NO STRESS 24時間耐えられる男の転生譚 ~ストレスから解放された俺は常人には扱えない反属性魔法を極めて無双する~

天宮暁

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第五章 15歳

74 接戦

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 ラシヴァを吹き飛ばした「キロフ」は、ラシヴァに背を向け、別の「キロフ」と戦うロゼを狙う。
 「キロフ」が、空中で影の翼を生み出し、上空から影の鎌を投げつけた。

「ロゼっ!」

「『太陽――、きゃっ!」

 魔法を放とうとしていたロゼは、いきなり飛んできた鎌をかろうじてかわす。
 そこに、ロゼがもともと相手取っていた「キロフ」が斬りかかる。
 ロゼは今度は下がらず、

「『太陽風』!」

 いつもより拡散気味に、光の暴風を「キロフ」に放つ。
 「キロフ」は飛びすさりながら、追いすがる「太陽風」に影の鎌を投げ込んだ。
 「太陽風」は影の鎌を呑み込むが、その直後に相克を起こして消滅した。
 それでもまだ余波があるのは、ロゼの魔力が「キロフ」を上回っている証拠だった。
 「キロフ」はその余波を、新たに生み出した影の鎌で吹き散らす。

 ……さっきから、ロゼが「太陽風」ばかり使ってる気がするかもしれないが、実際、ロゼの「太陽風」は万能に近い。

 光と風の複合魔法である「太陽風」は、反対属性である闇と地属性の魔力を、相克によって吹き散らす。
 と同時に、ロゼの膨大な魔力に裏打ちされた暴風は、同属性の光・風の魔法をも蹴散らしてしまう。
 その上、熱も発生させているから、火属性魔法の効果を呑み込み、生半可な水魔法は一瞬のうちに蒸発させる。
 ロゼの「太陽風」を真っ向から破るのは俺にも無理だ。仲間内では、かろうじてユナが、全力で魔法を放って押し返せるかどうかといったところである。

 そんなわけで、ロゼは移動の補助に風魔法や「影渡り」を使う以外では、攻防ともにほとんど「太陽風」しか使わない。
 下手に攻撃と防御で魔法を使い分けるより、「太陽風」だけで対応した方が迷いがない。
 さっき最初にキロフを「仕留めた」時も、分身の「キロフ」が出現した時も、ロゼは迷うことなく「太陽風」を放っていた。
 攻防どちらの場合でも「太陽風」で対応する、という、戦術のシンプルさが功を奏した格好だ。
 ロゼ自身の、(見た目とは裏腹に)果断で肝の座った性格も大きいけどな。

 キロフはおあつらえ向きにサンヌルなので、膨大な魔力を誇るロゼの「太陽風」は、キロフの光・闇どちらの攻撃も、力任せに吹き飛ばせる。

 要するに、ロゼは、「キロフ」と安定して戦える。
 背後から奇襲をかけてきたもう一体も巻き込んで、一人で二体の「キロフ」を食い止めていた。

 ロゼが、背後の本陣にいるユナに叫ぶ。

「ユナちゃん! こっちに合流して!」

「くっ……わかった」

 ユナも、次々に水流を繰り出し、「キロフ」相手に食い下がっていたが、接近戦になると分が悪い。
 負けず嫌いのユナは悔しそうに返事をし、自分担当の「キロフ」を連れてロゼに合流する。

「負けてられない……! 逆巻く波よ、我が敵をそのかいなのうちに押し潰せ! 『メイルシュトロム』!」

 ロゼの援護でひと息をついたユナが、大規模な水魔法で、三体の「キロフ」をまとめて呑み込む。

 ユナもまた、精霊に愛された少女だ。
 アクアマリンの髪を煌めかせ、尋常ではない量の水流を手足のように操り、敵を呑み込み、その質量で圧殺する。
 「空間硝子化」で防御する「キロフ」だが、水流の持つ膨大な質量には逆らえない。
 押し流され、押し潰され、闘戯場の地面や、時には天井へと叩きつけられる。
 そのたびに「キロフ」は「『リフレッシュ』」とつぶやく。
 それだけで、「キロフ」たちのダメージはなかったことにされてしまう。

「……めちゃくちゃ」

 ユナが肩で息を吐きながらつぶやいた。

「うん、これはやばいね」

 ロゼの顔にも、いつもの余裕は見られなかった。

 一方、闘戯場の反対側では、

「バズパ! 前衛を頼む!」

「ええ! ですが、二人相手では長くはもちません!」

 1ー4と2ー4の境目付近では、エクセリアとバズパが合流し、それぞれを狙う「キロフ」二人と交戦している。
 前衛をバズパに任せ、後衛からエクセリアが魔法で一撃を狙うという作戦だ。

 奇しくも影を使う者同士のバズパと「キロフ」だが、さすがに二対一では分が悪い。
 想像以上にバズパは「キロフ」の攻撃をしのげていたが、反撃のチャンスがつかめない。

「『電光刹過』――『光の槍』よ!」

 側面に光速で回り込んだエクセリアの魔法が、片方の「キロフ」の胸を貫く。
 その「キロフ」は、にぃっと笑って、「『リフレッシュ』」と唱える。
 それだけで、その「キロフ」は元通りになる。

 元の木阿弥にはなったが、追い詰められていたバズパを救うことができた。
 バズパは息を整えつつ、もう一体の「キロフ」を睨む。

 2ー1にいたメイベルは、2ー2にいた円卓コンビの残りの女子と合流、そこにラシヴァも合流した。
 ラシヴァの相方(?)だった「キロフ」はロゼに向かったので、ここにいる「キロフ」は二体だけだ。
 もちろん、「二体だけ」と言っても、キロフが二人いるのだから、どうしようもないほどの脅威である。

「『奈落の顎門』!」

 メイベルが闇と地の複合魔法を放つ。
 突如地面に開いた漆黒の円だが、「キロフ」二体は宙に飛んで身をかわす。
 その魔法はさっき見た……そう言わんばかりの対応だ。

 だがそこを、

「『フレイムランス』!」

「『炎殺弾』っ!」

 円卓の女子とラシヴァが、炎の槍と弾丸で狙い撃つ。
 円卓女子の「フレイムランス」も威力・精度ともに出色だが、ラシヴァの「炎殺弾」はそれを凌ぐ。
 俺の「闇の弾丸」を見て修行を重ねたラシヴァの新・「炎弾」は、着弾とともに、ドリル状に圧縮された単指向性の爆発を巻き起こす。
 俺が前世の成形炸薬弾の発想を教え、そのイメージを練習させたのだ。
 この世界の魔法はイメージがすべてだ。
 俺にだって成形炸薬弾の正確な知識があったわけじゃないが、爆発に指向性を持たせて装甲を焼き破るというアイデアさえわかればそれでいい。

 ラシヴァの努力の結晶である「炎殺弾」は、「キロフ」の胸に大穴を開けていた。
 だが、

「『リフレッシュ』」

「ちくしょうがっ!」

 「キロフ」は余裕の笑みで、身体を元の状態に戻してしまう。
 あの様子だと、避けることもできたのにあえてくらい、ラシヴァを挑発してるのだろう。

 気の短いラシヴァが仇敵を相手にしているのだ。
 キレて無謀なことをしなければいいが。
 そう思ったのは、俺だけではなかったようだ。

「落ち着いてください、ラシヴァ君」

 メイベルがラシヴァにそう言った。

「わかってらぁ!」

 ラシヴァは短く答え、拳を構える。

「来やがれ! 何度でも風穴ブチ開けてやるからな!」

 引きずった様子もなく言うラシヴァに、メイベルは少し意外そうな顔をした。

「そうですね。ウルヴルスラ様によれば、ゼーハイドと同じで核があるとのことでした。どの個体にも核があるのか、それともどれかひとつに核があるのかはわかりませんが」

「どれか一つだとしたらエリアックのとこだろうな。
 おい大将! 早いとこ頼むぜ!」

 大きな声で言ってくるラシヴァに苦笑する。


ユ| ロゼ 、ラシヴァ、俺、エクセリア|本
ナ|メイベル、円卓女子、キロフ、バズパ|陣


 スタート位置はこんな感じで、


ロゼ・ユナ 対  「キロフ」3体
エクセリア・バズパ 対 「キロフ」2体
メイベル・円卓女子・ラシヴァ 対 「キロフ」2体


 そして、俺はキロフの担当だ。

 「キロフ」がこっちの人数までしか現れないというのなら、こっちの人数を減らせばいいのでは?
 そんな発想も浮かんだが、それは甘い考えだろう。
 転送法陣での転移には若干のタイムラグがある。
 さっきはいきなりだったから上手くいったものの、キロフが次も転移を見過ごしてくれるとは思えない。
 それに、こっちの人数が減ってから「キロフ」が消えるまでにも少しの時間があった。
 「キロフ」の数が減る前に、残った誰かに攻撃を集中してくる可能性がある。

(転移は、あくまでもバリアがなくなった時の非常手段だ)

 バリアがなくなってしまえば転移に賭けるしかなくなってしまうが、その隙を他のメンバーで補うのは難しい。
 無理をすればそれがまた隙になってしまう。
 一人が倒れれば、ドミノ倒しに戦線が崩壊するおそれがあった。

 かといって、ここにいるメンバーが、ためらいなく味方を見捨てられるとは思えない。
 だが、それが悪いとは俺は決して思わない。
 たとえ甘いと言われようとも、そんなメンバーだからこそ背中を預けることができるのだ。

(せめてもの幸いは、みんなそれなりに戦えてるってことだな)

 ――俺にしかキロフは倒せない。
 ついそう思い込んでしまっていた。
 だけど、みんなだって自分のできる範囲で最善を尽くしている。
 【無荷無覚】や前世の知識があるだけで、俺が絶対的に有利なわけじゃない。

 それはキロフにだって言えることだ。
 キロフを、ひいては帝国を倒す。
 そのためには、自分だけでは戦えない。
 キロフや帝国のやり口に対してノーを突きつけ、人を犠牲にしないよりよい仕組みを作っていく。
 人を搾取する他社に対抗するために自社でも人を搾取しよう、という発想では、いつまで経っても何ひとつ変わらない。

 みんなの力でキロフを倒す。
 誰も犠牲にしない戦い方で、少しでも苦しむ人が少なくて済む世界へと変えていく。
 俺はロゼと、みんなと幸せを築きたい。
 そのために、策を巡らせて、キロフをこちらの舞台に上がらせた。

 だが、こうしてキロフを倒す役割は、結局俺のところに回ってきた。

(因縁ってやつか? ウルヴルスラは運命がどうのとか言ってたな)

 まったく、嫌な因縁もあったものだ。

「――キロフ! おまえはここで俺が倒す!」

「ククっ……やってみればいいでしょう」

 キロフの声を打ち消すように、俺は、「闇の弾丸」を放ち、宙に魔導糸を繰り出した。
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