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第五章 15歳
31 亡国の王子
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赤髪の新入生の不敵な挑発に、会場がどよめいた。
だが、壇上にいる金髪の美女は動じない。
それどころか、面白がるように唇の端を吊り上げた。
「ほう。今年は骨のある新入生がいたものだ」
「どうする、会長さんよ。俺の挑戦を受けるのか?」
「ちょうどいい。言葉で説明するのはまどろっこしいと思ってたところだ。ここから先は実演しながら見せてやろう」
会長は、傍らに控える腹心へと目を向ける。
バズパ=ヌル=トワ。
男装の麗人にして円卓きっての剣士が、前に出た。
「おまえの相手はわたしだ。ついてこい」
そう言って顎で壇上の一角を示すバズパに、赤髪が不満そうな顔をする。
「俺は会長とやりたいんだが」
「おまえにはその資格がない」
「んだと?」
「生徒会長、すなわち学園騎士団長に挑むには、生徒会円卓と同数以上の生徒を集めねばならない。これは規則だ」
妥協の余地なく言い切るバズパ。
赤髪が苛立ちをあらわに声を荒らげた。
「んなまどろっこしいことやってられるか!」
「そう思うこと自体が、おまえに将たる器のない証だ。
おまえは、部下も率いず、一人で帝国と戦うつもりなのか? とんだ愚か者もいたものだな」
バズパは、赤髪の正体を知ってるようだ。
その上で当てこすったらしい言葉に、赤髪が声を詰まらせた。
「くっ!? だからこうして、学園騎士団長を目指そうとしてるんだよ!」
「ならば、貴様に人の上に立つ器があることを証明せよ。生徒会長に挑むとはそういうことだ。血気に逸るのはいいが、会長を目指すなら校則くらい入学前に読んでおけ」
「っるせえな……わかったよ。まずはてめえからだ。可愛がってる腹心が倒されれば、会長も黙っちゃいられなくなるだろうよ」
「やれやれ。とんだ狂犬だな。
いいだろう、言ってわからんのなら、この学園のルールをその無駄に大きな図体に叩き込んでやる」
バズパは壇上に赤髪を上がらせると、壇上の一角にあるプレートの上に導いた。
バズパと赤髪が乗ったところで、そのプレートが沈み込んでいく。
「うおっ!?」
「この程度でうろたえていては、わたしと戦う前に卒倒するぞ」
二人は、その声を最後に、プレートごと壇から地下へと降りていく。
どうも、エレベーターのようなものらしい。
そこで、壇の上に灯りがともった。
灯り――いや、ディスプレイだ。
壇上に、八方を向いた、八基の巨大なディスプレイが現れていた。
前世でスポーツの観戦に使うようなシロモノだ。アメリカのプロバスケットボールの会場に、あんな感じのものがあったと思う。
ディスプレイには、エレベーターで白く広い空間に降り立つバズパと赤髪の姿が映し出されていた。
それだけでも、この世界の住人には驚くべきことだったろう。
だが、次の瞬間に、さらに驚くべきことが起こった。
「うわああああっ!?」
新入生たちから悲鳴が上がった。
それもそのはず、大講堂の床が、いきなり透明になったのだ。
正確には、地下の様子を透過するように映し出しているだけだ。ガラスのように透明になったわけじゃない。
だが、どっちかといえば、そっちのほうがむしろ恐ろしい。どれほど高度な技術があれば、ただの床を即席のディスプレイに変えられるというのか。
大講堂に集まった新入生、在校生は、数百メートルほどの眼下に、真っ白な空間を望んでいた。
見渡す限り広がる白い空間には、青いグリッドラインが光っている。
その中央に、バズパと驚愕に固まる赤髪がいた。
壇上で、生徒会長がマイクを握る。
「これが、この学園での力比べのやりかただ。
衆人環視のもとで、互いに全力をもって戦い、自らの力を証明する」
新入生たちがざわついている。
彼らも貴族の子弟なのだから、噂にくらいは聞いていたはずだ。
それでも、この光景には驚きを禁じ得ない。
俺だってそうだ。いくらか盛られてるとばかり思ってたが、むしろ黄昏人の遺産のすさまじさを、噂話は十分に伝えきれていなかったのだ。
「怪我のことなら心配するな。
黄昏人は、尚武の気風があったのだろう。
都市を覆うエネルギーフィールドと同質のバリアを闘戯者に付与し、そのバリアを失った時点で負けというルールになっている。
闘戯者の頭上をよく見てみろ」
会長の言葉に、俺はディスプレイを見た。
向かい合って立つバズパと赤髪の頭上に、見覚えのあるようなものが浮いていた。
「あれは……HPバーか?」
俺はおもわずそうつぶやく。
二人の頭上には、ライトグリーンの、横に長い平行四辺形が表示されている。
「その図形が、バリアの残量を示している。
バリアは、おおよそ人が死ぬに等しいダメージを持ちこたえられるようになっているらしい。
もっとも、実際の戦場では負傷によって身体の一部が使えぬような状況もありうる。それに比べれば安全すぎるルールではあるが、安全だからこそ、互いに全力を尽くせるのだ。切磋琢磨にはむしろ都合のいい仕組みだな」
「……ものは言いようだな」
俺から見れば……これは、ゲームのようにしか見えなかった。
黄昏人が戯れに構築した、リアルな対人戦闘ゲームだ。
「集団戦ではフィールドに属性や障害物を設定することもできるのだが、一対一ならそこまでする必要はないだろう。
バズパ、準備は整ったか?」
『ああ、問題ない』
ディスプレイに大写しになったバズパが、玲瓏たる声でそう答える。
「新入生。そちらはどうだ?」
『へっ、驚きはしたが、やることに変わりはねえんだろ?』
「よい状況判断だな。せっかくだ、おまえの名前を全学に知らしめてはどうだ?」
『いいぜ。そういうのは俺の好みだ。
てめえら、よく耳をかっぽじって聞いておけ! 俺の名は、ラシヴァ=ジト=ザスターシャ! この学園の生徒会長になる男だ!』
「くくっ。その意気やよし!
では、闘戯の開始を宣言する!」
『――了解しました、生徒会長。これより闘戯を開始します。』
機械的なアナウンスが唐突に流れ、新入生が目を白黒させた。
『開始まで、5秒。3、2、1……開始!』
『うおおおおおおっ!』
開始とともに、赤髪――ラシヴァがバズパに突進する。
その拳に炎がまとわりつく。
『っらああああっ!』
ラシヴァが気合いとともに拳を振るう。
テレフォンパンチみたいな雑な動きだが、全身の速度が載っている。
決して舐められない速さの一撃だったのだが――
『んなっ……!?』
ラシヴァの拳が空振りした。
ラシヴァが上体を泳がせ、死に体になる。
その後頭部に、レイピアの柄が打ち下ろされた。
『ぐはっ……!』
白い床に叩きつけられるラシヴァ。
その頭に、ブーツの踵が振り下ろされる。
『ぐふっ……』
ラシヴァがうめき、失神した。
見れば、ラシヴァの頭上のHPバーがなくなってる。
動かなくなったラシヴァを、バズパが冷徹に見下ろしている――
会場のほとんどの人間は、何が起きたかわからなかったようだ。
だが、俺にはわかった。
俺には馴染みのある術だからな。
「あれは……『影渡り』か」
格闘戦の中であれをやるとはな。
精度も速度も申し分ない。
ラシヴァの攻撃をギリギリでかわし、影に潜ったとすら気付かせず、すぐにその場に復帰した。
ラシヴァは、残像を殴ったように感じた直後に、その残像から反撃されたように思っただろう。
(俺が戦ったとして……勝てるか?)
もちろん、手段を選ばなければどうとでもなる。
でも、学園での戦いは、立ち合いとしての節度を求められる。
あまりにわけのわからない勝ち方――たとえば、いきなり選択的睡眠魔法で敵を昏睡させて倒す、みたいなやり方を、衆人環視のこんな状況でやるわけにはいかないだろう。
学園内に、帝国の目がまったくないとも限らないしな。
そういう縛りでの戦いだったら、どうなるかは正直言ってわからない。
バズパは、影を使う術を、純粋な剣術と一体化させてるように見えた。
剣での斬り合いに持ち込まれたら、かなり手を焼くことになりそうだ。
「へえ。わかるのかい?」
俺のつぶやきを聞きとがめたか、隣の生徒が聞いてきた。
褪せたくせ毛の金髪と、低い鼻が特徴的な男子生徒だ。
イケメンとはお世辞にも言えないが、親しみやすい雰囲気がある。クラスのお調子者ってタイプだな。
「ん……ああ。なんとなくだけどな」
俺はあいまいにうなずいた。
「さすが、魔導伯爵との誉れ高いブランタージュ伯のご子息だね」
男子の言葉に、俺は軽く目を見開いた。
「俺のことを知ってるのか? いや、魔導伯爵なんてのは初めて聞いたが」
「うちは、代々王都で紋章官をやってる家系でね。立場柄、貴族のことには詳しいんだ。
君が王女殿下と踊った三年前の舞踏会には、僕も出席してたしね」
「ああ、そうか」
舞踏会は三年前だから、この学園でも三年生までならあれを見てた可能性があるのか。
「で、紋章官殿のお名前は?」
「おっと、失礼。僕はハント=サン=ミゼットという。しがない子爵の小せがれさ」
「学園では家柄は関係ないって聞いてるぞ。遠慮せずに話してくれ」
「うん、そうさせてもらう。というか、そうしないと懲罰を食らうからね。学生牢なんかにぶちこまれたくないよ」
ハントは、どこかぎこちなさの残るタメ口で、そんな風に言ってきた。
「あの赤髪のことは知ってるか?」
「王都では有名だよ。なにせ、ザスターシャの元王子だ」
「ああ……そういやさっき、ザスターシャって名乗ってたな」
ラシヴァ=ジト=ザスターシャ。
滅んだとはいえ、王国の名と同じ姓を名乗るやつは、王族以外にありえない。
ハントは小さくうなずいた。
「国を奪われ、命からがら逃げ出してきたそうだ。
今はああだけど、ブランタージュ戦役の時はまだ9歳だったわけだからね。親族も軒並み亡くしてる。ミルデニアに亡命して、遠戚の世話になってたらしい。当初は同情する声も大きかったよ」
「当初は? 今は違うのか?」
「あの調子だからね。王子は主戦派だ。帝国に時間を与えるべきではない、即刻全軍を率いて攻め滅ぼすべきだと主張してる」
「国王陛下は同盟による勢力均衡論者だもんな」
「貴族のほとんどがそうだよ。ミルデニア一国で攻め入ったって、吸魔煌殻を多数配備してる帝国に勝てるわけがない。勝てたとしても、消耗したところを他国に狙われないとも限らない」
「帝国はいま、ヒュルベーン攻めで、こっちに背中を向けている。攻め込む判断もありうると思うが……」
「守りに徹した吸魔煌殻は厄介らしいよ。直接的な戦闘力はもちろん、陣地の造営なんかも早いらしい」
吸魔煌殻は、命を吸って動くパワードスーツみたいなもんだからな。単純な土木作業にも強いだろう。
命を削って敵と戦わせられるのも問題だが、命を削って土木作業をさせられるのは、それ以上に気の毒な感じもする。
六年前、ネルズィエン皇女に吸魔煌殻の使用に反対するよう暗示をかけたが、やはりというべきか、大きな流れは変えられなかったようだ。
「ともあれ、ラシヴァ元王子は現状に業を煮やしてる」
「生徒会に挑んだってことは……」
「学園騎士団を掌握して、祖国回復の足がかりにしたいってとこかな」
「なるほど。切羽詰まった感じがするわけだ」
馬車で一緒になった時から、鬼気迫るものは感じてた。
亡国の王子と聞けば納得もいく。
「ラシヴァも、なかなかやりそうに見えたんだけどな。あのバズパって女がヤバすぎる。円卓ってのはみんなああなのか?」
「らしいよ。噂では『女帝』はそれ以上というし」
「女帝?」
「生徒会長にして学園騎士団長、われらが敬愛すべきエクセリア=サン=セルブレイズ閣下のことだよ」
「そのあだ名はしっくりくるな」
サンの魔術師として、学園魔術科の頂点に立つ女。
いったいどんな術を使うのか。
「まさか、君もラシヴァと同じ口かい? 学術科同士、仲良くしようと思ったのに」
「おい、仲良くはしてくれよ」
「同類なのは否定しないんだね。なるほど、サンヌルでこの学園に入ったのは、偶然なんかじゃないのかな」
「いやいや、それをこぼされるのはまだ困る」
闇魔法でハントに口封じをかけながら、俺は一抹の罪悪感とともに、ハントと新入生同士の雑談に興じたのだった。
だが、壇上にいる金髪の美女は動じない。
それどころか、面白がるように唇の端を吊り上げた。
「ほう。今年は骨のある新入生がいたものだ」
「どうする、会長さんよ。俺の挑戦を受けるのか?」
「ちょうどいい。言葉で説明するのはまどろっこしいと思ってたところだ。ここから先は実演しながら見せてやろう」
会長は、傍らに控える腹心へと目を向ける。
バズパ=ヌル=トワ。
男装の麗人にして円卓きっての剣士が、前に出た。
「おまえの相手はわたしだ。ついてこい」
そう言って顎で壇上の一角を示すバズパに、赤髪が不満そうな顔をする。
「俺は会長とやりたいんだが」
「おまえにはその資格がない」
「んだと?」
「生徒会長、すなわち学園騎士団長に挑むには、生徒会円卓と同数以上の生徒を集めねばならない。これは規則だ」
妥協の余地なく言い切るバズパ。
赤髪が苛立ちをあらわに声を荒らげた。
「んなまどろっこしいことやってられるか!」
「そう思うこと自体が、おまえに将たる器のない証だ。
おまえは、部下も率いず、一人で帝国と戦うつもりなのか? とんだ愚か者もいたものだな」
バズパは、赤髪の正体を知ってるようだ。
その上で当てこすったらしい言葉に、赤髪が声を詰まらせた。
「くっ!? だからこうして、学園騎士団長を目指そうとしてるんだよ!」
「ならば、貴様に人の上に立つ器があることを証明せよ。生徒会長に挑むとはそういうことだ。血気に逸るのはいいが、会長を目指すなら校則くらい入学前に読んでおけ」
「っるせえな……わかったよ。まずはてめえからだ。可愛がってる腹心が倒されれば、会長も黙っちゃいられなくなるだろうよ」
「やれやれ。とんだ狂犬だな。
いいだろう、言ってわからんのなら、この学園のルールをその無駄に大きな図体に叩き込んでやる」
バズパは壇上に赤髪を上がらせると、壇上の一角にあるプレートの上に導いた。
バズパと赤髪が乗ったところで、そのプレートが沈み込んでいく。
「うおっ!?」
「この程度でうろたえていては、わたしと戦う前に卒倒するぞ」
二人は、その声を最後に、プレートごと壇から地下へと降りていく。
どうも、エレベーターのようなものらしい。
そこで、壇の上に灯りがともった。
灯り――いや、ディスプレイだ。
壇上に、八方を向いた、八基の巨大なディスプレイが現れていた。
前世でスポーツの観戦に使うようなシロモノだ。アメリカのプロバスケットボールの会場に、あんな感じのものがあったと思う。
ディスプレイには、エレベーターで白く広い空間に降り立つバズパと赤髪の姿が映し出されていた。
それだけでも、この世界の住人には驚くべきことだったろう。
だが、次の瞬間に、さらに驚くべきことが起こった。
「うわああああっ!?」
新入生たちから悲鳴が上がった。
それもそのはず、大講堂の床が、いきなり透明になったのだ。
正確には、地下の様子を透過するように映し出しているだけだ。ガラスのように透明になったわけじゃない。
だが、どっちかといえば、そっちのほうがむしろ恐ろしい。どれほど高度な技術があれば、ただの床を即席のディスプレイに変えられるというのか。
大講堂に集まった新入生、在校生は、数百メートルほどの眼下に、真っ白な空間を望んでいた。
見渡す限り広がる白い空間には、青いグリッドラインが光っている。
その中央に、バズパと驚愕に固まる赤髪がいた。
壇上で、生徒会長がマイクを握る。
「これが、この学園での力比べのやりかただ。
衆人環視のもとで、互いに全力をもって戦い、自らの力を証明する」
新入生たちがざわついている。
彼らも貴族の子弟なのだから、噂にくらいは聞いていたはずだ。
それでも、この光景には驚きを禁じ得ない。
俺だってそうだ。いくらか盛られてるとばかり思ってたが、むしろ黄昏人の遺産のすさまじさを、噂話は十分に伝えきれていなかったのだ。
「怪我のことなら心配するな。
黄昏人は、尚武の気風があったのだろう。
都市を覆うエネルギーフィールドと同質のバリアを闘戯者に付与し、そのバリアを失った時点で負けというルールになっている。
闘戯者の頭上をよく見てみろ」
会長の言葉に、俺はディスプレイを見た。
向かい合って立つバズパと赤髪の頭上に、見覚えのあるようなものが浮いていた。
「あれは……HPバーか?」
俺はおもわずそうつぶやく。
二人の頭上には、ライトグリーンの、横に長い平行四辺形が表示されている。
「その図形が、バリアの残量を示している。
バリアは、おおよそ人が死ぬに等しいダメージを持ちこたえられるようになっているらしい。
もっとも、実際の戦場では負傷によって身体の一部が使えぬような状況もありうる。それに比べれば安全すぎるルールではあるが、安全だからこそ、互いに全力を尽くせるのだ。切磋琢磨にはむしろ都合のいい仕組みだな」
「……ものは言いようだな」
俺から見れば……これは、ゲームのようにしか見えなかった。
黄昏人が戯れに構築した、リアルな対人戦闘ゲームだ。
「集団戦ではフィールドに属性や障害物を設定することもできるのだが、一対一ならそこまでする必要はないだろう。
バズパ、準備は整ったか?」
『ああ、問題ない』
ディスプレイに大写しになったバズパが、玲瓏たる声でそう答える。
「新入生。そちらはどうだ?」
『へっ、驚きはしたが、やることに変わりはねえんだろ?』
「よい状況判断だな。せっかくだ、おまえの名前を全学に知らしめてはどうだ?」
『いいぜ。そういうのは俺の好みだ。
てめえら、よく耳をかっぽじって聞いておけ! 俺の名は、ラシヴァ=ジト=ザスターシャ! この学園の生徒会長になる男だ!』
「くくっ。その意気やよし!
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『――了解しました、生徒会長。これより闘戯を開始します。』
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『開始まで、5秒。3、2、1……開始!』
『うおおおおおおっ!』
開始とともに、赤髪――ラシヴァがバズパに突進する。
その拳に炎がまとわりつく。
『っらああああっ!』
ラシヴァが気合いとともに拳を振るう。
テレフォンパンチみたいな雑な動きだが、全身の速度が載っている。
決して舐められない速さの一撃だったのだが――
『んなっ……!?』
ラシヴァの拳が空振りした。
ラシヴァが上体を泳がせ、死に体になる。
その後頭部に、レイピアの柄が打ち下ろされた。
『ぐはっ……!』
白い床に叩きつけられるラシヴァ。
その頭に、ブーツの踵が振り下ろされる。
『ぐふっ……』
ラシヴァがうめき、失神した。
見れば、ラシヴァの頭上のHPバーがなくなってる。
動かなくなったラシヴァを、バズパが冷徹に見下ろしている――
会場のほとんどの人間は、何が起きたかわからなかったようだ。
だが、俺にはわかった。
俺には馴染みのある術だからな。
「あれは……『影渡り』か」
格闘戦の中であれをやるとはな。
精度も速度も申し分ない。
ラシヴァの攻撃をギリギリでかわし、影に潜ったとすら気付かせず、すぐにその場に復帰した。
ラシヴァは、残像を殴ったように感じた直後に、その残像から反撃されたように思っただろう。
(俺が戦ったとして……勝てるか?)
もちろん、手段を選ばなければどうとでもなる。
でも、学園での戦いは、立ち合いとしての節度を求められる。
あまりにわけのわからない勝ち方――たとえば、いきなり選択的睡眠魔法で敵を昏睡させて倒す、みたいなやり方を、衆人環視のこんな状況でやるわけにはいかないだろう。
学園内に、帝国の目がまったくないとも限らないしな。
そういう縛りでの戦いだったら、どうなるかは正直言ってわからない。
バズパは、影を使う術を、純粋な剣術と一体化させてるように見えた。
剣での斬り合いに持ち込まれたら、かなり手を焼くことになりそうだ。
「へえ。わかるのかい?」
俺のつぶやきを聞きとがめたか、隣の生徒が聞いてきた。
褪せたくせ毛の金髪と、低い鼻が特徴的な男子生徒だ。
イケメンとはお世辞にも言えないが、親しみやすい雰囲気がある。クラスのお調子者ってタイプだな。
「ん……ああ。なんとなくだけどな」
俺はあいまいにうなずいた。
「さすが、魔導伯爵との誉れ高いブランタージュ伯のご子息だね」
男子の言葉に、俺は軽く目を見開いた。
「俺のことを知ってるのか? いや、魔導伯爵なんてのは初めて聞いたが」
「うちは、代々王都で紋章官をやってる家系でね。立場柄、貴族のことには詳しいんだ。
君が王女殿下と踊った三年前の舞踏会には、僕も出席してたしね」
「ああ、そうか」
舞踏会は三年前だから、この学園でも三年生までならあれを見てた可能性があるのか。
「で、紋章官殿のお名前は?」
「おっと、失礼。僕はハント=サン=ミゼットという。しがない子爵の小せがれさ」
「学園では家柄は関係ないって聞いてるぞ。遠慮せずに話してくれ」
「うん、そうさせてもらう。というか、そうしないと懲罰を食らうからね。学生牢なんかにぶちこまれたくないよ」
ハントは、どこかぎこちなさの残るタメ口で、そんな風に言ってきた。
「あの赤髪のことは知ってるか?」
「王都では有名だよ。なにせ、ザスターシャの元王子だ」
「ああ……そういやさっき、ザスターシャって名乗ってたな」
ラシヴァ=ジト=ザスターシャ。
滅んだとはいえ、王国の名と同じ姓を名乗るやつは、王族以外にありえない。
ハントは小さくうなずいた。
「国を奪われ、命からがら逃げ出してきたそうだ。
今はああだけど、ブランタージュ戦役の時はまだ9歳だったわけだからね。親族も軒並み亡くしてる。ミルデニアに亡命して、遠戚の世話になってたらしい。当初は同情する声も大きかったよ」
「当初は? 今は違うのか?」
「あの調子だからね。王子は主戦派だ。帝国に時間を与えるべきではない、即刻全軍を率いて攻め滅ぼすべきだと主張してる」
「国王陛下は同盟による勢力均衡論者だもんな」
「貴族のほとんどがそうだよ。ミルデニア一国で攻め入ったって、吸魔煌殻を多数配備してる帝国に勝てるわけがない。勝てたとしても、消耗したところを他国に狙われないとも限らない」
「帝国はいま、ヒュルベーン攻めで、こっちに背中を向けている。攻め込む判断もありうると思うが……」
「守りに徹した吸魔煌殻は厄介らしいよ。直接的な戦闘力はもちろん、陣地の造営なんかも早いらしい」
吸魔煌殻は、命を吸って動くパワードスーツみたいなもんだからな。単純な土木作業にも強いだろう。
命を削って敵と戦わせられるのも問題だが、命を削って土木作業をさせられるのは、それ以上に気の毒な感じもする。
六年前、ネルズィエン皇女に吸魔煌殻の使用に反対するよう暗示をかけたが、やはりというべきか、大きな流れは変えられなかったようだ。
「ともあれ、ラシヴァ元王子は現状に業を煮やしてる」
「生徒会に挑んだってことは……」
「学園騎士団を掌握して、祖国回復の足がかりにしたいってとこかな」
「なるほど。切羽詰まった感じがするわけだ」
馬車で一緒になった時から、鬼気迫るものは感じてた。
亡国の王子と聞けば納得もいく。
「ラシヴァも、なかなかやりそうに見えたんだけどな。あのバズパって女がヤバすぎる。円卓ってのはみんなああなのか?」
「らしいよ。噂では『女帝』はそれ以上というし」
「女帝?」
「生徒会長にして学園騎士団長、われらが敬愛すべきエクセリア=サン=セルブレイズ閣下のことだよ」
「そのあだ名はしっくりくるな」
サンの魔術師として、学園魔術科の頂点に立つ女。
いったいどんな術を使うのか。
「まさか、君もラシヴァと同じ口かい? 学術科同士、仲良くしようと思ったのに」
「おい、仲良くはしてくれよ」
「同類なのは否定しないんだね。なるほど、サンヌルでこの学園に入ったのは、偶然なんかじゃないのかな」
「いやいや、それをこぼされるのはまだ困る」
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
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ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
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そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
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少し冷めた村人少年の冒険記
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辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
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冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
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旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
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『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
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『なんだあの威力の魔法は…?』
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『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
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