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8 ホーリーナイトはじめます②拝剣殿
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「ナインさんですね? 奥で代表がお待ちです」
開口一番、拝剣殿の受付嬢が言った。
俺は目を丸くする。
「ここでは新人を代表が面接するのか?」
「まさか。特例だと伺っています。
それ以上のことは代表から聞いてください」
俺とルディアは、受付嬢の案内で奥へ進む。
買い物のあと。
俺たちはホーリーナイトの拝剣殿を目指した。
闇の拝剣殿同様、丘には長い石段がある。
白一色の石段の先に光の拝剣殿が姿を見せると、
「わぁ……綺麗ですねっ」
ルディアがはしゃいだ声を上げた。
淡く輝く大理石の拝剣殿は壮観だ。
中央には、剣を模した白い尖塔。
それを大理石の円い壁が何重にも取り巻いてる。
光の拝剣殿は、観光名所としても有名だ。
薄暗い闇の拝剣殿とはわけが違う。
俺は気圧され、ルディアは目を輝かせる。
(ルディアはこっちの方が相性がいいんだろうな)
気後れを飲み込み、中に入った。
入り口ホールを横切ってカウンターに向かう。
ホールには白い鎧の魔剣士たちがひしめいてる。
途中、彼らの一部からじろりと見られた。
(ま、当然か)
女連れ、鎧の下に黒い服。
これだけでもかなり目立つだろう。
で、受付嬢に話しかけたらこの展開である。
あいつは何者だ?
そう思われてるに違いない。
(極力目立たないようにはしてくれてたけどな)
先を行く生真面目そうな受付嬢を見てそう思う。
廊下を進む受付嬢が、ドアの前で立ち止まる。
白と銀で塗装された、両開きの立派なドアだ。
「代表。ナインさんをお連れしました」
受付嬢が白いドアをノックした。
「はぁい。入っていいわよ」
「失礼します」
奥からの返事に答え、受付嬢がドアを開く。
両開きのドアの奥は書斎だった。
左右の壁に、本の詰まった書棚がある。
真ん中には、ベッド並に大きい白木の机。
その机の奥で、背の高い白革の椅子が回転する。
椅子の陰から、妙齢の美女が現れた。
癖のないダークヘアを両肩に垂らし、
神秘的な紫の瞳をこちらへと向ける。
切れ長の目は、いかにも仕事ができそうだ。
一度だけだが、以前にも会ったことがある。
「メリーアン代表。ご無沙汰してます」
「ナイン君……よね?
素顔は初めて見るわ。
思ったよりもかわいいのね」
「かわ……そうですか?」
年齢より若く見えるとは言われるが。
答える間に、受付嬢が礼をして廊下に消える。
「ところで、これは?」
「ああ、リィンから頼まれたのよ。
うちのエースがそっちに行くって言い出した。
配慮してやってくれって」
「あいつ……」
リィンはああ見えて、闇の拝剣殿の代表だ。
メリーアンと面識があるのは当然だった。
「そういう特別扱いはしないのだけど……。
まあ、あなたにはお世話になったこともあるし。
腕のほどは確かめるまでもないし、ね」
「といっても、適正はCですけどね。
受け入れてもらえるか心配してたんですが」
「Cとして十分な仕事をしてくれれば結構よ。
それ以上の仕事ができるのならば儲けもの。
いずれにせよ、こっちに損はないわ」
「そりゃそうですね」
「逆に、興味深い実験でもあるわね。
あなたはダークナイトとして頂点を極めた。
そんな人が、別の道でも大成できるのか?
適正の壁を打ち破ることができるのか?
わたし自身、魔剣士として興味が尽きないわ」
メリーアンは悪戯っぽく笑った。
(言われてみればそうかもな)
こんな珍しい例は他にないだろう。
適正か努力か?
