡曲がチョイスされており、趣味ではない彼の耳をさらに患わせていた。
そんな彼も目的地に着いたのか、一件の古びた家の前に止まる。
熱さに悲鳴を上げるエンジンを止め、気怠げに降りるとそのまま引き戸式になっている家の玄関を開けた。
「まいどー、おおきに。幾三商店ッス」
開けると同時に鼻孔をくすぐるのは、嗅ぎ慣れた独特の臭気だった。
昔はこの臭いだけで、ずいぶんと酷い目にあったものだが、三年もこの仕事に従事していれば嫌でも身体が慣れてしまうものだった。
「お~、きっちゃんか。おおきに、暑いのにご苦労さんやなぁ」
奥から、ランニングシャツ姿の少しくたびれたおっちゃんが出てきて、奥へ手招きしていた。
「康さん。おおきに、いつもありがとうございます。大将います?」
「おるで、室(むろ)の様子見とるわ」
言葉のまま、奥へと進んでいくと臭いはさらにきつくなり、外にもまして湿度が肌についた。
室のある部屋へ進むと、暑いというのに薄汚れた甚兵衛を着込んだ老人が、湿度計とにらめっこしていた。
「大将、まいど」
「おぉ、きっちゃんか。聞こえてたぜ」
老人、木戸荒間はゆっくりと振り返り、神経質そうな目で睨んでいた。
「先日の奴はできてるんスよね?」
「出来とるぞ。まぁあれだ、奥へこい」
木戸は自分の作業台までやってくると同時に、奥から木戸の奥さんがアイスコーヒーを持ってきていた。
「きっちゃん、ほんまおおきに」
「奥さん、いつもありがとうございます」
彼は軽く会釈で返すと、奥さんはニコニコしながらそのまま奥へともどっていった。
「しかし、きっちゃん。今日は特に暑いな」
「今年は以上ですね」
「だろ? ここまで暑いと乾きとか読むのが難しいわ」
「ちゅうても、今年は去年よりも、雨が少ないから分かりやすいでしょ?」
「まぁそれもそうだがな」
木戸は相づちを打ちながら、煙管の火をつけだした。
「そういや、きっちゃんよ。最近、あっちの噂はどうなんや?」
「あっちいいますと? 裏の話ッスよね?」
木戸は紫煙を吐きながら、その神経質そうな目尻をもみほぐしていく。
「それしかないやろ。このところ、とんと噂も聞かへんのや。何も起きてないのならええ」
「ん~、最近はこの暑さですからねぇ。みぃんな茹だっちまって、やる気無いんですわ」
「ま、祭りも近いことやし、そっちに忙しいか」
「それもあるっちゅうことでしょ。ほな、商品はもらっていきまっせ」
「おう。今回は、よく塗れたぜ」
そう言いながら、木戸は作業台の横に置いてある箱の中から、一個の器を取りだした。
周りを朱に中をつや消しの見事な黒に塗られた高級感のある漆器だった。
「そういえば、大将。国産漆手に入ったやったよね? こいつは?」
一瞬、その言葉に大将の目尻が微かに動いた。
「そいつは、中国の漆だよ。だいたい、値段があわねぇよ」
その目はもうちょい金を出せと、暗に書いてあった。
「そない言われましてもね。うちの卸やから、店からそんなオーダーが入ったら仕事廻しますよ」
「ほんま、お前はそればっかやなぁ。まぁええわ。おまえの爺さんには色々と世話になったから、なんかあっても、多少色はつけるさかい」
「大将、いつもそれッスよねぇ。ゆうても俺、じいちゃん知らないんスけどね」
よく言われる文句に、彼は苦笑した。
そして、そのたびに言われるのだ。
「いずれちゃんとわかるさ。お前の爺さんがどれだけの人だったかってな」
「へいよ。ほな、また来ますさかい、よろしゅうに」
「おう、おおきにな」
そのまま、番頭である康にも声をかけ、玄関の引き戸を開けると思わず声が漏れた。
「あぢぃな……」
相も変わらず灼熱地獄は続き、空を見上げてみると雲一つない、見事なまでの晴天だった。
彼は視線の中にある軽トラックの運転席は、やっぱり直射日光にさらされて、空気を揺らがせていた。
深い深いため息が出る中、商品の入った箱を荷台に乗せ、動かないように養生の毛布を掛ける。そして、狭い運転席に座るときだった。元々、彼の体型からすれば運転スペースは狭く窮屈だ。そこに無理矢理身体をねじり込み、恐る恐る運転席のシートに座る。
「……っ」
予想通りだった。
尻と腿が火傷しそうになった。
泣きそうになりながら、彼はキーを回しへたりだしているエンジンに喝を入れた。
「さって、次は蒔絵の安藤さんか」
そこを回り、回す商品と今後の打ち合わせをすれば、無事会社へと戻ることが出来る。
まだクーラーが効いているオフィスに留まれるかは分からないが、まだマシなのは確かだった。
時計を確認して、アクセルを踏もうとした時だった。
不意に胸ポケットに入れた携帯が鳴り響きだした。
こんな時間に?
