36 / 80
第五章 15歳
35 ラシヴァとの闘戯
しおりを挟む
俺とラシヴァはその足で、闘戯の受け付けをやってる生徒会の事務局へと向かった。
入学式をやった大講堂の隣にある、さほど大きくない建物だ。
ガラス張りの正面入り口から入ると、すぐ正面にカウンターがある。
カウンターには学術科の制服に生徒会の腕章をつけた大人しそうな女子生徒が座っていた。
「闘戯の申し込みがしてえ」
ラシヴァが言った。
「えっと……お相手は?」
「こいつだ」
ラシヴァは親指で俺をさして言った。
「学術科の生徒ですか?」
「ああ。こいつはエリアック=サンヌル=ブランタージュだ」
俺が自己紹介する間もなく、ラシヴァが勝手に名前を告げた。
「さ、サンヌル? えっと、つまり、ラシヴァさんは学術科のサンヌルの生徒と闘戯をしたい、と」
女子生徒が困惑した顔で言った。
「うっせえな。ったく、てめえがサンヌルだってことを忘れてたぜ。厄介なもんだな」
「ご心配なく。ちゃんと合意の上ですので」
俺はなるべくしっかりした声でそう言った。
だが、女子生徒はなおも躊躇っている。
「は、はぁ……本当に、合意の上なんですね?」
「はい。べつに、こいつに脅されて連れてこられたわけじゃないですよ」
いや、実際脅されはしたけどな。
「わかりました……そこまで言うなら」
女子生徒が引き下がった。
そもそもサンヌルで合格してるのが異常なのだ。
サンヌルなりにひょっとしたら魔法が使えるのかもしれないし、武術の心得があるのかもしれない――そんなふうに思ったんだろう。
学園ファンタジーもののラノベなら、主人公は無能力だが東方の剣術が使えてむっちゃ強いとか、相手の能力をキャンセルする能力があるとか、ありがちな話だ。
……いや、この女子がそんなことを思うはずもないけど、俺が平然としてる以上、受け付けないわけにもいかないと判断したのだろう。
「いつのご予約ですか?」
「これからすぐだ」
「えっ……」
「なんだ、ひょっとして埋まってるのか?」
「い、いえ、空いてはいますが……。
ご承知の通り、観客を集める必要があるので、その分のお時間はいただきます。今の時間帯なら、告知放送をして三十分もすれば集まるでしょう。一対一ですし」
受付の女子の言ってることは、ちっともご承知じゃなかった。
「観客なしではできないんですか?」
「えっ、知らなかったんですか? 闘戯場は、観客から少しずつ魔力を得て、闘戯のための各種機能を動かしてるんです。
円卓戦なら、三百人近い観客が必要となります。
一対一の闘戯なら、せいぜい十人もいれば十分です。
ラシヴァさんの試合なら、物見高い人がすぐに集まってくるでしょう」
微妙に失礼なことを言ってる気がするが、ラシヴァは気にしたそぶりも見せていない。
それより、闘戯場の仕組みのほうが興味深い。
(観客から魔力を集める、か。なんだか吸魔煌殻みたいな話だな)
まさか生命力を吸い尽くされて観客が死ぬってこともないだろうが、根幹の仕組みが共通してる可能性はある。
闘戯場は黄昏人の遺産だというし、ネオデシバルの吸魔煌殻も、帝国の技術か黄昏人の遺産のどちらかだろう。
「では、お二人ともサインしてください」
用紙をカウンターに置いて受付の女子が言う。
俺とラシヴァがサインすると、受付の女子が奥に引っ込んだ。
そして、
『闘戯場運営局より、全生徒騎士にご案内です。
本日これから、武術科一年生ラシヴァ=ジト=ザスターシャ君対学術科一年生エリアック=サンヌル=ブランタージュ君の闘戯が行われます。
闘戯の挙行は、観客数が規定に達し次第となります。
観戦を希望される生徒騎士は、ただちに大講堂にお集まりください。
以上、放送を終えます』
さっきの女子の声で、アナウンスが流れた。
建物の中からも聞こえたし、外からも聞こえてきた。
複数のスピーカーから流れてるらしく、アナウンスは若干の時差で何重にも重なって都市に響く。
カウンターの奥から、女子生徒が戻ってくる。
「では、こちらへ」
「大講堂じゃないんですか?」
「地下へは、この建物からも行けますから」
女子生徒の案内で、建物の奥に入ると、入学式で見たのと同じ、エレベーターのような床があった。
俺とラシヴァが乗ると、女子生徒は床の外から言った。
「開始の合図があるまでは、攻撃は禁止とされています。所定の位置について開始を待ってください。観客数の見込みが立ち次第、放送でお知らせしますので」
「わかりました」
「わかった」
俺とラシヴァが返事をすると、エレベーターが下がり出す。
3メートル四方くらいの床がまるごと沈んでいくような感じだ。
床が動き出したところで、床は、プロレスのリングのように、光のロープで囲まれた。安全のための仕組みだろう。
俺がつんつんとロープを突ついてるあいだに、エレベーターは闇の中を進み、唐突に広い空間の天井に出た。
入学式でも見た、果てしなく広い空間だ。
エレベーターが出たのは、百メートルはありそうなその天井の一角だった。
「ふぅん。果てがないわけでもないのか」
一面真っ白な空間は、たしかに奥が霞んで見えるほどに広がってはいる。
長い辺と短い辺があり、短い辺は数百メートルくらいだが、長い辺はたぶん差し渡しで二キロはありそうだ。
長い辺は、エレベーターが向かっている中央部を底として、緩やかな上りの傾斜がついていた。
傾斜の奥は、高台のように平坦になっている。
底と奥とで、高さは数十メートルくらい違うだろう。
「円卓戦や模擬戦じゃ、あの高台がそれぞれの本陣になるらしい。青い光のサークルが浮かんで、その陣地を相手に一定時間制圧されると敗北となる。もっとも、その敗北条件を満たすのは珍しいパターンらしいがな」
暇だったのか、ラシヴァがそう説明してくれる。
「じゃあ、基本的には相手チームを倒す感じか」
「正確には、相手チームのリーダーを倒すか、相手チームのリーダー以外のメンバーを全滅させるかのいずれかだな」
「こんだけフィールドが広いなら、傾斜を登って本陣を制圧するのはまどろっこしいだろうな。その間に相手がこっちの本陣を制圧しようとするかもしれないわけだし」
「そういうこった。よほど実力差がない限り、そういう状況にはなりにくい」
「だからといって、本陣をガラ空きにもできない、か」
オフサイドもないしな。
味方が全員上がったところで敵に本陣を抑えられると、戻る間もなく負けそうだ。
「なんで教えてくれるんだ?」
「ふん。将来俺の下で働くことになるんだ。これくらい知っておいてもらわないと困る」
「さては、入学式で副会長に校則くらい把握しとけって言われたのが効いてるな?」
ラシヴァは俺の言葉を無視して、エレベーターから地面を見下ろした。
実際、地面はだいぶ近づいていた。
十数秒ほどで、エレベーターが地面に着く。
地面に着いてみても、やはり空間はどこまでも白かった。
本当にそれだけで、説明できることがない。
白すぎて遠近感が狂いそうだ。
『ラシヴァ君、エリアック君。観客が集まりました』
到着と同時に、受付の人の声がした。
「もう?」
アナウンスから五分ってとこだと思うんだけど。
『入学式で副会長と戦ったラシヴァ君が、今度は学術科のサンヌルにケンカを売った……と、そういう話になってるようです』
「んだと?」
目の前にいなくなった途端、言葉に遠慮がなくなったな。
まあ、もともと先輩だし。
『開始位置がライトアップされてるはずです』
その言葉に空間を見渡すと、離れた地面に、赤い光のサークルが浮かび上がっていた。
30メートルくらい離れた地点に二つある。
「ちっ、この距離か」
嫌そうに言って、ラシヴァが片方のサークルに向かった。
(試験の時の俺の魔法を警戒してるな)
試験の1回目では、仮想ターゲットは50メートルくらいの距離にあった。
サークルの初期位置が俺の射程圏内だってことは、あれを見てたラシヴァにはわかる。
もっとも、光魔法の「望遠」を併用すれば、200メートルくらい離れててもたいていの魔法は当てられるんだけどな。
俺も反対側のサークルに向かう。
俺とラシヴァが入ると、サークルの色が赤から青に変わった。
『仮想武器は必要ですか?』
と受付さん。
「仮想武器?」
『知らないのですか? その場所では、望み通りの形状の武器を選択できます』
「俺はいらねえ」
ラシヴァが言った。
『エリアック君には選択パネルを表示しますね』
言葉とともに、俺のすぐ横にホログラフィのパネルが浮かんだ。
パネルには武器が表示されている。
手を左右に振ると、別の武器種に切り替わるようだ。縦に振ると、同じ武器種の中でさらに細かく種類を選べる。
「ま、剣だな」
俺は慣れた長さの剣を選ぶ。
「なんだ、武器も使うのかよ」
ラシヴァが言ってくるあいだに、俺の手元に青く透明な剣が現れる。
試験の時の仮想ターゲットとよく似てる。
『好みの武器を持ち込むこともできます』
受付さんの説明を聞きながら、俺は軽く剣を振った。
重心のバランスがよく、扱いやすいいい剣だ。
ついでに、ラシヴァの質問に答えておく。
「今日は魔法は使わないよ」
「ぁん?」
「こんな公衆の面前で手の内を明かしたくない。悪いけど、武術オンリーで行くから」
「……まさか、俺にも魔法を使うなとでもぬかすつもりか?」
「いや、それはこっちの都合だからな。ラシヴァは好きに使ってくれ」
「てめえは魔法を使わず、全力の俺とやろうってのか?」
「そういうこと」
「……試験の時の魔法も使わねえつもりか?」
「悪いけど、俺も円卓を狙ってるんでね。計画にないところで秘密を見せたくはないんだ」
「俺のことを舐めてんのか!」
「舐めてはいないよ。実際、魔法抜きで戦うのは大変な相手だと思ってる」
「それが舐めてるって言ってんだよ!」
「やってみればわかるさ。約束は忘れるなよ」
「てめえこそ、手加減してたから負けたとか言うつもりじゃねえだろうな?」
「言わないよ」
『そろそろいいでしょうか?』
「ええ」
「ちっ、まあいい。舐め腐ってるようならブチのめしてやるだけだ」
『では、開始カウントを始めます。5秒前。3、2、1――開始!』
俺とラシヴァの闘戯が始まった。
入学式をやった大講堂の隣にある、さほど大きくない建物だ。
ガラス張りの正面入り口から入ると、すぐ正面にカウンターがある。
カウンターには学術科の制服に生徒会の腕章をつけた大人しそうな女子生徒が座っていた。
「闘戯の申し込みがしてえ」
ラシヴァが言った。
「えっと……お相手は?」
「こいつだ」
ラシヴァは親指で俺をさして言った。
「学術科の生徒ですか?」
「ああ。こいつはエリアック=サンヌル=ブランタージュだ」
俺が自己紹介する間もなく、ラシヴァが勝手に名前を告げた。
「さ、サンヌル? えっと、つまり、ラシヴァさんは学術科のサンヌルの生徒と闘戯をしたい、と」
女子生徒が困惑した顔で言った。
「うっせえな。ったく、てめえがサンヌルだってことを忘れてたぜ。厄介なもんだな」
「ご心配なく。ちゃんと合意の上ですので」
俺はなるべくしっかりした声でそう言った。
だが、女子生徒はなおも躊躇っている。
「は、はぁ……本当に、合意の上なんですね?」
「はい。べつに、こいつに脅されて連れてこられたわけじゃないですよ」
いや、実際脅されはしたけどな。
「わかりました……そこまで言うなら」
女子生徒が引き下がった。
そもそもサンヌルで合格してるのが異常なのだ。
サンヌルなりにひょっとしたら魔法が使えるのかもしれないし、武術の心得があるのかもしれない――そんなふうに思ったんだろう。
学園ファンタジーもののラノベなら、主人公は無能力だが東方の剣術が使えてむっちゃ強いとか、相手の能力をキャンセルする能力があるとか、ありがちな話だ。
……いや、この女子がそんなことを思うはずもないけど、俺が平然としてる以上、受け付けないわけにもいかないと判断したのだろう。
「いつのご予約ですか?」
「これからすぐだ」
「えっ……」
「なんだ、ひょっとして埋まってるのか?」
「い、いえ、空いてはいますが……。
ご承知の通り、観客を集める必要があるので、その分のお時間はいただきます。今の時間帯なら、告知放送をして三十分もすれば集まるでしょう。一対一ですし」
受付の女子の言ってることは、ちっともご承知じゃなかった。
「観客なしではできないんですか?」
「えっ、知らなかったんですか? 闘戯場は、観客から少しずつ魔力を得て、闘戯のための各種機能を動かしてるんです。
円卓戦なら、三百人近い観客が必要となります。
一対一の闘戯なら、せいぜい十人もいれば十分です。
ラシヴァさんの試合なら、物見高い人がすぐに集まってくるでしょう」
微妙に失礼なことを言ってる気がするが、ラシヴァは気にしたそぶりも見せていない。
それより、闘戯場の仕組みのほうが興味深い。
(観客から魔力を集める、か。なんだか吸魔煌殻みたいな話だな)
まさか生命力を吸い尽くされて観客が死ぬってこともないだろうが、根幹の仕組みが共通してる可能性はある。
闘戯場は黄昏人の遺産だというし、ネオデシバルの吸魔煌殻も、帝国の技術か黄昏人の遺産のどちらかだろう。
「では、お二人ともサインしてください」
用紙をカウンターに置いて受付の女子が言う。
俺とラシヴァがサインすると、受付の女子が奥に引っ込んだ。
そして、
『闘戯場運営局より、全生徒騎士にご案内です。
本日これから、武術科一年生ラシヴァ=ジト=ザスターシャ君対学術科一年生エリアック=サンヌル=ブランタージュ君の闘戯が行われます。
闘戯の挙行は、観客数が規定に達し次第となります。
観戦を希望される生徒騎士は、ただちに大講堂にお集まりください。
以上、放送を終えます』
さっきの女子の声で、アナウンスが流れた。
建物の中からも聞こえたし、外からも聞こえてきた。
複数のスピーカーから流れてるらしく、アナウンスは若干の時差で何重にも重なって都市に響く。
カウンターの奥から、女子生徒が戻ってくる。
「では、こちらへ」
「大講堂じゃないんですか?」
「地下へは、この建物からも行けますから」
女子生徒の案内で、建物の奥に入ると、入学式で見たのと同じ、エレベーターのような床があった。
俺とラシヴァが乗ると、女子生徒は床の外から言った。
「開始の合図があるまでは、攻撃は禁止とされています。所定の位置について開始を待ってください。観客数の見込みが立ち次第、放送でお知らせしますので」
「わかりました」
「わかった」
俺とラシヴァが返事をすると、エレベーターが下がり出す。
3メートル四方くらいの床がまるごと沈んでいくような感じだ。
床が動き出したところで、床は、プロレスのリングのように、光のロープで囲まれた。安全のための仕組みだろう。
俺がつんつんとロープを突ついてるあいだに、エレベーターは闇の中を進み、唐突に広い空間の天井に出た。
入学式でも見た、果てしなく広い空間だ。
エレベーターが出たのは、百メートルはありそうなその天井の一角だった。
「ふぅん。果てがないわけでもないのか」
一面真っ白な空間は、たしかに奥が霞んで見えるほどに広がってはいる。
長い辺と短い辺があり、短い辺は数百メートルくらいだが、長い辺はたぶん差し渡しで二キロはありそうだ。
長い辺は、エレベーターが向かっている中央部を底として、緩やかな上りの傾斜がついていた。
傾斜の奥は、高台のように平坦になっている。
底と奥とで、高さは数十メートルくらい違うだろう。
「円卓戦や模擬戦じゃ、あの高台がそれぞれの本陣になるらしい。青い光のサークルが浮かんで、その陣地を相手に一定時間制圧されると敗北となる。もっとも、その敗北条件を満たすのは珍しいパターンらしいがな」
暇だったのか、ラシヴァがそう説明してくれる。
「じゃあ、基本的には相手チームを倒す感じか」
「正確には、相手チームのリーダーを倒すか、相手チームのリーダー以外のメンバーを全滅させるかのいずれかだな」
「こんだけフィールドが広いなら、傾斜を登って本陣を制圧するのはまどろっこしいだろうな。その間に相手がこっちの本陣を制圧しようとするかもしれないわけだし」
「そういうこった。よほど実力差がない限り、そういう状況にはなりにくい」
「だからといって、本陣をガラ空きにもできない、か」
オフサイドもないしな。
味方が全員上がったところで敵に本陣を抑えられると、戻る間もなく負けそうだ。
「なんで教えてくれるんだ?」
「ふん。将来俺の下で働くことになるんだ。これくらい知っておいてもらわないと困る」
「さては、入学式で副会長に校則くらい把握しとけって言われたのが効いてるな?」
ラシヴァは俺の言葉を無視して、エレベーターから地面を見下ろした。
実際、地面はだいぶ近づいていた。
十数秒ほどで、エレベーターが地面に着く。
地面に着いてみても、やはり空間はどこまでも白かった。
本当にそれだけで、説明できることがない。
白すぎて遠近感が狂いそうだ。
『ラシヴァ君、エリアック君。観客が集まりました』
到着と同時に、受付の人の声がした。
「もう?」
アナウンスから五分ってとこだと思うんだけど。
『入学式で副会長と戦ったラシヴァ君が、今度は学術科のサンヌルにケンカを売った……と、そういう話になってるようです』
「んだと?」
目の前にいなくなった途端、言葉に遠慮がなくなったな。
まあ、もともと先輩だし。
『開始位置がライトアップされてるはずです』
その言葉に空間を見渡すと、離れた地面に、赤い光のサークルが浮かび上がっていた。
30メートルくらい離れた地点に二つある。
「ちっ、この距離か」
嫌そうに言って、ラシヴァが片方のサークルに向かった。
(試験の時の俺の魔法を警戒してるな)
試験の1回目では、仮想ターゲットは50メートルくらいの距離にあった。
サークルの初期位置が俺の射程圏内だってことは、あれを見てたラシヴァにはわかる。
もっとも、光魔法の「望遠」を併用すれば、200メートルくらい離れててもたいていの魔法は当てられるんだけどな。
俺も反対側のサークルに向かう。
俺とラシヴァが入ると、サークルの色が赤から青に変わった。
『仮想武器は必要ですか?』
と受付さん。
「仮想武器?」
『知らないのですか? その場所では、望み通りの形状の武器を選択できます』
「俺はいらねえ」
ラシヴァが言った。
『エリアック君には選択パネルを表示しますね』
言葉とともに、俺のすぐ横にホログラフィのパネルが浮かんだ。
パネルには武器が表示されている。
手を左右に振ると、別の武器種に切り替わるようだ。縦に振ると、同じ武器種の中でさらに細かく種類を選べる。
「ま、剣だな」
俺は慣れた長さの剣を選ぶ。
「なんだ、武器も使うのかよ」
ラシヴァが言ってくるあいだに、俺の手元に青く透明な剣が現れる。
試験の時の仮想ターゲットとよく似てる。
『好みの武器を持ち込むこともできます』
受付さんの説明を聞きながら、俺は軽く剣を振った。
重心のバランスがよく、扱いやすいいい剣だ。
ついでに、ラシヴァの質問に答えておく。
「今日は魔法は使わないよ」
「ぁん?」
「こんな公衆の面前で手の内を明かしたくない。悪いけど、武術オンリーで行くから」
「……まさか、俺にも魔法を使うなとでもぬかすつもりか?」
「いや、それはこっちの都合だからな。ラシヴァは好きに使ってくれ」
「てめえは魔法を使わず、全力の俺とやろうってのか?」
「そういうこと」
「……試験の時の魔法も使わねえつもりか?」
「悪いけど、俺も円卓を狙ってるんでね。計画にないところで秘密を見せたくはないんだ」
「俺のことを舐めてんのか!」
「舐めてはいないよ。実際、魔法抜きで戦うのは大変な相手だと思ってる」
「それが舐めてるって言ってんだよ!」
「やってみればわかるさ。約束は忘れるなよ」
「てめえこそ、手加減してたから負けたとか言うつもりじゃねえだろうな?」
「言わないよ」
『そろそろいいでしょうか?』
「ええ」
「ちっ、まあいい。舐め腐ってるようならブチのめしてやるだけだ」
『では、開始カウントを始めます。5秒前。3、2、1――開始!』
俺とラシヴァの闘戯が始まった。
0
お気に入りに追加
900
あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる