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133 覚醒した力
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『ほう。すこしはマシな顔になって戻ってきたな』
試練の場――雲海の上のバトルフィールドに戻った私とアーシュを見て、エルミナーシュが言った。
「あれ? 見てなかったの?」
『我が見てしまえばエミュレートされたグランドマスターが学習してしまう。それはフェアではなかろう』
「いや、いまの状況自体そんなにフェアでもないけどね」
ログアウト不可のギスギスエンドコンテンツにむりやり巻きこまれたし。
『もしや、アルミラーシュ・システムへのアクセスに成功したか?』
なにやら重要っぽいことをエルミナーシュがぽろりとこぼす。
「いや、そんなことはよく知らない。知る気もない」
『ほう?』
「グリュンブリン、ボロネール」
私は一週間ぶりに見る四天魔将に声をかける。
彼らの主観時間では一日経ってないはずだけど。
グリュンブリンは、なにやら一人で何役もこなして連携技の開発に勤しんでる。
ボロネールは座禅を組んで何かを閃くのを待ってるらしい。
「収穫は?」
私が聞くと、二人は異口同音に言った。
「「二人を一人で押さえて、その間に残りの一人を二人で叩くべきだ」」
セリフのかぶったグリュンブリンとボロネールが睨み合う。
「「だが、どうやっても一人で二人を押さえる手立てがない」」
「仲良しか!」
おもわずつっこむ私。
「そういうことならちょうどいい。私とアーシュで二人受け持つから、その間に二人で残りの一人を倒して」
「なに?」
「アルミラーシュ様が戦うってのか?」
「なんとか形にはしてきたよ」
私はアビスワームの胃袋から黒鋼の剣を取り出す。
無念の杖はアーシュが両手で抱えてる。
『さあ、始めるぞ』
エルミナーシュの宣告とともに、グランドマスター三人が私たちの正面に現れる。
「――行きます! 無念の杖よ! その尽きることなき怨念の限りを我らが敵にぶつけたまえ!」
初手はアーシュだ。
アーシュは無念の杖に宿る怨霊を解き放ち、トウゴウ、エンドウ、ミナヅキ三人のグランドマスターにけしかける。
無念の杖はかなり扱う者を選ぶ杖だが、アーシュの精神性は私とよく似てる。私に比べれば多少は手間取るものの、簡単な詠唱だけで発動することができた。
だが、
「見飽きたぞ!」
ミナヅキが叫び、手にしたタロットカードのようなものを宙にばらまく。
カードは三人を取り囲む六芒星の位置に飛ぶ。
直後、発生した魔法の結界が、怨霊たちの接近を拒絶した。
怨霊たちが結界に阻まれてるあいだに杖の効果が切れ、怨霊たちは未練がましい声を上げながら宙に消える。
そのあいだに私は、
「エーテルショット!」
エーテルショットを六発放ち、結界を作るタロットカードを叩き落とす。
同時に、アーシュもまた動いてる。
「出でよ、無数のエーテルの弾丸放つ不可視の銃座――ガトリングタレット!」
アーシュが虚空に生んだガトリングタレットからエーテルの弾丸が横殴りの雨のようにグラマスたちに降り注ぐ。
「んなもんが効くかよ!」
トウゴウが前に出て、手にした両手剣を横薙ぎに振るう。
剣から生まれた暴風が、アーシュの放ったエーテルショットをことごとく吹き散らした。
が、その直後、トウゴウはあわてて剣を構える。
「――はぁぁっ!」
魔法で追い風を起こして急加速した私が、黒鋼の剣でトウゴウに斬りつけたからだ。
渾身の力を込めた一撃だったが、それを剣で受け止めたトウゴウは微動だにしない。
(体重差や得物の重量差もあるけど、そもそもの技倆がちがう)
向こうは戦士ギルドのグランドマスターなのだ。
(なら、別の手で!)
私は剣から左手を離し、ベルトからナイフを抜き出し至近距離から投げつける。
と同時に剣を押し、押し返された反動で後ろに飛ぶ。
――さらに同時に複数のエーテルショットをトウゴウに放つ。
その上、後ろに飛んだ衝撃を利用して、テニスボールのように身体を弾ませ、トウゴウの側面に回りこむ。
私が一瞬前までいた場所を、アーシュが遅れて放ったエーテルショットの雨が通過した。
この飽和攻撃には、さすがのトウゴウも顔色を変えた。
「ぬおおおっ!?」
ナイフはガントレットで弾き、私のエーテルショットはのけぞってかわし、アーシュのエーテルショットを剣で払う。
そこに再び斬り込んだ私の剣は、剣の柄で弾かれた。
「――ハヤオ、ルナ! 水色のからやれ!」
トウゴウに言われるまでもなく、エンドウは短剣を抜いてアーシュの背後に回りこみ、ミナヅキは狙いすましたエーテルショットでアーシュの足を止めている。
アーシュはミナヅキの放つ強力なエーテルショットを無念の杖で弾く。その反動でその場で旋回、背後から迫っていたエンドウの短剣を、跳ね上げた杖の石突きでからめとる。
「なっ!?」
いきなりレベルの上がったアーシュの身のこなしに、エンドウが驚いた。
その顎を狙ったアーシュの杖を、エンドウがのけぞってギリギリでかわす。
「二人押さえました! 彼女を!」
アーシュの声に、成り行きをあぜんと見てたボロネールとグリュンブリンが反応する。
グリュンブリンは槍を生みながらミナヅキに肉迫――すると見せかけて槍を投げつけ、側面に回る。
「くっ!?」
即座に障壁を張って槍を防いだミナヅキの後ろから、ボロネールが鋭い蔦を伸ばす。
ミナヅキはこれも障壁で防ぐが、そのあいだに側面からグリュンブリンが再び槍を投げる。
槍は、身をひねったミナヅキの肩をかすめた。
だが、それだけでグリュンブリンの魔槍はミナヅキの身体を侵食する。
四天魔将二人を相手に動きが鈍れば、さすがのグランドマスター魔術士も長くはもたないだろう。
もちろん、私たちもそれを観戦してたわけじゃない。
「俺に向かってきた勇気は褒めてやるぞ、魔術士! いや、盗賊士か!? 二足のわらじの半端女が!」
トウゴウが吠えて、大剣で重い斬撃を放ってくる。
私は左手にも黒鋼の剣を出して二本の剣をクロス。その上にさらに魔法障壁まで張って斬撃を受ける。
ずざああああっ! と音を立てて、私のブーツの底がバトルフィールドの床を摩擦する。
しっかり防御したのに衝撃は殺せず、私は優に十メートルは吹き飛ばされた。
そこに、
「こざかしいんだよ、トロ女!」
エンドウがアーシュの杖を短剣で受け流しつつ、アーシュに潜り込むような体当たりをかけた。
「くぅっ……!」
アーシュはこれを身を低くして受け止めたが、私同様大きな後退を余儀なくされた。
軽々と、十メートル以上吹っ飛ばされた。
エンドウはたぶん、発勁とか、ああいう特殊な体術みたいなのを使ってる。
同時に吹き飛ばされた私とアーシュは、同じ場所へと集められていた。
もちろん、偶然なんかじゃない。
トウゴウとエンドウが計算した通りに、だ。
背中でぶつかった私とアーシュは互いが邪魔になって動けない。
「まとめて死にさらせぇぇっっ!」
トウゴウが全身をひねり、渾身の横薙ぎを放ってくる。
大剣には炎がまとわりつき、トウゴウの日焼けした肌を赤く染める。
「アーシュ、行くよ!」
「うん、スイッチ!」
私とアーシュは、背を合わせたままでくるりと回り、担当する相手を入れ替えた。
私の正面にはエンドウが、アーシュの正面にはトウゴウがいる。
私とエンドウのあいだには、アーシュが放り出した無念の杖が、アーシュとトウゴウのあいだには私の放った二本の黒鋼の剣が浮かんでる。
私とアーシュはそれぞれの得物をキャッチして構える。
まずアーシュが、左手の剣で、左側から迫るトウゴウの炎風斬りを受け止めた。
「なにぃっ!?」
トウゴウが驚愕する。
実際、驚くべき光景だ。
細腕の(まぁ私と同じ太さなんだけど)アーシュが片手でトウゴウの渾身の一撃を受け止めたのだから。
アーシュはすこしだけ身をひねる。
トウゴウの剣を包んでた炎が、アーシュの斜め後ろに流され消える。
目を見開くトウゴウに、アーシュの右手の剣が襲いかかる。
おそろしく鋭い突きだった。
「うおっ!?」
斬り合いのプロであるトウゴウが声を上げてのけぞった。
その頬から血がしぶく。
「――行きます!」
アーシュは勢いをかってトウゴウへと襲いかかる。
左右の剣から繰り出される縦横無尽の斬撃がトウゴウを襲う。
そのあいだに、私は正面に来たエンドウにガトリングタレットを使ってる。
エンドウは素早いステップでこれをかわす。いきなり相手が変わったせいもあって、避けるだけで精一杯のようだ。
「ははっ! なんだ嬢ちゃんのほうは通常営業か! 驚いて損したぜ!」
エンドウが軽口を叩く。
たしかに、このままでは態勢を立て直したエンドウに負ける。
「こっちはこれからだから。
――アーシュ、力を借りるよ!」
ソードダンサーと化してるアーシュがわずかにうなずいた気配がした。
直後、私の身体をエーテルが包む。
「はあああああっ!」
私はあふれる魔力を握りしめた無念の杖に込め、地面を叩く。
ドッ!
音すら立てて、エーテルの奔流が吹き荒れた。
濃密なエーテルの嵐が、物理的な実体すらともなって、錯綜した戦場を吹き抜ける。
「うおおおっ!?」
エンドウが嵐に吹き飛ばされて悲鳴を上げた。
トウゴウも姿勢を崩し、アーシュの追撃が何発かかすめた。
ミナヅキだけは直前に魔法障壁を張ったようだ。
その影になる位置にいたボロネールは無事。グリュンブリンは態勢を崩したが、ミナヅキが動けない間に立ち直る。
戦場の視線が私に集まった。
事前に知ってたアーシュだけは、この機を逃さずトウゴウに斬りつけたが、トウゴウは大きく距離を取ってこちらを見た。
「ふぅぅぅっ……」
私は大きく息を吐いた。
身体を見下ろす。
全身を濃密なエーテルが覆ってる以外は変化はない。
ただひとつ、肩から前に垂れた髪が、水色に染まってることを除いては。
「ま、魔王……?」
つぶやいたのは、ボロネールか。
「あははっ……まぁ、不完全なものだけどね。アーシュがどんな存在で、その力を引き出すにはどうしたらいいかってことはもうわかったかな」
私は言って、エンドウに左手を向ける。
指パッチンの形だ。
パチンと、私にしては上出来の音が戦場に響く。
直後、エンドウがずたぼろになって吹き飛んでいた。
試練の場――雲海の上のバトルフィールドに戻った私とアーシュを見て、エルミナーシュが言った。
「あれ? 見てなかったの?」
『我が見てしまえばエミュレートされたグランドマスターが学習してしまう。それはフェアではなかろう』
「いや、いまの状況自体そんなにフェアでもないけどね」
ログアウト不可のギスギスエンドコンテンツにむりやり巻きこまれたし。
『もしや、アルミラーシュ・システムへのアクセスに成功したか?』
なにやら重要っぽいことをエルミナーシュがぽろりとこぼす。
「いや、そんなことはよく知らない。知る気もない」
『ほう?』
「グリュンブリン、ボロネール」
私は一週間ぶりに見る四天魔将に声をかける。
彼らの主観時間では一日経ってないはずだけど。
グリュンブリンは、なにやら一人で何役もこなして連携技の開発に勤しんでる。
ボロネールは座禅を組んで何かを閃くのを待ってるらしい。
「収穫は?」
私が聞くと、二人は異口同音に言った。
「「二人を一人で押さえて、その間に残りの一人を二人で叩くべきだ」」
セリフのかぶったグリュンブリンとボロネールが睨み合う。
「「だが、どうやっても一人で二人を押さえる手立てがない」」
「仲良しか!」
おもわずつっこむ私。
「そういうことならちょうどいい。私とアーシュで二人受け持つから、その間に二人で残りの一人を倒して」
「なに?」
「アルミラーシュ様が戦うってのか?」
「なんとか形にはしてきたよ」
私はアビスワームの胃袋から黒鋼の剣を取り出す。
無念の杖はアーシュが両手で抱えてる。
『さあ、始めるぞ』
エルミナーシュの宣告とともに、グランドマスター三人が私たちの正面に現れる。
「――行きます! 無念の杖よ! その尽きることなき怨念の限りを我らが敵にぶつけたまえ!」
初手はアーシュだ。
アーシュは無念の杖に宿る怨霊を解き放ち、トウゴウ、エンドウ、ミナヅキ三人のグランドマスターにけしかける。
無念の杖はかなり扱う者を選ぶ杖だが、アーシュの精神性は私とよく似てる。私に比べれば多少は手間取るものの、簡単な詠唱だけで発動することができた。
だが、
「見飽きたぞ!」
ミナヅキが叫び、手にしたタロットカードのようなものを宙にばらまく。
カードは三人を取り囲む六芒星の位置に飛ぶ。
直後、発生した魔法の結界が、怨霊たちの接近を拒絶した。
怨霊たちが結界に阻まれてるあいだに杖の効果が切れ、怨霊たちは未練がましい声を上げながら宙に消える。
そのあいだに私は、
「エーテルショット!」
エーテルショットを六発放ち、結界を作るタロットカードを叩き落とす。
同時に、アーシュもまた動いてる。
「出でよ、無数のエーテルの弾丸放つ不可視の銃座――ガトリングタレット!」
アーシュが虚空に生んだガトリングタレットからエーテルの弾丸が横殴りの雨のようにグラマスたちに降り注ぐ。
「んなもんが効くかよ!」
トウゴウが前に出て、手にした両手剣を横薙ぎに振るう。
剣から生まれた暴風が、アーシュの放ったエーテルショットをことごとく吹き散らした。
が、その直後、トウゴウはあわてて剣を構える。
「――はぁぁっ!」
魔法で追い風を起こして急加速した私が、黒鋼の剣でトウゴウに斬りつけたからだ。
渾身の力を込めた一撃だったが、それを剣で受け止めたトウゴウは微動だにしない。
(体重差や得物の重量差もあるけど、そもそもの技倆がちがう)
向こうは戦士ギルドのグランドマスターなのだ。
(なら、別の手で!)
私は剣から左手を離し、ベルトからナイフを抜き出し至近距離から投げつける。
と同時に剣を押し、押し返された反動で後ろに飛ぶ。
――さらに同時に複数のエーテルショットをトウゴウに放つ。
その上、後ろに飛んだ衝撃を利用して、テニスボールのように身体を弾ませ、トウゴウの側面に回りこむ。
私が一瞬前までいた場所を、アーシュが遅れて放ったエーテルショットの雨が通過した。
この飽和攻撃には、さすがのトウゴウも顔色を変えた。
「ぬおおおっ!?」
ナイフはガントレットで弾き、私のエーテルショットはのけぞってかわし、アーシュのエーテルショットを剣で払う。
そこに再び斬り込んだ私の剣は、剣の柄で弾かれた。
「――ハヤオ、ルナ! 水色のからやれ!」
トウゴウに言われるまでもなく、エンドウは短剣を抜いてアーシュの背後に回りこみ、ミナヅキは狙いすましたエーテルショットでアーシュの足を止めている。
アーシュはミナヅキの放つ強力なエーテルショットを無念の杖で弾く。その反動でその場で旋回、背後から迫っていたエンドウの短剣を、跳ね上げた杖の石突きでからめとる。
「なっ!?」
いきなりレベルの上がったアーシュの身のこなしに、エンドウが驚いた。
その顎を狙ったアーシュの杖を、エンドウがのけぞってギリギリでかわす。
「二人押さえました! 彼女を!」
アーシュの声に、成り行きをあぜんと見てたボロネールとグリュンブリンが反応する。
グリュンブリンは槍を生みながらミナヅキに肉迫――すると見せかけて槍を投げつけ、側面に回る。
「くっ!?」
即座に障壁を張って槍を防いだミナヅキの後ろから、ボロネールが鋭い蔦を伸ばす。
ミナヅキはこれも障壁で防ぐが、そのあいだに側面からグリュンブリンが再び槍を投げる。
槍は、身をひねったミナヅキの肩をかすめた。
だが、それだけでグリュンブリンの魔槍はミナヅキの身体を侵食する。
四天魔将二人を相手に動きが鈍れば、さすがのグランドマスター魔術士も長くはもたないだろう。
もちろん、私たちもそれを観戦してたわけじゃない。
「俺に向かってきた勇気は褒めてやるぞ、魔術士! いや、盗賊士か!? 二足のわらじの半端女が!」
トウゴウが吠えて、大剣で重い斬撃を放ってくる。
私は左手にも黒鋼の剣を出して二本の剣をクロス。その上にさらに魔法障壁まで張って斬撃を受ける。
ずざああああっ! と音を立てて、私のブーツの底がバトルフィールドの床を摩擦する。
しっかり防御したのに衝撃は殺せず、私は優に十メートルは吹き飛ばされた。
そこに、
「こざかしいんだよ、トロ女!」
エンドウがアーシュの杖を短剣で受け流しつつ、アーシュに潜り込むような体当たりをかけた。
「くぅっ……!」
アーシュはこれを身を低くして受け止めたが、私同様大きな後退を余儀なくされた。
軽々と、十メートル以上吹っ飛ばされた。
エンドウはたぶん、発勁とか、ああいう特殊な体術みたいなのを使ってる。
同時に吹き飛ばされた私とアーシュは、同じ場所へと集められていた。
もちろん、偶然なんかじゃない。
トウゴウとエンドウが計算した通りに、だ。
背中でぶつかった私とアーシュは互いが邪魔になって動けない。
「まとめて死にさらせぇぇっっ!」
トウゴウが全身をひねり、渾身の横薙ぎを放ってくる。
大剣には炎がまとわりつき、トウゴウの日焼けした肌を赤く染める。
「アーシュ、行くよ!」
「うん、スイッチ!」
私とアーシュは、背を合わせたままでくるりと回り、担当する相手を入れ替えた。
私の正面にはエンドウが、アーシュの正面にはトウゴウがいる。
私とエンドウのあいだには、アーシュが放り出した無念の杖が、アーシュとトウゴウのあいだには私の放った二本の黒鋼の剣が浮かんでる。
私とアーシュはそれぞれの得物をキャッチして構える。
まずアーシュが、左手の剣で、左側から迫るトウゴウの炎風斬りを受け止めた。
「なにぃっ!?」
トウゴウが驚愕する。
実際、驚くべき光景だ。
細腕の(まぁ私と同じ太さなんだけど)アーシュが片手でトウゴウの渾身の一撃を受け止めたのだから。
アーシュはすこしだけ身をひねる。
トウゴウの剣を包んでた炎が、アーシュの斜め後ろに流され消える。
目を見開くトウゴウに、アーシュの右手の剣が襲いかかる。
おそろしく鋭い突きだった。
「うおっ!?」
斬り合いのプロであるトウゴウが声を上げてのけぞった。
その頬から血がしぶく。
「――行きます!」
アーシュは勢いをかってトウゴウへと襲いかかる。
左右の剣から繰り出される縦横無尽の斬撃がトウゴウを襲う。
そのあいだに、私は正面に来たエンドウにガトリングタレットを使ってる。
エンドウは素早いステップでこれをかわす。いきなり相手が変わったせいもあって、避けるだけで精一杯のようだ。
「ははっ! なんだ嬢ちゃんのほうは通常営業か! 驚いて損したぜ!」
エンドウが軽口を叩く。
たしかに、このままでは態勢を立て直したエンドウに負ける。
「こっちはこれからだから。
――アーシュ、力を借りるよ!」
ソードダンサーと化してるアーシュがわずかにうなずいた気配がした。
直後、私の身体をエーテルが包む。
「はあああああっ!」
私はあふれる魔力を握りしめた無念の杖に込め、地面を叩く。
ドッ!
音すら立てて、エーテルの奔流が吹き荒れた。
濃密なエーテルの嵐が、物理的な実体すらともなって、錯綜した戦場を吹き抜ける。
「うおおおっ!?」
エンドウが嵐に吹き飛ばされて悲鳴を上げた。
トウゴウも姿勢を崩し、アーシュの追撃が何発かかすめた。
ミナヅキだけは直前に魔法障壁を張ったようだ。
その影になる位置にいたボロネールは無事。グリュンブリンは態勢を崩したが、ミナヅキが動けない間に立ち直る。
戦場の視線が私に集まった。
事前に知ってたアーシュだけは、この機を逃さずトウゴウに斬りつけたが、トウゴウは大きく距離を取ってこちらを見た。
「ふぅぅぅっ……」
私は大きく息を吐いた。
身体を見下ろす。
全身を濃密なエーテルが覆ってる以外は変化はない。
ただひとつ、肩から前に垂れた髪が、水色に染まってることを除いては。
「ま、魔王……?」
つぶやいたのは、ボロネールか。
「あははっ……まぁ、不完全なものだけどね。アーシュがどんな存在で、その力を引き出すにはどうしたらいいかってことはもうわかったかな」
私は言って、エンドウに左手を向ける。
指パッチンの形だ。
パチンと、私にしては上出来の音が戦場に響く。
直後、エンドウがずたぼろになって吹き飛んでいた。
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