……職人か?
一瞬、嫌な予感もしながらポケットからつまみ上げてみると、彼の顔に暗雲が立ちこめた。
「おいおい……このタイミングで社長かよ」
出ないわけにもいかず、ため息が無意識に漏れながら出た。
「お疲れさ……」
『宮酒ッ、どこいっておるんだッッ!!』
いきなりの怒声に宮酒鬼市は渋面を作った。
ひょろっと背は高いが、細身な体型。
少しぼさぼさ気味……いや乱雑にセットされている黒髪。
髭は剃ってはいるのだろうが、そり残しが端々に目立ち、精悍さはそこにはなかった。
茶色がかった三白眼気味の瞳は眠たげに少し閉じていた。そして、その目尻にはうっすらとだが、古傷の後があった。
もっとも、髪が若干だが、目尻付近まで掛かっているので、目立つことはなかった。
少しやぼった目の黒縁メガネを少し押し上げながら彼は考えた。
今日、怒られるようなミスをした憶えはない。
では……?
昨日あたりに納品したもので、なにか不手際があったのだろうか……?
「社長、いきなり怒鳴らないでくださいよ。なんのトラブルです」
確か、今日は満月である。
いつもは温厚気味の社長も、今日はよく荒れる日でもあった。
この調子では、社内は騒然としているかもしれない。
満月の日だけは、みんなミス0で乗り切ろうとしているのに、午前中でこの有様である。
「え~……それで、今回はなにがあったんです?」
『ッ―――――――――!!』
まさにマシンガンと言っても過言ではないくらいに、ありとあらゆる言葉がスピーカーから吐き出されていった。
鬼市は、耳から少し離しため息を聞かれないように付きながら、ゆっくりと社長である犬原の言葉を噛みしめていった。
「あ~、了解です。安藤さんの所に行く前に、九宗印漆器店に詫び行ってきます」
『ッ―――――ッ!!! ――――ッッッ!!』
「分かってます。分かってます。ちゃんと処理しますよ」
まだ向こうはわめいているようだったが、とりあえず強制的に電話を切った。
要約すると、得意先である九宗印漆器店へ納品した漆塗りの漆器の中に、本物の漆ではなく代用漆の器が間違って納品されていたらしい。
納品の準備をするのは鬼市ではなく、別の社員なのだが、社長の言い分では配達するときにチェックしないからということらしい。なら、今のシステムを少し変えて、配達員にも納品内容とか色々と教えて欲しいものだ。
「やれやれ、難儀なこった」
会社自体は、創業してから九〇年くらいになるらしい。
先代の社長から、今の犬原社長になって二〇年くらいになると言うが、体質は昔のまま古くさい空気の中で営まれていた。
だが、そんな体制でも、しっかりした物を納めているという実績と信頼の元、今もなお、細々と生き残っていた。
鬼市はすぐさま、次行く予定の安藤に連絡をし、問題の九宗印漆器店へと向かっていった。
ついて見ると、仕入担当のいつものおばちゃんが出迎えてくれた。
「きっちゃぁん、堪忍ね? きっちゃんが悪いわけじゃないんだけど、ちょっとこれじゃねぇ」
「いえ、色々すんませんねぇ」
問題の店は京都の中心街の一角である四条寺町の商店街の中にある。
車での配達は実に利便性の悪いところとなるが、昔からのお得意様とあって、仕方が無いことだった。
もっとも、少し離れた所にある店の駐車場を使わさせてもらっているから、実質問題にはならないのだが。
問題の漆器は二点。そのほかにも、塗り面の問題や、埃が塗り下に入り込んでいるのなど、細かいチェックを受けていたらしく、結局五点が返品となってしまった。
品質での返品は三点。そのどれもが、鬼市が担当している職人のものではなかった。
ここまで来たら、その担当や、店担当の者の責任なのだが……
怒られるのは当事者である鬼市だった。
なんとも、やるせない気分だった。
多少嘆息しながらも、鬼市は次の納品と、その場で会社へ連絡して商品の在庫と検品を依頼していた。
見た目とは裏腹にテキパキとした行動は信頼に値すると、おおむね好評だった。
「そいじゃ、明日には納品しますし、おおきに」
「はいはい、おおきにね。次はちゃんとしておくれよ」
「わぁってますって」
袋に下げながら、鬼市はゆっくりと店を離れた。
平日の真っ昼間とはいえ、さすが寺町の京極商店街。観光客や修学旅行生、暇そうな人達が通りを横行していた。
鬼市は昼も近いとあって、適当に商店街内で昼食を取っていくことにした。
理由付けなど、なんとでもなるものだ。
「あ~、そっか。ピザでも食うか」
なんとなくの思いつき。
隣の新京極商店街にある映画館の近くにバイキング形式のピザ食い放題の店があったのを思い出した。
細身にしては大食漢である鬼市は、久々に腹一杯食べられるかなと、先ほどまでの出来事を記憶の後ろへと追いやり歩いて行った。
その途中だった。
ちょうど映画館の横を通過するときにある光景が目についた。
それは映画館の脇にある路地の奥だった。
何気なく視線を向けたときに、少し怪しい人影があったのだ。
「……」
路地の奥は界隈でも有名なホテル街だ。
こんな時間からそこに行くのは、よっぽどの暇人か、好き者と相場が決まっている。
そのホテル街を見張るかのように電信柱の所に人影がいるのだ。
こんな暑い日だと言うのに、薄手のコートとハンチング帽……
嫌でも目立つというものだ。
「……あの馬鹿が」
小柄な体躯とその帽子から少し見える短めの黒いつややかな黒髪。
それ以前に、こんなあからさまな事をしているのは京都狭しといえど、なんとなく目星がつくものだった。
鬼市はゆっくりと、いつも通りの歩調でそのものの背後へと近づいていった。
別に気配を隠すとかそういったことはしていない。
むしろ、気付よ、と言うかのように堂々と近づいていく。
「……」
そして、あっと言う間に真後ろへ……
まさに目と鼻の先。だが、そのものは一切、鬼市に気付くそぶりはなかった。
「……この鈍感娘」
急に掛けられた言葉に、一瞬その小さな肩が大きく震えた。
慌てて振り返ってくると、やはりよく知った顔がそこにあった。
「なっ、なっ……」
「よっす。こんな暑い日だってのに、なんつう目立つ格好をしてるんだ」
見れば、その顔からは玉の滴のごとく汗が流れ出していた。
「き、鬼市!? なんで此所にいるのさ」
「仕事。配達先がすぐそこにあるんだよ」
相手もまた仕事の真っ最中だろうが、今のままならそのうち警察が飛んでくるかもしれない。
あからさまに怪しすぎる……
「それで、輝(ひかる)。浮気調査か?」
「そ、そうよ。な、なにか問題ある!?」
なぜか、けんか腰で羽根井輝は噛みついてきた。
黒く短めのさらさらな髪も、今は汗でべったりと張り付いて見る影もない。
大きめで意志の強そうな瞳が真っ直ぐに鬼市を突き刺すように見ている。
柔らかそうで小さめの唇すらも、今は凶器のごとくとがっている。
ただし、少しずれた丸の黒縁メガネが、その怒りを全て台無しにしていた。
「いや別に……」
彼女の顔色を見てみると、心持ちいつもよりは少し白い感じがする。
本来、輝が本業としている事は浮気調査などではない。おそらくは、本業の方の依頼がここ最近はさっぱりないのだろう。
鬼市はため息をつくと、その野暮ったい帽子を取り上げた。
「なっ、なにするんだ!」
「五月蠅い黙れ」
さらに問答無用でそのコートも引っぺがしていく。
最初は抵抗をしていたものの、次第にそれも弱まり諦めの空気が流れていた。
「いつもいつも、君は強引だなぁ」
「お前がそれをいうか? いつもやっかいごとに強制的に巻き込んでくるのはお前の方だろう」
「ちゃんと、報酬も出してるんだからいいだろ」
「あれで、報酬か? バイト代にもなりゃしないね」
端から見ると、ただの痴話げんかにしか見えない。
先ほどまでの格好なら奇異の目を向けられていただろうが、コートがない今ではただのバカップルにしか見えやしない。
そうしている間に、彼女が見張っていたホテルから誰かが出てきた。
輝は鬼市の視線でそれを察すると、努めて目立たないように振り返り、隠しカメラでそれを押さえていた。
「よ、よし……これで証拠は……」
「まぁ、出てきているんだから、証拠としては十分やないんか?」
なんとか目的の物を納めたと言うことで、安堵している輝の上着の後ろを持ち引き上げた。
「わっわっわっ……」
簡単に彼女の足は中へと浮かび、バタバタと藻掻いていた。
「ほら、飯行くぞ」
「え!? でも、私……」
「ばぁか、それくらい察しや。俺だって、昼時間限られてるんやし、とっとと来いや」
鬼市は輝を離すと、そのままため息を漏らしながら歩き出した。
