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29 魔王レヴァメゼク

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 俺とエスティカが通されたのは、豪華な縦長の食堂だった。

 食堂の奥、テーブルの短辺に、赤いくせ毛が爆発したような髪型の、十歳くらいの少女がいた。
 少女は猛烈な勢いで、矢継ぎ早に給仕される分厚いステーキを、わんこそばのように貪ってる。
 赤髪の左右にはぐるぐる巻きの立派なツノ、口からは尖った犬歯がのぞいていた。
 瞳は燃えるような赤色だ。

「陛下。例の者どもをお連れしました」

「おお、ようやく戻ってきたか。待ちかねたぞ!」

 赤毛の十歳が、胸を張って鷹揚に言った。

 ……こんなちみっこいのが魔王かよ。

 ちらりとエスティカの様子を伺ってみると、彼女も驚いた顔をしていた。
 直接の面識はないと聞いてるが、魔王の特徴まで知らないとは思わなかった。

 リリスは俺たちをその場に残し、食卓を回りこんで魔王の背後に直立する。
 どこの世界でも軍人ってのは同じような姿勢をするんだな、と妙なところに感心してしまう。

 エスティカが気を取り直して口を開く。

「レヴァメゼク魔王陛下。お初にお目にかかります。私は――」

「ああ、よいよい。事情は見ておった」

 魔王はステーキを刺したままのフォークを左右に振りながらそう言った。

「見て?」

 おもわず訊くと、

「リリスを通して、な。詳しい方法は秘密じゃが」

 魔王はそうとぼけるが、その瞬間に漂った精神波で、俺にはからくりが呑みこめた。
 問題はそれを明かすかどうかだが、

 ――一発かましておくか。

 そのほうが、この奔放そうな魔王とはいい関係が築けるだろう。

「耳飾りだな」

 俺の言葉に、魔王が大きな瞳を俺に向ける。

「ほう。目ざといの。さよう。リリスの耳飾りを通して、一部始終は見聞きしておった。おぬしらが説明を繰り返す必要はない」

「そりゃ助かる」

「話が早いであろう? そのついでに、こちらの要求を先に伝えておこうか。
 まず、マギウスじゃが、魔国はマギウスを深刻な脅威として認識した。全軍をもって神聖巫覡帝国に侵攻し、マギウスを討つ」

 魔王の仮借ない言葉にエスティカが手を握りしめた。

「神聖巫覡帝国は魔国に併合する。ただし、巫女であるエスティカの血筋に敬意を表し、帝国の支配下での祭祀を許そう。寛大であろう?」

「……ご配慮痛み入ります」

 エスティカは絞り出すようにそう言った。

「マギウスを全人類への脅威であると看破し、単身で他国への遣いに走ったエスティカ姫の勇敢にして崇高なる献身に、魔王レヴァメゼクは敬意を表する。
 さいわい、魔国はさまざまな人種の入り混じる『るつぼ』のごとき国家である。新たなる臣民として、神聖巫覡帝国の民を差別なく扱うことを、魔王の名の下に誓っておく」

 要するに、魔王にさえ逆らわなければ魔国の国民として扱うよ、でも変な気を起こしたらその限りじゃないぞってことだな。

「しかし、いかな魔国とはいえ、マギウスとの戦いでは犠牲も出ることであろう。
 ――その対価として、貴公らの所有するツルギなる未知の機体は、魔国に接収させてもらう」

 魔王の言葉に、俺はおもわず口を開きかけた。

 だが、それより早くエスティカが言う。

「それは……っ! 横暴です! セイヤさまたちは帝国とは何の関係もありません!」

「何の関係もないのであれば、魔国がこやつらをどう扱おうと、おぬしには関係のない話であろう?」

「うっ……」

 魔王に冷たくあしらわれ、エスティカが返答につまった。
 今度は俺が魔王に言う。

「おい、魔王さんよ。ツルギは俺のもんだ。あんたがいくら魔王だからって、民間人の財産を好き勝手に取り上げるってのは筋が通らないんじゃねえのか?」

 正確にはツルギは火星連合群の財産だが、ここでそんなことを言ってもしかたがない。

「この魔国においては、戦闘用マギフレームを個人で所有することは禁じられておる。おぬしが異邦人であろうと異星人であろうと、現に魔国にる以上、この国の法に従うのが筋であろう?」

「俺たちが元々いたのは帝国領だ。ここまで連行されてきたのは、そっちの竜の頭さんに従ってのことだ。身の安全は保証すると聞いていたんだがな」

「むろん、身の安全は保証する。じゃが、危険なマギフレームを民間人に預けておくわけにはいかぬ」

 魔王が、挑むような目つきで俺を睨む。
 赤い瞳の中の黒い虹彩が、引き絞られるように細くなった。

 俺は、ため息をついて言った。

「――魔王さんよ。素直に言ったらどうなんだ? おまえの機体おもちゃがほしいからよこせ、異論は許さん、自分は魔王だからどんな子どもじみた真似をしても許される、友だちのおもちゃがほしけりゃ力づくで奪ってもいいんだってな。そうすりゃ俺も、そんな三流以下のならず者国家に関わったのが運の尽きだと思ってあきらめよう」

「なんだと、貴様!」

 俺のあからさまな挑発に、顔を赤くしたリリスが、剣の柄に手を伸ばす。
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