Vtuberだけどリスナーに暴言吐いてもいいですか?

天宮暁

文字の大きさ
上 下
23 / 34

#23 不都合なお便り、略してふつおた

しおりを挟む
「じゃあ、『求婚者』でけってーい! よろしくね! 求婚者さん!
 さあ、みんなの呼び名が決まったところで、メールへのお返事をしていくね!
 ですが、求婚者の皆さん! ここで、とっても残念なお知らせがあります!」

『なんだよ』『残念なのは七星エリカだけで十分だ』『ルリナちゃんは俺たちの希望』『ルリナちゃんに求婚したい』『チカちゃんに謝れ』……

「ちょっとルリナ! 残念なお知らせってなんのことよ!」
 神崎がそうつっこんでくる。
「えっとね! ルリナ、お姉ちゃんのメールボックスを整理したんだけど、お姉ちゃんを非難するお便りがとぉぉぉってもたくさんたまってて、まともな質問が全然見つけられなかったの!」
 俺のセリフに、コメントの流れが速くなる。

『草』『残念にもほどがあんだろ』『暇人多すぎだろ。嫌なら黙ってブラバしろよ』『炎上ライバーの面目躍如』『汚名挽回、名誉返上』『早くチカちゃんに謝ろ?』……

「こいつらのどこが求婚者なのよ!? 悪質なストーカーみたいなもんじゃない! 呼び名、やっぱストーカーにしようかしら!」
「やめて! 毎回ストーカーの皆さんこんにちは!とか挨拶することになっちゃうよ!」

「で、どうするのよ。まともなメールは見つけてきたんでしょうね?」
「『エリカちゃんの好きな食べ物は?』」
「だぁから! 食べ物の話なんてどぉぉぉでもいいんだっつーの! 前にも言ったわよね!? カレー、ラーメン、チャーハン、餃子、オムライス、ナポリタンみたいな、味が単調で量ばっか多い料理は大っ嫌いよ!」
「前より品数増えてない!? ねえ、なんで増やしたの!? オムライスやナポリタンが好きな人だっているし、名店だってあるんだよ!?」
「ちなみにかざみんは、ラーメンにチャーハンと餃子をつけて食べるって言ってたわ! うっわゲロ吐きそう! 太る! ダイエットの敵! ザ・モテない男子飯!」
「なんで流れるようにかざみんさんまでディスったの!? ただでさえ着拒されてるのに、これ以上怒らせないでくれませんかねえ!?」

『着拒w』『まーじか』『この女、あの温厚なかざみんに着信拒否されてんのかよ』『同じ事務所のライバーから着拒されるとか大草原不可避』『この部分だけ編集して動画上げますね』『かざみんのウィスパーに凸していいですか?』……

「求婚者さん、凸だけはダメだよ! かざみんさんにこれ以上迷惑かけちゃダメ! 静かに怒りが解けるのを待ってるんだから!」
 凸――突撃の略。電話やメールで直接聞くことな。

『いや、謝れよ』『チカちゃんにも謝れ』『とりあえず全員に謝っとけば間違いないんじゃね』『求婚者にも謝れ』『かざみん、ウィスパーで怒ってないよってつぶやいてる』『でも着拒は解かないとか言ってて草』……
 う……さすがに他のライバーさんに延焼するのはヤバいな。

「と、とにかく! お姉ちゃんにまともな質問しても炎上するだけだってわかったから! それならいっそのこと、まともじゃない質問をぶつけちゃおうと思うの!」
「えっ、どういうことよ?」
「まともじゃない質問は、そんな質問をする側にも落ち度があるでしょ!? その分、責任が半々になって、お姉ちゃんへのヘイトが半減するんじゃないかと思ったんだ!」

『ルリナちゃんぶっちゃけすぎだろ』『それ晒し上げって言うんじゃないですかね』『質問者に落ち度があっても、そもそもの元凶は七星エリカの言動だし』『争いは同じレベルの者同士でしか発生しない』……

 うん、賛同は得られないよな! わかってた。
 俺はやけくそ気味に声を張り上げる。

「題して、不都合なお便り! 略して『ふつおた』のコーナーです! このコーナーでは求婚者の皆さんや、もう求婚者やめるわと言ってきた皆さんからのメールに、どしどしお返事していきます!」
「わたしたちにとって不都合なメールをぶった切っていくわけね! 楽しみだわ!」
「ふふふ……お姉ちゃんのその余裕がどこまで続くかな? 本っ当に、どうしようもないようなメールしか紹介しないよ!」
「望むところよ! かかってきなさい!」

「じゃあさっそく一通目!
『はじめまして、エリカちゃん。突然ですが、僕はマジキャス二期生のヴィジュアルが公開された時、エリカちゃんがいちばん可愛いと思いました。ツンとしたルックスが超・好みだったんです。初回配信でリアルタイムで動くエリカちゃんを見て、胸が締め付けられるような苦しさを覚えました。そこで、僕は悟ったのです。はっ、これが恋というものか! と。 いわゆるガチ恋ってやつですね。ちなみに僕の初恋です』」
「キモっ! そりゃ二期生の中ではわたしがいちばん可愛いと思うけど、直接知らない相手にガチ恋とかありえないし! だいたい、初恋とか嘘ついてんじゃないわよ! あんたみたいなキモオタは、新しいアニメ見るたびに『〇〇ちゃんは俺の嫁』とか言ってんでしょうが!」

「お姉ちゃん、まだ続きがあるよ。
『でも、エリカちゃんには失望しました。裏切られた思いです。思えば、初回配信から引っかかるものはありました。ちょっとした物言いがいちいちキツくて、僕の心を的確にえぐってくるのです。それでも、エリカちゃんは僕の初恋の相手。僕は歯を食いしばって、エリカちゃんの配信を見続けました。いつか、エリカちゃんもわかってくれるだろう。その一念で、心に突き刺さる棘に耐え続けました。ですが、エリカちゃんの暴言は収まるどころか、回を追うごとに酷くなる一方です。僕はもう、自分の心を偽ることができません。僕は、エリカちゃんが嫌いです。憎いです。さっきも言いましたが、心の底から失望しました』」
「キモすぎでしょ! 変な忠誠心持たなくていいから! イヤなら見なければいいじゃない! 勝手に初恋して勝手に執着して勝手に失望してんじゃないわよ!」

「『とくに、先日のチカちゃんとの配信は最悪でした。これ以上、初恋の相手の無様な姿を見るに忍びません。僕が今後、あなたの配信を見ることはないでしょう。さようなら、初恋の人。
 P.S.チカちゃんにはちゃんと謝ったほうがいいですよ。謝ったとしてももう見ませんが』」
「あんたねえ、これが最後だと思って好き勝手言ってんじゃないわよ! チカちゃんには絶っ対謝らない! それからあんた、メールだからって言い逃げできるとでも思ってんじゃないでしょうね!? ルリナ、ちょっとそのメールを見せなさい!」
「えっ、お姉ちゃん!?」
 神崎がパソコンの前に割り込んで、俺が開いてたメールを見る。

「このメールね! ええっと……kentarotanaka1206@yapoo.com! ちょっとあんた、こんなクソみたいなメール、生々しいメアドから送ってきてんじゃないわよ! 読み上げたわたしのほうがびっくりしちゃったじゃない!」
「あああああっ! お姉ちゃん何やってくれてんの!?」
「何って、クソメール送ってきたやつのメアドを晒しただけよ! おいタナカ! あんたのメールボックス、明日には大変なことになってるから、覚悟しておきなさい!」
「何やってんの!? なんで相手の家に出前たくさん送りつける嫌がらせみたいなことやってんの!?」
「たかがメールアドレスじゃない! 出前テロとちがって関係ない人に迷惑はかからないわよ! おい、タナカ! ケンタロウ! 人を殴るなら、殴り返される覚悟をしてから殴ることね! ……おっと、メールの末尾に署名もあるわね。えーっと……」
「ダメーーーっ! それは絶対出しちゃいけないやつだからダメ――っ! ラジオネームなかったけどメアドがケンタロウ・タナカだった人も、お仕事以外でメールする時は署名チェックしなきゃダメだよぉっ!」
「さあ、人を叩くのが三度の飯より好きな求婚者ども! タナカのメールアドレスにクソみたいなメールを送りつけるのよ!」
「ダメだからね!? 絶対やっちゃダメだからね!」
「ほら、ルリナもやれって言ってるわ!」
「フリじゃねええよ!」
 俺は絶叫しながらコメントを見る。

『メアド晒しくっそ吹いた』『メールを送ればいいんですね?』『やめとけ。クソみたいなやつなんだぞ。クソみたいなメールが返ってくるに決まってる』『メール主を擁護する気もないが、そもそも七星エリカが悪いんだからな』『チカちゃんに謝って?』『かざみんにも謝ったほうがいいんじゃね』『謝ろうにも着信拒否されてるけどな!』……
 俺は冷や汗をかきつつ、開き直って進行を再開する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

処理中です...