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29 魔術士ギルド
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「ふぅん。じゃあ、これがその魔術士の遺髪なのね」
さすがに神妙な顔で、シズーさんが言った。
その手には、私がダンジョンから持ち帰った女性魔術士の遺髪がある。
「はい。パーティの人は生きてると聞いたので、渡すべきかと思って」
「それは⋯⋯どうなんでしょうね。見捨てた側にとっても今回の件は心の傷になってるはず。素直に受け取ってくれるかしら」
「それは⋯⋯」
たしかに、そうかもしれない。
見捨てた側も、やむにやまれずだったとはいえ、うしろめたさは感じてるだろう。
それを刺激するような真似をするのがいいのかどうか⋯⋯。
「魔術師ギルドに相談するべきでしょうね。ギルド員の弔いは引き受けてくれるはずよ」
「じゃあ、シズーさんにお願いして――」
言いかけた私に、シズーさんが首を振る。
「いえ、さすがにそれは引き受けられないわ。
目立ちたくないのはわかるけど、遺髪の出所や最期の状況を説明する必要もあるから、あなたに直接行ってもらうしかないわ」
「あははっ⋯⋯そ、そうですか」
「ミナトはホント、変なときに笑うわね⋯⋯。
ちょっと心配だけど、やっぱりこればかりは持ち帰った人の仕事だから。
もちろん、どうしてもやりたくないっていうのなら、遺髪のことはなかったことにしてもいいのよ。誰もあなたを責めないわ。もちろん、わたしも含めて、ね」
シズーさんの言葉に、私はちいさくため息をついた。
「うう⋯⋯そういうことはしたくないです」
「じゃあ、やってもらうしかないわ。大丈夫。わたしから魔術師ギルド出張所の責任者に紹介状を書いてあげるから。⋯⋯それとも、付き添いで行きましょうか?」
「目立っちゃいそうですから、ひとりで行きます⋯⋯。紹介状はお願いします」
というわけで、私は魔術士ギルドの出張所に出向くことになった。
用件が用件だけに緊張する⋯⋯。
(うう⋯⋯笑っちゃったらどうしよう)
そんなことを思うと余計に笑えてしまう。
もう遅い時間だからっていうのを言い訳に、私は魔術士ギルドの天幕に行くのを明日送りにして寝逃げした。
「あはは⋯⋯あの、マリアーネさんはいらっしゃいますか?」
私は翌朝、覚悟を決めて魔術師ギルド出張所の天幕を訪ねていた。
ダンジョン前広場はそんなに広くない。
おまけに魔術師ギルドの天幕は黒一色なものだから、迷う余地はまったくなかった。
開かれてた天幕の入り口から入ると、そこにはすぐにカウンター。
他のギルドの天幕ととくに変わったところはない。
私が声をかけたのは、カウンターであくびを噛み殺してた、亜麻色のローブ姿の女の子だ。
(留守番かな)
と思ったのだが、
「ふぁい? あたしがそうだけど?」
女の子が、うろんそうに私を見る。
この子が目的の相手だったらしい。
(なんか、ずいぶん幼いな)
私も歳より下に見られるほうだけど、目の前のローブの子はあきらかに私より歳下だ。
たぶん、12、3歳くらい。
ピンクがかった淡い色の金髪をツインテールにしてる。
瞳は透き通った藍色で、顔はキレイっていうよりかわいい系。
でも、いちばん目を引いたのは、
「エルフ耳だ⋯⋯」
おもわずつぶやいてしまい、私は慌てて口を押さえる。
「ああ、耳? そんなに気にすることはないわよ。みんな最初に見るもんだし」
少女は気にした様子もなく手を振った。
「見ての通りエルフ族だから、見た目よりは歳上よ。すくなくともあなたよりは上のはず⋯⋯たぶん」
たぶん?
「あははっ、ええっと、あなたがマリアーネさん?」
「だから、そう言ってるでしょ。あたしはマリアーネ・スィ・アルヴィース。この出張所を預かってる魔術士ギルド所属の魔術士よ。アーネでいいわ」
「じ、じゃあこれを⋯⋯」
私はシズーさんからの紹介状を渡す。
「なになに、シズーから? あの子、最近ドロップアイテムの競売で儲けてるんだってね」
マリアーネさんが紹介状に目を通す。
(目の動きが速いな)
普段から本をたくさん読む人なんだろう。
「⋯⋯なるほど。彼女の遺髪を、ね」
顔を上げたマリアーネさんに、私は女性魔術士の遺髪を渡す。
「そうそう。こんな髪型の子だったわ。まだ若いのに有望な魔術士だって言われてたけど、ちょっと無謀なところはあった。でも、こんな目に遭っていいような子じゃなかったのに⋯⋯」
マリアーネさんが遺髪を撫でながら、顔をうつむけてそう言った。
「⋯⋯彼女の最期はわかる?」
「は、はい。でも⋯⋯」
「いいの。聞かせて。それが彼女への弔いにもなるのだから」
私はためらいながらも、マリアーネさんに発見した死体の状態を説明した。
さすがに神妙な顔で、シズーさんが言った。
その手には、私がダンジョンから持ち帰った女性魔術士の遺髪がある。
「はい。パーティの人は生きてると聞いたので、渡すべきかと思って」
「それは⋯⋯どうなんでしょうね。見捨てた側にとっても今回の件は心の傷になってるはず。素直に受け取ってくれるかしら」
「それは⋯⋯」
たしかに、そうかもしれない。
見捨てた側も、やむにやまれずだったとはいえ、うしろめたさは感じてるだろう。
それを刺激するような真似をするのがいいのかどうか⋯⋯。
「魔術師ギルドに相談するべきでしょうね。ギルド員の弔いは引き受けてくれるはずよ」
「じゃあ、シズーさんにお願いして――」
言いかけた私に、シズーさんが首を振る。
「いえ、さすがにそれは引き受けられないわ。
目立ちたくないのはわかるけど、遺髪の出所や最期の状況を説明する必要もあるから、あなたに直接行ってもらうしかないわ」
「あははっ⋯⋯そ、そうですか」
「ミナトはホント、変なときに笑うわね⋯⋯。
ちょっと心配だけど、やっぱりこればかりは持ち帰った人の仕事だから。
もちろん、どうしてもやりたくないっていうのなら、遺髪のことはなかったことにしてもいいのよ。誰もあなたを責めないわ。もちろん、わたしも含めて、ね」
シズーさんの言葉に、私はちいさくため息をついた。
「うう⋯⋯そういうことはしたくないです」
「じゃあ、やってもらうしかないわ。大丈夫。わたしから魔術師ギルド出張所の責任者に紹介状を書いてあげるから。⋯⋯それとも、付き添いで行きましょうか?」
「目立っちゃいそうですから、ひとりで行きます⋯⋯。紹介状はお願いします」
というわけで、私は魔術士ギルドの出張所に出向くことになった。
用件が用件だけに緊張する⋯⋯。
(うう⋯⋯笑っちゃったらどうしよう)
そんなことを思うと余計に笑えてしまう。
もう遅い時間だからっていうのを言い訳に、私は魔術士ギルドの天幕に行くのを明日送りにして寝逃げした。
「あはは⋯⋯あの、マリアーネさんはいらっしゃいますか?」
私は翌朝、覚悟を決めて魔術師ギルド出張所の天幕を訪ねていた。
ダンジョン前広場はそんなに広くない。
おまけに魔術師ギルドの天幕は黒一色なものだから、迷う余地はまったくなかった。
開かれてた天幕の入り口から入ると、そこにはすぐにカウンター。
他のギルドの天幕ととくに変わったところはない。
私が声をかけたのは、カウンターであくびを噛み殺してた、亜麻色のローブ姿の女の子だ。
(留守番かな)
と思ったのだが、
「ふぁい? あたしがそうだけど?」
女の子が、うろんそうに私を見る。
この子が目的の相手だったらしい。
(なんか、ずいぶん幼いな)
私も歳より下に見られるほうだけど、目の前のローブの子はあきらかに私より歳下だ。
たぶん、12、3歳くらい。
ピンクがかった淡い色の金髪をツインテールにしてる。
瞳は透き通った藍色で、顔はキレイっていうよりかわいい系。
でも、いちばん目を引いたのは、
「エルフ耳だ⋯⋯」
おもわずつぶやいてしまい、私は慌てて口を押さえる。
「ああ、耳? そんなに気にすることはないわよ。みんな最初に見るもんだし」
少女は気にした様子もなく手を振った。
「見ての通りエルフ族だから、見た目よりは歳上よ。すくなくともあなたよりは上のはず⋯⋯たぶん」
たぶん?
「あははっ、ええっと、あなたがマリアーネさん?」
「だから、そう言ってるでしょ。あたしはマリアーネ・スィ・アルヴィース。この出張所を預かってる魔術士ギルド所属の魔術士よ。アーネでいいわ」
「じ、じゃあこれを⋯⋯」
私はシズーさんからの紹介状を渡す。
「なになに、シズーから? あの子、最近ドロップアイテムの競売で儲けてるんだってね」
マリアーネさんが紹介状に目を通す。
(目の動きが速いな)
普段から本をたくさん読む人なんだろう。
「⋯⋯なるほど。彼女の遺髪を、ね」
顔を上げたマリアーネさんに、私は女性魔術士の遺髪を渡す。
「そうそう。こんな髪型の子だったわ。まだ若いのに有望な魔術士だって言われてたけど、ちょっと無謀なところはあった。でも、こんな目に遭っていいような子じゃなかったのに⋯⋯」
マリアーネさんが遺髪を撫でながら、顔をうつむけてそう言った。
「⋯⋯彼女の最期はわかる?」
「は、はい。でも⋯⋯」
「いいの。聞かせて。それが彼女への弔いにもなるのだから」
私はためらいながらも、マリアーネさんに発見した死体の状態を説明した。
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