Vtuberだけどリスナーに暴言吐いてもいいですか?

天宮暁

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#22 七星ルリナ爆誕

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 神崎ママの用意してくれたご飯を食べ、ついに配信が始まった。

 まずは、七星エリカが俺のことを紹介する。
「今日はアシスタントを連れてきたわ。って言ってもわたしの妹なんだけど。ほら、ぐずぐずしてないで自己紹介なさい!」

「は、はじめまして! 七星ルリナっていいます。みんな、いつもお姉ちゃんの配信を見てくれてありがとー! 今日はお姉ちゃんに頼み込まれて、どうしてもって言うからしかたなく、お姉ちゃんの配信の進行を務めさせてもらうことになりました! よろしくね!」

「なによ! あんただってノリノリで準備してたじゃない!」
「な、なんのことかなー? ルリナわかんなーい」
 きゃぴっと笑ってごまかす七星ルリナ。
 瑠璃色のドレスだからルリナ。時間がなかったからネーミングも安直だ。
 俺は自分のスマホでアバターを操作し、その映像を神崎の配信用パソコンで受信して、七星エリカの配信画面に合成してる。

 神崎がマイクから口を離して言ってくる。
「うっわ。あんたの顔で萌えボイス出されると鳥肌立つわね」
「リハーサルしたろ!? 慣れてくれよ!」
 と言いつつ、俺自身も慣れてない。まだ恥ずかしさが抜けきらないのだ。北村や神崎ママもこの配信を見てると思うとなおさらな。

「今日は、メールへのお返事回だよ! まったく、お姉ちゃんときたら、ろくなメールが来ないなんて言って、全然お返事しないんだもん! リスナーのみんなも怒ってるよ!」
「何言ってんのよ? リスナーが怒ってるなんていつものことじゃない!」
「それはお姉ちゃんの配信だけだからね!?」
 わりと素でつっこんでしまった。

「それにしても、いつまでも『リスナー』じゃ呼びにくいわよね。親近感も抱けないわ!」
「気づくの遅くない!? じゃあ、お姉ちゃんはどんな呼びかたがいいの?」
「わたしの中では、キモオタとかマゾ豚とか呼んでるわね」
「呼ぶなよ! 呼んでても言うなよ!」
「ルリナ、人格が壊れてるわよ」
「じ、人格壊れてるのはお姉ちゃんなんだからね!?」
「サソリ姉は『彼氏さん』でしょ、チカちゃんは『先輩』よね」
「かざみんは『旅人さん』で、詠美子さんは『ゾンビくん』『ゾンビちゃん』だね!」
「その流れで行ったら、『キモオタ』『マゾ豚』でもよさそうなもんじゃない?」
「よくないよ!? コアなリスナーさんしか喜ばないよ!? コアなリスナーさんも、お姉ちゃんのガチな罵倒にはマジギレしてるくらいなんだからね!?」
「おかしいわね。チカちゃんに罵倒されるとみんな喜ぶのに」
「チカちゃんの罵倒には愛があるから! お姉ちゃんのはガチモンの罵倒なんだよ!」

 そこで、俺はコメント欄を見る。
 もっと早くから見ろって話なんだが、キャラを演じながらかけあいをし、同時にコメントを見るってのは思った以上に大変だ。
 それに、正直言って、反応を見るのが怖かった。

『お、意外といいね』『つっこみがあると聞きやすいな』『ルリナちゃんわかってる』『前はマジで心えぐられたからなぁ』『唐突な妹キャラの投入草生える』……

 ……あれ。意外と悪くない反応だ。

「リスナーさんのみんなさん! お姉ちゃんにどう呼ばれたいですかぁ?」
 俺は視聴者にボールを投げてみる。このまま放っとくと、引っ込みがつかなくなって『キモオタ』に決めるしかなくなりそうだったからな。

『うーん、下僕とか?』『肉奴隷』『エリカ様の椅子』『人間家具』『貢ぎマゾ』『変態紳士』『こいつになんて呼ばれても不快』『おまえなんでこの配信見てんだよw』……

「ちょっと、変態さん多くない!?」
「ほら見なさい。やっぱりわたしの配信に来る物好きなんて豚しかいないのよ!」
「お姉ちゃんそれ威張るとこじゃないからね!? っていうかひょっとして遠回しな自虐だった!?」
「コメントの傾向を見ると、『貢ぐ君』『アッシー』なんかはどうかしら?」
「言葉のチョイスが古くない!? お姉、いつからバブル世代になったの!? 十七歳だよね!?」
 ちなみに、リアルでも神崎は十七歳だ。

『七星だからテントウムシとか?』『七星なら北斗七星は?』『織姫と彦星の彦星』『かぐや姫に無理難題ふっかけられる求婚者はどう?』『ちょっとロマンチックすぎね?』……

 お、なんかまともな案が出はじめた。
「テントウムシは悪くないけど、ちょっと長いかしらね。いっそ虫?」
「せっかくの良案をクソみたいな案に変えるのやめてくれませんかねぇ!」
「織姫さんと彦星くんってのもいいわね。男女で使い分けできるわ。でも、エリカが織姫だとすると、女性のリスナーとは織姫と織姫になっちゃうわね」
「織姫と織姫の百合、アリだと思います!」
「あんたの性癖なんて聞いてないわよ。でも、織姫と織姫じゃ、あいだに天の河がないからドラマにならないじゃない」
「お姉ちゃんにしてはロマンチックな理由だぁ! じゃあ、求婚者?」
「そうね。名家の令嬢であるわたしのもとには、男女問わず求婚者が殺到してるの!」
「いまのチャンネル登録者数でも一万人ちょっといるもんね! 人気企業の採用試験みたいだね!」
「書類選考で九千九百人は落とすわ!」
「基準は!?」
「年収! 学歴! 身長!」
「バブルか!」
「エリカは現役JKですー。バブル世代じゃありませんー」
「逆に信憑性なくなったよ!? ほんとに現役JKなのに!」
「ともあれ、視聴者の呼び名は『求婚者』で決まりね!」
「と、お姉ちゃんは言ってるけど……みんな、どうかな?」
 俺は、コメント欄に目を移す。

『うん、まあいいんじゃね?』『七星エリカにあるまじき軟着地』『七星エリカの配信なのにコメ欄が荒れてない。訴訟』『むしろいつものほうが訴訟起こされるんじゃないですかね』『俺はまだ許してないぞ』『忘れるとこだったけどチカちゃんに謝れ』……

 最後のコメントに、神崎の額に青筋が浮かぶ。
 こいつがキレる前に、とっとと先に進めよう。
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