ダークナイトはやめました

天宮暁

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20 ホーリーナイトはじめました①魔剣の名

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 そして翌日。
 俺とルディアは新しい服と装備に身を固める。
 俺は折れた剣を腰に。
 ルディアは竜殺しの剣を背中に。
 拝剣殿への石段を登っていく。

 道中、ルディアには視線が集まりっぱなしだ。
 魔剣士はその背中の巨大すぎる剣に。
 一般人はルディアの美貌に振り返った。

「なんか、疲れるな」

 黒い甲冑で怯えられることはあった。
 だが、こんなふうに注目されたことはない。
 注目されてるのが連れの方だというのも珍しい。
 自分が注目されるよりかえって疲れるな。

「訓練って、何をするんでしょうか?」

「さあな。拝剣殿によってまちまちだよ」

 中には素振りから始めるところもある。
 素振り千回が休まずできて、初めて仕事。
 一種の根性試しだな。
 あまり意味があるとも思えないが。

「メリーアンやサリーなら大丈夫だろ」

 厳しくても、マトモな訓練をしてくれるだろう。
 ホーリーナイトとして大事なことを学べそうだ。

 と、言ってるうちに丘の石段を登りきった。

 新人の中には、石段でへばる奴も結構いる。
 どの拝剣殿も高い丘の上にあるからな。
 おまけに慣れない重装備だ。

 これでへばるうちは訓練に進ませない所もある。
 こっちの方は、素振りよりは合理的だろう。

 もちろん、俺とルディアは問題なしだ。
 ルディアは竜に育てられた娘である。
 俺については言うまでもない。

 拝剣殿に入ると、サリーが入り口で待っていた。

「来ましたね、ナイン、ルディア」

 サリーの出で立ちは昨日とは違った。
 白銀の鎧と手甲、脚甲。
 腰には、一振りの魔剣を提げている。
 肩には拝剣殿の腕章がある。

「ひょっとして、サリーが教官?」

 なんの気なしに俺が聞くと、

「――教官には『さん』をつけろ新人がぁぁっ!」

 いきなり怒鳴られた。

「ちょ、いきなりなんです、サリー……さん」

「まぁ、それは冗談ですけど。
 規則上、訓練中は教官には敬語ですので」

「わ、わかりました」

 ケロリとして言うサリーにうなずいた。
 サリーは、俺とルディアを連れて歩き出す。
 道すがら、サリーが言った。

「そういえば、あなたの魔剣について調べました」

 もちろん、昨日抜いた折れた魔剣のことだ。
 今は俺の腰に提がってる。
 折れてるだけに、歩くのにもバランスが悪い。

「何かわかりましたか?」

「細かいことは何も。
 ただ、『壊剣ザカーハ』という名前だけ」

「壊剣、ザカーハ……」

「当時のSランクの佩剣はいけんだったそうです。
 でも、ヒビが入って奉納したとか」

「当時から喋ってたんですか?」

「わかりません。記録にはありませんでした」

 俺は魔剣を取り出して言う。

「だとよ、壊剣ザカーハ」

『ザカーハ……
 むう。かすかに聞き覚えがある』

「じゃあ、これからはザカーハって呼ぶぞ」

 普通、魔剣の名前を呼ぶことなんてない。
 でも、こいつは喋るからな。
 喋る以上は名前がないと不便だろう。
 いつまでも「折れた魔剣」じゃわかりにくい。

『うむ。今ひとつ確信はないが、よかろう』

 俺とザカーハの会話にルディアが言う。

「わたしの剣にも名前をつけてあげたいですね」

「だってよ。
 ザカーハ、おまえ、魔剣の声が聞こえないか?」

『そやつは強力だが、ただの魔剣だ。
 われのように高度な自我があるわけではない。
 だが……エリザベータ。
 以前はそのように呼ばれておったようだ』

「このナリでエリザベータか」

『屠龍剣エリザベータ、といったところだな』

「では、エリリと呼びます」

「いいのか、それで……」

『嫌がってはいないようだぞ』

「その剣、女なの?」

『魔剣に性別はない。
 が、好みはある。
 その魔剣はおのれを女と見るのが好みらしい。
 「女」の魔剣は女を選ぶことが多いようだ。
 「男」の魔剣はどちらもいる』

「へええ」

 俺がうなずいてると、

「興味深い話が続いてますが、着きましたよ」

 サリーが、柱廊の外に目をやって言う。
 拝剣殿の中庭に当たる空間だ。
 訓練のために、かなりの広さがとってある。
 地面には、怪我防止の軽石が敷かれてる。
 奥の方には練習のための藁人形が見えた。
 いくつか、岩の塊も置いてある。
 朝早くだからか、人の姿はまばらである。

「訓練って、何をやるんです?」

「基本のおさらいから始めましょう」

 サリーは言って、俺とルディアに向き直った。
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