本当に久々だったのだろう、食い切れぬほどの食料を目の前にして、彼女は暴走した。
鬼市も呆れてしまうほどに、彼女は大いにピザをそして少しのびたスパゲッティを平らげていった。
いや、呆れているのは鬼市よりも、周りの席の人間だろう。
周りには修学旅行生や、暇な大学生などが多くいた。
格安での時間制食べ放題だ。味付けも少しこってりとしているため、食欲旺盛な学生などが客として多いのは当然と言えるだろう。
「お前……恥ずかしくないん?」
「へ? なにがさ」
最後のマルゲリータのピザを平らげ、置いてあるソフトドリンクを流し込んでいった。
「あ~、食べた食べた。生き返るわ」
「……たまに、お前が何処の出自なのか、綺麗さっぱり忘れちまうことがあるわ……」
「あぁ、そこは永遠に忘れておいてくれて構わないから」
きっぱりと、輝は言いきり、ナプキンで汚れた口元を拭っていった。
そうはいうが、店の端っこに写されているTVのニュースには、彼女にとって決別したはずの実家関連が流れている。
輝自身、その話をすることを嫌うが、彼女が使う商売に関わる技は、その実家で身につけた物に違いなく、その威光を借りるつもりがなくても、そうなってしまう場合は数多い。
結局は、完全な独り立ちなど出来ていないのだ。
そして、本来彼女自身がしたい仕事も、実家の兼ね合いにより、回ってくる仕事量というのは少なくないるのもまた事実だった。
鬼市自身、それは負けず嫌いな彼女にとって苦痛でしかないと理解している。他の地方へ行き、仕事につけば今よりも仕事量は多くなるかもしれない。だがこの地、日本の中心である京都で、業界的にも一番の最大手である実家を見返すことこそが、自らの自尊心を維持する唯一の方法だと理解していた。
"……難儀な奴だ"
欠伸と同時に、鬼市はそう思った。
「せ、せや! 最近変な噂とかきかへんの?」
「ん? さぁな、というかそういうのを聞き込んだり、情報収集をするのがお前の今の仕事じゃないのか? 曲がりなりにも探偵屋の看板を出して仕事をしているんだろ?」
「ま、まぁ……そうなんやけど」
「やれやれ、俺はれっきとした気質やぞ。そんな、一般社会からは完全に裏の領域の話なんか、しらんがな」
彼の言うことはまさしくその通りであり、一般サラリーマンが探偵が扱うような様々な情報を本来持っているとは考えにくいのも事実だった。
「で、でも、君は……」
「五月蠅い黙れ。おら、行くで。俺もいい加減、会社に帰らないとやべぇ」
本日何度目かのため息が漏れてくる。
むかぁし、亡くなったお袋が、ため息をつくとそれだけ幸せが逃げていくで、と教えてくれた。それが正しいのならば、鬼市は一日どれだけの幸運を逃しているのだろうか……
脳裏に一瞬だけ、そのことが過ぎり、さらにため息が出ていった。
会計を済ませ、地下の店から、ゆっくりと商店街へと出ると、熱風が彼を襲った。
「やれやれ、アーケード街でもこの有様かいな」
その後ろから満足げな顔をしていた輝もまた、その温度差には顔をしかめていた。
「そんじゃ、まぁがんばりや」
「う、五月蠅い。わかってるわよ」
最後まで、憎まれ口を叩くいつも通りの彼女を見下ろし、鬼市は苦笑した。
そして、背を向け駐車場のほうへと向かう時、微かにその背中は聞いていた。
「い、いつもありがとう……」
鬼市は振り返ることもせず、ただ手をあげるだけだった。
・
毎年の事ながら、異様なほどこの土地は暑い。
雨が今年は少ないせいもあってか、水田の水かさも少し心許なくなってきていた。
耳に突き刺さるクマゼミの大合唱がさらに暑苦しい空気を演出していた。
そんな中、誰も歩かない灼熱の方田舎道を古ぼけた後部が幌となっている軽トラックが、黒煙を上げながら走っていた。
パワーが足りていないのか、窓は全開となっており、運転手は汗だくになりながらやる気なさげにハンドルを握っていた。
流れてくるラジオからは、昭和の歌謡曲がチョイスされており、趣味ではない彼の耳をさらに患わせていた。
そんな彼も目的地に着いたのか、一件の古びた家の前に止まる。
熱さに悲鳴を上げるエンジンを止め、気怠げに降りるとそのまま引き戸式になっている家の玄関を開けた。
「まいどー、おおきに。幾三商店ッス」
開けると同時に鼻孔をくすぐるのは、嗅ぎ慣れた独特の臭気だった。
昔はこの臭いだけで、ずいぶんと酷い目にあったものだが、三年もこの仕事に従事していれば嫌でも身体が慣れてしまうものだった。
「お~、きっちゃんか。おおきに、暑いのにご苦労さんやなぁ」
奥から、ランニングシャツ姿の少しくたびれたおっちゃんが出てきて、奥へ手招きしていた。
「康さん。おおきに、いつもありがとうございます。大将います?」
「おるで、室(むろ)の様子見とるわ」
言葉のまま、奥へと進んでいくと臭いはさらにきつくなり、外にもまして湿度が肌についた。
室のある部屋へ進むと、暑いというのに薄汚れた甚兵衛を着込んだ老人が、湿度計とにらめっこしていた。
「大将、まいど」
「おぉ、きっちゃんか。聞こえてたぜ」
老人、木戸荒間はゆっくりと振り返り、神経質そうな目で睨んでいた。
「先日の奴はできてるんスよね?」
「出来とるぞ。まぁあれだ、奥へこい」
木戸は自分の作業台までやってくると同時に、奥から木戸の奥さんがアイスコーヒーを持ってきていた。
「きっちゃん、ほんまおおきに」
「奥さん、いつもありがとうございます」
彼は軽く会釈で返すと、奥さんはニコニコしながらそのまま奥へともどっていった。
「しかし、きっちゃん。今日は特に暑いな」
「今年は以上ですね」
「だろ? ここまで暑いと乾きとか読むのが難しいわ」
「ちゅうても、今年は去年よりも、雨が少ないから分かりやすいでしょ?」
「まぁそれもそうだがな」
木戸は相づちを打ちながら、煙管の火をつけだした。
「そういや、きっちゃんよ。最近、あっちの噂はどうなんや?」
「あっちいいますと? 裏の話ッスよね?」
木戸は紫煙を吐きながら、その神経質そうな目尻をもみほぐしていく。
「それしかないやろ。このところ、とんと噂も聞かへんのや。何も起きてないのならええ」
「ん~、最近はこの暑さですからねぇ。みぃんな茹だっちまって、やる気無いんですわ」
「ま、祭りも近いことやし、そっちに忙しいか」
「それもあるっちゅうことでしょ。ほな、商品はもらっていきまっせ」
「おう。今回は、よく塗れたぜ」
そう言いながら、木戸は作業台の横に置いてある箱の中から、一個の器を取りだした。
周りを朱に中をつや消しの見事な黒に塗られた高級感のある漆器だった。
「そういえば、大将。国産漆手に入ったやったよね? こいつは?」
一瞬、その言葉に大将の目尻が微かに動いた。
「そいつは、中国の漆だよ。だいたい、値段があわねぇよ」
その目はもうちょい金を出せと、暗に書いてあった。
「そない言われましてもね。うちの卸やから、店からそんなオーダーが入ったら仕事廻しますよ」
「ほんま、お前はそればっかやなぁ。まぁええわ。おまえの爺さんには色々と世話になったから、なんかあっても、多少色はつけるさかい」
「大将、いつもそれッスよねぇ。ゆうても俺、じいちゃん知らないんスけどね」
よく言われる文句に、彼は苦笑した。
そして、そのたびに言われるのだ。
「いずれちゃんとわかるさ。お前の爺さんがどれだけの人だったかってな」
「へいよ。ほな、また来ますさかい、よろしゅうに」
「おう、おおきにな」
そのまま、番頭である康にも声をかけ、玄関の引き戸を開けると思わず声が漏れた。
「あぢぃな……」
相も変わらず灼熱地獄は続き、空を見上げてみると雲一つない、見事なまでの晴天だった。
彼は視線の中にある軽トラックの運転席は、やっぱり直射日光にさらされて、空気を揺らがせていた。
深い深いため息が出る中、商品の入った箱を荷台に乗せ、動かないように養生の毛布を掛ける。そして、狭い運転席に座るときだった。元々、彼の体型からすれば運転スペースは狭く窮屈だ。そこに無理矢理身体をねじり込み、恐る恐る運転席のシートに座る。
「……っ」
予想通りだった。
尻と腿が火傷しそうになった。
泣きそうになりながら、彼はキーを回しへたりだしているエンジンに喝を入れた。
「さって、次は蒔絵の安藤さんか」
そこを回り、回す商品と今後の打ち合わせをすれば、無事会社へと戻ることが出来る。
まだクーラーが効いているオフィスに留まれるかは分からないが、まだマシなのは確かだった。
時計を確認して、アクセルを踏もうとした時だった。
不意に胸ポケットに入れた携帯が鳴り響きだした。
こんな時間に?
……職人か?
一瞬、嫌な予感もしながらポケットからつまみ上げてみると、彼の顔に暗雲が立ちこめた。
「おいおい……このタイミングで社長かよ」
出ないわけにもいかず、ため息が無意識に漏れながら出た。
「お疲れさ……」
『宮酒ッ、どこいっておるんだッッ!!』
いきなりの怒声に宮酒鬼市は渋面を作った。
ひょろっと背は高いが、細身な体型。
少しぼさぼさ気味……いや乱雑にセットされている黒髪。
髭は剃ってはいるのだろうが、そり残しが端々に目立ち、精悍さはそこにはなかった。
茶色がかった三白眼気味の瞳は眠たげに少し閉じていた。そして、その目尻にはうっすらとだが、古傷の後があった。
もっとも、髪が若干だが、目尻付近まで掛かっているので、目立つことはなかった。
少しやぼった目の黒縁メガネを少し押し上げながら彼は考えた。
今日、怒られるようなミスをした憶えはない。
では……?
昨日あたりに納品したもので、なにか不手際があったのだろうか……?
「社長、いきなり怒鳴らないでくださいよ。なんのトラブルです」
確か、今日は満月である。
いつもは温厚気味の社長も、今日はよく荒れる日でもあった。
この調子では、社内は騒然としているかもしれない。
満月の日だけは、みんなミス0で乗り切ろうとしているのに、午前中でこの有様である。
「え~……それで、今回はなにがあったんです?」
『ッ―――――――――!!』
まさにマシンガンと言っても過言ではないくらいに、ありとあらゆる言葉がスピーカーから吐き出されていった。
鬼市は、耳から少し離しため息を聞かれないように付きながら、ゆっくりと社長である犬原の言葉を噛みしめていった。
「あ~、了解です。安藤さんの所に行く前に、九宗印漆器店に詫び行ってきます」
『ッ―――――ッ!!! ――――ッッッ!!』
「分かってます。分かってます。ちゃんと処理しますよ」
まだ向こうはわめいているようだったが、とりあえず強制的に電話を切った。
要約すると、得意先である九宗印漆器店へ納品した漆塗りの漆器の中に、本物の漆ではなく代用漆の器が間違って納品されていたらしい。
納品の準備をするのは鬼市ではなく、別の社員なのだが、社長の言い分では配達するときにチェックしないからということらしい。なら、今のシステムを少し変えて、配達員にも納品内容とか色々と教えて欲しいものだ。
「やれやれ、難儀なこった」
会社自体は、創業してから九〇年くらいになるらしい。
先代の社長から、今の犬原社長になって二〇年くらいになると言うが、体質は昔のまま古くさい空気の中で営まれていた。
だが、そんな体制でも、しっかりした物を納めているという実績と信頼の元、今もなお、細々と生き残っていた。
鬼市はすぐさま、次行く予定の安藤に連絡をし、問題の九宗印漆器店へと向かっていった。
ついて見ると、仕入担当のいつものおばちゃんが出迎えてくれた。
「きっちゃぁん、堪忍ね? きっちゃんが悪いわけじゃないんだけど、ちょっとこれじゃねぇ」
「いえ、色々すんませんねぇ」
問題の店は京都の中心街の一角である四条寺町の商店街の中にある。
車での配達は実に利便性の悪いところとなるが、昔からのお得意様とあって、仕方が無いことだった。
もっとも、少し離れた所にある店の駐車場を使わさせてもらっているから、実質問題にはならないのだが。
問題の漆器は二点。そのほかにも、塗り面の問題や、埃が塗り下に入り込んでいるのなど、細かいチェックを受けていたらしく、結局五点が返品となってしまった。
品質での返品は三点。そのどれもが、鬼市が担当している職人のものではなかった。
ここまで来たら、その担当や、店担当の者の責任なのだが……
怒られるのは当事者である鬼市だった。
なんとも、やるせない気分だった。
多少嘆息しながらも、鬼市は次の納品と、その場で会社へ連絡して商品の在庫と検品を依頼していた。
見た目とは裏腹にテキパキとした行動は信頼に値すると、おおむね好評だった。
「そいじゃ、明日には納品しますし、おおきに」
「はいはい、おおきにね。次はちゃんとしておくれよ」
「わぁってますって」
袋に下げながら、鬼市はゆっくりと店を離れた。
平日の真っ昼間とはいえ、さすが寺町の京極商店街。観光客や修学旅行生、暇そうな人達が通りを横行していた。
鬼市は昼も近いとあって、適当に商店街内で昼食を取っていくことにした。
理由付けなど、なんとでもなるものだ。
「あ~、そっか。ピザでも食うか」
なんとなくの思いつき。
隣の新京極商店街にある映画館の近くにバイキング形式のピザ食い放題の店があったのを思い出した。
細身にしては大食漢である鬼市は、久々に腹一杯食べられるかなと、先ほどまでの出来事を記憶の後ろへと追いやり歩いて行った。
その途中だった。
ちょうど映画館の横を通過するときにある光景が目についた。
それは映画館の脇にある路地の奥だった。
何気なく視線を向けたときに、少し怪しい人影があったのだ。
「……」
路地の奥は界隈でも有名なホテル街だ。
こんな時間からそこに行くのは、よっぽどの暇人か、好き者と相場が決まっている。
そのホテル街を見張るかのように電信柱の所に人影がいるのだ。
こんな暑い日だと言うのに、薄手のコートとハンチング帽……
嫌でも目立つというものだ。
「……あの馬鹿が」
小柄な体躯とその帽子から少し見える短めの黒いつややかな黒髪。
それ以前に、こんなあからさまな事をしているのは京都狭しといえど、なんとなく目星がつくものだった。
鬼市はゆっくりと、いつも通りの歩調でそのものの背後へと近づいていった。
別に気配を隠すとかそういったことはしていない。
むしろ、気付よ、と言うかのように堂々と近づいていく。
「……」
そして、あっと言う間に真後ろへ……
まさに目と鼻の先。だが、そのものは一切、鬼市に気付くそぶりはなかった。
「……この鈍感娘」
急に掛けられた言葉に、一瞬その小さな肩が大きく震えた。
慌てて振り返ってくると、やはりよく知った顔がそこにあった。
「なっ、なっ……」
「よっす。こんな暑い日だってのに、なんつう目立つ格好をしてるんだ」
見れば、その顔からは玉の滴のごとく汗が流れ出していた。
「き、鬼市!? なんで此所にいるのさ」
「仕事。配達先がすぐそこにあるんだよ」
相手もまた仕事の真っ最中だろうが、今のままならそのうち警察が飛んでくるかもしれない。
あからさまに怪しすぎる……
「それで、輝(ひかる)。浮気調査か?」
「そ、そうよ。な、なにか問題ある!?」
なぜか、けんか腰で羽根井輝は噛みついてきた。
黒く短めのさらさらな髪も、今は汗でべったりと張り付いて見る影もない。
大きめで意志の強そうな瞳が真っ直ぐに鬼市を突き刺すように見ている。
柔らかそうで小さめの唇すらも、今は凶器のごとくとがっている。
ただし、少しずれた丸の黒縁メガネが、その怒りを全て台無しにしていた。
「いや別に……」
彼女の顔色を見てみると、心持ちいつもよりは少し白い感じがする。
本来、輝が本業としている事は浮気調査などではない。おそらくは、本業の方の依頼がここ最近はさっぱりないのだろう。
鬼市はため息をつくと、その野暮ったい帽子を取り上げた。
「なっ、なにするんだ!」
「五月蠅い黙れ」
さらに問答無用でそのコートも引っぺがしていく。
最初は抵抗をしていたものの、次第にそれも弱まり諦めの空気が流れていた。
「いつもいつも、君は強引だなぁ」
「お前がそれをいうか? いつもやっかいごとに強制的に巻き込んでくるのはお前の方だろう」
「ちゃんと、報酬も出してるんだからいいだろ」
「あれで、報酬か? バイト代にもなりゃしないね」
端から見ると、ただの痴話げんかにしか見えない。
先ほどまでの格好なら奇異の目を向けられていただろうが、コートがない今ではただのバカップルにしか見えやしない。
そうしている間に、彼女が見張っていたホテルから誰かが出てきた。
輝は鬼市の視線でそれを察すると、努めて目立たないように振り返り、隠しカメラでそれを押さえていた。
「よ、よし……これで証拠は……」
