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第二章 失うことなしには
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◆天崎真琴/城ヶ崎市、イヴィル・バスターズ〈M2〉事務所一階応接室
久瀬倉家の別邸を脱出したわたしと美奈恵は、保護した少年を連れて事務所へと戻ってきた。
事務所は郊外の一軒家を改築したもので、一階が事務所、二階が居住スペースになっている。
事務所と言っても、この場所を部外者に知られたくはないので、ごく信頼の置けるものしか出入りできないよう、美奈恵の〈魔法〉によって人払いの結界を敷地の外縁に張り巡らせている。
わたしの忌能――〈絶対遮断〉のせいで結界の傷みが早いため、美奈恵には月に二、三度結界を張り直してもらわなければならないのだが、油断すると美奈恵は結界の管理をサボろうとする。その度に事務所の経費で美奈恵に新しい服やバッグやアクセサリーを買って機嫌を取ってやらなくてはならず、事務所の経営面を預かるわたしとしては頭が痛いところだ。
が、それだけのコストを払ってでも、この事務所を維持する意味はあった。
ひとつにはやはり、忌累機関公認の忌累衛視として活動する上で拠点が必要だということ。
しかし、ふつうの忌能者は他人にわかりやすい拠点を持つことを避けたがる。
忌能者は、必ずしも人知れず魔と戦う正義の味方、というわけではない。アンダーグラウンドに巣くう未登録の忌能者たちのなかには、その力を犯罪に利用するものも存在する。
彼ら未登録忌能者の多くは、〈諱忌ネットワーク〉と呼ばれる独自の互助・連絡網の影響下にあると言われ、その実態は忌累機関でも十分に把握できていない。
忌累機関に登録された忌能者、あるいは忌能を使って機関からの仕事を請け負う忌累衛視と呼ばれる民間業者たちも、その活動のさなかに彼ら諱忌ネットワークの住人たちとことを構えざるをえなくなる場合がある。そんなときにわかりやすい拠点があれば、真っ先に彼らの攻撃の対象となってしまう。
それにどう対処するかは、本人の忌能にもよるが、直接的な戦闘を苦手とする特殊系忌能の所有者の場合、忌累機関の庇護を受けるか、他の忌能者と組むか、いっそのこと身を隠すかを選ぶしかない。いや、たとえ戦闘向きの忌能を持ち合わせていたとしても、昼夜問わず襲ってくる相手を退け続けることなど不可能であるから、遅かれ早かれ同様の問題に直面することになる。
しかし、いずれの道を選ぶにせよ、蓄積できる資材の総量が著しく限られてしまう点では同じだ。忌能者としてという以前に、独立して事業を営む事業主として、資材を蓄積し、情報を集積し、人員を集合させる拠点が確保できないことは致命的な問題である。そしてもちろん忌能者としても、いざという時の兵站や情報収集能力やバックアップの人員を確保できないことは、実際の紛争場面において時に命に関わるほどの弱点となる。
このイヴィル・バスターズ〈M2〉事務所には、今のところバックアップ要員こそ置いていないが、わたしの用いる銃器や弾薬、各種装備、非常用の食料などの備蓄は豊富にあるし、これまでに関わった事件や依頼の顛末を記したレポート、忌門や忌獣に関する未公刊の資料、友好関係にある忌能者のリスト、諱忌ネットワークにまつわる情報を整理したファイルなど、衛視としての仕事を進める上で欠かせない情報も集積されている。もちろんそんな作業を美奈恵がやるわけもないので、わたしが暇を見て整理しているのだ。
しかし、そういうことの全ては、事務所を構える上での建前に近いもので、わたしが事務所の維持に心血を注ぐ理由は、なにより、美奈恵と共同生活を送るための場所を確保したいからだ。
二階の居住スペースにはわたしの私室と書斎、キッチン、バスルームの他に、美奈恵用の私室も用意してある。美奈恵の私室からは、部屋をまるごとひとつ改装した大きなウォークインクローゼットに入ることもできる。家具、調度ともに美奈恵の好みそうな少女趣味のもので統一し、天蓋付きの大きなセミダブルベッドまで用意した。
それもこれも、美奈恵と一緒に暮らしたいと思えばこそだが、むろんそれをあからさまに見せては引かれてしまう。だから、衛視として活動していく上で拠点が必要だと美奈恵を説き伏せ、事務所としての体裁を整えたのである。これでついに美奈恵と同棲できる――わたしはそう意気込んだのだが、
「あたし、近くにマンションあるから」
美奈恵はそう言って事務所の私室には居着いてくれない。クローゼットは使ってくれているが、私室で休むのは仕事で疲れているときくらいのもので、ふだんは昔の男に買ってもらったとかいう高級マンションの一室に住み、事務所には日中だけの通いだ。
それでも――いつか。美奈恵のことだから「マンションから歩いてくるのが面倒」なんて言い出して、ふいにこの事務所に棲みつくようになるかもしれない。わたしは夜中、膨大な情報のファイリングを行いながら、そんな想像をして寂しさを慰めている。
自分の惨めさはよくわかっているが、それでもわたしは美奈恵を――
「真琴ぉ?」
美奈恵がめずらしくお茶を出しながら声をかけてくる。
「な、何だ?」
「どしたの? 疲れた?」
「いや、あれくらいで疲れるような鍛え方はしてないさ。美奈恵の方が辛いんじゃないのか?」
「ま、ね。ほら、そろそろアレを補給しないといけない感じだから」
「……そうだったな」
その話題になると暗澹とした気分にならざるをえない。
美奈恵が他の男といるのを見るだけでも辛いのに、まして――
「もう。七年前のことは真琴のせいじゃないって言ってるでしょ? それに、あたしはこの状況をけっこう楽しんでるんだから」
「ああ……わかってるさ」
わたしたちは今、事務所一階に設けた応接室にいる。
先に述べたとおり、この事務所を訪れるものは限られているため、応接室の使用頻度はあまり高くない。このあいだなどは二人して酔っ払って帰ってきてここのソファに寝転がっていたし、ここに酒を持ち込んでささやかな飲み会を開くこともある。
その応接室のソファに、わたしと美奈恵が座り、わたしたちに向かい合う形で少年――三峯瞬が座っている。
忌儡にやられた傷に応急処置を施し、事情を聞いているところだ。
応急処置はいつもはわたしの担当なのだが、今日に限って美奈恵が買って出て、いやにかいがいしく瞬の世話を焼いていた。お眼鏡にかなったのだろう。
事実、こうして見る瞬はたしかに美少年だった。やや色素の薄い髪と肌は祖母が西洋人だからだそうで、くりくりと丸い目や、やわらかくふくらんだ薄紅色の頬は、「紅顔の美少年」という使い古された言葉を想起させる。
が、そんなかわいらしい外見とは裏腹に、芯には強いものを持った少年でもあるようだ。
クラスメイトの久瀬倉春姫とひょんなことから仲良くなった瞬は、春姫の様子がおかしいことに気がついた。心身ともに日々弱っていく感じがしたという。だが本人に聞いてもはかばかしい答えは得られず、瞬は街中で見かけた春姫を尾行、忌獣に食われる姿を目撃してしまう。
「よく逃げなかったな」
忌累機関公認の衛視として忌獣や諱忌ネットワークの忌能者と戦ってきたわたしたちでも、年若い少女が生きながらにして忌獣に食われるなどというショッキングな場面に遭遇したことはさすがにない。
「……できれば、助けたかったです。でも、とてもそんなことができる状況じゃなかった」
好意を抱いていた少女が食われる様をただ見ていることしかできなかった瞬の心情は、わたしにはよく理解できるものだった。
七年前、わたしが遭遇した事態もまた、わたしに底知れない無力感を味あわせるものだった。目の前で想いを寄せる相手が蹂躙されようとしているのに、自分には何もできることがない――その無力感こそ、わたしの忌能の原型となったものでもある。
が、目の前にいる少年の物語には続きがあった。
「久瀬倉さんが化け物に食われて、もう何もかもお終いだと思いました。でもその瞬間、化け物がもがきだしたかと思うと、その背中を割って久瀬倉さんが這い出してきたんです」
久瀬倉家の母系に伝わるという贄姫の能力については賽野からの情報で知ってはいた。が、こうして目撃者の証言を聞くと、その異様さが実感できる。
そもそも、それは「能力」と呼んでいい代物なのか?
能力者・贄姫は主観的な地獄を味わうのと引き替えに、どんなに強力な忌獣であっても、ただ食われるだけでノーマライズすることができる。なるほど、それはたしかに強力な能力ではあるが、一般に忌能がその行使にあたって代価を必要としないことを考えると、能力者に力を与える代わりに限りない苦しみを味あわせたいという一種の悪意をその背景に想定したくなってくる。
賽野によれば、贄姫の「能力」は忌能ではないのだという。たしかに、そもそも忌能は忌門に遭遇したものが獲得する一代限りの能力なのだから、贄姫の能力が母系を伝わる遺伝によるものである以上、それは忌能とは別のものであるはずだ。
「ぼくは久瀬倉さんを自分のマンションに保護しました。贄姫とか忌門とかにまつわる話は、そのときに聞きました。でも、いちばん肝心なところは教えてくれてなかった」
それはしかたがないことだろう。瞬の話からも察せられるように、久瀬倉春姫がこの少年に少なからず好意を抱いていることはまちがいない。そんな相手に打ち明けるにはあまりに重すぎる話だ。
「忌門は、人の隠された願望を暴く魔鏡――そう言われるだけに、忌門が映し出す『真実』は人の性的な願望と無縁ではいられない。〈万代〉の内容は驚くべきものではあるが、理解不能というほどではない」
「……ですか」
〈万代〉の内容については依頼主からも情報を得ている。久瀬倉家の執事らしいあの銀髪――瞬によれば諸正という名らしい――の漏らした言葉もあり、そのおぞましい内容についてはほぼ事実だと思って間違いないだろう。
「それで、春姫ちゃんが好きすぎて、心配になって、いてもたってもいられなくなって、久瀬倉家の別邸にひとりで乗り込んだ――ってわけかぁ。瞬君、かっこいい~♪」
美奈恵は頬を上気させ、手を組んで、夢見るような目を瞬に向けている。
「かっこいいといえばかっこいいのかもしれないが、無謀すぎる。わたしたちがいなければ君は殺されていたんだ」
「……はい。助けていただき、本当に感謝しています」
「うんうん。でもね、あたしはそれでいいと思うな~。瞬君くらいの歳の子は、それくらい無鉄砲じゃないと。それでうんと傷つくことで、本当の恋がはじまるんだぁ。腕の中で泣かせてくれる女の子を求めて、男の子は果てのない旅に出ることになるんだよぉ」
「……は、はぁ」
「気にするな。美奈恵の恋愛観はどこかおかしいんだ」
返答に困る瞬にそう告げる。
「とまれ、話をしてくれて助かった。今日はここに泊めてやるから、ゆっくり休むといい」
「だね~。あたしらはちょっとバタバタするかもしれないけど、気にせず休んでいいから」
わたしと美奈恵はそう言って席を立とうとした。
そこに、
「待ってください!」
瞬が勢いよく立ち上がる。
その瞳には決然たる光があった。
「力を貸――」
「ダメだ」
みなまで言わせず却下した。
瞬は言葉を失い、口をぱくぱくさせている。
「おまえをあの場で見殺しにしなかっただけでも感謝してほしいくらいだ。わたしたちはおまえのために大きなリスクを犯した。なんの見返りもないばかりか、むしろわたしたちの側の危険を一方的に増やすばかりの行動だった。自らの願望に忠実な忌能者の行動としては、非常に例外的なものだと思ってくれていい」
「そのことについては、感謝しています」
「だったら、それ以上のことは望むな。例外はあくまで例外だ。行きがかり上、今すぐに追い出すようなことはしないが、明日になったら出て行くんだ。久瀬倉家を敵に回した以上、この事務所だって絶対に安全とは言い切れない」
「どうして……そんなことを言うんです? それだけの犠牲を覚悟してまでぼくを助けてくれた真琴さんの言うこととは思えません」
「わたしは大人だ。自分の生きていく道を自分で切り開かなければならない。自分の命は自分で守るしかない。善意からの行動が破滅に直結することだってあるんだ。わたしがおまえを助けたところで、得られるものはおまえの感謝だけだ。わたしは自分自身と美奈恵の命とを、そんな安い対価のために危険にさらすわけにはいかない。……それとも、おまえにはなにかあるのか? わたしたちが危険を冒すに足りる対価が」
「対価なんて――そんな……」
「ないだろう。わたしはおまえの保護者ではないんだ。おまえのわがままを聞いてやる義理はない」
わたしは別に、瞬から金品が得たくてそんなことを言っているわけではなかった。この少年には諦めてもらわなければならない。単純に本人が危険な目に遭うから、というだけではなく、危険な目に遭う瞬を結局は看過できず、助けようとして不必要なリスクを冒してしまう自分が目に浮かぶからだ。そして、極限状態におけるそうした甘さは、わたしや美奈恵の生命の危機という形で跳ね返ってくる。
美奈恵やわたし自身の命と出会ったばかりの少年の命のどちらを取るか――理屈の上では明らかだが、土壇場でそのような厳しい判断を迷わず下せる自信はわたしにはない。事前に摘める葛藤の芽は事前に摘んでおくべきだった。
そのためには、目の前の善良な少年に深刻な挫折を味あわせることになったとしてもしかたがない。目の前の少年のまなざしがどれだけ真剣であろうとも――いや、真剣だからこそ、わたしは情にほだされるわけにはいかないのだ。
瞬はいくども口を開こうとしては閉じることをくりかえし、そのたびにわたしの目をにらみ、あるいは探るように見つめてくる。
が、変わらないわたしの表情に、瞬なりに諦めがついたのだろう。首をがくりとうなだれ、爪がくいこむほど強く拳を握りしめる。
わたしは瞬の様子を痛ましい思いで見守りながらも、内心で安堵のため息をついていた。
――が、
「あら、あるじゃない。瞬君にも支払える対価が」
美奈恵の言葉に、瞬が勢いよく顔を上げた。
「おい、美奈恵! おまえまさか――」
「ぼくにも支払える対価――っ? それは何ですか!? 教えてください、美奈恵さん!」
瞬が美奈恵に取りすがり、懇願する。
美奈恵はすがりつく瞬を見下ろしながら、厳かに告げた。
「それは、瞬君にとって、とても大切なものなの。だからこそ、あたしにとっては最高の対価となりうるものなんだけど――」
「ぼくの――大切なもの? 構いません! 久瀬倉さんを救えるなら、ぼくはなんだって差し出します!」
「うふふ。言っちゃったね? ほんとにいいの? 何を要求されても構わないんだね?」
唇をむずむずとうごめかしながら追い込みをかけていく美奈恵は、傍目には途方もなく不気味な妖女なのだが、絶望の中に一縷の光を見いだした――見いだしてしまった瞬は、そのことにまったく気づいていない。
「美奈――」
「構いません!」
「……あたしのこと、軽蔑しない?」
「しませんよ! 久瀬倉さんを助けてくれるんでしょう?」
「うんうん。助けるよ~。お姉さん張り切って助けちゃう!」
「おい、美奈恵、勝手に――」
「……真琴は黙っててくれるかな? ほら、これはあたしが瞬君から個人的に受ける依頼なわけだし」
「そんなわけに行くか! わたしたちはパートナーなんだぞ!?」
「真琴がどうしてもイヤだっていうなら、来なくてもいいよ?」
「なっ――!」
「あたしがひとりで依頼を遂行しちゃうから。真琴はお留守番だね♪」
「お留守番だね♪ じゃないだろう! おまえ一人にそんな危険なことをさせられるわけが――」
「だったら、ついてきてもいいよ♪ ま、真琴がついてこなくても、あたしは勝手にさせてもらうだけだけどね?」
「ぐうぅぅぅっ!」
ダメだ。こうなった美奈恵には絶対に勝てない。
美奈恵はわたしが美奈恵を見放すはずがないことを十分承知した上で脅しをかけてきているのだ。わたしに美奈恵を見放すことができない以上、わたしは美奈恵についていくしかない。
瞬は、わたしと美奈恵の対決が美奈恵の勝利に終わったのを見て取ると、ついにその致命的な質問を口にしてしまった。
「そ、それで――ぼくは何を差し出せばいいんですか!? ぼくに用意できる対価って、いったい何なんですかっ!?」
美奈恵がその笑みを深くした。
その笑みはほとんど邪悪とすらいえるもので、うかつな相手をつかまえて特別な細則をつけた契約書にサインをさせた悪徳商人のそれに近い。ほくそ笑む――そんな言葉が脳裏をよぎった。
「うふふ~。それはね……瞬君のぉ、カ・ラ・ダ♪」
「えっ……?」
思考が停止したらしい瞬をながめつつ、わたしは長いため息をついた。
「あ、ああ……! 働いて返せってことですか。いいですよ、いくらでも働きます! それで久瀬倉さんが助かるなら――」
「ノンノン。そうじゃなくてぇ……あたしはぁ、瞬君のぉ、童貞がほしいって言ってるの♪」
たっぷり十秒以上は間があったと思う。
「――え。ええええええええええええっ!!」
「うふふ~。もうキャンセルは受け付けないよぉ~。瞬君のカラダはもう、あたしのモ・ノ♪」
愕然とする瞬。ほくそ笑む美奈恵。
わたしは天を仰いだ。
「真琴も、文句ないよね? どっちにしても、そろそろ――」
「くっ……。まあ、瞬なら他の男よりはましか……」
「ひどいなあ。あたしなりにちゃんと相手は選んでるんだよ?」
「わかってる。が、この事務所では勘弁してくれ」
「も~。しょうがないなぁ。じゃ、瞬君は借りてくね」
「ああ、もう……。勝手にしろ!」
「じゃ、瞬君。お姉さんと一緒にイこうね? じゃなかった、行こうね♪」
美奈恵は茫然としている瞬の手を取り、事務所の出口へと引っ張っていく。
〈魔法〉を使っているのだろう、瞬は足を動かしていないにもかかわらず、氷の上を滑るようななめらかさで美奈恵に引きずられていく。
美奈恵が後ろ手に扉を閉める直前、瞬は意識を取り戻したらしい。
「ま、真琴さん――助け……ッ!」
バタン。
瞬の言葉の途中で扉が閉まった。
「……許せ、瞬」
わたしはつぶやき、おぼつかない足取りで書斎へと向かった。
久瀬倉家の別邸を脱出したわたしと美奈恵は、保護した少年を連れて事務所へと戻ってきた。
事務所は郊外の一軒家を改築したもので、一階が事務所、二階が居住スペースになっている。
事務所と言っても、この場所を部外者に知られたくはないので、ごく信頼の置けるものしか出入りできないよう、美奈恵の〈魔法〉によって人払いの結界を敷地の外縁に張り巡らせている。
わたしの忌能――〈絶対遮断〉のせいで結界の傷みが早いため、美奈恵には月に二、三度結界を張り直してもらわなければならないのだが、油断すると美奈恵は結界の管理をサボろうとする。その度に事務所の経費で美奈恵に新しい服やバッグやアクセサリーを買って機嫌を取ってやらなくてはならず、事務所の経営面を預かるわたしとしては頭が痛いところだ。
が、それだけのコストを払ってでも、この事務所を維持する意味はあった。
ひとつにはやはり、忌累機関公認の忌累衛視として活動する上で拠点が必要だということ。
しかし、ふつうの忌能者は他人にわかりやすい拠点を持つことを避けたがる。
忌能者は、必ずしも人知れず魔と戦う正義の味方、というわけではない。アンダーグラウンドに巣くう未登録の忌能者たちのなかには、その力を犯罪に利用するものも存在する。
彼ら未登録忌能者の多くは、〈諱忌ネットワーク〉と呼ばれる独自の互助・連絡網の影響下にあると言われ、その実態は忌累機関でも十分に把握できていない。
忌累機関に登録された忌能者、あるいは忌能を使って機関からの仕事を請け負う忌累衛視と呼ばれる民間業者たちも、その活動のさなかに彼ら諱忌ネットワークの住人たちとことを構えざるをえなくなる場合がある。そんなときにわかりやすい拠点があれば、真っ先に彼らの攻撃の対象となってしまう。
それにどう対処するかは、本人の忌能にもよるが、直接的な戦闘を苦手とする特殊系忌能の所有者の場合、忌累機関の庇護を受けるか、他の忌能者と組むか、いっそのこと身を隠すかを選ぶしかない。いや、たとえ戦闘向きの忌能を持ち合わせていたとしても、昼夜問わず襲ってくる相手を退け続けることなど不可能であるから、遅かれ早かれ同様の問題に直面することになる。
しかし、いずれの道を選ぶにせよ、蓄積できる資材の総量が著しく限られてしまう点では同じだ。忌能者としてという以前に、独立して事業を営む事業主として、資材を蓄積し、情報を集積し、人員を集合させる拠点が確保できないことは致命的な問題である。そしてもちろん忌能者としても、いざという時の兵站や情報収集能力やバックアップの人員を確保できないことは、実際の紛争場面において時に命に関わるほどの弱点となる。
このイヴィル・バスターズ〈M2〉事務所には、今のところバックアップ要員こそ置いていないが、わたしの用いる銃器や弾薬、各種装備、非常用の食料などの備蓄は豊富にあるし、これまでに関わった事件や依頼の顛末を記したレポート、忌門や忌獣に関する未公刊の資料、友好関係にある忌能者のリスト、諱忌ネットワークにまつわる情報を整理したファイルなど、衛視としての仕事を進める上で欠かせない情報も集積されている。もちろんそんな作業を美奈恵がやるわけもないので、わたしが暇を見て整理しているのだ。
しかし、そういうことの全ては、事務所を構える上での建前に近いもので、わたしが事務所の維持に心血を注ぐ理由は、なにより、美奈恵と共同生活を送るための場所を確保したいからだ。
