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23 ♣
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「ふぅ……なんとかなったか」
首から上がなくなったルシアスの死体を見下ろし、俺は手の甲で額をぬぐっていた。
ぬぐった手に、べっとりと血がついた。
俺の血じゃない。ルシアスの返り血だ。
あの時俺は、異常なSTRで放たれた攻撃を「屠竜の構え」で反射した。
倍加された反射攻撃は、ルシアスの頭部を、一瞬にして消し飛ばしてしまった。
ルシアスの攻撃の速さは、「屠竜の構え」を使う上では、むしろいい方向に働いた。
「屠竜の構え」の受付時間はごく短い。
だが、さっきの攻防の中では話は別だ。
たとえば、グリーンジャイアントの大ぶりな攻撃を「屠竜の構え」で反射するには、ギリギリまで攻撃を引きつける必要がある。
しかし、目にも止まらないほどに速いルシアスの攻撃を反射するには、攻撃の来そうなタイミングで「屠竜の構え」を使っておくだけで十分だ。受付時間が終わるまでのあいだに、ルシアスの攻撃は確実にヒットする。
DEXが1880のルシアスと、盗用した勇者魔法で加速した俺。
高速の応酬の中では、「屠竜の構え」の受付時間は、いつもより長く感じられる。
ルシアスの頭は、原型をまったく留めていない。
首から先に、血と肉と脳漿と砕け散った頭蓋骨、その他、いちいち数え上げたくないようなグロいものが、かなりの範囲に飛び散っていた。
すぐ目の前にいた俺にも、その飛沫がこれでもかとばかりにかかってる。
「ちゃんと浄化しておかねえと、変な病気にかかるかもな」
俺が今どんな状態か、正直言って見たくもない。
俺は、顔をしかめてため息を漏らす。
そこで不意に、激しい吐き気が襲ってきた。
「ぐぅっ!?」
頭痛、めまい、耳鳴り……脳内を直接かきまぜられるような不快感。
視界が、ちかちかと極彩色に瞬きながら、渦潮のように回転する。
この感覚は初めてじゃない。
むしろ、これまでに何度となく経験してきたものだ。
反動、と俺は呼んでいる。
「ぬすむ☆」でスキルを盗んだ後に襲ってくる、強烈な副作用のようなものだった。
「ぐ……くそっ。いつもより酷えな……」
「勇者魔法♣」なんていうわけのわからんものを取り込んだせいだろう。
頭が割れるように痛む。
俺はその場に片膝をついた。
「キリク!? 大丈夫か!?」
ダーナが俺のすぐそばに降り立ち、しゃがみこんで俺の肩を支えてくれる。
ダーナは、俺がトロール洞のワイトキングから「物理無効」を盗んだ時にも、反動で苦しむ様子を見てるからな。
「あ、ああ……なんとかな」
「ぬすむ☆」の副作用は、長くてもせいぜい数秒だ。
今回はいつもより長かったが、既に収まりはじめてはいた。
もっとヤバいことになるかと覚悟してたから拍子抜けだ。
この「ぬすむ☆」も、「勇者魔法♣」に負けず劣らず謎が多い。
すこし落ち着いた俺に、ダーナが聞いてくる。
「キリク。おまえは奴を、いったいどうやって倒したのだ?」
「『ぬすむ☆』であいつの『勇者魔法♣』を盗んで無効化した。その上で、あいつの攻撃を、『屠竜の構え』で反射したんだ」
正直、運が良かったとしか言いようがない。
俺のDEXがもしあと少しでも低かったら、俺がルシアスに触れる前に、奴の「勇者魔法♣」が発動していた。
「なんとまあ……。
だが、逃げようとしても逃げ切れたとは思えんな。
キリクの判断は正しかったのだろう」
「そうだな。あいつのステータスを見たら、全パラメーターが一律十倍になってたよ」
「じ、十倍だと!?」
驚くダーナ。
盗んだことで俺には「勇者魔法♣」の詳細がわかるようになったのだが、洒落にならない魔法ばかりが揃ってる。
INTが十倍に爆上げされたルシアスがこんな魔法を放っていたら……。
屋上にいた俺はおろか、上空にいたダーナすら、塵ひとつ残さず消滅してたことだろう。
俺は、ルシアスの死体の前に屈み込む。
右手の甲を見ると、そこには不気味に明滅する金色の烙印が残っていた。
「これだよ。あの黄金色の光がルシアスに焼き付けた烙印だ」
「うむ……。このような現象は聞いたことがない」
「煌めきの神の仕業だと思うか?」
魔族と戦い、窮地に陥った勇者に力を与える。
煌めきの神以外に、そんなことのできそうな存在は思いつかない。
「ルシアスには何かが聞こえてたみたいだったけどな。俺にはさっぱりだ」
「私にも何も聞こえなかった」
ダーナが首を横に振った。
俺は、シルヴィアを振り返って聞いてみる。
「シルヴィア。おまえには何か聞こえたか?」
「えっ? は、はい。『絶望せし勇者よ。我に全てを捧げよ、さすれば逸脱者を屠る力を与えよう』、と」
期待せずに聞いたのだが、思わぬ当たりを引いた。
「そうか、勇者とパーティメンバーには聞こえたってことか。
どんな声だった?」
「えっと……わかりません。内容だけが直接頭に響いたような、そんな感じでした」
その言葉以外に、ヒントはないってことだな。
それにしても、シルヴィアは俺の質問にあっさり答えているが、敵だってことを忘れてないか?
ダーナが言った。
「それで、この娘はどうするのだ? よもや生かして帰すつもりではないだろうな?」
「そうだな。もう後戻りはできねえんだ。シルヴィアには死んでもらう」
過去の自分に別れを告げる意味でも、な。
シルヴィアにとってはたまったものではないだろうが。
シルヴィアの顔色が変わった。
血の気の引いた表情で、俺を震える指でさしてくる。
「あ、あの……」
「なんだ、命乞いか? 安心しろ、楽に殺してやる」
「ち、違います! 後ろ――後ろを見てください!」
「……何っ?」
切羽詰まった様子のシルヴィアに、俺は弾かれたように振り返る。
そっちには、ルシアスの首なし死体しかないはずだった。
そして実際、ルシアスの首なし死体しか見当たらない。
ただし、その首なし死体が、ゆらりと、人にはありえない動きで立ち上がっていた。
♣の刻まれた右手の甲が宙高く上がり、それに引っ張られて身体の他の部分が持ち上がる。
まるで、烙印が、ルシアスの死体をパペットとして操ってるかのようだ。
地面に落ちていたルシアスの剣も、烙印のある手に吸い寄せられた。
もはや動かない手は剣の柄を握らなかったが、柄は手のひらに張り付いたように動かない。
「なっ……!?」
「なんだ!?」
身構える俺とダーナの前で、
――ヲヲォォオ゛オ゛ォンンッッ!!
口などないはずの死体から、甲高く、同時に重苦しい声が放たれた。
ルシアスの死体が、金色の光に包まれる。
しかし同時に、ルシアスの死体から、強烈な瘴気が噴き出してきた。
瘴気は通常は不可視だが、あまりに濃い瘴気は、黒く濁った泥水のように見える。
「くっ……『瘴気結界』」
「瘴気結界」で、俺とダーナを包み込む。
シルヴィアも、なんとか神聖結界が間に合ったようだ。
魔族であるダーナとその眷属となった俺には瘴気への耐性があるのだが、こんな不気味なものから発せられた瘴気なんて浴びたくはない。
そもそも、魔物でも魔族でもなく、神の加護を持つはずの勇者が瘴気を発するなど、見たことも聞いたこともない現象だ。
「くそっ。なんだ、あれは……」
「瘴気結界」を使ってすら、正体不明のプレッシャーが、俺の心と身体にのしかかる。
俺は、ルシアスだったモノに対して、「盟神探湯」のスキルを使用する。
♣
勇者♣
レベル740
HP 1/3440
MP 2544/2570
STR 2190
INT 1970
DEX 1880
JOB SKILL 「勇者魔法♣」「勇#魔Φ/* error!!このスキルは崩壊しています*/」
「んだよこれは……!?」
まるで意味がわからなかった。
煌めきの神から力を与えられたルシアスは死んだ。
だが、その「力」のみが復活した。
そうとでも言うしかない状況だ。
それでも、わかったことはある。
「HPはもうねえってことだ! 速攻で倒しきるっ! 『アポカリプス・エッジ』!」
俺は、入手したばかりの「勇者魔法♣」の一つを発動する。
手を天にかざすと、天と手の間に、黒い稲妻の尖塔が現れた。
天を衝く黒い稲妻は、俺の腕にもまとわりつき、俺の腕にビリビリとした感覚が走る。「感電」の状態異常によく似た感覚だ。
俺は、黒い稲妻と一体化した腕を、ルシアスだったモノへと振り下ろす。
「てめえの力を食らって死ねッ!」
黒い雷の尖塔が、俺の動きに従って、ルシアスだったモノへと向かって倒れ込む。
黒い雷は、床に衝突すると、無数の小さな稲妻となって、四方八方に飛び散った。
破滅の塔屋上の、俺とは反対側のほぼすべてが、黒い稲光に席巻された。
「こ、これはっ……!」
「なんて威力……っ!」
俺の背後で、ダーナとシルヴィアが、あまりの光景に驚いている。
「盟神探湯」で確認した時、奴のHPは1しかなかった。
こんな大技を使わずとも、何かが当たりさえすれば倒せるはずだが、相手が相手だけに油断はできない。
盗んだばかりの「勇者魔法♣」を早速使って、奴を確実に殺しきることにしたのだ。
盗んだ後にざっと確認した限りでは、「勇者魔法♣」には、「勇者魔法」同様、複数の魔法のセットが用意されていた。
だが、おどろおどろしい名前の並ぶスキルの大半は、文字がグレーに潰れて使用不可となっていた。
その理由は単純だ。
消費MPが、現在の俺のMPを超えてるからだ。
たとえば、さっきルシアスが使おうとしていた魔法「ディヴァイン・アニヒレーション」の消費MPは2400。
最大MPが164しかない俺では、どうあがいても使えない。
いや、魔法職の中で特にMPに恵まれた者であっても、最大MPは400を超えていればいい方だ。
消費MP 2400なんていうのは、強力というより、ほとんど冗談にしか思えない。
要するに、「勇者魔法♣」は、普通の人間に使えるような魔法じゃないってことだ。
烙印によってパワーアップしたルシアスが使えていたのは、MPも十倍になっていたせいである。
とはいえ、ギリギリMPの足りる魔法もあった。
今使った「アポカリプス・エッジ」は、「勇者魔法♣」の中では、消費MPが少ないほうだ。
それでも、120ものMPを持っていかれる。
消費MPが100を超える魔法なんて、残りMPを全て使って大ダメージを与える賢者の自爆魔法くらいしかないはずだけどな。
なお、俺が「ぬすむ☆」で手に入れた大半のスキルはMPを消費しない。
「ドロースペル」で相手の魔法を盗用して発動する場合にも、消費するのは自分のMPではなく相手のMPだ。
ただし、「ドロースペル」の成功率は、相手とのDEXの差で決まってくる。
もともとのルシアスなら、DEXが俺より低いので成功したが、DEXが十倍になった烙印ルシアスや、目の前にいる「ルシアスだったモノ」相手には、「ドロースペル」は成功しない。
(これで倒せてくれよ……!)
烙印ルシアスでさえ、薄氷を踏むような勝利だった。
こんな得体のしれない奴と、まともに戦いたいとは思えない。
だが、俺の願いは叶わなかった。
黒い稲妻が消え去った時、そこにはさっきと変わらない姿の「ルシアス」がいた。
光り輝く烙印のある手に張り付いた剣を高々と掲げ、それ以外の部位はだらりと重みのままに垂れ下がっている。
その全身を、淡く黄金色の光の膜のようなものが覆っていた。
「『インビンシブル』、か」
「勇者魔法♣」の中に、そんな魔法があった。
高い消費MPと引き換えに、短時間「無敵」状態になるという魔法である。
「無敵」なんてバフは聞いたことがないが、無敵というからには、どんな攻撃も効かないんだろう。
めちゃくちゃなスキルだ。
「くっ、『サンダーストーム』!」
ダーナが仕掛けた。
だが、雷の嵐の中で、「ルシアス」は平然と立っている。
その身体がダーナの方を向く。
「ダーナ! 空に逃げろっ!」
「わ、わかった!」
俺の言葉に、ダーナが空へと舞い上がる。
その一瞬後に、いきなり加速した「ルシアス」が、手にした剣を振り下ろす。
「ルシアス」はダーナのいた場所へと瞬時に距離を詰め、同時に剣を斬りおろしたのだ。
だが、その動作は、それまでのルシアスのものとはまるで違った。
走る動作すらなく、床の上を滑るように移動し、肘から先だけをありえない方向に折り曲げて、剣を高速で振り下ろしたのだ。
技も何もない、非人間的な動きだが、速さと威力だけは元のルシアスと変わらない。
なんとかその動きが見えたのは、狙われたのが俺じゃなかったからだ。
「『ルシアス』は『無敵』状態になる魔法を使ってる! 効果は残り17秒! クールダウンは30秒だ!」
「ルシアス」を睨んだままそう注意した俺に、ダーナが空中から叫び返してくる。
「なにっ!? むちゃくちゃではないか!」
「ああ、むちゃくちゃだよ!
ただし、『ルシアス』の残りHPは1で、今の『ルシアス』に回復手段はない!
それから、『インビンシブル』の効果が持続してるあいだ、他の魔法は使えない!」
「17秒耐え、次の30秒で倒せということか!?」
「一撃も食らうなよ! 一発で死ぬぞ!」
「ルシアス」は、肘から先だけで剣を斬りおろした奇妙な姿勢のままで、首――はないが、肩を横に傾けている。
自分の望んだ結果が出なかった、おかしい、って感じだな。
「『粘着網』!」
俺の放った蜘蛛の糸が、「ルシアス」をからめとる。
が、ルシアスの肘から先が高速で回転し、振り回された剣が、蜘蛛の網を斬り裂いた。
「『コールドブレス』!」
俺の呼気が、「凍結」をもたらす旋風と化して「ルシアス」を包む。
だが、次の瞬間、「ルシアス」は俺の眼前にいた。
「物理見切り」のおかげで、かろうじて剣を避けられた。
「ルシアス」の握る剣には、黄金色の光が絡みつき、強烈な瘴気を放ってる。
「物理無効」をあてにするのは危険だろう。
「『ホーリーバインド』!」
「ルシアス」に拘束魔法を使ったのはシルヴィアだった。
INT差があるはずだが、魔法はほんの一瞬だけ効力を発揮した。
そのあいだに、俺は「ルシアス」から距離を取る。
「状態異常攻撃は効くということか!? ならば……『ハルシネーション』!」
ダーナが上空から、魔族の使う幻覚魔法を使用した。
魔族であるダーナのINTはかなり高い。
それでも、今の「ルシアス」の三分の一もないだろう。
「ハルシネーション」は効果を発揮しなかった。
「シルヴィア、ダーナ! 成功確率が低くてもいいから、今の魔法を重ねてくれ!」
「わ、わかりました!」
「わかった!」
ダーナはともかく、シルヴィアも、この状況に呑まれて俺の指示にうなずいた。
「こっちだ!」
俺は「ダンシングニードル」を放って「ルシアス」の注意を惹きつける。
予備動作の全くない、高速移動と単調な斬撃。
「物理見切り」でなんとかかわす。
(「インビンシブル」が切れたところで「屠竜の構え」で反射して倒す……か?)
だが、「インビンシブル」が切れれば、「ルシアス」は「勇者魔法♣」を使うだろう。
「ディヴァイン・アニヒレーション」の攻撃範囲は、この屋上はおろか、上空にいるダーナまでをも余裕でカバーする。
「カタストロフィック・ハリケーン」を使われても、この屋上に安全な場所はなくなるだろう。
さっき俺の使った「アポカリプス・エッジ」も、屋上の大半を呑み込んでしまう。
超広範囲に有効な弱体化魔法「ワールド・デセラレーション」を使われたら、俺たち全員の速度が半減し、「ルシアス」の攻撃を避けられなくなる。
(何か……対抗できるスキルはないのか!?)
「INT削減攻撃」を重ねてからの「MPドレイン」――ダメだ、とてもそんな時間はない。そもそも俺の攻撃が「ルシアス」に当たることはないだろう。
「ぬすむ☆」で「ルシアス」の「勇者魔法♣」を盗む?
既に所持しているスキルを重複して盗むことは不可能だ。
なんとか「インビンシブル」を連発させ、向こうのMP切れを待つ?
だが、「インビンシブル」の消費MPは210。奴のMPが尽きるまでに、あと10回以上も使える計算だ。
そのあいだに他の魔法を一度でも使われたら、その時点で俺たちの死亡は確定する。
それとも、一か八か逃げ出すか?
いや、空を飛んで逃げたとしても、こいつが魔法を放ってきたら避けられない。
こいつが追いかけてこないという保証もない。
こんなデタラメな動きをしてるのだ。
こいつがいきなり空を飛びはじめたとしても、俺はもう驚かない。
「ランダムジャンプ」でこいつをどこかに飛ばして一時しのぎをする?
ダメだ。
この屋上はダンジョンじゃない。
「ランダムジャンプ」はダンジョン内でしか使えない。
(待てよ!? そうか、ダンジョンだ!)
確実にうまくいく保証はないが、やってみる価値はあるだろう。
再び不自然な動きで突進してきた「ルシアス」をかわし、空中にいるダーナに叫ぶ。
「ダーナ! あいつが動きを止めたら、その位置にダンジョン内部への闇の渦を生み出してくれ!」
「ゲートを……!?
そうか! やってみよう!」
ダーナが俺の意図を呑み込んでくれたところで、シルヴィアが「ルシアス」に魔法を使う。
「『ホーリーバインド』!」
INT差があるから、成功確率は五分五分以下だ。
が、今回は「ルシアス」に魔法が入った。
光のリングが、「ルシアス」の身体を縛める。
その効果が切れないうちに、
「『粘着網』!」
蜘蛛の網を放った。
「粘着網」の利点は、INTやDEXに関係なく効果を発揮することだ。
べたつく網をただぶっかけるだけのスキルだからな。
――ヲヲオォォオ゛オ゛ンンッ!
「ルシアス」がもどかしげな声を上げて暴れまわる。
パペット人形をでたらめに動かしたような意味のない動きだ。
「ルシアス」の動きに意味はなかったが、光のリングはほんの数秒で砕け散った。
だが、まだ粘着網が残ってる。
「ルシアス」は再び、肘から先を回転させる。
粘着網が引きちぎられてバラバラになる。
「『ホーリーバインド』!」
「『粘着網』っ!」
すかさず、シルヴィアと俺が「ルシアス」を再度拘束する。
「ホーリーバインド」は厳しい確率をまたしても突破した。
光の輪と粘着性の網が、「ルシアス」を二重に縛める。
「『青メデューサの瞳』!」
「『邪心滅却の印』!」
俺の「停止」は失敗、シルヴィアの「衰弱」は成功した。
同時に、光の輪が砕け散る。
だが、「衰弱」の状態異常で数秒間STRがゼロになってる「ルシアス」は、粘着網を払えない。
そこで、ダーナが仕掛けた。
「破滅の塔よ! ダンジョンマスター・ダナンストが命ずる! 我が想起した地点にダンジョンズゲートを作り出せ!」
「ルシアス」を、闇色の渦が呑み込んだ。
首から上がなくなったルシアスの死体を見下ろし、俺は手の甲で額をぬぐっていた。
ぬぐった手に、べっとりと血がついた。
俺の血じゃない。ルシアスの返り血だ。
あの時俺は、異常なSTRで放たれた攻撃を「屠竜の構え」で反射した。
倍加された反射攻撃は、ルシアスの頭部を、一瞬にして消し飛ばしてしまった。
ルシアスの攻撃の速さは、「屠竜の構え」を使う上では、むしろいい方向に働いた。
「屠竜の構え」の受付時間はごく短い。
だが、さっきの攻防の中では話は別だ。
たとえば、グリーンジャイアントの大ぶりな攻撃を「屠竜の構え」で反射するには、ギリギリまで攻撃を引きつける必要がある。
しかし、目にも止まらないほどに速いルシアスの攻撃を反射するには、攻撃の来そうなタイミングで「屠竜の構え」を使っておくだけで十分だ。受付時間が終わるまでのあいだに、ルシアスの攻撃は確実にヒットする。
DEXが1880のルシアスと、盗用した勇者魔法で加速した俺。
高速の応酬の中では、「屠竜の構え」の受付時間は、いつもより長く感じられる。
ルシアスの頭は、原型をまったく留めていない。
首から先に、血と肉と脳漿と砕け散った頭蓋骨、その他、いちいち数え上げたくないようなグロいものが、かなりの範囲に飛び散っていた。
すぐ目の前にいた俺にも、その飛沫がこれでもかとばかりにかかってる。
「ちゃんと浄化しておかねえと、変な病気にかかるかもな」
俺が今どんな状態か、正直言って見たくもない。
俺は、顔をしかめてため息を漏らす。
そこで不意に、激しい吐き気が襲ってきた。
「ぐぅっ!?」
頭痛、めまい、耳鳴り……脳内を直接かきまぜられるような不快感。
視界が、ちかちかと極彩色に瞬きながら、渦潮のように回転する。
この感覚は初めてじゃない。
むしろ、これまでに何度となく経験してきたものだ。
反動、と俺は呼んでいる。
「ぬすむ☆」でスキルを盗んだ後に襲ってくる、強烈な副作用のようなものだった。
「ぐ……くそっ。いつもより酷えな……」
「勇者魔法♣」なんていうわけのわからんものを取り込んだせいだろう。
頭が割れるように痛む。
俺はその場に片膝をついた。
「キリク!? 大丈夫か!?」
ダーナが俺のすぐそばに降り立ち、しゃがみこんで俺の肩を支えてくれる。
ダーナは、俺がトロール洞のワイトキングから「物理無効」を盗んだ時にも、反動で苦しむ様子を見てるからな。
「あ、ああ……なんとかな」
「ぬすむ☆」の副作用は、長くてもせいぜい数秒だ。
今回はいつもより長かったが、既に収まりはじめてはいた。
もっとヤバいことになるかと覚悟してたから拍子抜けだ。
この「ぬすむ☆」も、「勇者魔法♣」に負けず劣らず謎が多い。
すこし落ち着いた俺に、ダーナが聞いてくる。
「キリク。おまえは奴を、いったいどうやって倒したのだ?」
「『ぬすむ☆』であいつの『勇者魔法♣』を盗んで無効化した。その上で、あいつの攻撃を、『屠竜の構え』で反射したんだ」
正直、運が良かったとしか言いようがない。
俺のDEXがもしあと少しでも低かったら、俺がルシアスに触れる前に、奴の「勇者魔法♣」が発動していた。
「なんとまあ……。
だが、逃げようとしても逃げ切れたとは思えんな。
キリクの判断は正しかったのだろう」
「そうだな。あいつのステータスを見たら、全パラメーターが一律十倍になってたよ」
「じ、十倍だと!?」
驚くダーナ。
盗んだことで俺には「勇者魔法♣」の詳細がわかるようになったのだが、洒落にならない魔法ばかりが揃ってる。
INTが十倍に爆上げされたルシアスがこんな魔法を放っていたら……。
屋上にいた俺はおろか、上空にいたダーナすら、塵ひとつ残さず消滅してたことだろう。
俺は、ルシアスの死体の前に屈み込む。
右手の甲を見ると、そこには不気味に明滅する金色の烙印が残っていた。
「これだよ。あの黄金色の光がルシアスに焼き付けた烙印だ」
「うむ……。このような現象は聞いたことがない」
「煌めきの神の仕業だと思うか?」
魔族と戦い、窮地に陥った勇者に力を与える。
煌めきの神以外に、そんなことのできそうな存在は思いつかない。
「ルシアスには何かが聞こえてたみたいだったけどな。俺にはさっぱりだ」
「私にも何も聞こえなかった」
ダーナが首を横に振った。
俺は、シルヴィアを振り返って聞いてみる。
「シルヴィア。おまえには何か聞こえたか?」
「えっ? は、はい。『絶望せし勇者よ。我に全てを捧げよ、さすれば逸脱者を屠る力を与えよう』、と」
期待せずに聞いたのだが、思わぬ当たりを引いた。
「そうか、勇者とパーティメンバーには聞こえたってことか。
どんな声だった?」
「えっと……わかりません。内容だけが直接頭に響いたような、そんな感じでした」
その言葉以外に、ヒントはないってことだな。
それにしても、シルヴィアは俺の質問にあっさり答えているが、敵だってことを忘れてないか?
ダーナが言った。
「それで、この娘はどうするのだ? よもや生かして帰すつもりではないだろうな?」
「そうだな。もう後戻りはできねえんだ。シルヴィアには死んでもらう」
過去の自分に別れを告げる意味でも、な。
シルヴィアにとってはたまったものではないだろうが。
シルヴィアの顔色が変わった。
血の気の引いた表情で、俺を震える指でさしてくる。
「あ、あの……」
「なんだ、命乞いか? 安心しろ、楽に殺してやる」
「ち、違います! 後ろ――後ろを見てください!」
「……何っ?」
切羽詰まった様子のシルヴィアに、俺は弾かれたように振り返る。
そっちには、ルシアスの首なし死体しかないはずだった。
そして実際、ルシアスの首なし死体しか見当たらない。
ただし、その首なし死体が、ゆらりと、人にはありえない動きで立ち上がっていた。
♣の刻まれた右手の甲が宙高く上がり、それに引っ張られて身体の他の部分が持ち上がる。
まるで、烙印が、ルシアスの死体をパペットとして操ってるかのようだ。
地面に落ちていたルシアスの剣も、烙印のある手に吸い寄せられた。
もはや動かない手は剣の柄を握らなかったが、柄は手のひらに張り付いたように動かない。
「なっ……!?」
「なんだ!?」
身構える俺とダーナの前で、
――ヲヲォォオ゛オ゛ォンンッッ!!
口などないはずの死体から、甲高く、同時に重苦しい声が放たれた。
ルシアスの死体が、金色の光に包まれる。
しかし同時に、ルシアスの死体から、強烈な瘴気が噴き出してきた。
瘴気は通常は不可視だが、あまりに濃い瘴気は、黒く濁った泥水のように見える。
「くっ……『瘴気結界』」
「瘴気結界」で、俺とダーナを包み込む。
シルヴィアも、なんとか神聖結界が間に合ったようだ。
魔族であるダーナとその眷属となった俺には瘴気への耐性があるのだが、こんな不気味なものから発せられた瘴気なんて浴びたくはない。
そもそも、魔物でも魔族でもなく、神の加護を持つはずの勇者が瘴気を発するなど、見たことも聞いたこともない現象だ。
「くそっ。なんだ、あれは……」
「瘴気結界」を使ってすら、正体不明のプレッシャーが、俺の心と身体にのしかかる。
俺は、ルシアスだったモノに対して、「盟神探湯」のスキルを使用する。
♣
勇者♣
レベル740
HP 1/3440
MP 2544/2570
STR 2190
INT 1970
DEX 1880
JOB SKILL 「勇者魔法♣」「勇#魔Φ/* error!!このスキルは崩壊しています*/」
「んだよこれは……!?」
まるで意味がわからなかった。
煌めきの神から力を与えられたルシアスは死んだ。
だが、その「力」のみが復活した。
そうとでも言うしかない状況だ。
それでも、わかったことはある。
「HPはもうねえってことだ! 速攻で倒しきるっ! 『アポカリプス・エッジ』!」
俺は、入手したばかりの「勇者魔法♣」の一つを発動する。
手を天にかざすと、天と手の間に、黒い稲妻の尖塔が現れた。
天を衝く黒い稲妻は、俺の腕にもまとわりつき、俺の腕にビリビリとした感覚が走る。「感電」の状態異常によく似た感覚だ。
俺は、黒い稲妻と一体化した腕を、ルシアスだったモノへと振り下ろす。
「てめえの力を食らって死ねッ!」
黒い雷の尖塔が、俺の動きに従って、ルシアスだったモノへと向かって倒れ込む。
黒い雷は、床に衝突すると、無数の小さな稲妻となって、四方八方に飛び散った。
破滅の塔屋上の、俺とは反対側のほぼすべてが、黒い稲光に席巻された。
「こ、これはっ……!」
「なんて威力……っ!」
俺の背後で、ダーナとシルヴィアが、あまりの光景に驚いている。
「盟神探湯」で確認した時、奴のHPは1しかなかった。
こんな大技を使わずとも、何かが当たりさえすれば倒せるはずだが、相手が相手だけに油断はできない。
盗んだばかりの「勇者魔法♣」を早速使って、奴を確実に殺しきることにしたのだ。
盗んだ後にざっと確認した限りでは、「勇者魔法♣」には、「勇者魔法」同様、複数の魔法のセットが用意されていた。
だが、おどろおどろしい名前の並ぶスキルの大半は、文字がグレーに潰れて使用不可となっていた。
その理由は単純だ。
消費MPが、現在の俺のMPを超えてるからだ。
たとえば、さっきルシアスが使おうとしていた魔法「ディヴァイン・アニヒレーション」の消費MPは2400。
最大MPが164しかない俺では、どうあがいても使えない。
いや、魔法職の中で特にMPに恵まれた者であっても、最大MPは400を超えていればいい方だ。
消費MP 2400なんていうのは、強力というより、ほとんど冗談にしか思えない。
要するに、「勇者魔法♣」は、普通の人間に使えるような魔法じゃないってことだ。
烙印によってパワーアップしたルシアスが使えていたのは、MPも十倍になっていたせいである。
とはいえ、ギリギリMPの足りる魔法もあった。
今使った「アポカリプス・エッジ」は、「勇者魔法♣」の中では、消費MPが少ないほうだ。
それでも、120ものMPを持っていかれる。
消費MPが100を超える魔法なんて、残りMPを全て使って大ダメージを与える賢者の自爆魔法くらいしかないはずだけどな。
なお、俺が「ぬすむ☆」で手に入れた大半のスキルはMPを消費しない。
「ドロースペル」で相手の魔法を盗用して発動する場合にも、消費するのは自分のMPではなく相手のMPだ。
ただし、「ドロースペル」の成功率は、相手とのDEXの差で決まってくる。
もともとのルシアスなら、DEXが俺より低いので成功したが、DEXが十倍になった烙印ルシアスや、目の前にいる「ルシアスだったモノ」相手には、「ドロースペル」は成功しない。
(これで倒せてくれよ……!)
烙印ルシアスでさえ、薄氷を踏むような勝利だった。
こんな得体のしれない奴と、まともに戦いたいとは思えない。
だが、俺の願いは叶わなかった。
黒い稲妻が消え去った時、そこにはさっきと変わらない姿の「ルシアス」がいた。
光り輝く烙印のある手に張り付いた剣を高々と掲げ、それ以外の部位はだらりと重みのままに垂れ下がっている。
その全身を、淡く黄金色の光の膜のようなものが覆っていた。
「『インビンシブル』、か」
「勇者魔法♣」の中に、そんな魔法があった。
高い消費MPと引き換えに、短時間「無敵」状態になるという魔法である。
「無敵」なんてバフは聞いたことがないが、無敵というからには、どんな攻撃も効かないんだろう。
めちゃくちゃなスキルだ。
「くっ、『サンダーストーム』!」
ダーナが仕掛けた。
だが、雷の嵐の中で、「ルシアス」は平然と立っている。
その身体がダーナの方を向く。
「ダーナ! 空に逃げろっ!」
「わ、わかった!」
俺の言葉に、ダーナが空へと舞い上がる。
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「ルシアス」はダーナのいた場所へと瞬時に距離を詰め、同時に剣を斬りおろしたのだ。
だが、その動作は、それまでのルシアスのものとはまるで違った。
走る動作すらなく、床の上を滑るように移動し、肘から先だけをありえない方向に折り曲げて、剣を高速で振り下ろしたのだ。
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なんとかその動きが見えたのは、狙われたのが俺じゃなかったからだ。
「『ルシアス』は『無敵』状態になる魔法を使ってる! 効果は残り17秒! クールダウンは30秒だ!」
「ルシアス」を睨んだままそう注意した俺に、ダーナが空中から叫び返してくる。
「なにっ!? むちゃくちゃではないか!」
「ああ、むちゃくちゃだよ!
ただし、『ルシアス』の残りHPは1で、今の『ルシアス』に回復手段はない!
それから、『インビンシブル』の効果が持続してるあいだ、他の魔法は使えない!」
「17秒耐え、次の30秒で倒せということか!?」
「一撃も食らうなよ! 一発で死ぬぞ!」
「ルシアス」は、肘から先だけで剣を斬りおろした奇妙な姿勢のままで、首――はないが、肩を横に傾けている。
自分の望んだ結果が出なかった、おかしい、って感じだな。
「『粘着網』!」
俺の放った蜘蛛の糸が、「ルシアス」をからめとる。
が、ルシアスの肘から先が高速で回転し、振り回された剣が、蜘蛛の網を斬り裂いた。
「『コールドブレス』!」
俺の呼気が、「凍結」をもたらす旋風と化して「ルシアス」を包む。
だが、次の瞬間、「ルシアス」は俺の眼前にいた。
「物理見切り」のおかげで、かろうじて剣を避けられた。
「ルシアス」の握る剣には、黄金色の光が絡みつき、強烈な瘴気を放ってる。
「物理無効」をあてにするのは危険だろう。
「『ホーリーバインド』!」
「ルシアス」に拘束魔法を使ったのはシルヴィアだった。
INT差があるはずだが、魔法はほんの一瞬だけ効力を発揮した。
そのあいだに、俺は「ルシアス」から距離を取る。
「状態異常攻撃は効くということか!? ならば……『ハルシネーション』!」
ダーナが上空から、魔族の使う幻覚魔法を使用した。
魔族であるダーナのINTはかなり高い。
それでも、今の「ルシアス」の三分の一もないだろう。
「ハルシネーション」は効果を発揮しなかった。
「シルヴィア、ダーナ! 成功確率が低くてもいいから、今の魔法を重ねてくれ!」
「わ、わかりました!」
「わかった!」
ダーナはともかく、シルヴィアも、この状況に呑まれて俺の指示にうなずいた。
「こっちだ!」
俺は「ダンシングニードル」を放って「ルシアス」の注意を惹きつける。
予備動作の全くない、高速移動と単調な斬撃。
「物理見切り」でなんとかかわす。
(「インビンシブル」が切れたところで「屠竜の構え」で反射して倒す……か?)
だが、「インビンシブル」が切れれば、「ルシアス」は「勇者魔法♣」を使うだろう。
「ディヴァイン・アニヒレーション」の攻撃範囲は、この屋上はおろか、上空にいるダーナまでをも余裕でカバーする。
「カタストロフィック・ハリケーン」を使われても、この屋上に安全な場所はなくなるだろう。
さっき俺の使った「アポカリプス・エッジ」も、屋上の大半を呑み込んでしまう。
超広範囲に有効な弱体化魔法「ワールド・デセラレーション」を使われたら、俺たち全員の速度が半減し、「ルシアス」の攻撃を避けられなくなる。
(何か……対抗できるスキルはないのか!?)
「INT削減攻撃」を重ねてからの「MPドレイン」――ダメだ、とてもそんな時間はない。そもそも俺の攻撃が「ルシアス」に当たることはないだろう。
「ぬすむ☆」で「ルシアス」の「勇者魔法♣」を盗む?
既に所持しているスキルを重複して盗むことは不可能だ。
なんとか「インビンシブル」を連発させ、向こうのMP切れを待つ?
だが、「インビンシブル」の消費MPは210。奴のMPが尽きるまでに、あと10回以上も使える計算だ。
そのあいだに他の魔法を一度でも使われたら、その時点で俺たちの死亡は確定する。
それとも、一か八か逃げ出すか?
いや、空を飛んで逃げたとしても、こいつが魔法を放ってきたら避けられない。
こいつが追いかけてこないという保証もない。
こんなデタラメな動きをしてるのだ。
こいつがいきなり空を飛びはじめたとしても、俺はもう驚かない。
「ランダムジャンプ」でこいつをどこかに飛ばして一時しのぎをする?
ダメだ。
この屋上はダンジョンじゃない。
「ランダムジャンプ」はダンジョン内でしか使えない。
(待てよ!? そうか、ダンジョンだ!)
確実にうまくいく保証はないが、やってみる価値はあるだろう。
再び不自然な動きで突進してきた「ルシアス」をかわし、空中にいるダーナに叫ぶ。
「ダーナ! あいつが動きを止めたら、その位置にダンジョン内部への闇の渦を生み出してくれ!」
「ゲートを……!?
そうか! やってみよう!」
ダーナが俺の意図を呑み込んでくれたところで、シルヴィアが「ルシアス」に魔法を使う。
「『ホーリーバインド』!」
INT差があるから、成功確率は五分五分以下だ。
が、今回は「ルシアス」に魔法が入った。
光のリングが、「ルシアス」の身体を縛める。
その効果が切れないうちに、
「『粘着網』!」
蜘蛛の網を放った。
「粘着網」の利点は、INTやDEXに関係なく効果を発揮することだ。
べたつく網をただぶっかけるだけのスキルだからな。
――ヲヲオォォオ゛オ゛ンンッ!
「ルシアス」がもどかしげな声を上げて暴れまわる。
パペット人形をでたらめに動かしたような意味のない動きだ。
「ルシアス」の動きに意味はなかったが、光のリングはほんの数秒で砕け散った。
だが、まだ粘着網が残ってる。
「ルシアス」は再び、肘から先を回転させる。
粘着網が引きちぎられてバラバラになる。
「『ホーリーバインド』!」
「『粘着網』っ!」
すかさず、シルヴィアと俺が「ルシアス」を再度拘束する。
「ホーリーバインド」は厳しい確率をまたしても突破した。
光の輪と粘着性の網が、「ルシアス」を二重に縛める。
「『青メデューサの瞳』!」
「『邪心滅却の印』!」
俺の「停止」は失敗、シルヴィアの「衰弱」は成功した。
同時に、光の輪が砕け散る。
だが、「衰弱」の状態異常で数秒間STRがゼロになってる「ルシアス」は、粘着網を払えない。
そこで、ダーナが仕掛けた。
「破滅の塔よ! ダンジョンマスター・ダナンストが命ずる! 我が想起した地点にダンジョンズゲートを作り出せ!」
「ルシアス」を、闇色の渦が呑み込んだ。
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