NO STRESS 24時間耐えられる男の転生譚 ~ストレスから解放された俺は常人には扱えない反属性魔法を極めて無双する~

天宮暁

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第五章 15歳

35 ラシヴァとの闘戯

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 俺とラシヴァはその足で、闘戯の受け付けをやってる生徒会の事務局へと向かった。
 入学式をやった大講堂の隣にある、さほど大きくない建物だ。
 ガラス張りの正面入り口から入ると、すぐ正面にカウンターがある。
 カウンターには学術科の制服に生徒会の腕章をつけた大人しそうな女子生徒が座っていた。

「闘戯の申し込みがしてえ」

 ラシヴァが言った。

「えっと……お相手は?」

「こいつだ」

 ラシヴァは親指で俺をさして言った。

「学術科の生徒ですか?」

「ああ。こいつはエリアック=サンヌル=ブランタージュだ」

 俺が自己紹介する間もなく、ラシヴァが勝手に名前を告げた。

「さ、サンヌル? えっと、つまり、ラシヴァさんは学術科のサンヌルの生徒と闘戯をしたい、と」

 女子生徒が困惑した顔で言った。

「うっせえな。ったく、てめえがサンヌルだってことを忘れてたぜ。厄介なもんだな」

「ご心配なく。ちゃんと合意の上ですので」

 俺はなるべくしっかりした声でそう言った。
 だが、女子生徒はなおも躊躇っている。

「は、はぁ……本当に、合意の上なんですね?」

「はい。べつに、こいつに脅されて連れてこられたわけじゃないですよ」

 いや、実際脅されはしたけどな。

「わかりました……そこまで言うなら」

 女子生徒が引き下がった。

 そもそもサンヌルで合格してるのが異常なのだ。
 サンヌルなりにひょっとしたら魔法が使えるのかもしれないし、武術の心得があるのかもしれない――そんなふうに思ったんだろう。

 学園ファンタジーもののラノベなら、主人公は無能力だが東方の剣術が使えてむっちゃ強いとか、相手の能力をキャンセルする能力があるとか、ありがちな話だ。
 ……いや、この女子がそんなことを思うはずもないけど、俺が平然としてる以上、受け付けないわけにもいかないと判断したのだろう。

「いつのご予約ですか?」

「これからすぐだ」

「えっ……」

「なんだ、ひょっとして埋まってるのか?」

「い、いえ、空いてはいますが……。
 ご承知の通り、観客を集める必要があるので、その分のお時間はいただきます。今の時間帯なら、告知放送をして三十分もすれば集まるでしょう。一対一ですし」

 受付の女子の言ってることは、ちっともご承知じゃなかった。

「観客なしではできないんですか?」

「えっ、知らなかったんですか? 闘戯場は、観客から少しずつ魔力を得て、闘戯のための各種機能を動かしてるんです。
 円卓戦なら、三百人近い観客が必要となります。
 一対一の闘戯なら、せいぜい十人もいれば十分です。
 ラシヴァさんの試合なら、物見高い人がすぐに集まってくるでしょう」

 微妙に失礼なことを言ってる気がするが、ラシヴァは気にしたそぶりも見せていない。

 それより、闘戯場の仕組みのほうが興味深い。

(観客から魔力を集める、か。なんだか吸魔煌殻みたいな話だな)

 まさか生命力を吸い尽くされて観客が死ぬってこともないだろうが、根幹の仕組みが共通してる可能性はある。
 闘戯場は黄昏人の遺産だというし、ネオデシバルの吸魔煌殻も、帝国の技術か黄昏人の遺産のどちらかだろう。

「では、お二人ともサインしてください」

 用紙をカウンターに置いて受付の女子が言う。
 俺とラシヴァがサインすると、受付の女子が奥に引っ込んだ。

 そして、

『闘戯場運営局より、全生徒騎士にご案内です。
 本日これから、武術科一年生ラシヴァ=ジト=ザスターシャ君対学術科一年生エリアック=サンヌル=ブランタージュ君の闘戯が行われます。
 闘戯の挙行は、観客数が規定に達し次第となります。
 観戦を希望される生徒騎士は、ただちに大講堂にお集まりください。
 以上、放送を終えます』

 さっきの女子の声で、アナウンスが流れた。
 建物の中からも聞こえたし、外からも聞こえてきた。
 複数のスピーカーから流れてるらしく、アナウンスは若干の時差で何重にも重なって都市に響く。

 カウンターの奥から、女子生徒が戻ってくる。

「では、こちらへ」

「大講堂じゃないんですか?」

「地下へは、この建物からも行けますから」

 女子生徒の案内で、建物の奥に入ると、入学式で見たのと同じ、エレベーターのような床があった。

 俺とラシヴァが乗ると、女子生徒は床の外から言った。

「開始の合図があるまでは、攻撃は禁止とされています。所定の位置について開始を待ってください。観客数の見込みが立ち次第、放送でお知らせしますので」

「わかりました」

「わかった」

 俺とラシヴァが返事をすると、エレベーターが下がり出す。
 3メートル四方くらいの床がまるごと沈んでいくような感じだ。
 床が動き出したところで、床は、プロレスのリングのように、光のロープで囲まれた。安全のための仕組みだろう。
 俺がつんつんとロープを突ついてるあいだに、エレベーターは闇の中を進み、唐突に広い空間の天井に出た。
 入学式でも見た、果てしなく広い空間だ。
 エレベーターが出たのは、百メートルはありそうなその天井の一角だった。

「ふぅん。果てがないわけでもないのか」

 一面真っ白な空間は、たしかに奥が霞んで見えるほどに広がってはいる。
 長い辺と短い辺があり、短い辺は数百メートルくらいだが、長い辺はたぶん差し渡しで二キロはありそうだ。
 長い辺は、エレベーターが向かっている中央部を底として、緩やかな上りの傾斜がついていた。
 傾斜の奥は、高台のように平坦になっている。
 底と奥とで、高さは数十メートルくらい違うだろう。

「円卓戦や模擬戦じゃ、あの高台がそれぞれの本陣になるらしい。青い光のサークルが浮かんで、その陣地を相手に一定時間制圧されると敗北となる。もっとも、その敗北条件を満たすのは珍しいパターンらしいがな」

 暇だったのか、ラシヴァがそう説明してくれる。

「じゃあ、基本的には相手チームを倒す感じか」

「正確には、相手チームのリーダーを倒すか、相手チームのリーダー以外のメンバーを全滅させるかのいずれかだな」

「こんだけフィールドが広いなら、傾斜を登って本陣を制圧するのはまどろっこしいだろうな。その間に相手がこっちの本陣を制圧しようとするかもしれないわけだし」

「そういうこった。よほど実力差がない限り、そういう状況にはなりにくい」

「だからといって、本陣をガラ空きにもできない、か」

 オフサイドもないしな。
 味方が全員上がったところで敵に本陣を抑えられると、戻る間もなく負けそうだ。

「なんで教えてくれるんだ?」

「ふん。将来俺の下で働くことになるんだ。これくらい知っておいてもらわないと困る」

「さては、入学式で副会長に校則くらい把握しとけって言われたのが効いてるな?」

 ラシヴァは俺の言葉を無視して、エレベーターから地面を見下ろした。

 実際、地面はだいぶ近づいていた。
 十数秒ほどで、エレベーターが地面に着く。
 地面に着いてみても、やはり空間はどこまでも白かった。
 本当にそれだけで、説明できることがない。
 白すぎて遠近感が狂いそうだ。

『ラシヴァ君、エリアック君。観客が集まりました』

 到着と同時に、受付の人の声がした。

「もう?」

 アナウンスから五分ってとこだと思うんだけど。

『入学式で副会長と戦ったラシヴァ君が、今度は学術科のサンヌルにケンカを売った……と、そういう話になってるようです』

「んだと?」

 目の前にいなくなった途端、言葉に遠慮がなくなったな。
 まあ、もともと先輩だし。

『開始位置がライトアップされてるはずです』

 その言葉に空間を見渡すと、離れた地面に、赤い光のサークルが浮かび上がっていた。
 30メートルくらい離れた地点に二つある。

「ちっ、この距離か」

 嫌そうに言って、ラシヴァが片方のサークルに向かった。

(試験の時の俺の魔法を警戒してるな)

 試験の1回目では、仮想ターゲットは50メートルくらいの距離にあった。
 サークルの初期位置が俺の射程圏内だってことは、あれを見てたラシヴァにはわかる。
 もっとも、光魔法の「望遠」を併用すれば、200メートルくらい離れててもたいていの魔法は当てられるんだけどな。

 俺も反対側のサークルに向かう。

 俺とラシヴァが入ると、サークルの色が赤から青に変わった。

『仮想武器は必要ですか?』

 と受付さん。

「仮想武器?」

『知らないのですか? その場所では、望み通りの形状の武器を選択できます』

「俺はいらねえ」

 ラシヴァが言った。

『エリアック君には選択パネルを表示しますね』

 言葉とともに、俺のすぐ横にホログラフィのパネルが浮かんだ。
 パネルには武器が表示されている。
 手を左右に振ると、別の武器種に切り替わるようだ。縦に振ると、同じ武器種の中でさらに細かく種類を選べる。

「ま、剣だな」

 俺は慣れた長さの剣を選ぶ。

「なんだ、武器も使うのかよ」

 ラシヴァが言ってくるあいだに、俺の手元に青く透明な剣が現れる。
 試験の時の仮想ターゲットとよく似てる。

『好みの武器を持ち込むこともできます』

 受付さんの説明を聞きながら、俺は軽く剣を振った。
 重心のバランスがよく、扱いやすいいい剣だ。
 ついでに、ラシヴァの質問に答えておく。

「今日は魔法は使わないよ」

「ぁん?」

「こんな公衆の面前で手の内を明かしたくない。悪いけど、武術オンリーで行くから」

「……まさか、俺にも魔法を使うなとでもぬかすつもりか?」

「いや、それはこっちの都合だからな。ラシヴァは好きに使ってくれ」

「てめえは魔法を使わず、全力の俺とやろうってのか?」

「そういうこと」

「……試験の時の魔法も使わねえつもりか?」

「悪いけど、俺も円卓を狙ってるんでね。計画にないところで秘密を見せたくはないんだ」

「俺のことを舐めてんのか!」

「舐めてはいないよ。実際、魔法抜きで戦うのは大変な相手だと思ってる」

「それが舐めてるって言ってんだよ!」

「やってみればわかるさ。約束は忘れるなよ」

「てめえこそ、手加減してたから負けたとか言うつもりじゃねえだろうな?」

「言わないよ」

『そろそろいいでしょうか?』

「ええ」

「ちっ、まあいい。舐め腐ってるようならブチのめしてやるだけだ」

『では、開始カウントを始めます。5秒前。3、2、1――開始!』

 俺とラシヴァの闘戯が始まった。
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