昔から議論されてきたテーマである。
「でも、あなたがあのナインだとバレると面倒ね。
さいわい、あなたの顔は知られてないわ。
同名の別人ってことにしておいてちょうだい」
「自分を偽るのは……」
「べつに、偽るわけじゃないわ。
単に、同一人物だと言わないだけ。
あのナインがホーリーナイトになった……。
どうせ誰も信じないわよ。
有名人を騙ってる。
そう思われるのが関の山でしょうね」
詭弁だとは思ったが、黙っておく。
せっかくの配慮を無にすることはない。
変なトラブルに巻き込まれるのはごめんだしな。
メリーアンがルディアに目を向ける。
「それで、そっちのかわいらしい女の子は?
あなたの恋人かしら?」
「なんでみんなそれを聞くんです?」
「だって気になるじゃない。
ということは、そうじゃないってことかしら?」
「事情があって保護してます」
「事情、ね。
ひょっとして、聖竜の件と関係が?」
メリーアンの瞳がきらりと光った。
俺はポーカーフェイスで言う。
「時期が重なっただけですよ。
守るなら、ホーリーナイトの方が好都合だ。
そう思って、魔剣を握り直すことにしました」
「よくもまあ、捨てられたものね。
適正SSS。
滅多にいないSランクのダークナイト。
そんな地位と力をあっさりと……」
「魔剣士は独立不覊、でしょう」
「ほとんどの魔剣士は建前としか思ってないわ」
「俺は本気でそう思ってます。
それに比べれば、握る魔剣なんてなんでもいい」
「なんでもいいは言い過ぎよ。
あなたは今日付けでホーリーナイトになるの。
自覚を持ってもらう必要があるわ。
過去の栄光を引きずるようならやめてもらう」
「そんなみっともないことはしませんよ」
「でしょうね。言ってみただけよ」
と言いつつ、メリーアンが俺を値踏みする。
「うん、いいでしょう。
挫折したとか、根腐れしたとか……
そういう状態には見えないわ。
やる気があるなら重畳よ。
その力、ホーリーナイトとして存分に発揮して。
期待してるわ」
「精一杯務めさせてもらいますよ」
「じゃあ、あとはサリーに任せるわね。
次は魔剣の選定よ。
まあ、あなたはわかってるでしょうけど」
その言葉を待ってたかのようにドアが開く。
さっきの受付嬢が俺を見た。
「ではこちらへ、ナインさん」
俺とルディアは廊下に出、受付嬢についていく。
開口一番、拝剣殿の受付嬢が言った。
俺は目を丸くする。
「ここでは新人を代表が面接するのか?」
「まさか。特例だと伺っています。
それ以上のことは代表から聞いてください」
俺とルディアは、受付嬢の案内で奥へ進む。
買い物のあと。
俺たちはホーリーナイトの拝剣殿を目指した。
闇の拝剣殿同様、丘には長い石段がある。
白一色の石段の先に光の拝剣殿が姿を見せると、
「わぁ……綺麗ですねっ」
ルディアがはしゃいだ声を上げた。
淡く輝く大理石の拝剣殿は壮観だ。
中央には、剣を模した白い尖塔。
それを大理石の円い壁が何重にも取り巻いてる。
光の拝剣殿は、観光名所としても有名だ。
薄暗い闇の拝剣殿とはわけが違う。
俺は気圧され、ルディアは目を輝かせる。
(ルディアはこっちの方が相性がいいんだろうな)
気後れを飲み込み、中に入った。
入り口ホールを横切ってカウンターに向かう。
ホールには白い鎧の魔剣士たちがひしめいてる。
途中、彼らの一部からじろりと見られた。
(ま、当然か)
女連れ、鎧の下に黒い服。
これだけでもかなり目立つだろう。
で、受付嬢に話しかけたらこの展開である。
あいつは何者だ?
そう思われてるに違いない。
(極力目立たないようにはしてくれてたけどな)
先を行く生真面目そうな受付嬢を見てそう思う。
廊下を進む受付嬢が、ドアの前で立ち止まる。
白と銀で塗装された、両開きの立派なドアだ。
「代表。ナインさんをお連れしました」
受付嬢が白いドアをノックした。
「はぁい。入っていいわよ」
「失礼します」
奥からの返事に答え、受付嬢がドアを開く。
両開きのドアの奥は書斎だった。
左右の壁に、本の詰まった書棚がある。
真ん中には、ベッド並に大きい白木の机。
その机の奥で、背の高い白革の椅子が回転する。
椅子の陰から、妙齢の美女が現れた。
癖のないダークヘアを両肩に垂らし、
神秘的な紫の瞳をこちらへと向ける。
切れ長の目は、いかにも仕事ができそうだ。
一度だけだが、以前にも会ったことがある。
「メリーアン代表。ご無沙汰してます」
「ナイン君……よね?
素顔は初めて見るわ。
思ったよりもかわいいのね」
「かわ……そうですか?」
年齢より若く見えるとは言われるが。
答える間に、受付嬢が礼をして廊下に消える。
「ところで、これは?」
「ああ、リィンから頼まれたのよ。
うちのエースがそっちに行くって言い出した。
配慮してやってくれって」
「あいつ……」
リィンはああ見えて、闇の拝剣殿の代表だ。
メリーアンと面識があるのは当然だった。
「そういう特別扱いはしないのだけど……。
まあ、あなたにはお世話になったこともあるし。
腕のほどは確かめるまでもないし、ね」
「といっても、適正はCですけどね。
受け入れてもらえるか心配してたんですが」
「Cとして十分な仕事をしてくれれば結構よ。
それ以上の仕事ができるのならば儲けもの。
いずれにせよ、こっちに損はないわ」
「そりゃそうですね」
「逆に、興味深い実験でもあるわね。
あなたはダークナイトとして頂点を極めた。
そんな人が、別の道でも大成できるのか?
適正の壁を打ち破ることができるのか?
わたし自身、魔剣士として興味が尽きないわ」
メリーアンは悪戯っぽく笑った。
(言われてみればそうかもな)
こんな珍しい例は他にないだろう。
適正か努力か?
昔から議論されてきたテーマである。
「でも、あなたがあのナインだとバレると面倒ね。
さいわい、あなたの顔は知られてないわ。
同名の別人ってことにしておいてちょうだい」
「自分を偽るのは……」
「べつに、偽るわけじゃないわ。
単に、同一人物だと言わないだけ。
あのナインがホーリーナイトになった……。
どうせ誰も信じないわよ。
有名人を騙ってる。
そう思われるのが関の山でしょうね」
詭弁だとは思ったが、黙っておく。
せっかくの配慮を無にすることはない。
変なトラブルに巻き込まれるのはごめんだしな。
メリーアンがルディアに目を向ける。
「それで、そっちのかわいらしい女の子は?
あなたの恋人かしら?」
「なんでみんなそれを聞くんです?」
「だって気になるじゃない。
ということは、そうじゃないってことかしら?」
「事情があって保護してます」
「事情、ね。
ひょっとして、聖竜の件と関係が?」
メリーアンの瞳がきらりと光った。
俺はポーカーフェイスで言う。
「時期が重なっただけですよ。
守るなら、ホーリーナイトの方が好都合だ。
そう思って、魔剣を握り直すことにしました」
「よくもまあ、捨てられたものね。
適正SSS。
滅多にいないSランクのダークナイト。
そんな地位と力をあっさりと……」
「魔剣士は独立不覊、でしょう」
「ほとんどの魔剣士は建前としか思ってないわ」
「俺は本気でそう思ってます。
それに比べれば、握る魔剣なんてなんでもいい」
「なんでもいいは言い過ぎよ。
あなたは今日付けでホーリーナイトになるの。
自覚を持ってもらう必要があるわ。
過去の栄光を引きずるようならやめてもらう」
「そんなみっともないことはしませんよ」
「でしょうね。言ってみただけよ」
と言いつつ、メリーアンが俺を値踏みする。
「うん、いいでしょう。
挫折したとか、根腐れしたとか……
そういう状態には見えないわ。
やる気があるなら重畳よ。
その力、ホーリーナイトとして存分に発揮して。
期待してるわ」
「精一杯務めさせてもらいますよ」
「じゃあ、あとはサリーに任せるわね。
次は魔剣の選定よ。
まあ、あなたはわかってるでしょうけど」
その言葉を待ってたかのようにドアが開く。
さっきの受付嬢が俺を見た。
「ではこちらへ、ナインさん」
俺とルディアは廊下に出、受付嬢についていく。
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