二階の居住スペースにはわたしの私室と書斎、キッチン、バスルームの他に、美奈恵用の私室も用意してある。美奈恵の私室からは、部屋をまるごとひとつ改装した大きなウォークインクローゼットに入ることもできる。家具、調度ともに美奈恵の好みそうな少女趣味のもので統一し、天蓋付きの大きなセミダブルベッドまで用意した。
それもこれも、美奈恵と一緒に暮らしたいと思えばこそだが、むろんそれをあからさまに見せては引かれてしまう。だから、衛視として活動していく上で拠点が必要だと美奈恵を説き伏せ、事務所としての体裁を整えたのである。これでついに美奈恵と同棲できる――わたしはそう意気込んだのだが、
「あたし、近くにマンションあるから」
美奈恵はそう言って事務所の私室には居着いてくれない。クローゼットは使ってくれているが、私室で休むのは仕事で疲れているときくらいのもので、ふだんは昔の男に買ってもらったとかいう高級マンションの一室に住み、事務所には日中だけの通いだ。
それでも――いつか。美奈恵のことだから「マンションから歩いてくるのが面倒」なんて言い出して、ふいにこの事務所に棲みつくようになるかもしれない。わたしは夜中、膨大な情報のファイリングを行いながら、そんな想像をして寂しさを慰めている。
自分の惨めさはよくわかっているが、それでもわたしは美奈恵を――
「真琴ぉ?」
美奈恵がめずらしくお茶を出しながら声をかけてくる。
「な、何だ?」
「どしたの? 疲れた?」
「いや、あれくらいで疲れるような鍛え方はしてないさ。美奈恵の方が辛いんじゃないのか?」
「ま、ね。ほら、そろそろアレを補給しないといけない感じだから」
「……そうだったな」
その話題になると暗澹とした気分にならざるをえない。
美奈恵が他の男といるのを見るだけでも辛いのに、まして――
「もう。七年前のことは真琴のせいじゃないって言ってるでしょ? それに、あたしはこの状況をけっこう楽しんでるんだから」
「ああ……わかってるさ」
わたしたちは今、事務所一階に設けた応接室にいる。
先に述べたとおり、この事務所を訪れるものは限られているため、応接室の使用頻度はあまり高くない。このあいだなどは二人して酔っ払って帰ってきてここのソファに寝転がっていたし、ここに酒を持ち込んでささやかな飲み会を開くこともある。
その応接室のソファに、わたしと美奈恵が座り、わたしたちに向かい合う形で少年――三峯瞬が座っている。
忌儡にやられた傷に応急処置を施し、事情を聞いているところだ。
応急処置はいつもはわたしの担当なのだが、今日に限って美奈恵が買って出て、いやにかいがいしく瞬の世話を焼いていた。お眼鏡にかなったのだろう。
事実、こうして見る瞬はたしかに美少年だった。やや色素の薄い髪と肌は祖母が西洋人だからだそうで、くりくりと丸い目や、やわらかくふくらんだ薄紅色の頬は、「紅顔の美少年」という使い古された言葉を想起させる。
が、そんなかわいらしい外見とは裏腹に、芯には強いものを持った少年でもあるようだ。
クラスメイトの久瀬倉春姫とひょんなことから仲良くなった瞬は、春姫の様子がおかしいことに気がついた。心身ともに日々弱っていく感じがしたという。だが本人に聞いてもはかばかしい答えは得られず、瞬は街中で見かけた春姫を尾行、忌獣に食われる姿を目撃してしまう。
「よく逃げなかったな」
忌累機関公認の衛視として忌獣や諱忌ネットワークの忌能者と戦ってきたわたしたちでも、年若い少女が生きながらにして忌獣に食われるなどというショッキングな場面に遭遇したことはさすがにない。
「……できれば、助けたかったです。でも、とてもそんなことができる状況じゃなかった」
好意を抱いていた少女が食われる様をただ見ていることしかできなかった瞬の心情は、わたしにはよく理解できるものだった。
七年前、わたしが遭遇した事態もまた、わたしに底知れない無力感を味あわせるものだった。目の前で想いを寄せる相手が蹂躙されようとしているのに、自分には何もできることがない――その無力感こそ、わたしの忌能の原型となったものでもある。
が、目の前にいる少年の物語には続きがあった。
「久瀬倉さんが化け物に食われて、もう何もかもお終いだと思いました。でもその瞬間、化け物がもがきだしたかと思うと、その背中を割って久瀬倉さんが這い出してきたんです」
久瀬倉家の母系に伝わるという贄姫の能力については賽野からの情報で知ってはいた。が、こうして目撃者の証言を聞くと、その異様さが実感できる。
そもそも、それは「能力」と呼んでいい代物なのか?
能力者・贄姫は主観的な地獄を味わうのと引き替えに、どんなに強力な忌獣であっても、ただ食われるだけでノーマライズすることができる。なるほど、それはたしかに強力な能力ではあるが、一般に忌能がその行使にあたって代価を必要としないことを考えると、能力者に力を与える代わりに限りない苦しみを味あわせたいという一種の悪意をその背景に想定したくなってくる。
賽野によれば、贄姫の「能力」は忌能ではないのだという。たしかに、そもそも忌能は忌門に遭遇したものが獲得する一代限りの能力なのだから、贄姫の能力が母系を伝わる遺伝によるものである以上、それは忌能とは別のものであるはずだ。
「ぼくは久瀬倉さんを自分のマンションに保護しました。贄姫とか忌門とかにまつわる話は、そのときに聞きました。でも、いちばん肝心なところは教えてくれてなかった」
それはしかたがないことだろう。瞬の話からも察せられるように、久瀬倉春姫がこの少年に少なからず好意を抱いていることはまちがいない。そんな相手に打ち明けるにはあまりに重すぎる話だ。
「忌門は、人の隠された願望を暴く魔鏡――そう言われるだけに、忌門が映し出す『真実』は人の性的な願望と無縁ではいられない。〈万代〉の内容は驚くべきものではあるが、理解不能というほどではない」
「……ですか」
〈万代〉の内容については依頼主からも情報を得ている。久瀬倉家の執事らしいあの銀髪――瞬によれば諸正という名らしい――の漏らした言葉もあり、そのおぞましい内容についてはほぼ事実だと思って間違いないだろう。
「それで、春姫ちゃんが好きすぎて、心配になって、いてもたってもいられなくなって、久瀬倉家の別邸にひとりで乗り込んだ――ってわけかぁ。瞬君、かっこいい~♪」
美奈恵は頬を上気させ、手を組んで、夢見るような目を瞬に向けている。
「かっこいいといえばかっこいいのかもしれないが、無謀すぎる。わたしたちがいなければ君は殺されていたんだ」
「……はい。助けていただき、本当に感謝しています」
「うんうん。でもね、あたしはそれでいいと思うな~。瞬君くらいの歳の子は、それくらい無鉄砲じゃないと。それでうんと傷つくことで、本当の恋がはじまるんだぁ。腕の中で泣かせてくれる女の子を求めて、男の子は果てのない旅に出ることになるんだよぉ」
「……は、はぁ」
「気にするな。美奈恵の恋愛観はどこかおかしいんだ」
返答に困る瞬にそう告げる。
「とまれ、話をしてくれて助かった。今日はここに泊めてやるから、ゆっくり休むといい」
「だね~。あたしらはちょっとバタバタするかもしれないけど、気にせず休んでいいから」
わたしと美奈恵はそう言って席を立とうとした。
そこに、
「待ってください!」
瞬が勢いよく立ち上がる。
その瞳には決然たる光があった。
「力を貸――」
「ダメだ」
みなまで言わせず却下した。
瞬は言葉を失い、口をぱくぱくさせている。
「おまえをあの場で見殺しにしなかっただけでも感謝してほしいくらいだ。わたしたちはおまえのために大きなリスクを犯した。なんの見返りもないばかりか、むしろわたしたちの側の危険を一方的に増やすばかりの行動だった。自らの願望に忠実な忌能者の行動としては、非常に例外的なものだと思ってくれていい」
「そのことについては、感謝しています」
「だったら、それ以上のことは望むな。例外はあくまで例外だ。行きがかり上、今すぐに追い出すようなことはしないが、明日になったら出て行くんだ。久瀬倉家を敵に回した以上、この事務所だって絶対に安全とは言い切れない」
「どうして……そんなことを言うんです? それだけの犠牲を覚悟してまでぼくを助けてくれた真琴さんの言うこととは思えません」
「わたしは大人だ。自分の生きていく道を自分で切り開かなければならない。自分の命は自分で守るしかない。善意からの行動が破滅に直結することだってあるんだ。わたしがおまえを助けたところで、得られるものはおまえの感謝だけだ。わたしは自分自身と美奈恵の命とを、そんな安い対価のために危険にさらすわけにはいかない。……それとも、おまえにはなにかあるのか? わたしたちが危険を冒すに足りる対価が」
「対価なんて――そんな……」
「ないだろう。わたしはおまえの保護者ではないんだ。おまえのわがままを聞いてやる義理はない」
わたしは別に、瞬から金品が得たくてそんなことを言っているわけではなかった。この少年には諦めてもらわなければならない。単純に本人が危険な目に遭うから、というだけではなく、危険な目に遭う瞬を結局は看過できず、助けようとして不必要なリスクを冒してしまう自分が目に浮かぶからだ。そして、極限状態におけるそうした甘さは、わたしや美奈恵の生命の危機という形で跳ね返ってくる。
美奈恵やわたし自身の命と出会ったばかりの少年の命のどちらを取るか――理屈の上では明らかだが、土壇場でそのような厳しい判断を迷わず下せる自信はわたしにはない。事前に摘める葛藤の芽は事前に摘んでおくべきだった。
そのためには、目の前の善良な少年に深刻な挫折を味あわせることになったとしてもしかたがない。目の前の少年のまなざしがどれだけ真剣であろうとも――いや、真剣だからこそ、わたしは情にほだされるわけにはいかないのだ。
瞬はいくども口を開こうとしては閉じることをくりかえし、そのたびにわたしの目をにらみ、あるいは探るように見つめてくる。
が、変わらないわたしの表情に、瞬なりに諦めがついたのだろう。首をがくりとうなだれ、爪がくいこむほど強く拳を握りしめる。
わたしは瞬の様子を痛ましい思いで見守りながらも、内心で安堵のため息をついていた。
――が、
「あら、あるじゃない。瞬君にも支払える対価が」
美奈恵の言葉に、瞬が勢いよく顔を上げた。
「おい、美奈恵! おまえまさか――」
「ぼくにも支払える対価――っ? それは何ですか!? 教えてください、美奈恵さん!」
瞬が美奈恵に取りすがり、懇願する。
美奈恵はすがりつく瞬を見下ろしながら、厳かに告げた。
「それは、瞬君にとって、とても大切なものなの。だからこそ、あたしにとっては最高の対価となりうるものなんだけど――」
「ぼくの――大切なもの? 構いません! 久瀬倉さんを救えるなら、ぼくはなんだって差し出します!」
「うふふ。言っちゃったね? ほんとにいいの? 何を要求されても構わないんだね?」
唇をむずむずとうごめかしながら追い込みをかけていく美奈恵は、傍目には途方もなく不気味な妖女なのだが、絶望の中に一縷の光を見いだした――見いだしてしまった瞬は、そのことにまったく気づいていない。
「美奈――」
「構いません!」
「……あたしのこと、軽蔑しない?」
「しませんよ! 久瀬倉さんを助けてくれるんでしょう?」
「うんうん。助けるよ~。お姉さん張り切って助けちゃう!」
「おい、美奈恵、勝手に――」
「……真琴は黙っててくれるかな? ほら、これはあたしが瞬君から個人的に受ける依頼なわけだし」
「そんなわけに行くか! わたしたちはパートナーなんだぞ!?」
「真琴がどうしてもイヤだっていうなら、来なくてもいいよ?」
「なっ――!」
「あたしがひとりで依頼を遂行しちゃうから。真琴はお留守番だね♪」
「お留守番だね♪ じゃないだろう! おまえ一人にそんな危険なことをさせられるわけが――」
「だったら、ついてきてもいいよ♪ ま、真琴がついてこなくても、あたしは勝手にさせてもらうだけだけどね?」
「ぐうぅぅぅっ!」
ダメだ。こうなった美奈恵には絶対に勝てない。
美奈恵はわたしが美奈恵を見放すはずがないことを十分承知した上で脅しをかけてきているのだ。わたしに美奈恵を見放すことができない以上、わたしは美奈恵についていくしかない。
瞬は、わたしと美奈恵の対決が美奈恵の勝利に終わったのを見て取ると、ついにその致命的な質問を口にしてしまった。
「そ、それで――ぼくは何を差し出せばいいんですか!? ぼくに用意できる対価って、いったい何なんですかっ!?」
美奈恵がその笑みを深くした。
その笑みはほとんど邪悪とすらいえるもので、うかつな相手をつかまえて特別な細則をつけた契約書にサインをさせた悪徳商人のそれに近い。ほくそ笑む――そんな言葉が脳裏をよぎった。
「うふふ~。それはね……瞬君のぉ、カ・ラ・ダ♪」
「えっ……?」
思考が停止したらしい瞬をながめつつ、わたしは長いため息をついた。
「あ、ああ……! 働いて返せってことですか。いいですよ、いくらでも働きます! それで久瀬倉さんが助かるなら――」
「ノンノン。そうじゃなくてぇ……あたしはぁ、瞬君のぉ、童貞がほしいって言ってるの♪」
たっぷり十秒以上は間があったと思う。
「――え。ええええええええええええっ!!」
「うふふ~。もうキャンセルは受け付けないよぉ~。瞬君のカラダはもう、あたしのモ・ノ♪」
愕然とする瞬。ほくそ笑む美奈恵。
わたしは天を仰いだ。
「真琴も、文句ないよね? どっちにしても、そろそろ――」
「くっ……。まあ、瞬なら他の男よりはましか……」
「ひどいなあ。あたしなりにちゃんと相手は選んでるんだよ?」
「わかってる。が、この事務所では勘弁してくれ」
「も~。しょうがないなぁ。じゃ、瞬君は借りてくね」
「ああ、もう……。勝手にしろ!」
「じゃ、瞬君。お姉さんと一緒にイこうね? じゃなかった、行こうね♪」
美奈恵は茫然としている瞬の手を取り、事務所の出口へと引っ張っていく。
〈魔法〉を使っているのだろう、瞬は足を動かしていないにもかかわらず、氷の上を滑るようななめらかさで美奈恵に引きずられていく。
美奈恵が後ろ手に扉を閉める直前、瞬は意識を取り戻したらしい。
「ま、真琴さん――助け……ッ!」
バタン。
瞬の言葉の途中で扉が閉まった。
「……許せ、瞬」
わたしはつぶやき、おぼつかない足取りで書斎へと向かった。
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