29 / 35
第29話 王子は魔眼の正体に納得がいかない
しおりを挟む
「の、脳……!?」
分解した魔眼からこぼれだしたのは、極小の脳だった。
「魔眼が機械学習で未来を予測してたのはもしかして……」
この脳がその機械学習を処理していたのだろうか?
その「脳」を見ているうちに、「ショコラ」さんの知識が浮かんでくる。
「脳オルガノイド……?」
臓器を細胞単位でばらばらにしたあと、再集合させて小型の臓器を復元したものを、オルガノイドというらしい。
脳オルガノイドはその脳バージョンだ。
シリコンベースのコンピューターの計算速度には物理的な限界がある。
その限界に達した地球では、その限界を超えるために人間の脳を模倣する研究が進んだという。
脳を人工的に培養してコンピューターにつなぐ……という発想は、むしろ当然のものとして現れた。
その発想に、天才的なひらめきなど必要ない。
凡庸な研究者であってもすぐに思いつくような、ありふれたアイデアだ。
だが、ヒトの脳を培養することには、倫理的な問題がつきまとう。
ヒトの脳を培養した場合に、どの段階でその脳に「意識」が生じるのか?
「意識」の正体は地球でも解明されておらず、したがって、「意識」があるかないかを確実に判定する手段もない。
自分の培養した脳に「意識」が宿っているのではないか――
良心的な研究者たちは培養脳の研究に尻込みした。
だが、コンピューターの計算能力向上は、人類全体喫緊の課題となっていく。
人間の頭脳で思いつくようなイノベーションは、地球では既に刈りつくされ、これ以上の経済成長を実現するには、より強力な人工知能を生み出すしかないと言われていた。
地球の富の分布はますます偏り、一握りの大富豪と大量の失業者に社会が分断される現象が地球規模で深刻化していた。
そうした切迫した事情が、培養脳の研究から倫理的なリミッターを取り払った。
たしかに、培養脳には人間の胎児程度の意識が生まれる可能性があるかもしれない。
だが、その意識は自分の意識じゃない。
失業にあえぐ大多数の平民と、富を独占しながらもさらなる富を求める富豪たち。
いずれにとっても、経済成長は必要なのだ。
さすがに人間と同じサイズの脳を培養することは禁止されたが、小型の脳オルガノイドの培養は解禁された。
ヒトの小型培養脳とコンピューターの接続は、あっけないほどうまくいった。
そうして達成されたコンピューターの計算能力の爆発的な向上が、高度な人工知能や現実と見紛うレベルの仮想現実技術の開発へとつながったのだ。
……とまあ、地球の事情はそんなところだったらしい。
魔眼の中身が培養された「脳オルガノイド」だったというのは、未来視の魔眼の特性を思えば納得だ。
「……いや、納得か?」
たしかに、一見科学的な説明のように思えるが、
「これまで散々セーブポイントだのキャンプだの引き継ぎバグだのを使ってきたのに、どうして今さら、そんな取ってつけたような科学的な話が出てくるんだよ?」
いっそ、魔眼は魔族の目だから位相が見えるのだ、というような、大雑把なゲームっぽい説明だったほうが、Carnageの世界観にも合っている。
これまで魔法だのスキルだのといった正体不明の力を使ってきておいて、いきなり「魔眼の正体は小型培養脳でした」では、説明のバランス感が合ってない。
「それに、クラフトのこともある。この魔眼――いや、『魔脳眼』を百個集めて『クラフト』すれば『星眼』とやらができるらしいが……この脳みそのかけらを百個合成するってのは、いったいどういう仕組みなんだよ?」
Carnageのクラフトは、あくまでも冒険の添え物的なサブ要素にすぎなかった。
だから、製作工程はあまり掘り下げず、ざっくりと「クラフト」の一言に抽象化し、「素材を集めてクラフトすればすぐに完成」という、きわめて「ゲーム的な」システムになっている。
この「現実」においてもクラフトの抽象的なゲーム性はそのままだ。
前にも言った通り、鉄鉱石3つをクラフト台に載せてクラフトすると、ものの数秒でショートソードが出来上がる。
それと同じように、魔脳眼を100個揃えてクラフトすれば、「星眼」とやらができるのだろう。
こんなゲーム的なクラフトをそのままにしておいて、魔眼が培養脳でしたという部分だけ妙に「科学的」なのは違和感がある。
しかも、その科学的な説明を取ると、エスメラルダが魔眼を使って妖精に対抗できた理由がわからない。
「そもそも、だ。俺はゲームオーバーになるたびに脳を破壊されてることになる。それでも俺の意識がつながってるのに、魔眼の能力を培養脳の計算力で説明するのは変なんだ」
俺の意識は脳以外のどこかにあるはずなのに、魔眼の能力は脳の計算力によるものだった、というのは、矛盾してるとまでは言えないが、なんだか「ずるい」説明のように思えてしまう。
ついでに言うと、シマリスに変身してるグレゴール兄さんの脳は、人間状態の時より大幅に小さくなってるわけだが、意識の状態は変わらない。
この現象を説明するにも、脳以外の理屈が必要だ。
「……まあ、俺一人で考えててもわかるはずがないか。まずは星眼について調べないとな」
分解した魔眼からこぼれだしたのは、極小の脳だった。
「魔眼が機械学習で未来を予測してたのはもしかして……」
この脳がその機械学習を処理していたのだろうか?
その「脳」を見ているうちに、「ショコラ」さんの知識が浮かんでくる。
「脳オルガノイド……?」
臓器を細胞単位でばらばらにしたあと、再集合させて小型の臓器を復元したものを、オルガノイドというらしい。
脳オルガノイドはその脳バージョンだ。
シリコンベースのコンピューターの計算速度には物理的な限界がある。
その限界に達した地球では、その限界を超えるために人間の脳を模倣する研究が進んだという。
脳を人工的に培養してコンピューターにつなぐ……という発想は、むしろ当然のものとして現れた。
その発想に、天才的なひらめきなど必要ない。
凡庸な研究者であってもすぐに思いつくような、ありふれたアイデアだ。
だが、ヒトの脳を培養することには、倫理的な問題がつきまとう。
ヒトの脳を培養した場合に、どの段階でその脳に「意識」が生じるのか?
「意識」の正体は地球でも解明されておらず、したがって、「意識」があるかないかを確実に判定する手段もない。
自分の培養した脳に「意識」が宿っているのではないか――
良心的な研究者たちは培養脳の研究に尻込みした。
だが、コンピューターの計算能力向上は、人類全体喫緊の課題となっていく。
人間の頭脳で思いつくようなイノベーションは、地球では既に刈りつくされ、これ以上の経済成長を実現するには、より強力な人工知能を生み出すしかないと言われていた。
地球の富の分布はますます偏り、一握りの大富豪と大量の失業者に社会が分断される現象が地球規模で深刻化していた。
そうした切迫した事情が、培養脳の研究から倫理的なリミッターを取り払った。
たしかに、培養脳には人間の胎児程度の意識が生まれる可能性があるかもしれない。
だが、その意識は自分の意識じゃない。
失業にあえぐ大多数の平民と、富を独占しながらもさらなる富を求める富豪たち。
いずれにとっても、経済成長は必要なのだ。
さすがに人間と同じサイズの脳を培養することは禁止されたが、小型の脳オルガノイドの培養は解禁された。
ヒトの小型培養脳とコンピューターの接続は、あっけないほどうまくいった。
そうして達成されたコンピューターの計算能力の爆発的な向上が、高度な人工知能や現実と見紛うレベルの仮想現実技術の開発へとつながったのだ。
……とまあ、地球の事情はそんなところだったらしい。
魔眼の中身が培養された「脳オルガノイド」だったというのは、未来視の魔眼の特性を思えば納得だ。
「……いや、納得か?」
たしかに、一見科学的な説明のように思えるが、
「これまで散々セーブポイントだのキャンプだの引き継ぎバグだのを使ってきたのに、どうして今さら、そんな取ってつけたような科学的な話が出てくるんだよ?」
いっそ、魔眼は魔族の目だから位相が見えるのだ、というような、大雑把なゲームっぽい説明だったほうが、Carnageの世界観にも合っている。
これまで魔法だのスキルだのといった正体不明の力を使ってきておいて、いきなり「魔眼の正体は小型培養脳でした」では、説明のバランス感が合ってない。
「それに、クラフトのこともある。この魔眼――いや、『魔脳眼』を百個集めて『クラフト』すれば『星眼』とやらができるらしいが……この脳みそのかけらを百個合成するってのは、いったいどういう仕組みなんだよ?」
Carnageのクラフトは、あくまでも冒険の添え物的なサブ要素にすぎなかった。
だから、製作工程はあまり掘り下げず、ざっくりと「クラフト」の一言に抽象化し、「素材を集めてクラフトすればすぐに完成」という、きわめて「ゲーム的な」システムになっている。
この「現実」においてもクラフトの抽象的なゲーム性はそのままだ。
前にも言った通り、鉄鉱石3つをクラフト台に載せてクラフトすると、ものの数秒でショートソードが出来上がる。
それと同じように、魔脳眼を100個揃えてクラフトすれば、「星眼」とやらができるのだろう。
こんなゲーム的なクラフトをそのままにしておいて、魔眼が培養脳でしたという部分だけ妙に「科学的」なのは違和感がある。
しかも、その科学的な説明を取ると、エスメラルダが魔眼を使って妖精に対抗できた理由がわからない。
「そもそも、だ。俺はゲームオーバーになるたびに脳を破壊されてることになる。それでも俺の意識がつながってるのに、魔眼の能力を培養脳の計算力で説明するのは変なんだ」
俺の意識は脳以外のどこかにあるはずなのに、魔眼の能力は脳の計算力によるものだった、というのは、矛盾してるとまでは言えないが、なんだか「ずるい」説明のように思えてしまう。
ついでに言うと、シマリスに変身してるグレゴール兄さんの脳は、人間状態の時より大幅に小さくなってるわけだが、意識の状態は変わらない。
この現象を説明するにも、脳以外の理屈が必要だ。
「……まあ、俺一人で考えててもわかるはずがないか。まずは星眼について調べないとな」
0
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)
排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日
冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて
スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる
強いスキルを望むケインであったが、
スキル適性値はG
オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物
友人からも家族からも馬鹿にされ、
尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン
そんなある日、
『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。
その効果とは、
同じスキルを2つ以上持つ事ができ、
同系統の効果のスキルは効果が重複するという
恐ろしい物であった。
このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。
HOTランキング 1位!(2023年2月21日)
ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる