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第四章 呪縛
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◆天崎真琴/――
わたしは夢を見ているらしい。
この七年間で何度となく見た――見させられた悪夢だ。
夕闇から夜闇へと移り変わる直前の、夜よりも深い闇の中。
その日はゴールデンウィーク翌週の日曜日で、わたしと美奈恵ともう一人――わたしの弟の拓真とが、当時住んでいた街の郊外にある市営の自然公園に遊びに来ていた。
遊び、というと語弊がある。
拓真にとってはそれはわたしとのデートであり、わたしにとっては美奈恵とのデートであり、美奈恵にとっては拓真とのデートだった。
それだけではない。わたしと美奈恵は結託していて、ふたりきりになったタイミングを見計らって、美奈恵が拓真を誘惑する算段になっていた。
拓真はその前の週――ゴールデンウィークの最終日に、両親が海外旅行で留守にしている隙をつく形で、わたしを襲おうとした。
それは幸い、未遂に終わった。
わたしは当時、剣道部の主将で、腕力に関しては生半可な男よりも強い自信があったし、拓真はわたしとは逆の内向的な、部屋の中で静かに過ごすことを好むタイプだった。腕力に関しては、性別の差以上に日頃の鍛錬の差がはっきりと出た格好だ。
しかしわたしはこんな行動に出た弟の心情が理解できなかったし、またしたくもなかった。
美奈恵と違い、わたしは当時からまじめで融通の利かない性格だった。放課後といえば剣道に打ち込み、それ以外のこと――色恋沙汰にはまったく縁がなかったのだ。
わたしは悩んだあげく、美奈恵に相談を持ちかけ、首尾よく協力を得ることに成功した。
わたしと美奈恵は知恵を絞って拓真を誘惑する計画を練り上げ、そしてその日、実行に移した。
が――その最終段階に至って、最悪の偶然が起きてしまった。
忌門が現れたのだ。
自然公園の展望台に突如出現した忌門は、周囲の人間の認識をとりこんで無難な世界修正を行うのでもなく、また遭遇したものの恐怖によって忌獣を生み出すのでもなく――拓真の、美奈恵の、そしてわたしの願望を読み取り、具象化してしまった。
拓真はわたしを自分のものにするための強い力を欲し、鬼と化した。
その鬼が、赤く染まった白目の中に浮く黄色い虹彩と、猫のように縦長の瞳孔を持つ妖しい瞳をわたしに向けた。
「さあ――姉さん。今日はいっぱい楽しもう?」
言って手を伸ばす拓真から、わたしはとっさに跳び退った。
剣道をやっていたからこそできた反応だったと思う。
わたしはそのままその場で振り返り、拓真から逃れるべく地を蹴ろうとした。
しかし、
「どこへ行くの? 姉さん」
わたしの正面にはいつのまにか拓真が回り込んでいた。
わたしは再び振り返り、今度は展望台の奥の方へ向かって駆け出す。
今度は拓真は追ってこなかった――が、
「鬼ごっこかい? それならぼくが鬼をやってあげるよ。ほら、今のぼくは文字通り鬼だし? アハハッ」
展望台の奥には逃げ場などないことをわかっている拓真は、わたしの恐怖を煽るようにことさらにゆっくりと近づいてくる。
わたしはまもなく逃げ場を失い、展望台の鉄柵に背中を押しつける姿勢で動きを止めた。
「つかまえた」
拓真が腕を伸ばしてくる。
その腕は皮膚が青黒く変色していて、節くれだった指の先には尖った爪がついている。
拓真がわたしの肩を掴むと、その爪が肩に食い込んだ。
わたしの着ているラガーシャツが肩口から朱に染まっていく。
しかし、痛みは感じなかった。恐怖で痛覚が麻痺していたのか、鮮明に記憶しているとはいえ、これが所詮夢だからなのかはわからない。
わたしは拓真を突き飛ばそうとしたが、拓真はびくともしない。
「さあ……姉さん」
拓真は爪の生えた手でわたしの顎を固定すると、牙のはみ出た唇をわたしの顔に近づけてくる。
唇が触れあう瞬間、わたしは拓真の唇を思い切り噛みちぎった。
「ぐぁ……っ」
拓真が唇を押さえて呻き、うずくまる。口元を押さえる指の隙間から鮮血が溢れ出す。
その隙に、わたしは拓真の脇を擦り抜け、逃げようとした。
「姉……さん」
拓真は片手で唇を押さえながら、もう片方の手でわたしの足首を握ってきた。
「どうして……わかってくれないんだッ!」
足首を引っ張られ、わたしはなすすべもなく転倒した。
転倒したわたしの上に、拓真が馬乗りになった。
拓真の両手がわたしの肩をがっちりと押さえつけている。
拓真の唇からはいまだ血が溢れてはいたが、その勢いは弱まり、噛みちぎられた部分は早くもケロイド状に固まりかけていた。
「離せッ! よくも、よくも美奈恵を――!」
暴れるわたしを苦もなく押さえながら、拓真は険しく顔をしかめる。
そして――
「うるさいよ! いつも美奈恵、美奈恵、美奈恵ってそればかり!」
拓真が両腕をめちゃくちゃに振り回した。
まるで、駄々をこねる赤ん坊のような思慮のない動きだが、今の拓真は鬼だ。拓真の拳が展望台の地面にぶつかれば、木製のデッキに穴が空き、振り回した肘が、展望台の丈夫な鉄柵をいともたやすくひしゃげさせる。
拓真の気が済むまでの間に、わたしの周囲は破壊の嵐によって完膚無きまでに蹂躙された。
「はあ、はあ……」
暴れ疲れた拓真がうなだれ、荒い息をつく。
「……なあ拓真、こんなこと、やめにしないか」
わたしはなるべく落ち着いて聞こえるよう、声を低くしてそう切り出した。
「……やめる?」
「ああ。おまえの気持ちはわかったよ。わたしはそれを受け入れるわけにはいかないが、おまえがそう思ってくれたことについては、理解しようと思うし、そんなに慕ってくれるのなら、感謝しなければならないのだろうな」
本心ではもちろんなかった。
美奈恵をひどい目に遭わせた拓真のことを、もう弟と見ることはできそうになかった。
だが、この窮地を早く脱し、美奈恵を病院に連れて行かなくてはならない。
美奈恵は、拓真によってひどい暴行を受けてはいるが、さっき見たときにはまだ息があった。
だとしたら、こんなことをしている場合ではない。
「……許して、くれるの?」
拓真は、鬼の顔のまま、頼りなげな口調で言った。
「もちろんだ。ふたりきりの姉弟じゃないか」
「姉さん……」
拓真はさきほどまでの暴れっぷりが嘘のようにしおらしくなっていた。
わたしは内心で安堵の息を漏らしつつ、
「さ、行こう。美奈恵を病院に連れて行かなくては。大丈夫、美奈恵もきっと許してくれる」
わたしのその言葉に、拓真の動きが止まった。
「やっぱり……美奈恵さんなんだね」
「……っ」
しまった、と思ったが、もうどうにもならなかった。
「美奈恵さんがいるかぎり、姉さんはぼくのものにはならないんだね」
「な……ち、ちがう! わたしはおまえのことを――」
「もういいよ!」
拓真がその場に立ち上がる。
「そんなに美奈恵さんのことが好きなら、もう、しょうがないよね?」
拓真は展望台の中程で倒れたままの美奈恵に視線を向けた。
「ぼくは美奈恵さんを殺すよ。可哀想にね、姉さんが好きになってしまったばかりに、何の罪もない美奈恵さんは死ななきゃいけなくなったんだ」
「やめろ!」
拓真は大股で歩いて美奈恵に近づいていく。
(なんで……なんでこんなことに――!?)
わたしは身体の痛みを堪えて立ち上がる。
拓真と美奈恵の向こう側に、例の光沢のある漆黒の円が見えた。
(あんな……あんなものがあるから――!)
忌門のことなど、当時はまったく知らなかったのに、そのときのわたしは、この事態の原因が不気味に輝くあの漆黒の円にあると思い込んだ。きっと、何か自分以外のもののせいにしないではいられないような気持ちだったのだろう。もちろん、結果としてその決めつけは正しかったのだが。
(消えろ……なくなれ……あの不気味な円も、拓真も、鬼も、みんな何ひとつ残らず――なくなってしまえ!)
そう願った瞬間――漆黒の円が瞬いたような気がした。
――ならば手にするがいい。すべての忌的存在を討ち滅ぼす無窮の力を。
男とも女とも、若いとも年寄りとも思えない奇妙な『声』が聞こえた。
忌門に遭遇したものがよく耳にするという幻聴――〈禍つ辞〉と呼ばれる現象だ。それは「誰か」の言葉ではなく、自分自身の無意識が発する言葉の「やまびこ」なのだと言われているが、本当のところは誰にもわからない。
わたしは瞬時にその言葉の意味を理解した。理解できた。あるいは――理解させられたのか?
ともあれわたしは拓真へ向けて飛びかかった。
わたしの手にはいつのまにかねじまがった鉄の棒が握られていた。先ほど拓真がへし折った鉄柵の一部だ。
「死ね――ッ!!」
驚き振り返る拓真の胸に、わたしはその鉄柵を突き立てた。
鉄柵はまるで溶けかけの蝋にでも刺したかのように拓真の胸にあっさりと埋(うず)まった。
後に〈絶対遮断〉と名付けられる忌能の最初の発現だった。
わたしと拓真はその勢いのまま、地面に転がる。
「死ね、死ね、死ね、死ね……!」
わたしは鉄柵を引き抜いては刺し、刺しては引き抜き、拓真の身体をめった刺しにする。
鉄柵を刺すたびに拓真は身体を痙攣させ、口から血を吹き零す。
わたしがその行為をやめたのは、いつのまにか日が落ち、あたりが完全に暗くなってからのことだった。
わたしは夢を見ているらしい。
この七年間で何度となく見た――見させられた悪夢だ。
夕闇から夜闇へと移り変わる直前の、夜よりも深い闇の中。
その日はゴールデンウィーク翌週の日曜日で、わたしと美奈恵ともう一人――わたしの弟の拓真とが、当時住んでいた街の郊外にある市営の自然公園に遊びに来ていた。
遊び、というと語弊がある。
拓真にとってはそれはわたしとのデートであり、わたしにとっては美奈恵とのデートであり、美奈恵にとっては拓真とのデートだった。
それだけではない。わたしと美奈恵は結託していて、ふたりきりになったタイミングを見計らって、美奈恵が拓真を誘惑する算段になっていた。
拓真はその前の週――ゴールデンウィークの最終日に、両親が海外旅行で留守にしている隙をつく形で、わたしを襲おうとした。
それは幸い、未遂に終わった。
わたしは当時、剣道部の主将で、腕力に関しては生半可な男よりも強い自信があったし、拓真はわたしとは逆の内向的な、部屋の中で静かに過ごすことを好むタイプだった。腕力に関しては、性別の差以上に日頃の鍛錬の差がはっきりと出た格好だ。
しかしわたしはこんな行動に出た弟の心情が理解できなかったし、またしたくもなかった。
美奈恵と違い、わたしは当時からまじめで融通の利かない性格だった。放課後といえば剣道に打ち込み、それ以外のこと――色恋沙汰にはまったく縁がなかったのだ。
わたしは悩んだあげく、美奈恵に相談を持ちかけ、首尾よく協力を得ることに成功した。
わたしと美奈恵は知恵を絞って拓真を誘惑する計画を練り上げ、そしてその日、実行に移した。
が――その最終段階に至って、最悪の偶然が起きてしまった。
忌門が現れたのだ。
自然公園の展望台に突如出現した忌門は、周囲の人間の認識をとりこんで無難な世界修正を行うのでもなく、また遭遇したものの恐怖によって忌獣を生み出すのでもなく――拓真の、美奈恵の、そしてわたしの願望を読み取り、具象化してしまった。
拓真はわたしを自分のものにするための強い力を欲し、鬼と化した。
その鬼が、赤く染まった白目の中に浮く黄色い虹彩と、猫のように縦長の瞳孔を持つ妖しい瞳をわたしに向けた。
「さあ――姉さん。今日はいっぱい楽しもう?」
言って手を伸ばす拓真から、わたしはとっさに跳び退った。
剣道をやっていたからこそできた反応だったと思う。
わたしはそのままその場で振り返り、拓真から逃れるべく地を蹴ろうとした。
しかし、
「どこへ行くの? 姉さん」
わたしの正面にはいつのまにか拓真が回り込んでいた。
わたしは再び振り返り、今度は展望台の奥の方へ向かって駆け出す。
今度は拓真は追ってこなかった――が、
「鬼ごっこかい? それならぼくが鬼をやってあげるよ。ほら、今のぼくは文字通り鬼だし? アハハッ」
展望台の奥には逃げ場などないことをわかっている拓真は、わたしの恐怖を煽るようにことさらにゆっくりと近づいてくる。
わたしはまもなく逃げ場を失い、展望台の鉄柵に背中を押しつける姿勢で動きを止めた。
「つかまえた」
拓真が腕を伸ばしてくる。
その腕は皮膚が青黒く変色していて、節くれだった指の先には尖った爪がついている。
拓真がわたしの肩を掴むと、その爪が肩に食い込んだ。
わたしの着ているラガーシャツが肩口から朱に染まっていく。
しかし、痛みは感じなかった。恐怖で痛覚が麻痺していたのか、鮮明に記憶しているとはいえ、これが所詮夢だからなのかはわからない。
わたしは拓真を突き飛ばそうとしたが、拓真はびくともしない。
「さあ……姉さん」
拓真は爪の生えた手でわたしの顎を固定すると、牙のはみ出た唇をわたしの顔に近づけてくる。
唇が触れあう瞬間、わたしは拓真の唇を思い切り噛みちぎった。
「ぐぁ……っ」
拓真が唇を押さえて呻き、うずくまる。口元を押さえる指の隙間から鮮血が溢れ出す。
その隙に、わたしは拓真の脇を擦り抜け、逃げようとした。
「姉……さん」
拓真は片手で唇を押さえながら、もう片方の手でわたしの足首を握ってきた。
「どうして……わかってくれないんだッ!」
足首を引っ張られ、わたしはなすすべもなく転倒した。
転倒したわたしの上に、拓真が馬乗りになった。
拓真の両手がわたしの肩をがっちりと押さえつけている。
拓真の唇からはいまだ血が溢れてはいたが、その勢いは弱まり、噛みちぎられた部分は早くもケロイド状に固まりかけていた。
「離せッ! よくも、よくも美奈恵を――!」
暴れるわたしを苦もなく押さえながら、拓真は険しく顔をしかめる。
そして――
「うるさいよ! いつも美奈恵、美奈恵、美奈恵ってそればかり!」
拓真が両腕をめちゃくちゃに振り回した。
まるで、駄々をこねる赤ん坊のような思慮のない動きだが、今の拓真は鬼だ。拓真の拳が展望台の地面にぶつかれば、木製のデッキに穴が空き、振り回した肘が、展望台の丈夫な鉄柵をいともたやすくひしゃげさせる。
拓真の気が済むまでの間に、わたしの周囲は破壊の嵐によって完膚無きまでに蹂躙された。
「はあ、はあ……」
暴れ疲れた拓真がうなだれ、荒い息をつく。
「……なあ拓真、こんなこと、やめにしないか」
わたしはなるべく落ち着いて聞こえるよう、声を低くしてそう切り出した。
「……やめる?」
「ああ。おまえの気持ちはわかったよ。わたしはそれを受け入れるわけにはいかないが、おまえがそう思ってくれたことについては、理解しようと思うし、そんなに慕ってくれるのなら、感謝しなければならないのだろうな」
本心ではもちろんなかった。
美奈恵をひどい目に遭わせた拓真のことを、もう弟と見ることはできそうになかった。
だが、この窮地を早く脱し、美奈恵を病院に連れて行かなくてはならない。
美奈恵は、拓真によってひどい暴行を受けてはいるが、さっき見たときにはまだ息があった。
だとしたら、こんなことをしている場合ではない。
「……許して、くれるの?」
拓真は、鬼の顔のまま、頼りなげな口調で言った。
「もちろんだ。ふたりきりの姉弟じゃないか」
「姉さん……」
拓真はさきほどまでの暴れっぷりが嘘のようにしおらしくなっていた。
わたしは内心で安堵の息を漏らしつつ、
「さ、行こう。美奈恵を病院に連れて行かなくては。大丈夫、美奈恵もきっと許してくれる」
わたしのその言葉に、拓真の動きが止まった。
「やっぱり……美奈恵さんなんだね」
「……っ」
しまった、と思ったが、もうどうにもならなかった。
「美奈恵さんがいるかぎり、姉さんはぼくのものにはならないんだね」
「な……ち、ちがう! わたしはおまえのことを――」
「もういいよ!」
拓真がその場に立ち上がる。
「そんなに美奈恵さんのことが好きなら、もう、しょうがないよね?」
拓真は展望台の中程で倒れたままの美奈恵に視線を向けた。
「ぼくは美奈恵さんを殺すよ。可哀想にね、姉さんが好きになってしまったばかりに、何の罪もない美奈恵さんは死ななきゃいけなくなったんだ」
「やめろ!」
拓真は大股で歩いて美奈恵に近づいていく。
(なんで……なんでこんなことに――!?)
わたしは身体の痛みを堪えて立ち上がる。
拓真と美奈恵の向こう側に、例の光沢のある漆黒の円が見えた。
(あんな……あんなものがあるから――!)
忌門のことなど、当時はまったく知らなかったのに、そのときのわたしは、この事態の原因が不気味に輝くあの漆黒の円にあると思い込んだ。きっと、何か自分以外のもののせいにしないではいられないような気持ちだったのだろう。もちろん、結果としてその決めつけは正しかったのだが。
(消えろ……なくなれ……あの不気味な円も、拓真も、鬼も、みんな何ひとつ残らず――なくなってしまえ!)
そう願った瞬間――漆黒の円が瞬いたような気がした。
――ならば手にするがいい。すべての忌的存在を討ち滅ぼす無窮の力を。
男とも女とも、若いとも年寄りとも思えない奇妙な『声』が聞こえた。
忌門に遭遇したものがよく耳にするという幻聴――〈禍つ辞〉と呼ばれる現象だ。それは「誰か」の言葉ではなく、自分自身の無意識が発する言葉の「やまびこ」なのだと言われているが、本当のところは誰にもわからない。
わたしは瞬時にその言葉の意味を理解した。理解できた。あるいは――理解させられたのか?
ともあれわたしは拓真へ向けて飛びかかった。
わたしの手にはいつのまにかねじまがった鉄の棒が握られていた。先ほど拓真がへし折った鉄柵の一部だ。
「死ね――ッ!!」
驚き振り返る拓真の胸に、わたしはその鉄柵を突き立てた。
鉄柵はまるで溶けかけの蝋にでも刺したかのように拓真の胸にあっさりと埋(うず)まった。
後に〈絶対遮断〉と名付けられる忌能の最初の発現だった。
わたしと拓真はその勢いのまま、地面に転がる。
「死ね、死ね、死ね、死ね……!」
わたしは鉄柵を引き抜いては刺し、刺しては引き抜き、拓真の身体をめった刺しにする。
鉄柵を刺すたびに拓真は身体を痙攣させ、口から血を吹き零す。
わたしがその行為をやめたのは、いつのまにか日が落ち、あたりが完全に暗くなってからのことだった。
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