71 / 188
67 力? いいえけっこうです
しおりを挟む
私は夢を見ていた。
悪夢のタネにはこと欠かない。
父親に撲殺された以外にも、クラスでのいじめ、友だちの裏切り、陰湿な陰口、教師までいじめる側に回ったこと、母親のハマってた新興宗教での恐怖体験などなど。
私はしょっちゅう悪夢を見るから、悪夢を見ると、「あ、これは夢だ」と気づいてしまう。
まるで、映画をたくさん見すぎて、初めて見る映画でもオチがわかってしまうような感覚だ。
世間的には明晰夢って呼ばれてるやつかもしれない。
悪夢の中で、私はつぶやく。
「消え去れ」
それだけで、くりかえし上映されてた悪夢が消え、後には闇だけが残された。
私の数少ない特技の一つだが、自慢できる相手はいない。
「ふぅ。これでゆっくり眠れるかな」
私はつぶやいて眠気に身を委ねようとしたのだが――
「――へえ。僕の幻覚を破るとはたいしたもんだね」
私の前に、変な人影が現れた。
白いローブのようなものに身を包んだ、見るからに怪しい人物だ。
目深にかぶったフードからは、紫色のヒルみたいな唇がのぞいてる。
「ええと、どちらさま?」
こんなパターンの夢は初めてだな。
「僕かい? 僕は夢法師という」
「夢法師……うーん、じゃあ、これって正夢なのかな。名前から察するに、人の夢に侵入してなんか悪いことする魔法使いみたいだよね」
私の言葉に、夢法師とやらはあっけにとられた。
「ふっ、ははっ! 面白いねえ、君」
「そりゃどうも。あの、もう帰ってもらっていいですか? 明日の朝も早いんで」
「悪いけどそうはいかない。君みたいな優秀な魔術士を逃すのは惜しいんでね」
「私、盗賊士なんですけど」
「いや、君の本質は魔術士だ。力と真理を求めてさすらう、俗世に馴染まぬ求道者なんだ」
「たしかに、俗世には馴染んでない感あるけど、求道者じゃないよ」
「ほら見ろ! 世間に馴染めず疎外感を味わってるよねっ? 劣等感とか被差別意識とかでハラワタ煮えくり返ってるよねっ?」
「いやべつに……」
小さい時からそんなもんだから、他人と親しくなれないなんて今さらだ。友だちがいないなら、自分一人でできることをやればいい。具体的にはゲームとか。
「あの、もういいですか?」
「ぐううっ。何故なんだ! それだけの素質があり、不幸な目にも遭っていながら、どうして人を憎まない!」
「憎んだって相手が消えてなくなるわけじゃないし」
「じ、じゃあ、憎いやつを消してなくせる力があったらどうだい……」
「うーん……べつにいらないかな。人なんて殺しちゃったら、たとえ捕まらなくてもカルマ的な何かが溜まってくような気がするんだよね。私、悪いことし放題のオープンワールドゲーでも基本善人プレイだし」
「なんでそんなに悟り澄ましてるんだよおおおっ!」
夢法師が頭を抱えてそうわめく。
「えっと、もういいよね?
――消え去れ」
「ぐわっ! この僕を押し返す力だって!? そんなバカな!?」
「しぶといなぁ。消え去れ」
「ぐうううっ」
「まだ粘るの? 夢法師だっけ。あなたは結局何がしたかったの?」
「それだよ! 力、力だ!」
「力?」
「そう、その力!」
他にどんな力があるというのか。
「『力が欲しいか?』」
急に、しゃがれ声になって夢法師が言った。
「あ、これ、まじめに答えたほうがいいやつ?」
「そうそう! さあ、言ってごらん、本当のところを!」
「だから、いらないってば。私は自分の手の届く範囲で十分だから」
「なんでだよおおっ!」
夢法師がどんどん奥に押しやられ、最後には米粒大になって闇の中へと消え去った。
「……はぁ。寝よ」
とまあ、それが、昨夜見た奇妙な夢の顛末だった。
悪夢のタネにはこと欠かない。
父親に撲殺された以外にも、クラスでのいじめ、友だちの裏切り、陰湿な陰口、教師までいじめる側に回ったこと、母親のハマってた新興宗教での恐怖体験などなど。
私はしょっちゅう悪夢を見るから、悪夢を見ると、「あ、これは夢だ」と気づいてしまう。
まるで、映画をたくさん見すぎて、初めて見る映画でもオチがわかってしまうような感覚だ。
世間的には明晰夢って呼ばれてるやつかもしれない。
悪夢の中で、私はつぶやく。
「消え去れ」
それだけで、くりかえし上映されてた悪夢が消え、後には闇だけが残された。
私の数少ない特技の一つだが、自慢できる相手はいない。
「ふぅ。これでゆっくり眠れるかな」
私はつぶやいて眠気に身を委ねようとしたのだが――
「――へえ。僕の幻覚を破るとはたいしたもんだね」
私の前に、変な人影が現れた。
白いローブのようなものに身を包んだ、見るからに怪しい人物だ。
目深にかぶったフードからは、紫色のヒルみたいな唇がのぞいてる。
「ええと、どちらさま?」
こんなパターンの夢は初めてだな。
「僕かい? 僕は夢法師という」
「夢法師……うーん、じゃあ、これって正夢なのかな。名前から察するに、人の夢に侵入してなんか悪いことする魔法使いみたいだよね」
私の言葉に、夢法師とやらはあっけにとられた。
「ふっ、ははっ! 面白いねえ、君」
「そりゃどうも。あの、もう帰ってもらっていいですか? 明日の朝も早いんで」
「悪いけどそうはいかない。君みたいな優秀な魔術士を逃すのは惜しいんでね」
「私、盗賊士なんですけど」
「いや、君の本質は魔術士だ。力と真理を求めてさすらう、俗世に馴染まぬ求道者なんだ」
「たしかに、俗世には馴染んでない感あるけど、求道者じゃないよ」
「ほら見ろ! 世間に馴染めず疎外感を味わってるよねっ? 劣等感とか被差別意識とかでハラワタ煮えくり返ってるよねっ?」
「いやべつに……」
小さい時からそんなもんだから、他人と親しくなれないなんて今さらだ。友だちがいないなら、自分一人でできることをやればいい。具体的にはゲームとか。
「あの、もういいですか?」
「ぐううっ。何故なんだ! それだけの素質があり、不幸な目にも遭っていながら、どうして人を憎まない!」
「憎んだって相手が消えてなくなるわけじゃないし」
「じ、じゃあ、憎いやつを消してなくせる力があったらどうだい……」
「うーん……べつにいらないかな。人なんて殺しちゃったら、たとえ捕まらなくてもカルマ的な何かが溜まってくような気がするんだよね。私、悪いことし放題のオープンワールドゲーでも基本善人プレイだし」
「なんでそんなに悟り澄ましてるんだよおおおっ!」
夢法師が頭を抱えてそうわめく。
「えっと、もういいよね?
――消え去れ」
「ぐわっ! この僕を押し返す力だって!? そんなバカな!?」
「しぶといなぁ。消え去れ」
「ぐうううっ」
「まだ粘るの? 夢法師だっけ。あなたは結局何がしたかったの?」
「それだよ! 力、力だ!」
「力?」
「そう、その力!」
他にどんな力があるというのか。
「『力が欲しいか?』」
急に、しゃがれ声になって夢法師が言った。
「あ、これ、まじめに答えたほうがいいやつ?」
「そうそう! さあ、言ってごらん、本当のところを!」
「だから、いらないってば。私は自分の手の届く範囲で十分だから」
「なんでだよおおっ!」
夢法師がどんどん奥に押しやられ、最後には米粒大になって闇の中へと消え去った。
「……はぁ。寝よ」
とまあ、それが、昨夜見た奇妙な夢の顛末だった。
0
お気に入りに追加
463
あなたにおすすめの小説
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。
八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。
彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。
しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。
――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。
その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
みんなで転生〜チートな従魔と普通の私でほのぼの異世界生活〜
ノデミチ
ファンタジー
西門 愛衣楽、19歳。花の短大生。
年明けの誕生日も近いのに、未だ就活中。
そんな彼女の癒しは3匹のペット達。
シベリアンハスキーのコロ。
カナリアのカナ。
キバラガメのキィ。
犬と小鳥は、元は父のペットだったけど、母が出て行ってから父は変わってしまった…。
ペットの世話もせず、それどころか働く意欲も失い酒に溺れて…。
挙句に無理心中しようとして家に火を付けて焼け死んで。
アイラもペット達も焼け死んでしまう。
それを不憫に思った異世界の神が、自らの世界へ招き入れる。せっかくだからとペット達も一緒に。
何故かペット達がチートな力を持って…。
アイラは只の幼女になって…。
そんな彼女達のほのぼの異世界生活。
テイマー物 第3弾。
カクヨムでも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる