2 / 35
第2話 それはどう見てもセーブポイントだった
しおりを挟む
「それ」は、不可思議な存在だった。
あたたかな緑の光で描かれた魔法陣と、その上に浮かぶ光の玉。
そんなものを、王子としての俺は見たことも聞いたこともない……はずだった。
だが、「それ」を目にした途端、俺の口からは知らないはずの言葉が滑り出していた。
「セーブ……ポイント」
そうつぶやいた瞬間、俺の脳裏に膨大な知識が溢れ出した。
それは、
あまりにも異質で、
あまりにも多岐にわたり、
あまりにもナンセンスな知識だった。
――異世界の、ゲームの攻略情報。
ただの遊戯のために、
なんの利益になるわけでもないのに、
国籍も言語も異なる数百万人もの「プレイヤー」たちが、
「インターネット」なる高度な情報網を駆使して集積した、
ゲームをより効率的に進めるための知識やテクニック。
その情報量は、この世界であれば学問の一分野に匹敵するか、それ以上のものだろう。
ゲームとは何か?
地球と呼ばれる場所で、高度な科学文明が生み出したヴァーチャルな遊戯のことだ。
セーブポイントとは何か?
ゲームを中断するために、ゲームの進行状況を保存できる場所のことだ。
唐突に溢れ出した膨大な情報に、俺の視界がちかつき、激しいめまいに襲われる。
俺は、断片的に咀嚼した知識に導かれ、ふらふらとセーブポイントに近づいた。
あたたかな蛍光緑の球体に手をかざす。
かざした手の先に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。
セーブ
ロード
キャンプ
ファストトラベル
タイトルへ
やめる
「…………はぁ?」
それは、見慣れすぎたウィンドウだった。
いや、こんなものを、王子としての俺は見たことがない。
それなのに、懐かしさに涙がにじむほどに見覚えがある。
「マジ……かよ」
事態の急転についていけず、俺はただ呆然と、そのウィンドウと手の先に生まれたカーソルとを見比べる。
ウィンドウは俺の視線を追うように動き、カーソルは俺の手の震えに従って手ブレする。
「――見えたぞ! 王子だ!」
その声にぎくりとして振り返る。
隠し通路の奥に、魔法の明かりを掲げた敵兵の姿が見えた。
鎧兜が邪魔をして通るのに時間がかかってるようだが、その背後からもさらに敵兵の声がする。
「くっ!?」
考えるより早く、俺はウィンドウにカーソルを合わせていた。
>セーブ
ロード
キャンプ
ファストトラベル
タイトルへ
やめる
中指の先を、タップするように動かした。
ゲームと同じジェスチャーは正しく認識され、セーブの文字が明るく光る。
その次に現れたのは、
【セーブ】
スロット1:なし
スロット2:なし
スロット3:なし
・
・
・
「マジで、セーブ画面なんだな!?」
俺がスロット1を選択すると、
【セーブ】
スロット1:
ユリウス・ヴィスト・トラキリア
トラキリア城・地下隠し通路入口(北)
942年双子座の月4日 05:03
スロット2:なし
スロット3:なし
・
・
・
聞き慣れた効果音とともにセーブが終わった。
セーブができた。
できてしまった。
だが……だからなんだってんだ?
ゲームの断片的な知識からとりあえずセーブしてしまったが、そのあとのことなど何も考えていなかった。
そのあいだに、通路を抜け出た敵兵が弓を構える。
「くそっ!」
俺は慌てて反対側に逃げようとするが、
「人間に生まれたことを呪うんだな!」
敵兵の放った矢は、避ける暇もなく俺の眼窩を貫いた。
さいわいにも、激痛は一瞬だけだった。
激しいめまいとともに俺の視界が暗転し――
GAME OVER
闇に閉ざされた視界の真ん中に、赤いアルファベットが現れた。
あたたかな緑の光で描かれた魔法陣と、その上に浮かぶ光の玉。
そんなものを、王子としての俺は見たことも聞いたこともない……はずだった。
だが、「それ」を目にした途端、俺の口からは知らないはずの言葉が滑り出していた。
「セーブ……ポイント」
そうつぶやいた瞬間、俺の脳裏に膨大な知識が溢れ出した。
それは、
あまりにも異質で、
あまりにも多岐にわたり、
あまりにもナンセンスな知識だった。
――異世界の、ゲームの攻略情報。
ただの遊戯のために、
なんの利益になるわけでもないのに、
国籍も言語も異なる数百万人もの「プレイヤー」たちが、
「インターネット」なる高度な情報網を駆使して集積した、
ゲームをより効率的に進めるための知識やテクニック。
その情報量は、この世界であれば学問の一分野に匹敵するか、それ以上のものだろう。
ゲームとは何か?
地球と呼ばれる場所で、高度な科学文明が生み出したヴァーチャルな遊戯のことだ。
セーブポイントとは何か?
ゲームを中断するために、ゲームの進行状況を保存できる場所のことだ。
唐突に溢れ出した膨大な情報に、俺の視界がちかつき、激しいめまいに襲われる。
俺は、断片的に咀嚼した知識に導かれ、ふらふらとセーブポイントに近づいた。
あたたかな蛍光緑の球体に手をかざす。
かざした手の先に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。
セーブ
ロード
キャンプ
ファストトラベル
タイトルへ
やめる
「…………はぁ?」
それは、見慣れすぎたウィンドウだった。
いや、こんなものを、王子としての俺は見たことがない。
それなのに、懐かしさに涙がにじむほどに見覚えがある。
「マジ……かよ」
事態の急転についていけず、俺はただ呆然と、そのウィンドウと手の先に生まれたカーソルとを見比べる。
ウィンドウは俺の視線を追うように動き、カーソルは俺の手の震えに従って手ブレする。
「――見えたぞ! 王子だ!」
その声にぎくりとして振り返る。
隠し通路の奥に、魔法の明かりを掲げた敵兵の姿が見えた。
鎧兜が邪魔をして通るのに時間がかかってるようだが、その背後からもさらに敵兵の声がする。
「くっ!?」
考えるより早く、俺はウィンドウにカーソルを合わせていた。
>セーブ
ロード
キャンプ
ファストトラベル
タイトルへ
やめる
中指の先を、タップするように動かした。
ゲームと同じジェスチャーは正しく認識され、セーブの文字が明るく光る。
その次に現れたのは、
【セーブ】
スロット1:なし
スロット2:なし
スロット3:なし
・
・
・
「マジで、セーブ画面なんだな!?」
俺がスロット1を選択すると、
【セーブ】
スロット1:
ユリウス・ヴィスト・トラキリア
トラキリア城・地下隠し通路入口(北)
942年双子座の月4日 05:03
スロット2:なし
スロット3:なし
・
・
・
聞き慣れた効果音とともにセーブが終わった。
セーブができた。
できてしまった。
だが……だからなんだってんだ?
ゲームの断片的な知識からとりあえずセーブしてしまったが、そのあとのことなど何も考えていなかった。
そのあいだに、通路を抜け出た敵兵が弓を構える。
「くそっ!」
俺は慌てて反対側に逃げようとするが、
「人間に生まれたことを呪うんだな!」
敵兵の放った矢は、避ける暇もなく俺の眼窩を貫いた。
さいわいにも、激痛は一瞬だけだった。
激しいめまいとともに俺の視界が暗転し――
GAME OVER
闇に閉ざされた視界の真ん中に、赤いアルファベットが現れた。
0
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)
排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日
冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて
スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる
強いスキルを望むケインであったが、
スキル適性値はG
オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物
友人からも家族からも馬鹿にされ、
尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン
そんなある日、
『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。
その効果とは、
同じスキルを2つ以上持つ事ができ、
同系統の効果のスキルは効果が重複するという
恐ろしい物であった。
このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。
HOTランキング 1位!(2023年2月21日)
ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる