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34 クレーマー騎士クレティアス

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「コカトリスのくちばしがないだと⁉︎ 嘘をつくな! そうやって値段を釣り上げようと言うのだろう! 王子様がご病気だというのに⋯⋯恥を知れ!」

 私、ミナトです。
 いま、買取所の陰に潜んで、なかの様子をうかがってます。

(だって、うるさいんだもん)

 シズーさんが向かったあとも騒動はおさまらず、ダンジョン前広場には若い騎士のがなり声が響いてた。

「ですから、ご説明申し上げているように、コカトリスがいるとされる三層まではまだ攻略が進んでいないのです」

「何を悠長なことを! 進んでいないではない、死ぬ気で進めるのが、王国の民の務めであろうが!」

 私は木陰からそっと買取所をのぞく。
 万一にも因縁をつけられないよう、ゴブリンの煙玉も使ってる。

 買取所の前には、数頭の馬と鎧騎士。
 そのうちのひとりが、兜をとって、買取所で大声を上げている。

(うん、どう見てもクレーマーだね)

 それも、昭和の陸軍にいそうなタイプ。
 忠義一辺倒で、やる気さえあればなんでもできると思ってる。
 成果が出ないのは冒険者の気合いが足りないからだっていう残念な思考回路をしてるようだ。

 言ってることは年寄りじみてるが、クレーマー騎士はけっこう若い。
 二十代後半くらいだろう。金髪のウェーブヘアーで、青い瞳のイケメンだ。黙っていれば、騒ぐ女性もいるかもしれない。あくまでも、黙ってれば、だけど。

(あれ? 誰かに似てるような⋯⋯)

 私が思い出そうとするあいだにも、クレーマー騎士はシズーさんにがなり続けてた。

「なぜギルドは、冒険者に死ぬ気で取ってこいと命令しない!」

「ギルドには、冒険者に命令する権限はありません。
 冒険者はあくまでも自由意志で動くもの。そのことは、グランドマスター憲章に明記されています。
 国も、憲章には批准しているはずですね?」

「そ、それは⋯⋯」

 シズーさんの理詰めに、騎士の舌鋒がすこし鈍る。

「だ、だが、王子様の命に関わることなのだぞ!」

「冒険者にも、おのれの命がありますので」

「ふん、たかが冒険者の命が王子様の命と同等とでも言うつもりか! 冒険者が何人死のうと構わぬから、早く三層とやらからコカトリスのくちばしを取ってこい!」

「失礼ですが、王国にはギルドに命令を下す権利はありません。
 ギルドは、あくまでも自主的に、コカトリスのくちばしを手に入れようと尽力しているのです。
 それは、王国や国王陛下への忠義の気持ちがあってこそ。
 特派騎士さまは、ギルドの誠意をお疑いになっているのですか?」

「誠意という言葉は、結果を見せてから口にしろ! 王家への恩義すら感じられぬ牛馬ぎゅうばのごとき冒険者どもに、『誠意』などという高尚な概念が当てはまるとは思えんがな!」

 さすがに、この言葉にはカチンと来たらしい。
 シズーさんが静かな怒気を湛えて言った。

「われわれが牛馬だというのなら、牛馬など当てにせず、ご自身でダンジョンに潜って、コカトリスのくちばしを取ってこられたらよろしいのでは?
 それとも、牛馬にもできることが、特派騎士さまにはおできにならないと?」

「なっ⋯⋯」

 特派騎士が顔を赤くして言いよどむ。

 そばにいたべつの騎士が、流れの悪さに気づき、特派騎士の袖を引く。

 が、特派騎士はその手を乱暴に振り払って言った。

「――いいだろう! 貴様ら下賤の鼠どもに王子様の命を預けるわけにはいかぬ。
 この俺が、王子様の信任厚きこのクレティアス・アビージ・ジルテメアが、ダンジョンからコカトリスのくちばしを持ち帰ってみせようではないか!
 その上で牛馬ほどの役にも立たぬ冒険者など切り捨て、いまいましいグランドマスター憲章も破り捨ててくれるわ!」

「――どうぞ、ご随意に」

 見事に乗せられた特派騎士に、シズーさんは冷たい笑みを浮かべてそう言った。
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