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26 初仕事①警告
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拝剣殿で訓練を始めて一週間が経った。
火、水、地、風、雷、光、闇。
七剣に由来する七曜が一巡したことになる。
ルディアは初歩の纏と巡にはだいぶ慣れた。
とくに巡は成長が早い。
技は、弾きより止めの方が得意なようだ。
どっしり構えて受け止める方が性に合うらしい。
とはいえ、止めだけでは限界がある。
いずれは弾きも覚えたい。
もっとも、初心者としては上出来以上だ。
剣才というより、身体を動かす才がある。
俺の方は……まあいいか。
サリーも、俺のやることには驚かなくなった。
俺たちが、通い慣れてきた石段に差し掛かると、
「――ナイン」
道の反対側から、声をかけられた。
セブンスソード市警の制服を着た女性警官。
制帽の下から栗色の髪が覗いてる。
ややつり気味の緑の目が、活発そうな印象だ。
「キャシーか」
「ひさしぶり、でもないかしら?
本当にホーリーナイトになったのね。
あんたが白い鎧を着てるのに慣れないわ」
「そのうち慣れるさ。
何か用事か?」
「ええ、ちょっとね……」
キャシーが声を潜めた。
「ギャリスのこと、覚えてる?」
「ギャリス? 誰のことだ?」
「その子を襲おうとしたあいつよ。
あんたが倒した」
「ああ、一週間前のチンピラか。
そりゃ、覚えてるけど」
ルディアを路地裏に連れ込んだ連中の片割れだ。
片方は、ルディアの肘打ちで爆死した。
もう片方は、駆けつけたキャシーが引っ立てた。
警察が捕まえたなら心配はない。
そう思って完全に忘れてた。
名前なんて元から知らなかったけどな。
「拘置所が襲われたのよ」
「……は?」
「だから、拘置所が襲われたわけ」
「なんで?」
「拘置所が、魔剣士と思しい相手に襲われたの。
それで、あのチンピラが逃げ出した」
「あいつを逃すために拘置所が襲われたってのか?
でも、あんなのただのチンピラだろ?
誰が、どうして?」
「……ふぅん。心当たりはないのね?」
「ねえよ」
覗き込んでくるキャシーを見返して言った。
「意外と大物だったってことか?
街で誘拐紛いのナンパをしてるような小物が?」
それにしたって、拘置所を襲うとは。
市警を敵に回せば、自動的に七剣をも敵に回す。
この街で生きていけなくなるってことだ。
(いや、そんな程度じゃ済まねえな)
魔剣士を差し向けられ、間違いなく捕殺される。
手配犯の逮捕は、魔剣士にとっては楽な仕事だ。
魔物や堕剣と違って危険が少なく実入りが多い。
あっという間に狩り出されることだろう。
「拘置所の壁は、ドロドロに溶けていたわ」
「ファイアナイトの仕業ってことか?」
他の魔剣で同じことをするのは難しいはずだ。
「そういえば、あいつもファイアナイトだったか。
火の拝剣殿には照会したのか?」
「したわ。逮捕直後にね。
でも、そんな魔剣士はいないと言われたわ」
「はぁ? 火の魔剣を持ってたんだぞ?」
「記録がない以上ファイアナイトではないそうよ」
「魔剣を闇ルートで手に入れたってことか?
そりゃ、可能性がないとは言わないが……」
脱走した男に加え、壁を溶かした魔剣士が一人。
しかも、いずれもファイアナイト。
拘置所を襲ったくらいだ。
他にも仲間がいるかもな。
「指名手配はしたし、捜索もしてるわ。
ただ、あなたたちを逆怨みしてる可能性もある。
念のためにと思って、伝えておくことにしたの」
「そうか……助かるよ」
今の俺はホーリーナイトだ。
ダークナイトの時ほど動けるわけじゃない。
複数で襲われては、対処の方法が限られる。
用心として、警戒しておく必要がある。
「捜査に進展があったら教えてくれ」
「そっちこそ、何か掴んだら教えてちょうだい」
「こっちに来る可能性は低いとは思うけどな」
あきらかに組織的な脱走なのだ。
その組織が、俺への復讐に走るとは考えにくい。
必ず、別の目的があるはずだ。
危ないのはむしろ――
「……キャシーこそ気をつけろよ。
この件、相当にキナ臭い」
「……わかってるわ」
キャシーがこわばった顔でうなずいた。
徒党を組んだ脱法魔剣士。
それが、市警の拘置所を襲撃した。
この街でそんなことができるのは……
(拝剣殿がらみってことか)
俺は、その言葉をのみ込んだ。
往来で口にできることじゃないからな。
火、水、地、風、雷、光、闇。
七剣に由来する七曜が一巡したことになる。
ルディアは初歩の纏と巡にはだいぶ慣れた。
とくに巡は成長が早い。
技は、弾きより止めの方が得意なようだ。
どっしり構えて受け止める方が性に合うらしい。
とはいえ、止めだけでは限界がある。
いずれは弾きも覚えたい。
もっとも、初心者としては上出来以上だ。
剣才というより、身体を動かす才がある。
俺の方は……まあいいか。
サリーも、俺のやることには驚かなくなった。
俺たちが、通い慣れてきた石段に差し掛かると、
「――ナイン」
道の反対側から、声をかけられた。
セブンスソード市警の制服を着た女性警官。
制帽の下から栗色の髪が覗いてる。
ややつり気味の緑の目が、活発そうな印象だ。
「キャシーか」
「ひさしぶり、でもないかしら?
本当にホーリーナイトになったのね。
あんたが白い鎧を着てるのに慣れないわ」
「そのうち慣れるさ。
何か用事か?」
「ええ、ちょっとね……」
キャシーが声を潜めた。
「ギャリスのこと、覚えてる?」
「ギャリス? 誰のことだ?」
「その子を襲おうとしたあいつよ。
あんたが倒した」
「ああ、一週間前のチンピラか。
そりゃ、覚えてるけど」
ルディアを路地裏に連れ込んだ連中の片割れだ。
片方は、ルディアの肘打ちで爆死した。
もう片方は、駆けつけたキャシーが引っ立てた。
警察が捕まえたなら心配はない。
そう思って完全に忘れてた。
名前なんて元から知らなかったけどな。
「拘置所が襲われたのよ」
「……は?」
「だから、拘置所が襲われたわけ」
「なんで?」
「拘置所が、魔剣士と思しい相手に襲われたの。
それで、あのチンピラが逃げ出した」
「あいつを逃すために拘置所が襲われたってのか?
でも、あんなのただのチンピラだろ?
誰が、どうして?」
「……ふぅん。心当たりはないのね?」
「ねえよ」
覗き込んでくるキャシーを見返して言った。
「意外と大物だったってことか?
街で誘拐紛いのナンパをしてるような小物が?」
それにしたって、拘置所を襲うとは。
市警を敵に回せば、自動的に七剣をも敵に回す。
この街で生きていけなくなるってことだ。
(いや、そんな程度じゃ済まねえな)
魔剣士を差し向けられ、間違いなく捕殺される。
手配犯の逮捕は、魔剣士にとっては楽な仕事だ。
魔物や堕剣と違って危険が少なく実入りが多い。
あっという間に狩り出されることだろう。
「拘置所の壁は、ドロドロに溶けていたわ」
「ファイアナイトの仕業ってことか?」
他の魔剣で同じことをするのは難しいはずだ。
「そういえば、あいつもファイアナイトだったか。
火の拝剣殿には照会したのか?」
「したわ。逮捕直後にね。
でも、そんな魔剣士はいないと言われたわ」
「はぁ? 火の魔剣を持ってたんだぞ?」
「記録がない以上ファイアナイトではないそうよ」
「魔剣を闇ルートで手に入れたってことか?
そりゃ、可能性がないとは言わないが……」
脱走した男に加え、壁を溶かした魔剣士が一人。
しかも、いずれもファイアナイト。
拘置所を襲ったくらいだ。
他にも仲間がいるかもな。
「指名手配はしたし、捜索もしてるわ。
ただ、あなたたちを逆怨みしてる可能性もある。
念のためにと思って、伝えておくことにしたの」
「そうか……助かるよ」
今の俺はホーリーナイトだ。
ダークナイトの時ほど動けるわけじゃない。
複数で襲われては、対処の方法が限られる。
用心として、警戒しておく必要がある。
「捜査に進展があったら教えてくれ」
「そっちこそ、何か掴んだら教えてちょうだい」
「こっちに来る可能性は低いとは思うけどな」
あきらかに組織的な脱走なのだ。
その組織が、俺への復讐に走るとは考えにくい。
必ず、別の目的があるはずだ。
危ないのはむしろ――
「……キャシーこそ気をつけろよ。
この件、相当にキナ臭い」
「……わかってるわ」
キャシーがこわばった顔でうなずいた。
徒党を組んだ脱法魔剣士。
それが、市警の拘置所を襲撃した。
この街でそんなことができるのは……
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俺は、その言葉をのみ込んだ。
往来で口にできることじゃないからな。
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