「まぁ、出てきているんだから、証拠としては十分やないんか?」
なんとか目的の物を納めたと言うことで、安堵している輝の上着の後ろを持ち引き上げた。
「わっわっわっ……」
簡単に彼女の足は中へと浮かび、バタバタと藻掻いていた。
「ほら、飯行くぞ」
「え!? でも、私……」
「ばぁか、それくらい察しや。俺だって、昼時間限られてるんやし、とっとと来いや」
鬼市は輝を離すと、そのままため息を漏らしながら歩き出した。
本当に久々だったのだろう、食い切れぬほどの食料を目の前にして、彼女は暴走した。
鬼市も呆れてしまうほどに、彼女は大いにピザをそして少しのびたスパゲッティを平らげていった。
いや、呆れているのは鬼市よりも、周りの席の人間だろう。
周りには修学旅行生や、暇な大学生などが多くいた。
格安での時間制食べ放題だ。味付けも少しこってりとしているため、食欲旺盛な学生などが客として多いのは当然と言えるだろう。
「お前……恥ずかしくないん?」
「へ? なにがさ」
最後のマルゲリータのピザを平らげ、置いてあるソフトドリンクを流し込んでいった。
「あ~、食べた食べた。生き返るわ」
「……たまに、お前が何処の出自なのか、綺麗さっぱり忘れちまうことがあるわ……」
「あぁ、そこは永遠に忘れておいてくれて構わないから」
きっぱりと、輝は言いきり、ナプキンで汚れた口元を拭っていった。
そうはいうが、店の端っこに写されているTVのニュースには、彼女にとって決別したはずの実家関連が流れている。
輝自身、その話をすることを嫌うが、彼女が使う商売に関わる技は、その実家で身につけた物に違いなく、その威光を借りるつもりがなくても、そうなってしまう場合は数多い。
結局は、完全な独り立ちなど出来ていないのだ。
そして、本来彼女自身がしたい仕事も、実家の兼ね合いにより、回ってくる仕事量というのは少なくないるのもまた事実だった。
鬼市自身、それは負けず嫌いな彼女にとって苦痛でしかないと理解している。他の地方へ行き、仕事につけば今よりも仕事量は多くなるかもしれない。だがこの地、日本の中心である京都で、業界的にも一番の最大手である実家を見返すことこそが、自らの自尊心を維持する唯一の方法だと理解していた。
"……難儀な奴だ"
欠伸と同時に、鬼市はそう思った。
「せ、せや! 最近変な噂とかきかへんの?」
「ん? さぁな、というかそういうのを聞き込んだり、情報収集をするのがお前の今の仕事じゃないのか? 曲がりなりにも探偵屋の看板を出して仕事をしているんだろ?」
「ま、まぁ……そうなんやけど」
「やれやれ、俺はれっきとした気質やぞ。そんな、一般社会からは完全に裏の領域の話なんか、しらんがな」
彼の言うことはまさしくその通りであり、一般サラリーマンが探偵が扱うような様々な情報を本来持っているとは考えにくいのも事実だった。
「で、でも、君は……」
「五月蠅い黙れ。おら、行くで。俺もいい加減、会社に帰らないとやべぇ」
本日何度目かのため息が漏れてくる。
むかぁし、亡くなったお袋が、ため息をつくとそれだけ幸せが逃げていくで、と教えてくれた。それが正しいのならば、鬼市は一日どれだけの幸運を逃しているのだろうか……
脳裏に一瞬だけ、そのことが過ぎり、さらにため息が出ていった。
会計を済ませ、地下の店から、ゆっくりと商店街へと出ると、熱風が彼を襲った。
「やれやれ、アーケード街でもこの有様かいな」
その後ろから満足げな顔をしていた輝もまた、その温度差には顔をしかめていた。
「そんじゃ、まぁがんばりや」
「う、五月蠅い。わかってるわよ」
最後まで、憎まれ口を叩くいつも通りの彼女を見下ろし、鬼市は苦笑した。
そして、背を向け駐車場のほうへと向かう時、微かにその背中は聞いていた。
「い、いつもありがとう……」
鬼市は振り返ることもせず、ただ手をあげるだけだった。
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