Vtuberだけどリスナーに暴言吐いてもいいですか?

天宮暁

文字の大きさ
上 下
7 / 34

#7 クラスメイトがVtuberってそれなんて(ry

しおりを挟む
 神崎を探すのは、思ったよりも大変だった。
 近くにいる生徒に神崎を見なかったか聞く……なんてことはもちろんしない。
 こちとら、陰キャユルオタ男子である。知らないやつにクラス一――いや、学年で一番の美少女を見かけなかったか、なんて気軽に聞けるわけがない。
 ……どんなに低く抑えても、声が女っぽくて驚かれるしな。

 しかたなく、俺は校舎内を駆けずり回る。
 十分近くかかって、特別教室棟の外れにある階段の裏に、陽キャ様の明るい髪を発見した。

「神ざ――」
 声をかけようとして、俺は気づく。
 神崎は、真剣なような、泣き出す手前のような顔をして、別の女子と向き合っている。

 神崎を睨みつけている女子は、リボンの色からすると一年だ。
 この一年の女子も、神崎に負けず劣らずの美少女である。
 ただし、路線は真逆といっていい。
 小柄で、背は神崎の肩くらい。ショートの黒髪と相まって、日本人形のような印象だ。
 そんな女子が、無表情のまま、つや消し黒の瞳を、上級生に恐れげもなく向けている。

(あれって……ひょっとして、一年の君原きみはら理帆りほ、か?)
 北村がどこからともなく入手してきた、学内かわいい女子ランキング一年部門第一位。本人を見るのは初めてだが、こんな特徴的な美少女が学年に何人もいるとは思えない。
 なお、二年の一位は言うまでもなく神崎である。
 いま、この人気のない階段裏で、二年と一年のトップ美少女が向かい合ってることになる。しかも、なにやら険悪な雰囲気で。

(なんだ、この状況?)
 学内の人間関係に詳しいわけじゃないが、二人が親しいという話は聞いたことがない。
 いや、噂を聞く聞かない以前の問題として、二人は見るからに方向性が違ってる。二次元とVtuberにしか興味のない俺が、どんな関係だろうと興味を惹かれるくらいにな。

「ち、チカちゃん。目の下に隈ができてるよ」
 神崎が言った。
 この距離ではよく見えないが、君原はたしかに少しダルそうだ。

(って、チカちゃん?)
 あだ名だろうか。
 でも、君原理帆という名前のどこをどう取ったら「チカちゃん」になるのか。
 俺にとって「チカちゃん」と言えば……。

(……いや、そんなまさかな)
 初めて聴くはずの声なのに、どことなく聴き覚えがあるような気もするが……。いわゆる「ダメ絶対音感」の誤作動だろうか。俺もまだ修練が足りないな。

「寝不足なんです。誰かさんのせいで」
「そ、そう……」
 ギロリと睨みつける君原に、神崎がたじろいだ。

「マジキャスはあなたが来るまでとてもいい雰囲気の事務所だったって、一期生の先輩が言ってました。あなたのせいで、スタッフさんがどれだけ苦労してるかわかってるんですか? 今日はいろんなところに頭を下げに行ってるんですよ?」
「うっ……」
「わたしだってそう。あなたがリスナーをつかめなくて困ってるって言うから、コラボの誘いを承諾したんです。恩を仇で返されるっていうのはこのことじゃないですか」
「そ、そんな言い方! だ、だいたいわたしのほうが先輩だし!」
「それならもっと先輩らしくしてください! 三期生のみんなのほうが、ずっとリスナーさんの気持ちをわかってる! 仲間の気持ちも大事にしてる! そりゃ、ライバルとして意識することだってあるけど、それぞれの個性を認め合って、みんなでシーンを盛り上げてこうって頑張ってるんです! それをあなたが一晩で台無しにしたんですよ!」
「……っ」
「わかったら、もうわたしの前に姿を見せないでください」

 君原は冷たい声で言い放つと、こっちに向かって振り返る。
(やべっ!)
 俺は慌てて、階段の陰に身を隠す。
 君原は、一切振り返ることなく、廊下の奥へと消えてった。
 小さな背中から、怒りの炎が立ち昇ってた感じだな。

(ふぅ……振り返られたら見つかってたな)
 俺は胸を撫で下ろす。
 その拍子に、足首がかくんと折れてしまった。
「うおっ!?」
 俺は階段を踏み外し、派手に転びながら階段裏に飛び出してしまう。

「だ、誰っ!?」
 神崎が顔を跳ね上げる。
 転んだままの俺と目が合った。
「あ、あんた……! えーっと……名前は忘れたけど、クラスのキモオタよね!? 声だけ妙にかわいい感じの!」
「覚えてねーのかよ! あんだけからんできといて!」
「当然でしょ!? そりゃ、わたしは美少女だから? あんたはわたしの名前を覚えてるでしょうけどね! こっちにはあんたの名前を覚えておくメリットがなにひとつないわ!」
「そりゃそうだろうけどな! 面と向かって言ってんじゃねえよ!」
 おもわず声が高くなる。

 まちがいない。この傲慢さと無神経さ。俺が画面越しに見てたヴァーチャルアイドルそっくりだ!
 君原理帆――いや、天海チカ・・・・が、あれだけヒントをばら撒いていったからな。

(こいつがあの――。いや、それにしたってこんな偶然が……)

 戸惑ってるあいだに、神崎が俺に詰め寄ってくる。
「なんであんたがこんなとこにいんのよ!?」
「あー、いや……怒らせたなら謝ろうかと思って追いかけてきたんだよ。駒川さんにそうしろって言われてな。そしたら、おまえが下級生と険悪な雰囲気で話してて、出ていく機会がなかったんだ」
 俺の答えに、神崎が露骨にうろたえた。

「……ど、どこから聞いてたの?」
「わりと全部、かな」
「ぜ、全部……っ」
 神崎の顔が蒼白になった。
 黙ってようかとも思ったんだが、こうなっては聞かないほうがおかしいだろう。
 教室でマジキャスについて熱く語ってたオタクが、気づかないわけがないのだから。
 俺は、すでに確信に変わった推理を口にする。

「なあ、おまえが、七星エリカ……なのか? マジキャスのライバーで、Vtuberの」

 神崎が、力なくうなずいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...